裁判所の入り口で、月は今日の開廷一覧を確認した。

あらかじめ照に聞いていた裁判内容と照らし合わせ、小さく頷いて法廷へ向かう。
弁護人・検察官ともにすでに着席していた。
照は資料をそろえたり時間を確かめたりしながら
さりげなく法廷内に視線を走らせている。
傍聴席の隅に月の姿を認めたのだろう、照の口元がかすかにほころぶ。

裁判官が入廷し開廷が宣言され、ありふれた小さな訴訟を丁寧に処理していく照を
月は好ましそうに眺めていた。

京都の照の部屋を訪れるのはこれで3回目になる。
神を自宅に迎え多少舞い上がる照と中性的な色香を纏う月とで、
生活感のない空間もこの時ばかりは幾分華やいだ雰囲気に包まれる。

2人で食事をし、続けて今後の打ち合わせをし、
双方の認識に食い違いがないかの確認をすませ、
まだ宵の口ではあったがいくらかのアルコールを摂った。

酒にあまり強くない月はソファに深く腰かけ
いつものように出発予定時刻を照に告げてから軽く目を閉じた。
常に月の居心地に気を配り、手際よく全てを手配してくれる照のおかげで
ここはオアシスに等しい。

ネクタイを思い切り緩めて全身の力を抜く。
緊張の連続の日々にほっと安らぐ場所が出来たことを
月は素直に喜んでいる。

日頃の疲れから、うとうととまどろんでいた月が
ただならぬ気配を感じ顔をあげると、
なにか切羽詰った様子で月を凝視している照と目が合った。
「何?」
怪訝な表情で覗き込むと照は何かつぶやきながら月に両手を差し伸べてくる。

まばたきもせずに目を見開きまじまじと見つめる照の瞳にひるんで
月は逃げるようにソファから腰を浮かせた。
照るの両手が肩の辺りをぐっと掴む。
「ちょっと」
「か…神…神。神!」
(え?)

押し倒す、というよりは格闘技に近い勢いでソファに沈められ
月の後頭部は肘掛にしたたかに打ち付けられた。
ぐわんと衝撃が走り、一瞬自分の体の向きがおぼつかなくなり、
次いで首筋と頭に痛みがどっと押し寄せる。

肺の中の空気がすべて搾り出されるほどの力で
覆いかぶさる照の両腕が月を締め付け、もがく事すらままならない。
「神〜!!!!」
加えて厚い胸板とソファに挟まれ、ほとんど押しつぶされた格好になった。
背もたれと座面の角に追い込まれたまま顔中に荒々しい口付けを浴び、
月は抵抗らしい抵抗も出来ずに気が遠くなり始める。

強引に肌蹴られたワイシャツに続きアンダーシャツが捲り上げられ、
素肌を這う手が月の中でこの5年間息を潜めていた猥らな性を呼び覚ます。

苦しげな呼吸に溶かし込まれた艶やかさを敏感に感じ取った照の本能が
照にはそうと告げずに、その欲望と体をより強く結びつけ、
一層月を欲するようけしかける。

露になった薄い体にくまなく頬ずりしながら、
照は月のベルトに手を伸ばし、緩め、ズボンを脱がせていく。
のしかかる重さと、肌越しに伝わる熱と、切羽詰ったような荒々しい呼吸音とを
どこか人ごとのように感じながら、
膝を抱えられた月は半ば虚脱状態で組み敷かれていた。

太腿ごと背中を抱きかかえられ、限界まで開かれた股関節が軋む。
鈍い痛みが夢うつつの月をわずかに覚醒させ、蘇った感覚が月の脳に受け渡された。
何か熱いものが体の中心に押し当てられている。
照の両腕と腰に徐々に力が込められていく。
あ、いきなりは無理、怪我する…と身構える間もなく貫かれた。
「いた…ぁ!」

月が初めて発した痛みを訴える声は、ただちに照の理性を掴んで現実に引き戻した。

すべてが停止した一瞬の後、
「か…み…!?  あ…あああ!」
照が悲痛に叫ぶ。
穿たれた杭が勢いよく引き抜かれて、月はひっと呼吸を引き攣らせもう一度顔を歪めた。
「あ…神…私は…いったい何を…あああああ!」
両手で頭を抱え照はずりずりと後退る。
つきつけられた目の前の光景を、自分のしでかした行いを、
まだ100%は飲み込めないままでいるのか、
照は催眠術を解かれたばかりの人のように
戸惑いと怯えのまじった表情のまま、床にしりもちをついた。

ぐったりとソファに伸びていた月が薄目を開けると
すぐそこで照が土下座をしている。

「申し訳ありません!申し訳ありません!申し訳ありません!」
ほとんど悲鳴のような声で謝罪の言葉をくりかえし、
しばらく額を床に擦り付け小刻みに震えていたが、いきなり立ち上がり、
膝までずり下げたズボンに足を取られよろめきながら書架の前に倒れこむ。

ガンガンと脈打って痛む頭を押さえながら月が半身を起こして照に視線をやると、
まるで気がふれたように次から次へと資料のファイルをバサバサと投げ出している。
「照…?」
月の呼びかけにも反応せず、今度は床の上に散らばったファイルを
千切れそうな勢いでめくり始めたかと思うと、
すぐに資料の間を探るような手つきに変わる。

この狂人じみた所作を月は微動だにせず見入っていたが、
照が「それ」を探し当てた瞬間、その意図を悟り血の気が引いた。

「照、こらっ!!」
つい先ほどまで辛い体勢を強いられていた体はいうことを聞かず、
月は無様にソファから転がり落ちる。
「馬鹿、やめろ!」
這うようにして照の元へ辿り着いた時には、既に1文字目が記されていた。
必死に照が握っている万年筆を掴んで奪い取り、壁に投げつける。
続けてノートもむしり取った。

人間写植とでも呼びたくなるほど整然と並ぶ幾百の氏名の後に、
4行分ほどの大きさで斜めに「魅」とかろうじて判別できる字がのたくっている。

月は今にも泣き出しそうにうなだれている照の頭をノートでびしゃっとひっぱたいた。
「照!!」
反射的に逞しい体躯が縮み上がる。
「何のマネだ」

月の顔どころか姿さえもまともに見ることが出来ず、
真下を向いたまま照は動けない。
「返事はっ」
長い逡巡の後、震える上ずった声が嗚咽を伴いながらやっと搾り出された。

「か…神が… あまりにも美しく…いとおしく…
どうしても…押さえられず…気がつけばこのような蛮行に及ん…」
「ちーがーうー!!」
月は再び、丸めたノートでぱこんぱこんと照を打った。
「こっちだ!」
広げたノートの「魅」の字をぐいと照の目の前に差し出し、なおも詰問する。
「泣くな!やるべきことを全部放り出して、勝手に死ぬ気か!」

やっと顔をあげた照の頬が瞬時に真っ赤に染まり、またすぐにうつむいた様子から
月は下半身に何もつけていないことを思い出し、いかにもバツが悪そうに
ソファの脇に蟠っている下着とズボンをもぞもぞと装着した。

「私は…削除されるべき…人間です」
泣くなと言われて、泣くまいとして、それでもこみ上げてくる嗚咽を
なんとか押さえ込みながら照は懺悔を始める。

「神を…神を…強姦…しました いや強姦罪は男性に対しては適用されないので…
暴行罪…および傷害罪…」
「よし、少し落ち着いてきたな。傷害罪?傷害罪は加害者が被害者を傷つける意思目的で
暴力を振るった場合に成立するはずだが魅.上検事。お前は僕を傷つけたくて抱いたのか」
「とんでもありません!」
照はぶんぶんと激しく頭を振る。
「それに」
シャツを羽織りなおし、ねじれた袖をしかるべき方向に整えていく。
「僕は暴行された覚えはない。そんなことより」
「…」
「裁きを託すにふさわしい人間としてお前を選んだのはこの僕だ。
 お前は僕の判断が間違っていたというのか」
「…」
「あの時僕は追い込まれていた。賭けだった」
「…」
「信じた。お前と自分の勘と、運を。正解だったと思っている。今でも」
「…」
「なのにお前は…あっさり義務を放棄しようとした…
 お前にとって新世界は、僕はその程度か!」

月の剣幕にいつのまにか姿勢を正し神妙な面持ちで説教を聴いている。
嗚咽も体の震えもおさまったようだ。

「お前以上の人間を、またあらたに探さなきゃならない僕の身にもなってみろ!」
言い終わるのと同時に投げつけられたノートは
バシッと音を立てて照の胸にあたり、照は落とさないようあわててキャッチする。
「よし!それでいい!」
睨みつけたまま手探りでシャツのボタンを留めようとして、気付いた。
「ボタン」
「はい?」
「シャツのボタンがない。そのへんに飛んだ。2つ」
「す…すみませんっ!探しますっ!」

四つんばいになって床を調べる照のむき出しの腰を真後ろから眺める羽目になり、
今度は平手でぴしゃっとひっぱたく。
「いいから、まずしまえ。しまってから探せ!」

月がひとつ、照がひとつ見つけた小さな貝ボタンを、
私がお付けしますとの申し出を無視して針と糸を要求し、
物持ちのいい照が差し出した「5年C組 魅.上照」の名札シールの残る
裁縫箱にうっかり和みながら器用に付け直す。
跪いた照は大人しく次の命令を待っている。

「お前がまた変な気を起こさないように、今日は泊まっていく。
 ノートは朝まで預かる。ベッドは僕が使う。
 文句ないな?わかったら寝室までつれていけ」
「はいっ」
照は深々とお辞儀をして月の上着と荷物を持つと、
モデルルームの案内係のように進行方向に手を差し出し
月を寝室まで導いた。

クローゼットからスウェットの上下を取り出しベッドに広げてくれた照に
おやすみまた明日と声をかけると、心底ほっとした表情を見せ、
また深々と頭を下げておやすみなさいといい、
リビングに引き上げていった。


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