けばけばしい光の中に、その街はある。
その光は決して自然なものではない、人工的なもの。
不自然に生み出された架空の光。
深夜3時。
明るすぎるほどに明るい街を、足早に歩く青年がいた。
遠目に見ると、青年というには幼い印象を受けるのは、彼が背が低く、華奢であるからという理由だけではなさそうだ。
綺麗に着飾ってはいても、どこかにイミテーションの宝石のような違和感を感じさせるような人々が行き交う中で、彼はあまりにも自然。悪く言えば、服装に無頓着に見えた。
しかし、近付くと彼が幼い少年ではないことが分かる。
表情には明らかな疲労の色が濃く浮かんでいた。
水沢 馨。24歳。
(・・・参ったなあ)
繁華街の中心部を目指す人が途切れることのないメインストリートを、馨は流れに逆らうように歩きながらため息をついた。
目指しているのは駅。もちろん、こんな時間に電車が動いているはずもないことは十分に分かっている。
ため息が出るのは、そんなことではなくて。
年下の同級生にかなり強引に飲みに誘われた。
『俺、水沢のこと放っておけないんだよ。俺と付き合わないか』
半ば引きずられるようにして行った雰囲気のいいバーで口説かれたのが午前1時頃のこと。すでに自宅に帰る交通手段はなくなっており、その時は朝まで付き合って飲んでもいいと思っていた。
自分がそういう嗜好の人間であるということ――つまり、同性愛者であるということは、もう何年も前から自覚していた。中学生時代の初恋でさえ、相手は同性だった。だから、同性愛者に対して、また同性愛の対象に自分がされたことに対して、何ら嫌悪することはないはずだった。
しかし、馨はその瞬間鳥肌が立った。
思い出すのは、幼かった自分を性の標的にした大人の男。
そして、初恋の少年の顔が侮蔑と嫌悪で歪む瞬間。
あれやこれや言い募る友人に対し、馨はきっぱりと断りの言葉を口にし、会計を済ませて逃げるように店を飛び出した。
おかげで、元々寂しかった財布の中身が今ではすっからかんだ。これでは、始発が動き出しても家までたどりつけるか怪しいものだ。
馨はもう一度、ため息をついた。
周りを見回して、明らかに場違いな自分に苦笑する。昼より明るいのではないかと思うような世界と、眠らない人々。眠らない街。
作り物でもそれなりには美しい世界に馨は目を細め、更に足早に駅を目指した。
夜の世界は嫌い。大好きだった親友と、似通った匂いがするから。
だからここから抜け出してしまいたいと思った。
遠くから誰かに呼ばれた気がしたけど振り返らない。こんな不似合いな街に、知り合いなどいるはずもないのだ。同姓の、別の誰かを呼んでいるのだろう。
しかし。
「水沢っ」
「え!?」
大声とともに、掴まれたのは馨の右手首。
「、南」
驚いて振り返った目に映ったのは、夜の匂いを纏わりつかせた、かつての親友だった。
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