2.




「有也のお店のナンバー1って、どんな人?」

 情事の後の気だるい空気をまといながら、でもどこか清楚ささえ漂わせる顔で、馨が口を開いた。

「え?」
「有也がいつもナンバー2で、最近はナンバー3だって言うからね。ナンバー1はどんな人なんだろうと思ってさ」

 ふにゃ、とした緩んだ笑顔。口調が微妙に幼げで、舌足らずなのは、情事の後だからか。
 背後から抱き締めながら、有也はそんなことを思う。

 初めて抱いてから3ヶ月。コンスタントに関係を持つようになってからようやく1ヶ月といったところか。季節は夏を過ぎ、秋半ば。くったりと力を抜いて体を預けてくる馨を見つめて、よくここまで慣れてくれた、と有也は少し感動する。
 初めて抱いた時は、体を強張らせて泣いていた。それからも、しばらくは緊張が抜けなかった。
 怖がらせたいわけではないからとにかく時間をかけて、体と心を溶かしてから抱くのが常だった。今も、それは変わらない。

「有也?」

 黙りこんでしまった有也を気遣って、馨が訝しげに顔を覗き込む。そのきょとんとしたあどけない表情が可愛くて、抱いてしまいたい衝動に駆られた。

「…なんでもない。聞いてるよ」

 さっきもその体を開いて、好きなように愛したばかりだと言うのに、欲望は際限がない。そばにいたいと願うし、そばにいれば触れたいと、その先の行為を望んでしまう自分を、有也は心底強欲だと思う。
 10年越しで実った初恋。その事実だけで、奇跡のようなのに。

「ナンバー1ねえ。ナンバー1は癒し系だよ。ふわーんとしててね」
「そうなんだ。ナンバー1ホストって男の色気全開なのかと思ってた」
「うん、そういうホストも多いよ。実際ナンバー2はそうだ」

 最近他店から移ってきて、あっという間にナンバー2の座に着いた男の顔を思い浮かべて、少しいやな気分になる。それが顔に出たのか、馨が首を傾げた。

「どうしたの?」
「いや」

 奴…Sakuraというのだが、ルックス、趣味、営業スタイル、その全てが有也の対極に位置している。不動のナンバー1がいる以上、ナンバー2を巡って争うのは必然で、有也は、本当はその正反対の彼の何もかもが気に入らないのだ。そして、彼が移ってきてからこちら、どちらかといえば負けることが多いから、尚更。
 …考えていたら、腹立たしくなってきた。

「何でそんなこと聞くの?」

 腹立たしいから、逆に聞き返してみる。

「だって、有也、すごい色気だから。ホストってみんなそうなのかな、って思って」
「ああ、それでうちのナンバー1のこと聞いてたの?」
「うん。あ、あと何か大学の同級生がホストに相当貢いでるらしくてね。でももう入れあげてるから周りが何言っても聞かないんだ。彼女が言うにはどっかのナンバー1で男の色気全開でカッコいいらしいんだけど、店の名前聞いたのに忘れちゃった」
「ふうん。名前は知ってるの?」

 狭い業界だ。源氏名さえ分かれば、店名も自ずと分かるだろう。

「そのホストのこと?」
「そう」
「えっと、桜?」





 

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