Touch and go



 私が彼へしたことのお礼ということで優しくマッサージされて、
 リラックスすることができたのだが、その後、
 私が油断していると、明らかにマッサージの意図を超えた
 触り方をしてきて、甘い悲鳴を上げた。
くぐもった声を唇を噛んで隠すが止められない。
 何故、そんな場所に触れてくるの。
 頂ごとふくらみを包み込まれて、強く揉まれている。
 身じろぎすると、おとなしくしろと甘い低音が
 降り注ぎびくんと四肢を突っ張らせる。
 唇をこじ開けて進入してきた長い指をくわえる格好になってしまう。
 待ってと言う隙もなく頂を捏ねていた指が、下腹に伸びていた。
「どんどん指を濡らしてくる」
 つぷと、音が立ったのを聞いた。
 彼の指を噛んでしまった。傷をつけてしまっていたらと不安に思う。
「激しいなあ、お前」
 いつの間にか四つんばいになっていた私の体の上に彼がのしかかって来る。
 体重を掛けないように配慮しながら、しっかりと押さえつけて。
 つ、と指が口の中から離れ、滴が顎を伝う。
 長い腕が膨らみをまさぐり、強弱をつけて捏ね上げる。
 膝を折って私の上にいるだろう彼が、くすりと笑った。
 顔を上げられなくて、姿を確認できなかった。
うつ伏せのまま、彼の言葉と、吐息、指使いを感じていた。
「沙矢」
「えっ……」
 声が震えてしまう。甘い美声が耳を侵す。
「ご褒美は十分やったよな。次はお仕置きだ」
 静かな口調。彼は怒っている。
 私を片腕で押さえつけたまま、彼は床を探っているようだ。
 軽い衣擦れの音が、すぐ側で聞こえて目元がネクタイで包まれたのを知った。
「……っあ、やめ」
 上向かされ、舌を絡められる。
 キスというより舌をもつれ合わせただけ。
 指が、頂を摘む。秘所が潤った音を聞いた。
 悪戯な指は敏感な場所を通り過ぎてささやかな触れ方をしてくる。
 ぎゅっとふくらみをつかまれて、心臓が暴れ狂う。
 彼の顔が見えない。それだけで、こんなにも不安になるなんて。
 目元を覆われているからなのか、ベッドサイドのランプが、眩しく感じる。
「どうして怒ってるの……私何かしたっけ? 」
「分からないのか」
 本気で分からなくて動揺する。
 彼が深く息を吐き出す。
 つ、と目元が潤む。
辛いのではなく戸惑っている。
肘をシーツの上について半ば覆い被ってくる。
 真上から抱きすくめられて、胸の奥が疼いた。
 怒っているようで、悲しんでいるような声が、響いてくる。
「何遠慮してるんだ。横浜くらい何度も行っているだろう。
 甘えてくれなくて悲しかったんだぞ、俺は」
 はっとした。
 彼の慟哭が透けて見えて、傷つけたことを自覚する。
 こんな風に本音をさらしてくれている青から逃げたら、
 前よりもっと……恐ろしい想像が駆け巡る。
「甘えろよ。俺のことを未だ信じてくれないのか」
 気持ちが通じ合えているのに、逆に遠ざかったら駄目なんだ。
「うん。ありがとう……今度からはちゃんと頼むから」
彼が嫌じゃない限り、言ってみよう。
 連れて行ってって。
「ああ……そうしてくれたら嬉しいよ」
 瞼の拘束が解かれて、正面からぎゅっと抱きしめられる。
 濡れた素肌からはボディーソープの香りがした。
 ごめんと囁いた後青はとんでもないことを口にする。
「……案外悪くないな、目元を隠したお前も艶っぽくて中々そそられる」
 舌なめずりまでした。
「ちょ……っと、何言ってるの」
「冗談だよ」
 冗談に聞こえなかった。
「お前が本気で嫌がることはできない。惚れた弱みだな」
 言い切られて、うっとなる。
何だかとても楽しそうで突っ込めない。
「それより続きしようか」
「つ、続きって……ひゃああ」
 青と体の位置が瞬時に入れ替わった。
 私は彼の上でとんでもない格好をしている。
 秘部を彼の顔に押しつけているなんて。
「ん……や、っ」
「自分だけでイクの大嫌いなんだよ。沙矢、お前も一緒がいいんだ」
 うわ、卑怯だ。
 可愛すぎるんだけど。
 普段かっこいい人が可愛い態度見せるときのギャップって、
 想像以上に恐ろしい。逆らえるわけない。
 こくん。頷くように頭を振ったら、彼のに触れてしまい  妙な声が聞こえてきた。
 鼻にかかっていて、吐息交じりで胸の鼓動が高鳴ってしまう声。
「私の髪が当たって痛かったの? 」
「っ……響くんだよ。先にイったら、お前自分で何とかしろよ」
 そんなこと言われても困る。
 後の言葉なんて、すごいSなんだけど。
 やけになって、彼自身を口に含む。
 分身とはよく言ったものだ。
 彼の形なのだろう。
 私の中を、すっぽりと満たしてくれるソレは、
熱く堅く  小刻みに震えている。
 さっきも感じたけれど口の中いっぱいに含むのはきつい。
 最初から大きいのに、これがもっと膨れ上がって成長するんだから、
 男の人の体ってどうなっているの。
 先端だけ口に入れてなぞって、舐める。
 私の腰も押さえられていた。
 だめ、そんなにしないでと叫びたくなるくらいに、
 彼は指と舌で丹念に触れられている。背筋がぞくぞくした。
 変な声が出てしまっても、含んでいるから聞こえないはず。
 舌を絡めて、濡らしていると、しょっぱい味が伝わってきた。
「っ……俺の好きだろ」
「ん……好き」
 互いにくぐもった声だから余計に興奮を駆り立てる。
 声が振動して互いの繋がりあう部分に伝わるのだ。
「あ……」
 膨らんだ欲望が口の中から離れかけたので、手で掴んだら
 うめき声が響いた。何だか貴重だった。
 彼がここまで我を失うなんて。
 もっと聞きたいと思ってしまったけれどとても言えない。
「……後でたっぷりお返しをくれてやるよ」
「やっ……ごめ……んなさい」
 謝らなくていいと言う風に彼は秘所の中に舌を忍ばせた。
 手で触れて擦って頬を寄せる。
 怖いというより、大事な宝物に思えていた。
 どくどくと血が流れている。
 跳ねるように動いたから驚いたけれど、
 私のナカにいる時の彼を手のひらで感じるなんて不思議な気分。
 何度も彼の分身に口づけて、指でなぞった。
「……っああ」
 蜜を掻きだされて、腰を揺らした。
 びくん、と震え続ける体を丸める。
 彼は、一瞬離れて、避妊の準備を施しているようだった。
 荒い息を吐き出し、ぼんやりと待ち受ける。
 腕を引かれて腰の上に乗せられたのはその時だった。
 膨れ上がった熱の塊が、当たり吐息が漏れる。
 微かな水音が、した。
 両脚がしびれて、奥へと繋がる場所もどくどくとわななき始めた。
「好きだよ。綺麗なお前も可愛いお前も残さず全部」
「っ……」
 強く手をつかまれ、引き寄せられる。
 息を整える間もなく、下から突き上げられた。
 私が上にいるのに、彼の思うがままに操られている。
 仰け反る背。
 膨らみを揉まれ、頂を摘まれきゅんと疼いて、
 ナカにいる彼を生々しいほどに感じた。
「は……あ……ああっ……ん」
「もっと啼け。堪える姿もいいが、自分を解放する姿に魅せられる」
 奥を突き、出這入りを繰り返す彼。
 掴まれた手に爪を立てて快感をやり過ごそうとする。
 彼の激しさのせいで、声が自然と漏れてしまう。
 むしろ、達することを堪える方が辛い。
 体を引き寄せられて更に繋がりが深くなる。
 頂を口に含まれてちゅ、と吸われた。
 痺れが、断続的に起こり、波にさらわれそうになる。
 お互いを愛撫していたから、感じすぎてしまっているんだ。
「ねえ……一緒に……っ」
 お互いに両手を絡める。
 腕にしがみつく。彼が起き上がって抱きしめあった。
 背中に腕を回す。汗で滑るけれどお互いにくっつけば関係なかった。
「大好き……愛してる……青」
「ああ、俺の沙矢」
 お互いの髪を弄んで頬を寄せる。唇が掠めた場所が甘い。
 こんな瞬間に微笑むことができる幸せをかみ締める。
 彼は優しい表情とは裏腹に、炎の化身となって私を焼きつくそうとしている。
「んっ……やあああっ……」
 背を反らせた瞬間に膝を抱えられて、最後に深く貫かれて、意識を手放した。


 青がバスルームに向かって、暫く経ってから彼を追いかける。
 一緒に行かないと返事をしておいてこっそりとしのび笑っていた。
 彼に比べたら、些細なことだ。悪戯だってたまにはしてみたいのだ。
 床に散らばった服を拾い集め、体を隠す。
 背中からは丸見えで、意味ないけど正面を隠せればいいんだ。
 なんて格好だと思うけど、どうせ脱ぐんだからと言い聞かせた。
 脱衣スペースで、新しい下着とバスタオルを準備する。
 バスタオルは体に巻きつけ、フェイスタオルを握って扉を開いた。
 彼が鍵をかけないのを知っているから、こんな暴挙に及ぶことができる。
 がらりと開けて、閉める。
 なるべく物音をさせないようにバスルームを移動する。
(っ……もう)
 差し足忍び足をしている時に限って、
 洗面器に足を引っ掛けてしまう自分のドジ加減を呪いたい。
 からんと音が響いた。
運悪くシャワーの流水が緩やかだったので丸聞こえだ。
 含み笑いが聞こえるけれど、気にしない風を装い近づく。
振り返るのを待たず、背伸びをして、彼の目元を覆う。
(怖かったらすぐに外すから)
 きゅ、と結んだら、喉から漏れるような笑い声。
「仕返しでもしたつもりなのか? 」
「えっと……」
 まさにその通りだったので答えに詰まる。
 気まずくなって、後ろに下がった……つもりだったが、
 バスタオルごと抱き寄せられて、彼の腕の中に閉じ込められてしまう。
「お前は、目隠しされて感じなかった? 」
 どきん。心臓がはねる。図星だった。
「う、うん」
 こくんと頭を振ったら、タオルの上からもどかしい刺激を受ける。
 生地に擦れてむずむずとした。身をよじる。
「こんなの意味ないんだよ」
 動ける状態で目隠しされても自分で外せばいいだけだ。
 そういう意味ではなかったのか、彼は私が施した覆いをそのままに、
 こちらに触手を伸ばしてくる。
足まで絡めてきた。
 逃げ場をなくしたのは、私だった。
 愚かな自分を嘆きたい。
 固く結んでいるのでバスタオルは外れていないが、
 彼は素肌で、意識せずとも少しずつ形が変化するのまで分かってしまった。
 頭を抱かれる。
 唇が首筋から鎖骨へと降りていく。ちく、と痛みを残しながら。
 タオルで視界を塞がれたことは彼にとって何の痛手にもならなかったらしい。
(確かに意味がなかったみたい)
 完全に敗北した気分で、もたらされる甘い感覚に身を任せた。
あれ、何で私が怖がっているの?
 視界を塞がれた状態なのは彼なのに、
 的確に私の敏感な場所を探り当てている。
 そのことが、ドキドキを超えてしまっているのだ。




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