青の姉である翠お義姉さんがマンションを訪れてから一月がたった。
共に暮らし始めてからずっと避妊している。
ただ結婚式の日が今から待ち遠しくてたまらない。
本当の意味の初夜を迎えることなんて、私達にはできないかもしれないけれど、
また新しい生活が、始まるんだもの。
今日は8月13日、私は、青と実家にお墓参りに来ている。
一日泊まって早朝帰ることにしていた。
お母さんのいる家に同じ部屋に眠るのは、かなり緊張してしまうけどね。
もう青は人目とか気にしないみたいだし。
というか、人に見せつけたがる節があるからちょっと困る。
目を閉じて墓前に手を合わせる。
線香の匂いが鼻につく。
真夏とは違う虫が鳴き始めて少しだけ秋の足音が聞こえてる。
これからずっとこの人と一緒に歩いていきます。伝えるの遅くてごめんなさい。
今度は子供と一緒にお墓参りに来るね、お父さん。
幼い日、事故で亡くなった父に青とのことを伝える。
大好きな人と幸せを作ることを、天国にまでメッセージを送る。
青も隣で祈りを捧げていた。
高い背をかがめて中腰の姿勢。
洗練された物腰は、やはり育ちの良さもあるんだろう。
手を合わせるその様子まで絵になるほどだった。
「明日は青のご実家ね」
両方の家のお墓に参るのは当たり前のことだ。
「あ、ああそうだな」
青はお墓に花を供えた。
白菊の花が太陽の光を受けてその清らかさな姿を輝かせている。
お墓に柄杓でお墓と花に水をかける。
「青のお母様ってどんな方だったのかなあ」
頭にイメージしてみる。
きっととても綺麗で華やかな人だわ。
「親父とよく似てた」
「え、何が?性格?」
「……まあな」
苦笑いする青の頭には何が過ぎっているのか。
その脳裏を覗きたいと思ってしまった私だった。
お墓を後にした私達はそのまま母が待つ家に戻った。
「ちゃんと報告してきたわ、お父さんに」
「そう、きっとあの人喜んでるわね。ああでも天国で少しジェラシーに苛まれてるかも」
にっこり微笑む母。
「あはは……お父さん私に甘々だったんでしょ?」
父は私を目に入れても痛くないほど可愛がってくれたらしい。
といっても記憶にない幼い日のことだけれど。
隣で湯飲みのお茶を啜る青は不釣合いなようで意外に似合ってた。
何やってもハマるわ、この人。
「そうねえ、時々お母さんが嫉妬しちゃうくらい、沙矢にべったりだったわね」
「だから、今頃、沙矢が青くんみたいな素敵な人の所にお嫁にいってあの人焼きもち焼いてるわよ」
「まあ当然のことですけどね」
青は微笑した。
「……恥ずかしいから」
「何も恥ずかしくなんてないだろ。真実なんだから」
「滅多にいないくらい良い男なのに、性格は何だか面白いわね」
「お母さん!」
さすがに言い過ぎのような。
「……」
青は静かに微笑んで、母に頭を下げると茶の間から歩いていった。
煙草を吸いに外へ出たのだろう。
彼は人の側では決して煙草を吸わないのだ。
私は急いでその後を追う。
パタパタとスリッパの音をさせる癖はまだ直らないみたい。
「ごめんなさい」
「何を謝ってるんだ?別に何も気にしてない」
クスッと笑って頭を撫でてくる青。
子供扱いされてるみたいだけど、私は青の大きな手に頭を撫でられるのが好きだ。
「そう。なら良かった」
「お母さん、一人で生きて私を育ててくれたでしょ。だから、きつくなっちゃったのかな」
「さすが沙矢の親って感じだな」
「……さすがって」
「年をとっても綺麗で可愛いんだろうな、お前も」
「ぶっ……ありがとう。私のいないところでお母さんにそんなこと言ってたの?」
青は言葉を返さずただ柔らかく微笑んだ。
それが答えのように思えて私も微笑み返した。
その日は、早めに寝て、早朝、お母さんに泊めてもらったお礼を言って実家を出た。
実家を出て車で青の家に向かう間、私は少し考えていた。
これからの未来の日々。
いつか彼と一緒に大地に眠る日まで、辛いことや苦しいこともあるだろうが
同じくらいの笑顔があれば生きていけるわ。
「頑張ろうね、青」
「ああ」
隣りで青が小さく笑ったのが見えた。
カーブを曲がり、軽やかに車は走る。
二ヶ月振りにやって来た藤城家。
敷地内に車が入った途端、広さにやはり驚く。
ぼーっと敷地内を眺め回してると青が不可解そうに声をかけてきた。
「何やってるんだ。行くぞ」
「……はい」
そりゃあ青は見慣れてるでしょうけど、一般人には正直想像できないレベルなのよ……藤城家は。
「早く荷物置いて墓参り終らせてさっさと帰るんだからな」
「え、泊まらないの?」
「……お前が泊まりたいならそうしてもいいけどな」
「やった!あんな広いお屋敷で一晩暮らしてみたかったのよね」
ちょっとミーハーかな?
興味持っちゃうのは仕方ないわよ、だって噴水があるし花壇というより庭園がすごいし。
「分かったよ」
お前には敵わないよ、まったく。
青が強く手を握ってきたから握り返した。
空いている方の手で彼はブザーを鳴らす。
「はい、どなたですか?」
「……青です。戻りました」
前と来た時と同じでまた間が空いた。
「あら、まあ、青坊ちゃま、お帰りなさいませ」
「操子さん、いい加減、坊ちゃまはやめてくれませんか?」
「いつまでも青坊ちゃまは青坊ちゃまですから」
青の肩に手を置こうと腕を伸ばす。
く……でも中々届かない。
背伸びをして何とか、届いた。
変な葛藤をしていると怪訝な表情で青が見下ろしてきた。
「えへへ……青が楽しそうだったから、仲間に入れて欲しいなって」
「肩組むのって男同士みたいだな」
扉は開かれ、穏やかな笑みを浮かべた操子さんが出迎えた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま戻りました……」
「?」
私は青が操子さんを見て少し驚いた顔をしたからじっと操子さんを見つめてしまった。
「操子さん、今日は一段と綺麗ですね」
さらっと真顔で青は言った。
「青さまったらいやですわ。こんな年寄りからかうなんて」
ほほほと照れたように操子さんは笑う。
「本当にそう思ったんですよ。何かいい事でもありましたか?」
「先日、14日に青さまが戻られると聞いてたので昨日は嬉しくてよく眠れまして。
それでお肌の調子もよいのかもしれないですわ」
「よっぽど彼が帰るの嬉しかったんですね」
「ええ、そりゃあもう。」
「今日は泊まっていかれるのでしょう?」
操子さんは期待に瞳を輝かせてる。
「……あ、はいお世話になります」
私はぺこりと頭を下げた。
「青さまのお部屋に沙矢さまもご一緒でよろしいですよね」
「はい」
今度は青が返事をする。
操子さんはほほほと笑って廊下の奥の方へと消えていった。
「お義父様、今日はいらっしゃるのかしら」
「仕事じゃないのか……」
「青のお家って何やってるの?聞いたことなかったけど」
「……病院を経営してる」
「す、すごい。だからこんなにお金持ちなんだ」
「どうだろうか」
玄関から見える螺旋階段を昇り、私達は青の部屋に向かった。
「広いね、どこもかしこも」
「操子さんに感謝だな。こんなに綺麗にしてくれてる」
青のマンションも大きくて広いけど、このお屋敷に比べたら、
全然負けてる。スケールが違う。
30畳以上はありそうな部屋にグランドピアノと、ソファー、ベッド、ウォークインクローゼット。
バルコニーがあって、窓際にベッドが置かれてる。
洋風の部屋の窓からは外の景色がよく見渡せて壮観だ。
目をきょろきょろさせて部屋中を歩き回る私を余所に、青はソファーに座ってくつろぎ始めた。
「そんなに物珍しいか?」
「青にとっては普通でも、私にとっては珍しいわよ」
住む世界が違うのかもしれない。
しゅんと俯いた私を見て青が呆れたような顔で立ち上がる。
「俺の居場所は今はここじゃないからな」
「青……あっ」
後ろから抱きしめられる。少し背を屈め私の肩に頭を乗せて。
「俺にとっての今の普通は沙矢がいる場所だ」
またどうして泣きそうになることをいうの。
「嬉しすぎるわ」
「この屋敷が気に入ったか?」
「……うん、でもそれは青がいるからであって青がいなかったら
本当に別世界でただへえって驚くだけ。あなたがいない場所を気に入ることはないわ」
「そうか……じゃあお前はここに住みたいか?」
「分からない。私はいつでも青の隣にいたいって思うけど」
住みたいかという問いに頷きかけて慌てて首を振る。
それは豪奢なお屋敷に住みたいっていうミーハーな想い。
青の気持ちを無視している。
「墓参りに行こうか。後でゆっくり話すから」
「ええ」
手に持ったままだったバックを青は、私の手から奪い、自分のバックの横に置いた。
「親父のことを考えると憂鬱になる。いい加減大人にならなければと思うが」
「……青」
青が難しい顔で言った言葉の意味を私はすぐ後、理解することになる。
「お邪魔してます」
「おや、いらっしゃい」
お義父様は青を無視して、私の方に歩み寄った。
「沙矢ちゃん、お墓参り、青と行ってきたんだろう?」
「お義母様の墓前に手を合わせてきました。遅すぎるご挨拶になってしまいましたけど」
「青が女性連れてお墓参りするのは初めてだ。去年までは一人で来てたもんなあ」
お義父様はポンポンと青の肩を叩いて通り過ぎてゆく。
ちゃんと毎年帰ってたんだね。
食事の席。広いテーブルに座ってもやはり馴染めない。
隣の席との距離が遠くて落ち着かないの。
食事してる顔を見られるのも苦手。時折微笑みがちに見つめてくるお父様は手強そうに思えた。
食事中はおしゃべりをしないのがマナーだそうで、ここでは静かに淡々と
時間が流れていった。勿論、カチャカチャとか物音もしない。
上品だなあって思いながら改めて上流階級のお家というのを思い知った。
マンションでも、食事中はそこまで喋らないけど時折ぽつぽつと会話するから無言じゃない。
ここまで静かなご飯って初めてかもしれない。
手をそっと合わせて青は立ち上がる。
しっかり自分の食べた皿や食器類を手にして。
「青さま!そんなことは私が致しますから」
慌てて飛んできた操子さんが食器類を手に向こうへ歩いてゆく。
面倒かけさせたら駄目だと思い、私は食器をそのままにして青の後ろについて歩く。
「ご馳走様でした」
お義父様に頭を下げると柔らかな微笑が返ってきた。
「お口に合ったかな?」
「ええ、とても美味しかったです」
「それは良かった」
普段食べ慣れている物ばかりテーブルの上にはあったから当然といえば当然か。
青の好きなものを操子さんが腕を振るって作ったのだろう。
まあ、うちで食べてるのとは食材からして違うんだろうけど。
「親父、話があるんだ、後でリビングに来てくれないか」
「ここじゃできない話かい?」
食事を終えてお茶を飲んでいるお義父様がこっちを見て問いかける。
「ああ」
「分かった」
「沙矢、結婚式のことだ」
「……うん」
私は青に腕を引かれるままにリビングに行った。
白い色をした一人掛け用のソファに座る。
背を凭れさせると妙に気持ちよかった。
「ふわふわでふかふかだ」
すわり心地も最高。
「良かったな」
青は目の前に硝子の灰皿があるのを確認して煙草に手を伸ばした。
あれ、今日一本目だ。車では吸わなかったもの。
私はじっと青の瞳を見つめる。視線に気づいても表情を変えず、青は、紫煙を吐き出している。
自分の手を握りしめると汗ばんでいた。
こんな奇妙な静寂は駄目。身が持たない。
「結婚式のことって、もしかして二人だけで挙げるのはやめるってこと?」
「けじめもあるからな」
「親父が来たら話を始めるから」
青の言葉に私はこくんと頷いた。
駄目だな、もう少し待つだけじゃない。
青は一本だけ煙草を吸って、私の手を握ってきた。
「ありがとう」
不安そうな私に気づいてくれてたんだ。
目を細めた彼の顔には優しさが滲んでた。
「大丈夫だよ、ちゃんと沙矢と俺が納得する方に物事を運ぶから」
お義父様が扉を開けて部屋に入って来た。
向かい側にあるソファに腰掛ける。
「こうして青と向かい合うのは久しぶりだな」
父親が息子を見つめる眼差しってこんな温かいんだ。
見ているだけで分かる。青は本当に愛されてるんだって。
「そうだな」
「仕事順調に……ああいっているんだな。
でなければこんな綺麗な子連れて帰ってこないものな」
聞こうとした言葉を引っ込めいい直すお父様。
こないだのお茶目な姿とはまるで別人だ。
「沙矢は初めて本気で愛した女だ。
今まで何度も傷つけて泣かせてしまい遠回りをしたが、これからはずっと大切にするつもりでいる。
だから認めてくれないか?」
「最初から認めてるよ。しっかりした立派なお嬢さんだって初対面の時に分かったしね」
「改めて認めて欲しいんだ。藤城家の新たな家族として」
え、青?
「戻って跡を継ぐ事を決めたのか」
腕を組んで青を見るお父様の目は厳しい光を帯びていた。
「ああ……」
青が二本目の煙草を口にした。
「私はいつか青が戻ってくると信じてたよ」
余裕たっぷりに笑うお義父様。
侮れないあの眼差しでこちらを射抜いてる。
「青、本当にいいの?」
「30になる頃には、家へ戻って後を継ごうと決めていたから、
少し時期が早まっただけだ。姉に抗ってみたのも身勝手な言い分に少し腹を立てたからだったが、
本心じゃなかったよ。帰るつもりでずっといたから。
ここは俺の生まれた家だからな」
「あのマンションは?」
「売るつもりはない。残しておく」
「結婚式は青の誕生日に挙げるんだったね。その日に君を大々的にお披露目
するよ、次期後継者として」
「手はずは任せるよ」
親の敷いたレールの上は歩きたくなかったから、
自分の家の経営する病院ではなく他の場所で経験を積んで戻ってこようと思っていた。
親とか家とか関係ない場所で自分を磨き、成長させて帰ってきたいと。
青は考え事をしているのか腕を組んで目を伏せている。
「青、戻ってきてくれてありがとう。君の実力を充分生かしてくれよ」
お義父様は感心しているようだ。
「よろしくお願いします」
丁寧に礼儀を払う青を見てまた惚れ直す私がいた。
「沙矢ちゃんは砌には会ったことあったっけ?」
「会ったことあるわけないだろ」
「もしかしてお姉さんの息子さんですか?」
「君にとっても甥になるね。姉弟程の歳の差のだけどね」
「あ、やっぱり! 前お義姉さんが言ってらした息子さん。へえ砌君っていうんですね」
しみじみしてると青が苦笑いした。
「何で急に砌が出てくるんだ、親父?」
「いや、沙矢ちゃん見たときの砌の反応想像すると」
今の笑い方、何て性質の悪そうな。
「結婚式で会えますか!」
「ああ、会えるよ」
「青と違って純情……」
「へ、へえ」
お義父様、知らないんですか。
青はとっても純情なんですよ。
「じゃあ、部屋に戻るから」
青に視線で促され、私はお義父様に会釈して彼の後に続く。
部屋に戻るとどっと疲れが押し寄せてきた。
「……今日はもう寝てもいい?」
「お前は寂しくなかったのか。俺は一週間堪えに堪えてたんだぞ」
沙矢の肌に触れられないことを。
「で、でも」
「いずれは一緒に住むんだ。いちいち気にしてたらきりないだろ。
第一親父は気にするような輩じゃない」
「オープンな家庭なのね」
「違う。自分も同じ事をするから人に言えないんだ」
「お義母様、亡くなられてるんじゃ」
「5歳の時かな。俺は親父と母さんの……寝てる姿を目撃した」
思い出したくないという顔をしたこの時の青の表情を私は一生忘れないだろう。
「それは複雑よね」
「複雑なんてものじゃないさ。普通見たくもないだろそんなものは」
「うん、見たくないよね」
「因みに見たのは一度だけ?」
青の何とも言い難い複雑な表情から一度ではないというのを
感じ取り
思わず顔を赤らめたまま呟いた。
「……聞いてごめんなさい」
すごい仲がよかったのね。
「別に今更だけどな」
「青が恋には不器用なのに本能には忠実な訳が掴めたわ」
「言いたいことは分かったから」
「そろそろ明かりを消さないか?」
青の瞳に妖艶な光が灯っている。
「お風呂は……?」
「後でいい」
「あ……青」
ぐいと腕を引かれ、白いベッドに倒れこんだ。
柔らかなシルクが体を受け止めてくれる。
「聞かせてやればいいよ」
「え、やだ、何言って……ん……ふ」
いきなりの激しい口づけに眩暈がした。
舌を絡め取られ吐息を奪われる。
性急な行為の始まり。
「安心しろ。この家はバカでかいから、どうせ聞こえやしない」
「からかったの……っ……やん……あぁっ」
耳たぶを噛まれ、舌でなぞられてゾクリとする。
「どうかな」
いつか言い負かせることできるようになりたいわ。
ベッドの上に両腕を投げ出し、シーツを掴む。
着ていたワンピースが後ろ手に脱がされ、ブラを取り払われる。
「青、今日……ないんじゃないの?」
「そう思う?」
何がと言わなくても分かってる。
そして青の準備の良さに驚くばかり。
「……じゃあ大丈夫ね」
青はふっと微笑を掻き消し、自分の着ていた衣服を脱いだ。
バサリと、フローリングの床へと落す。
「……あぁっ……ん」
青は鎖骨の上に唇を滑らせた。
きつく啄ばんでは離れ、至るところに赤い物が刻まれている。
甘い痛み。
あなたの物であるという証がもっと欲しい。
「その顔綺麗だ。恐ろしく官能的に俺を誘う」
どくん。心臓が跳ね上がった。
何度も聞かされた殺し文句に今日は一段とドキドキする。
やっぱり私達のマンションじゃないから?
ここにはお父様もいる。
触れるだけのキス。唇はまた下降してゆく。
胸の膨らみの頂点には触れず、周りばかりに触れる唇。
「……くすぐったい」
私が無邪気に笑ったのを見た青は急かされたのか強く赤い痕を刻み始める。
「……っ……ん」
肌の高揚とは別に、青によって色づけられてゆく肌。
肩を押さえていた腕が離れ、胸元に移動する。
包み込んで捏ねて、揉みしだく。
「……ふぁ……」
気持ちよすぎて声が変になる。
頂の周りを啄ばんでいた唇がやっと待ち望んでいた場所を口に含んだ。
甘美な痺れが体を襲う。
「あぁ……ん……うぅ」
両方の胸の膨らみを唇と掌で交互に愛撫され、体はもう抑制が利かなくなっていた。
「今日は一段と濡れてるな」
脱がされていない下着の中へ指を差し入れた青が微笑む。
「私を感じやすい体にしたのは誰?」
たまには強気に出る時だってあるのよ。
「俺だろう?まあ俺以外がお前を開発したなんて認めないがな」
ニヤリと笑う青は色っぽくて、どこまでもセクシャルな雰囲気を醸し出している。
「……変な言い方」
「違うと言えるのなら言えよ」
「言わせてくれないく、せに……ん……あぁ……」
激しい口づけをされ、下着の上からその場所に刺激を与えられる。
「嘘つきは泥棒の始まりと幼稚園児でも知ってるさ」
泥棒。私はその言葉を心の中で反芻した。
出会った日に心を盗んで、体を奪った青は何泥棒なの?
お互い様だから、口にはしないけれど。
知らないうちに私の体を隠していた最後の部分を脱がされていた。
同じ姿の青が、覆い被さってくる。
ぎゅっと強く抱きしめられると、肌の熱さにとてつもない愛情を感じた。
両腕を伸ばして青の肩を掴む。
「あっ……」
青は一度私を抱きしめた後、体を離し、両手で胸を愛撫し始めた。
露になった秘所に指を差し入れられる。
胸の頂を舌先で転がされて、内壁を指で弄られて、体が大きく跳ねた。
「あぁ……はぁ……んっ」
青はねっとりと蜜の絡みついた指を高く持ち上げて、私に見せつける。
「何度味わっても飽きないな」
目の前で指ごとそれを啜った。
今度は、秘所に直接口づけ、舌先で蕾をつつく。
「ひゃああ……っ」
恐ろしい快楽が体中を駆け巡り頭が真っ白になった。
「相変わらず早いな。俺のおかげだと思えば嬉しくて仕方ないけど」
からかうような言葉が遠い意識の向こうで聞こえていた。
「あれ、私」
沙矢がぼんやりとした眼差しをこちらに向けた。
潤んだ大きな瞳。俺が一番逆らえないモノ。
ほんの数分だったが、沙矢は気を失っていた。
「一緒にイこうか?」
「ああっ……青」
お前だってまだ物足りないんだろう?
昂ぶった自身を沙矢の濡れそぼった場所に宛がい、奥まで貫いた。
「ああああああっん!」
妖しい微笑を浮かべながら、沙矢の中で円を描く。
体が弛緩する度に揺れる膨らみを掴み上げて揉みしだいた。
「はぁ……ん……」
「好きだよ」
舌で唇をこじ開け、歯列を割って舌を縺れ合わせる。
「ん……あぁっ」
吐息が溶ける。
肌の熱さ、吐息の熱さは、狂おしいまでの行為を物語っていた。
律動を開始させ、どこまでも沙矢の奥を揺さぶる。
ベッドは悲鳴を上げる。
「はあ……はぁ……」
荒い息を繰り返す沙矢に限界を感じ取り、最奥を一気に突いた。
「ああ……ん……青、青っ」
沙矢が背中に爪を立てる。
ひりひりと傷む背。
俺はもう一度沙矢の奥を貫いた。
きつく締めつけられて、密着度は高まる。
深く繋がったまま、二人同時に昇りつめていった。
「青、結婚式楽しみね」
肩に寄り添い、私は呟く。
まだ真夜中。目覚めた時青は煙草も吸わないで私をただ見つめていた。
「そうだな」
抱き寄せる腕の強さ。
いつまでもこの腕の中にいたいって思う。
「昨日、一昨日と色々あって一日が早かった気がする」
私の実家でお墓参りして、青のご実家でお墓参りして、
この家に戻ることを決めて、色々ありすぎて目まぐるしかった。
「私、青のいい奥さんになれるかしら」
「なってるじゃないか」
「この家の嫁として相応しい人になれるかなって」
「俺が認めた時点で、お前はこの家の立派な一員だ。
誰にもどんな文句も言わせない」
力を込めた言葉に私は涙が溢れ出すのを止められなかった。
頬を流れる大粒の滴を青がキスで絡めとる。
「ありがとう、青」
「いや俺こそ。相談せずに勝手に決めて悪かった」
ごめんな、沙矢。
「私にとってもあなたがいる場所が自分の居場所だから」
はにかんで微笑むと青がキスをくれた。
長い時間、唇だけを重ね合わせるキスを交わし、固く抱擁をした。
天国のお父さんとお義母さんに誓ったそんな日。
二人で、ずっと幸せを作って育てていきます。
どんな不安も苦しみも二人で分け合って乗り越えて行くわ。
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