6.




 南は我が目を疑った。
 そこにいたのはスラックスを半分だけ下げたみっともない格好で椅子に腰掛けた山口。

そしてそれに跨っているのは全裸の水沢だったのだ。

「み、南・・・」
 一番に我に帰ったのはさすが年の功とでもいうべきか、山口だった。慌てて水沢を引き離し、スラックスを上げる。
「あっ」
 肉棒が水沢の中から抜け出る時に聞こえたずるり、という濡れた音と、水沢の甘い声に耳を覆いたくなった。
「そういうこと」
 精神は茫然自失の状態であったにもかかわらず、南の声は冷静だった。
 目は水沢にまっすぐに向けられている。情交の跡を濃く残した体を南の視線に晒されて、水沢は羞恥に真っ赤になった。
 何だ、そういうことか、とようやく思考が活動を再開する。
「ねえ、先生、誰にも言わないからさ、教えてよ」
 大声で笑いそうになるのを必死で抑えて、南は山口の正面に立った。
「コイツと、初めてしたの、いつ?」
 聞きながら、南には確信があった。
「ねえ、教えてよ」
「・・・修学旅行の時だ」
 確信したとおりの返答に、南は今度こそ笑い出した。
「あはは、そう、そうなんだ」
 正気を手放しているような、と形容される山口の目が驚愕に見開かれる。
 南は狂ったように笑っていた。
 今、狂っているのはどっちだ。俺か、山口か。
「・・・気が狂いそうだよ、先生」
 山口の答えは、南にある結論をもたらした。
 水沢が変わったのは、こいつのせいだ。
 和姦だろうと、強姦だろうと、南には大きな違いはなかった。強姦でも、今まで関係を続けず、逃げ出す術はいくらでもあったはずだから。
 それなのに、この関係を諾々と続けてきたのは、水沢の意思に他ならない。
 本当に嫌なら、南に言えば良かったのだ。保健室の山口にレイプされた、助けてくれ、と。
 そうすれば、どんなことをしてでも守ってやったのに。
「ふふ・・・先生、きっと最初から同意の上だとか言うんでしょ」
 山口は答えない。
「いいもの見せてもらった。帰るわ」
「南・・・!」
 初めて水沢が口を開いた。何ヶ月かぶりに聞く声に、ある種の感動すら覚えながらも、冷たい一瞥をくれてやる。
「金輪際俺に話しかけるな、このホモが」
 水沢の目が一瞬大きく見開かれ、次いで涙がぽろぽろと溢れ出した。
 その涙をぬぐってやりたいという思いはまだ確かにあったけれど、訳の分からない激情に南自身翻弄されていた。
 これは怒りか。それとも嫌悪か。
 感情を理解しきれず、荒れ狂うままに口にしたのが、さっきの一言だった。




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