それから、有也は毎日のように馨の部屋に通うようになった。
まともな食事をしていない、と言ったら馨が同情して、馨の方から夕食を一緒にすることを提案してくれたのだ。
もちろん、有也に断る理由もない。馨の料理はおいしいし、少しでも一緒にいたいというのが本音だったからだ。
いそいそと馨をバイト先まで迎えに行って、馨の部屋から出勤する。同伴やミーティングのない日の日課になった。
そんな日々が、1ヶ月続いた。下心を全くないもののように押し隠して。
それは、有也の忍耐を試し続ける日々だった。
有也は、気付いていた。
馨は、未だに誰かに触られることに強い恐怖を抱いている。
10年前のことを思えばそれは当然。中学生の体を、大人の男に力でいいようにされたのだから。
そして、その馨にひどいことを言って更に傷付けたのは他でもない、自分。これで恐れるなと言う方がおかしい。
けれど、10年だ。10年もあったのだから、その傷は癒えているかもしれないと思った。とても都合のいい考えだけれど。
でも、ふとした瞬間に少し触れただけで、あからさまに体を硬くするのだ。
『ご、ごめんね。別に南が怖いとかじゃないんだけど・・・何か』
そういって、いつも申し訳なさそうに顔を俯ける。
怖いのなら、家になど入れなければ良いのに。
もう来ないで、と、そう一言言ってもいいのに。
最後通牒を突きつけられないから、中途半端に期待してしまう。あんなに怖がっている馨を目にしても、どこかで許されているのではないかと、思ってしまって。
何事もなかったかのように、翌日にはまた馨の部屋に上がりこんでいる自分がいる。
どうしようもないトラウマ。深すぎる心の傷。
癒えるのを待とうと、有也はずっと思っていた。傷が癒えて、馨が振り向いてくれる日を待とうと思った。あんなに傷ついている馨を、更に傷付けるなんてしたくない。
でも。
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