偽典・女神転生 東京黙示録

第一話 「挫折」

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由宇香のことが気になって、彼女の部屋に訪ねてみた。
「あ、葛城くん!
ねぇ、葛城くんもあの後、会議室に呼び出されたの?
私、デビルバスター詰め所に呼び出されたでしょう?」
由宇香は、興奮した様子で話している。
「そこで何があったと思う?」
「さぁ?」
僕のいささか乗り気でない返事に、由宇香の瞳は僅かに不満げな色を映した。
だが、それもまた僅かの間の事で、再び由宇香は話し始めた。
「それがね、デビルバスター詰め所まで行ったら、悪魔がいたのよ!
試験中に出た、マイナーデヴィルみたいなのが三体ぐらい・・・・・」
「ふ〜ん」
「葛城くん・・・・・驚かないの?」
「うん。」
「何故・・・?
葛城くんって、物事に動じないタイプなの?」
「僕も似たような目に・・・・・・」
「そうなの。葛城くんも、似たような事をやったのね。
葛城くんは、どんな事をやったの?」
「教えてあげないよ。」
「もう!葛城くん、いじわるね。
教えてくれてもいいじゃない?」
「じゃあ、教えたげる。」
僕は、自分の試験がどのようなものであったかを、由宇香に、余すところ無く語った。
「まあ・・・・そうだったの・・・・
葛城くんの方が難しそうね。
緊急時の行動を見る為だって、言われたけど・・・・・
人が悪いわよね。」
「そうかなぁ」
「いきなりやらなかったら、緊急時の行動を見る意味が無いって事?
・・・・・・そうね・・・・・
それは、そうなんだけど・・・・・・・
でも、やっぱり、あんな事しなくても・・・・って思ってしまうわ。
あっ!通信だわ!
結果かしら・・・・・葛城くんちょっと待っててね!」
そう言って由宇香は、コンピューターの前へ駆けて行った。
「試験結果じゃなかったわ・・・・・・・。
結果の発表って遅いのね。
あっ、葛城くんも、結果はまだなんでしょう?
ごめんなさい。話に付き合わせてしまって・・・・・・・。
それじゃあ。お互い合格できてるといいわね。」
そうだ、西野さんにも無事試験が終わったと報告しておかないと
「史人か。さっきの戦闘はなかなかの戦いっぷりだったぞ。」
「うちの人から話を聞いたわ。
ほんとに、あの史人君が、こんなに逞しくなっちゃって・・・・・
おばさんも、歳をとるわけよねぇ。」
「葛城お兄ちゃん、かっこいいんだー!」
「そろそろ、自室に管理部から通知が来る頃じゃないか?」

部屋に戻る途中、山瀬が待ち構えていた。
「お、葛城じゃん。試験どうだったん?
何?まだ結果待ち?じゃあ、結果でたら教えろよな。
合格だったら、一応祝ってやる。
不合格だったら、笑ってやるよ。
・・・・・・冗談だよ。俺がそんなに酷いヤツだと思うか?
まっ、結果が出たら教えてくれ。」

僕は自室に戻り、コンピューターを睨み付け、
試験結果の通知が送られてくるのを待った。

まだ通知が来ない・・・・
そこに、由宇香が、部屋の中に飛び込んで来た。
顔は上気し、息が切れている。走って来た様だ。
「葛城くんッ!私・・・・私、合格したわ!!
葛城くんは?!」
通信が入った・・・おそらく、試験結果の通知だろう。
震える手でキーボードを打つ。
結果が画面に写し出された。
『受験番号0916 葛城史人殿。
厳密な審査の結果、今回のデビルバスター入隊試験について、
残念な事に貴殿の不合格が決定した。
追試の申請を行う場合は、その旨折り返し
送信願いたい。
尚、試験中の行動を判定した結果、
貴殿は魔法戦に優れていると判定された。
この技能に磨きをかけ、再試験に臨んでほしい。
日頃の鍛練は怠らぬように。
また、追試の日取りについては、おってこちらから連絡する。
以上。』
僕は、コンピューターに向かい、追試希望の旨を伝えるメールを、黙々と打った。
その側で、由宇香が所在なき気に立っている。
「あの・・・気を落とさないで、葛城くん。
今回は、たまたま運が無かったのよ。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「こんな時に、合格した私が何を言ったって嫌味よね。
でも、本当に気を落とさないでね。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・それじゃあ、私、これで失礼するわ。
あの・・・・また・・・・・・また来るわね!」

ボーッとしていた。
半分予想はしていたが、自分が不合格であることにショックを受けていた。
西野さんに言わないと・・・・・。
部屋を出て、西野さんの家に向かった。
「残念だったな史人。
お前はまだ若いのだから、幾らでもチャンスはある。
一度の失敗で、そうくよくよしてはいかんぞ。」
「葛城お兄ちゃん・・・・・
試験に受かんなくったって、僕はお兄ちゃんのこと、うんと尊敬してるよ!!
嘘じゃないからね!!」
慰められば慰められるほど、自分が惨めになった。
もう、部屋に戻ろう。
その帰り道、
「葛城くぅーん。」
よく聞きなれた声が後ろから話し掛けてきた。
山瀬だ。
「試験、落っこっちゃったんだって?
残念だったねぇ。ま、俺もいっぱつで入隊したわけじゃないし、
そんなに気落ちすることはねぇよ。」
僕は山瀬の言うことを無視した。
「つまんねぇ。せっかく慰めに来たのにな。」
とか言いながら、勝手に帰っていった。

部屋に戻ると、
メールが何通か入っている。
開くと

早坂:そんなに気を落とすなよ
まだチャンスがあるんだから、そんなに気を落とすなよ。
それに、俺達・・・・第二部隊全員が、あのヴァーチャルダンジョンでの戦いは、評価している。
あれを見て、俺はお前が必ずデビルバスターになる。
そう思ったよ。
だから、な。きっと次は大丈夫だよ。
何か、うまく表現できないけど、がんばれよ。
                         早坂

西野義雄:まだ機会はあるぞ
史人。試験のことは本当に残念だったな。
だが、まだチャンスはある。
またの機会にかければいいんだ。
デビルバスター試験は、難しい事でも知られている。
一回で合格する事の方が、珍しいのだよ。
史人、これで挫けてはいかんぞ。
さっきも書いた通り、まだチャンスはあるのだから。
                        西野義雄

情けない。
自分が情けない。
受かるつもりでいた。
でも実際は不合格だった。
慰めの言葉は僕にとって非難の言葉のように感じた。

次のメールを開いた。

橘由宇香:気を落とさないでね・・・・
あんなに頑張った、葛城くんが合格出来なくて、
私なんかが合格してしまうなんて、とても信じられません。
一緒に合格したかったな・・・・神様は意地悪です。
でも、本当に気を落とさないで下さいね。
皆が言うように、葛城くんなら絶対に合格できると思うし、
これが最後じゃないから・・・・。
それだけ・・・・かな。
元気出してね、葛城君。
                         由宇香

返事も書かずに、ベッドに転がった。

万全の態勢で受けたはずの、入隊試験・・・・・・・
それに落ちたショックで、僕は中々寝つけずにいた。
寝苦しさに、幾度も寝返りをうちながら、頭の中には、様々な思いが過ぎた。
亡き父、葛城萩人は、かつて西野が一介のDB隊員であった時、その部隊の隊長を勤めた人物であった。
かつてのシェルターは、今程安全性は高くなく、その当時のデビルバスター達は、常に危険にさらされていた。
そんな中、父は、部下達を逃走させる為、自らの命を犠牲にし、この世を去った。
その時、現場に到着した応援部隊が発見できたのは、血に濡れた拳銃と、その側に残された制服の上着、DBブルゾンだけだった。
現在、常日頃着ているDBブルゾンは、その時のものだ。
幼い頃、悪魔によって母親を奪われた僕は、再び悪魔によって、
父親をも奪われた。
当時、僕はまだ幼く、僅か10歳だった。
僕の心をある想いが占めた。
僕は最低な人間だ・・・・
心の中に、父を失った当時の悲しみが蘇る。
そして、それと同時に、西野の笑顔も思い出された。
ふさぎ込み、自閉的になった少年の頃の僕を、優しさで救ってくれたのは、
西野義雄だったのだ。
かつての家族、そして現在、家族のように面倒を見てくれる西野たちを思ううち、
なぜか由宇香の事が思考を捕らえ、離れなくなった。
橘由宇香・・・・・・。
エリート上官を父に持ちながら、ひとり一般居住区に住み、
そして、デビルバスターになるという夢を掴め取った少女。
あの子は今、どんな夢を見ているのだろうか・・・・・


朝、目覚めた葛城の前に、由宇香が現われた。

これは・・・・夢?

そう思って頬をつねった。
痛い。
「うふふ・・・・葛城くん。
夢なんかじゃないわよ。」
「何でここに?」
「うん・・・・ただ、何となく・・・・・・
何となく、葛城くんの事が気になって・・・・・」
「仕事は大丈夫?」
「ええ。少し早く部屋を出たから・・・・・・
まだ少し余裕があるわ。
でも元気そうで良かった。
ねぇ、今度一緒にヴァーチャルトレーラーでトレーニングしない?
一人でやるより、二人の方が楽しいし・・・・・
あ!いけない!もうこんな時間!
ごめんね葛城くん、慌ただしくって・・・・・・
それじゃあ、またね!」
由宇香は、バタバタと部屋を出て行った。

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