守護神の涙
制作者:festivalさん
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そこに大きな森林があった。100%自然という訳ではないが、森緑の美しさをとても表現している。
そして、この美しい森は動物達の格好の住処でもあった。
ある日、この美しい森で事件が起こった。火災である。
原因はイレギュラーの密猟によるものである。動物達は恐怖し、逃げ惑った。
逃げ遅れた動物達はイレギュラーに次々と殺されてしまった。
「ヒヒヒ、大猟大猟。そろそろづらかるか!」
密猟イレギュラーが逃げようとしたその時である。
猛スピードで木の枝を飛びながらイレギュラーに向かってくる者がいた。
その者はイレギュラーに向かって突進し、その鋭い爪を光らせて勢いよくイレギュラーを斬り裂いた。
突然の出来事にイレギュラーは声も出なかった。しかし、その時イレギュラーの動物を捕獲した袋を持った手がズレて行った。
そして、ゴトッ、という音と共に下に落ちた。イレギュラーはさらに驚いた。
「ヒィィィィー!! だ、だっ、誰だお前!!!」
その者は振り返った。チーターをモチーフにしたレプリロイドだった。しかも女性タイプのようだった。
そのレプリロイドは手を顔の位置ぐらいまで上げた。そして手の甲からビームが出てきた。
先程イレギュラーの腕を斬り裂いた鋭い爪とは、このビームクローだった。少し小型ではあるが。
ビームクローをイレギュラーに突きつけてこう言った。
「生ある者の命を奪うもの、自然の美しさを汚すもの、許さない!」
そのレプリロイドの目は正に獲物を駆る者の目をしていた。
イレギュラーはガチガチと震え始めた。顔色も蒼ずんでいく。
「ヒィィィィー!!!た、助けてくれー!!!」
イレギュラーは大慌てで逃げ出した。しかし、
「逃がさない!」
そのレプリロイドも後を追った。
イレギュラーは足に装着されているジェットブースターを使って猛スピードで逃げた。
彼女のスピードも速かったが、やはりジェットブースターと勝負するには少し無理があった。
少しずつではあるが確実に差が開いてしまっている。
「どうだ!お前なんかに追いつかれるもんか!」
ひたすら逃げるイレギュラー、その時目の前に一体のレプリロイドが立っていた。
「ん?今度は何だ!?」
その者は虎をモチーフにしたレプリロイドである。彼こそが]3で登場したレプリロイド『シャイニングタイガード』である。
タイガードは腕を頭の位置まで上げた。そしてビームクローを出した。
「ヒッ!!」
イレギュラーは驚いた。斬り殺される!そう思ったのである。
斬り殺されまいと、イレギュラーはジェットブースターの出力を上げた。
「退け退けぇー!ぶっとばされてぇかー!!」
しかし、タイガードは全く動じなかった。
それどころか、ジェットブースターによって猛スピードで突っ込んでくるイレギュラーに向かって猛スピードで向かっていったのである。
「馬鹿め!そんなに死にたいか!望み通りにしてやる!!」
イレギュラーはひたすらタイガードに向かって突っ込んでいった。
タイガードは低体勢の状態でイレギュラーに向かっていった。
そして、タイガードはイレギュラーとぶつかる直前に瞬時に起動を右に逸らした。
そしてすれ違うと同時に大きくクローを横に振った。
イレギュラーは尚も走り続けている。
「空振りだったな!下手糞め!」
しかし、タイガードは勝利を確信したかのように横顔でフッと笑った。
その時、イレギュラーのスピードが少しずつ落ち始めた。そして、最後には止まってしまった。
「あれ?どうしたんだ?このブースターが壊れたのか?・・・ゲッ!!」
イレギュラーは自分の足元を見てあんぐりと口を開けた。
ジェットブースターの付いている膝の部分が切り離されていたのである。
肝心のブースターはイレギュラーを置いて何処となく走り去ってしまった。
足を切り離された以上イレギュラーも走る事は出来ない。
手を使って這って逃げようとするイレギュラー。しかし、
「待て!」
鋭い獣のような声にビクッとするイレギュラー。
その真後ろにはタイガードが立っていた。そして、途中までイレギュラーを追いかけていた。チーターレプリロイドもいた。
「ヒィィィー!頼む、命だけは勘弁してくれ〜!」
タイガードは数歩イレギュラーに近づいた。イレギュラーは泣きそうなぐらい顔をしかめる。
「安心しろ。俺はただの密猟者逮捕用のレプリロイド。レプリロイドを殺す事が仕事ではない。」
タイガードは、そのイレギュラーを殺さないと言った。イレギュラーは安心した表情だった。
「そ、そうかい。助かった・・・。」
「ただし・・・。」
タイガードは強く拳を握り締めた。しかし、ビームクローは発動していなかった。
そしてその拳で勢いよくイレギュラーの脳天を殴りつけた。
イレギュラーはその場で目と頭のひよこをクルクル回して気絶した。
「密猟者を逮捕することが俺達の仕事、そして今の一撃はこの森の怒り、覚えておけ!」
タイガードは常に持っているビームリング、現代で言う手錠をイレギュラーに付けた。
その後、イレギュラーは通報を受けて駆けつけてきたイレギュラーハンターによって御用となった。
駆けつけたハンターとは第17部隊の者達だった。
「ご協力ありがとう、タイガード。」
「構わん、平和を愛する気持ちは同じなのだからな。」
イレギュラーハンター達はベースへと帰っていき、タイガード達も自分の住処へと帰っていった。
チーター型のレプリロイドがタイガードに話しかけてきた。
「ごめん、兄さん。また兄さんの手を借りてしまった。」
彼女は悲しげな表情で語り掛けた。彼女はタイガードの妹レプリロイドの『シャイニングチーテリア』である。
タイガードは横顔で笑いながらこう返した。
「お前が謝ることではない。俺が勝手に手を出したまで、余計なお節介だった。むしろ俺が詫びねば。」
「兄さん・・・。」
彼女はタイガードと少し違って動物型と人型の融合型である。
そのため、普通の動物型より少し戦闘においての能力が低い分、オペレータ等の能力が高い。
逆に言うと、普通の人型より少し戦闘においての能力が高い分、オペレータ等の能力が低いである。
最近になって動物型と人型の融合型のレプリロイドを作る実験を行い、実験は成功したのである。
融合型のレプリロイドはバランスがよく出来たが、ズバ抜けてすごい長所もなくなったと言う欠点も出来てしまった。
そのためか、彼女は長所のない自分に悩み続けているのである。
しばらくして、自分達の休憩所に到着した。しかし、出迎えてくれる人は誰一人とていなかった。
それもそのはず、この森林を管理しているレプリロイドはこの兄妹ふたりだけなのである。
そしてタイガードは、呟くようにチーテリアに話しかけた。
「チーテリア、俺達が協力すれば密猟者も簡単に捕まる。なのになぜお前一人だけを戦わせようとしか分かるか。」
チーテリアは顔を下向けて首を横に振った。
「この世にはな、お前の知らない森林が沢山あるんだ。だが、その森林全てを守るにはあまりに人手不足なんだ。」
チーテリアは顔を上げた。彼女は理由が分かったような表情をした。
それに合わせてタイガードはうなずいた。
「お前に一人立ちして森林を守って欲しいからだ。そのためには俺に頼らず、自分の力をみにつけて欲しいんだ。」
「・・・。」
彼女は黙り込んで再び悲しそうな表情をした。
「おいおい、そんな顔をするなよ。俺はお前の事が嫌いでこんなこと言ってる訳がない。お前に期待しているからだ。分かってくれ。」
彼女は複雑な気持ちだった。自分にとっても大好きな兄。しかし、一人立ちすれば兄とは会えなくなる。
大好きな兄の側に居るべきか、大好きな兄の期待に答えるべきか、彼女の心の迷いは大きかった。
しかし、そんな二人の心を嘲笑うかのように悲劇はすぐ側まで近づいていた。
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