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制作者:アサドリさん プロローグ ぶん、とかすかな音をたて、一条の光が闇を裂く。 「……ビームサーバーか?」 『彼』は難なくそれをかわす。 「ほう……さすが特A。その辺のザコとは違いますね」 それには答えず、『彼』は横っ飛びで物陰に身を隠した。そのまま音もなく、無造作に立っている『相手』の背後に迫る。 (もらった!!) 『彼』は『相手』の首筋をめがけ、真っすぐに一撃を叩き込んだ。 が、それは空しく空を切る。 (何……!?) 驚愕した『彼』をあざ笑うように、 「後ろの正面……」 声は、真後ろから。 (……!!) 『彼』は慌てて跳びすさったが、 「……だーれだ?」 体勢を立て直す間もなく、疾風のように詰め寄った『相手』のサーバーが『彼』の胴を薙いだ。 第一話 出動 「お願いします、再捜査してください……兄は……兄はそんな人じゃありませ ん!!」 「ええ、我々もそう思います。しかし……」 イレギュラーハンターベースの一角。少し開いた応接室の扉からもれる声に、Xは何気なく中をのぞいた。 中で話しているのは第0特殊部隊副隊長エクスプローズ・ホーネック、そして一人の人間女性型レプリロイドだった。 Xの気配に気づいたのか、ホーネックがひょいとこちらを向く。 「ああ……X隊長でしたか。お入りください。……アクエリアスさん、こちらは第17精鋭部隊のX隊長です」 ホーネックの紹介でXは部屋に入り、女性に軽く頭を下げると椅子のひとつに腰掛けた。 「X隊長、こちらはアクエリアスさん、その……例のマグネ・ヒャクレッガーの妹さんです」 「彼には、妹がいたのか?」 「ええ……。あの発表をお聞きになったそうで、ここに」 Xは、彼に向かって頭を下げたアクエリアスに目をやった。美しい顔立ちをしていたが、その顔は深い悲しみに沈んでいる。 イレギュラーハンター第0特殊部隊所属で、ホーネック直属の部下にあたる。 性格は冷徹・無口の一言で、他の隊員ともあまり交流がなかったらしい。しかしハンターとしては特A級の名に恥じない凄腕で、どれほど危険な任務であっても必ず成功させ、かつ生還を果たしていたという。 その彼が、三日前、任務中に突然消息を絶った。 その翌日、世界中の情報を統括しているセントラルコンピューターが何者かの襲撃を受け、そのまま乗っ取られた。 そしてその日のうちに、そこから世界規模でイレギュラーウイルスが発信され始めた。 犯人の人数・所属など、詳しい特徴は一切不明。襲撃直後に彼(ら?)はセントラルコンピューター内のトラップを作動させ、今現在も立てこもっている。 「そのウィルスが、ヒャクレッガーの使うウィルスのひとつと酷似していまして」 第0特殊部隊の隊員は、任務の性質上、普通の戦闘用レプリロイドにはない能力を備えていることが多かった。ヒャクレッガーの場合、様々なコンピューターウイルスを扱う能力がそれだった。 「初めは、ハンターとしての彼の腕をねたんだ何者かの罠かとも思いました。偶然にしてはあまりにも出来すぎているので」 しかし、イレギュラーウイルスを世界中にばらまくなど、私怨で済まされるレベルの犯罪ではない。まして前回のシグマの反乱以来、世論は『イレギュラー』という物に対して過敏になっている。 イレギュラーハンターひとりを陥れる罠にしてはあまりにも大きすぎた。 さらに、イレギュラーウイルスの被害はじわじわと拡大しつつあった。 事態は急を要した。 ついに今日の正午、マグネ・ヒャクレッガーがセントラルコンピューター乗っ取りに関わっている疑いが濃厚であるとして、明確な証拠がないままハンターベースは彼をイレギュラーと断定、国際指名手配を開始した。 イレギュラー判定。レプリロイドにとって、それは死刑判決だった。 その発表を聞き、アクエリアスはここに駆け込んだのだ。 そしてそんな彼女たちをあざ笑うかのように、イレギュラーウイルスはあふれ出ている。 「嘘です……兄がイレギュラーだなんて……」 「ええ……私もそう思いたい。しかし、我々の力ではもう、どうしようもないのです」 ハンターベースはセントラルコンピューター突入を決定しており、ハンターの集合時刻はもうすぐだった。 ホーネックの言うとおり、もうどうしようもなかった。 と、館内アナウンスが部屋の沈黙を破った。 『第0特殊部隊、第17精鋭部隊、今すぐエリア2に集合して下さい。繰り返します……』 Xとホーネックが弾かれたように立ち上がったその時、 「お……お願いします! 私も連れて行って下さい!」 立ち上がったアクエリアスが叫んだ。 「この目で確かめたいんです! 兄が関わっているのかどうか」 「アクエリアスさん、それは……」 「わかりました」 止めようとしたホーネックの声を聞きながら、Xは反射的にそう言っていた。 「ほ、本当ですか!?」 「X隊長!! しかし……」 X自身、自分の発言に驚いていた。しかし、 「頼む、ホーネック。彼女は俺が警護する。とにかく、出動だ」 口は勝手に動いていた。それ以上何も言わず、Xはそのまま部屋を走り出た。 ――なぜ、俺はあんな事を? 彼女を危険にさらすのはわかり切ってるじゃないか。 二人と並んで廊下を走りながら、Xは少し混乱していた。 しかし、さっき彼の心の奥底で、何かがそうしろと言ったのだ。 彼女が連れて行ってくれと叫んだとき、一瞬心をよぎったイメージ。 自分に向かって笑いかける、金髪のポニーテールの少女。 ――だれだろう? あの子は。 ハンターベースの緊急車両が目の前に見えた。ホーネックが扉を開け、三人は飛び乗った。 (続く) | ||
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