オデッサと話をする機会は、今思うとあまりに少なかった。
お互い別の任務で走り回って、会えても、その任務を報告し合い、プライベートな話などほとんど出来なかった。それでも会えれば嬉しかったし、笑顔が見られれば十分だと思っていた。
その日も、明日には別れ別れなことは知っていた。けれどまた会えることを疑ったりはしていなかった。
『不思議な子よね』
『何だ? ――さっきのスィンとかいう?』
ビクトールが騙し討ちのように連れて来た、帝国将軍の息子。解放軍のアジトだという言葉に目を白黒させていた。
オデッサは頷く。『すごく穏やかな空気がある。傍にいると落ち着くというのかしら。ずっと一緒にいたい気持ちになる』
『おいおい……』
『ああいう子が、仲間になってくれたら嬉しいのに』
『帝国将軍の息子だぞ』
子供相手にとは自分でも思ったが、妬いていた。自分でさえずっと一緒にいることが叶わないのに、傍にいて欲しいと言い出されたせいだ。けれどオデッサは気づかないのか、『そうね』と溜息を吐いた。『残念ね』
それが、まさに心底といった様子だったからフリックは少しばかり焦りを感じた。
『まさかオデッサ』
『? どうかした?』
『……惚れたとか言い出さないだろうな』
オデッサはフリックを見て、一度目を瞬かせた。そして次の瞬間、腹を抱えて笑い出した。『何の心配してるのよフリック!』
『いや、でも……』
『もう!』
笑いすぎて涙が出たのか、オデッサは華奢な指で目尻を拭った。それからフリックに悪戯っぽく笑ってみせる。『そうね、人間的には惚れたと言ってもいいのかも知れないわね』
『おいおい……』
フリックが呆れてみせると、オデッサはまたにっこりと笑った。『冗談よ。でも』
でも。そう言ったきり、少しの間オデッサは黙り込んだ。笑みの名残を消して、真剣な顔をフリックに向ける。『でも、あの子ならと少しだけ思ったの。もし――私が……』
オデッサは再度沈黙した。考え込みながら床に視線を彷徨わせる彼女に、フリックは言葉を促すことはしなかった。むしろ続きが聞きたくなくて、オデッサを抱き寄せ話を逸らした。不吉な言葉が続きそうで、怖かった。
――聞いておけばよかっただろうか。
今になってこんな後悔が過る自分に嫌気がさすが、考えずにはいられない。あのとき、彼女には何かしらの予感があったのだろうか。
時折あのやりとりを思い返してしまう。そうしてその度に、『不思議な子よね』と微笑んだ彼女を思い出した。
あの子なら大丈夫だと、彼女は言うのだろう。そんなことを思った。
2011.06.11
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