『殿×松子(1)』byうたかたさん


籠の中の小鳥の様に、ひっそりと囚われていたかった。
己が囚われている理由に目を瞑り、何も考えず、感じず、ただひっそりと・・・。
私は母様の代わりなのだから・・ただそこに『在る』だけでいい・・・。

そう・・・・人形のように・・・・。

「・・・松子さん 松子さん しょ・う・こさ〜ん」
甘えた様な声で私に呼びかけると、彼はいつものように窓ぎわに陣取り、
無遠慮にどっかりと腰をおろした。
彼の名は幸田正吾。私の行儀作法の先生の息子でもある。
ふとしたきっかけで彼と出会ってから、彼は度々私の部屋を訪ねるようになっていた。
いつも突然現れて他愛もない話をして帰っていく。
この間は『どんぐりが可愛かったから松子さんに見せようと思って』と言ってどんぐりと
真っ赤に色づいた紅葉を私に手渡したかと思うと、『じゃあね』と言いながらぽんと
部屋から飛び出していった。
・・・私などに構って、一体何が楽しいのだろう。
彼ならば学校に行けばもっと気の合うような女友達だっているはずなのに・・・。

「年がら年中部屋ん中じゃ〜ん。 たまには外に出ようよぅ」
人懐っこい子犬の様な笑みを浮かべながら無邪気に誘う。
「・・・外に出る理由がないわ」
外に出るなんてそんな事・・・父様が許すはずがない。
「いや・・なんつーか こう・・・息つまんない?」
・・人の気も知らないで・・・。
「不自由ないわね。 それに・・私が外に出るのを・・・父様も嫌がるし」
そう答えると、彼はしばらく憮然とした表情を浮かべながら私を見つめていた。
これで少しは静かになるかしら? そう思った矢先、彼は私の痛い所をついた。

「学校には車で送迎付き、外出にも徒歩厳禁、必ず守人を従えて決して一人で出歩かない。
この家を出て行ったとかいうあなたのお母さんによく似たあなたを溺愛しているらしい父様の命令ってやつ?」

・・・ぱあぁぁーん・・・・・ 平手一閃。
思わず手が出てしまった。 ・・・まあ後悔はないのだけれど。

「あなたいつか刺されるわよ」
くっと指で彼の顎を持ち上げながら、キッと彼を睨み付ける。
「誰に・・・・・」
頬に私の手形をくっきりとつけたまま、彼は恐る恐る訊ねた。

― そんなの 決まっているじゃない ― 

「わ・た・し・に・よ」
にっこりと極上の笑みを浮かべながら、一言そう言い放った。

「俺の飼ってたヒヨコはかまいすぎて死んじゃったよ」ふと彼がそんな事を呟いた。
ヒヨコと私の境遇を重ねているのかしら?
・・・馬鹿にして
「私はペットじゃないわ」
私は訳も解らず飼われている愛玩物なんかじゃない。自分の意志でここにいるのよ。
だからこれ以上 私の心を掻き乱さないで・・・!
「・・どーかな・・・・・・」ふっと考え込む様な顔をした後、にっと不敵に笑うと

「一生 飼われているつもり?」

かぁっと頭に血が上る。そう そんなにいうなら出てやろうじゃないの。
「わかったわよ!どこへでもつれていけばいいでしょう!」
「そうこなくっちゃ」にっこりと満足げに笑うと「じゃ 行こうか」とすっと手を差し伸べる。
うれしそうな彼の先には窓の外の真っ暗な風景だけがあった。
「行こうかって・・・・ここ2階よ」
「だって松子さん 玄関から出られないでしょ?」
それはそうだけど・・・。だからといって窓から降りるなんて・・・。
「大丈夫だって。すぐそこに立派な木もあるし、俺がついてるから。・・・・ほら、行こう」
そういうと彼は私の手を取ってぐいっと引っ張った。
そんな彼の強引さに呆れながらも、まだ幼さの残る彼の手は、何故だかとても温かく感じ
られた・・・。

― かたかた かたかた ―  窓辺から物音が聞こえる。
ふと 音のほうに視線を向けると、どうやら風で窓がゆれているだけのようだった。
「今日は来ない・・・か」
一人呟いた言葉は、誰もいない部屋にゆるりととけていった。
・・・来ないのならそのほうがいい。
煩い人。この家の秩序を、静謐を乱す人。いつも私の心を掻き乱す人。
あの透明な瞳が 私の見ないふりをしていた弱さを全て暴いてしまう・・・。

そう 来ないのならそのほうがいい・・・。

それなのに・・・どうして 彼を想うだけでこんなにも胸が苦しいのだろう。
心が・・・痛むのだろう。
気がつけばいつも探している。
彼の姿を 彼の声を 彼の吐息を ・・・彼の温もりを。

・・・騒々 騒々と水面が揺れる。
今までは煩わしかったそれが いつの間にか心地よいものに変わっていく。

― さわさわ さわさわ ―

・・・心地よい風が私の心を満たしていく。

本当はずっと待っていたのではないだろうか?
確かにここにいれば何も傷つく事はない。
・・・穏やかな時間。眠るような日々。永遠に続く優しい日常の夢。
だが それと引き換えにあるのは、

・・・永遠の孤独・・・。

そう 私は父様の腕の中の籠に囚われながらもずっと待っていたのだ。
・・・もう・・ずっと前から。

― 誰かの代りではなく 私自身を求めてくれる誰かを ―
もう・・・ずっと・・・ずっと・・・・。

― コンコン ― ノックの音が部屋に響く。
不意に現実へと引き戻された私は、とりあえずノックの主に対して返事を送った。
かちゃりとドアを開く音がして、父様の秘書が静かに部屋へ入ってくる。
「失礼致します。 松子お嬢様 旦那様がお呼びです」
「分かりました。すぐに行くと伝えて下さい」
畏まりましたと告げると 彼女は入ってきた時と同様に、静かに部屋を後にした。
『一体何の用かしら・・・?』
特に父様に呼ばれるような事などないと思うのだけれど・・・。そう思いつつ私は父様の
書斎へと向かった。

「失礼します」そう云って部屋を開けるとそこは懐かしい匂いがした。
・・部屋にある無数の本とこの家との混じり合った匂い・・・。
「松子か・・・。 そこに座りなさい」そう言うと父様は来客用のソファーを指した。
父様の仕事場でもあり、プライベートルームである書斎には、ここ最近滅多に入る事は少なくなっていた。
子供の頃は、仕事をする父様と一緒に絵本を読んで自分も仕事をしている気になったものだけれど・・・。
そんな懐かしい記憶を思い起こしていた所為かも知れない。
父様がどこか寂しげな・・・何ともいえない表情を浮かべているのに私は気づかなかった。
「・・松子・・・・・・」
やがてしばらくの沈黙の後に、父様は静かにこう言った。


― ・・・・お前と御城の御当主の縁談が決まった・・・・ ―


・・・それから後の事はよく覚えていない。
当主は実直で真面目な人柄であるとか、仕事の面でも一目置かれているとか、
御城の家へ嫁ぐのはとても名誉な事であるとか・・・。
・・・そんな事を言っていた様な気がする。

― お前の幸せの為にも、将来の為にも一番いいのだ ―

部屋に戻って一人、父様の言葉を反芻する。
将来・・・幸せ・・・・・・・? とたんに笑いが込み上げる。
幸せとは一体何なのかと。決められた未来に一体何があるのかと。
閉じられた檻の中で、一人狂った様に自嘲的に笑う。

そして  静かに  少しだけ  泣いた。

― サァアアア・・・・ ― 窓の外から雨の音が聞こえる。
ここ最近ずっと雨の日ばかりが続いていた。
「・・・嫌な天気」思わず一人ごちて、さっとカーテンを閉める。
そうすると少しだけ雨の音が遠くなったような気がした。

私が御城の家に嫁ぐことが決まってから、すでに数日の時が流れていた。
当主とは一度も顔をあわせる事もないまま、結婚に向けての準備が静かに滞りなく進んでいく。
私にはまだ他人事のように感じられるのに・・・。

― ガタン ― 窓の方から物音が聞こえる。
まさかと思いながら急いでカーテンを開ける。
この雨の中傘も差さずに歩いてきたんだろう。
・・・そこには全身ずぶ濡れで、虚ろな瞳をした彼の姿があった。
尋常ではない彼の様子に、私は全てを悟った。
彼がここにきた理由も そして・・・彼の瞳が力なく私を見つめている理由も・・・。

タオルを差し出した手を彼がぐっと握り締める。
わずかな沈黙の後、ぽつりと彼が尋ねた。

「・・御城の・・・当主と結婚が決まったって・・・本当・・・・・・?」

― もう・・・これ以上隠す事など・・できない ―
「ええ・・・」

彼の瞳からすうっと力が抜けていく。
そして彼の顔に悲しみの・・・絶望の色が波紋のように広がっていく・・・・・・。

― バンッ! ― 
「・・どうして・・・!」押し殺した声が鼓膜に響く。
壁に叩き付けた手が、肩が小刻みに震えている。
「あんた知ってたじゃないか。俺の・・・俺の気持ちなんてずっと・・・・っ!」
そう言う彼の頬からポタポタと水滴が流れ落ちる。
それは雨の所為なのかもしれない。
でもその時の私には、彼が・・・泣いている様に見えた。

「いやだ・・・」
ぎゅうっと彼が私の体を抱きしめる。 強く・・・強く・・・。
「駄目だ そんなの・・・!」
・・・抱きしめた彼の声がかすかに震えている。

「正吾さん 痛いわ・・・離して」
気持ちを悟られないように努めて冷静に言ったつもりだが、どこか声が上擦っている。

― どきん どきん どきんっ! ― 
心臓が壊れそうなほど早鐘を打っているのがわかる。

・・・抱きしめられた体が熱くなってゆく。

「・・いやだ・・・」
そう言うと彼はぎゅっと抱きしめる力を強くした。
雨の所為で体は冷えているはずなのに、耳元にかかる吐息だけが熱い。
「離して・・・」
掠れた声でやっとそれだけを言う。

口を開くだけで、鼓動が・・・熱が全て・・・彼に伝わってしまうような気がした。

「今離したら、あんた俺の目の前から消えるだろ・・・・それだけは・・・いやだ」
しぼりだすように言う彼の言葉が胸に突き刺さる。

― 消えたりしない ― そう言えたら・・・どんなに幸せだろう。
でも今の私にはそんな事を言う資格などない。
そして彼も・・・そんなうわべだけの慰めなど求めてはいないのだ。

「・・・ねぇ 松子さん」しばらくそのままでいると不意に彼が口を開いた。
「一緒に・・・逃げようか? どっか遠くへさ」
私はゆっくり首を横に振った。
「そんなの無理よ。それに・・いつかこうなる気がして・・・んんっ!」
言い終わる前に彼が強引に唇をふさいだ。
一瞬何が起こったのか分からなくて、頭の中が真っ白になる。
その隙を突いて、また何度も何度も唇を重ねる。
「ん・・・ふぅっ・・ん・・・んん」
はっと我に返り、慌てて彼を引き離そうと腕に力を込めるが、反対に両手をつかまれて
がっちりと動きを封じられてしまった。
彼に握られた手首にぐっと力が込められる。

「時々・・・あなたのそういう所がすごく厭になるよ」

吐き捨てる様にそう言うと、また強引に唇を重ね、舌を割り入れる。
初めての感触に唇から背筋にかけてぞくっと電流のように刺激が走る。
「ん・・んんっ!・・・はぁ・・・あっ・・・んっ・・んんっ・・・!」
唇を・・舌を味わい尽くすように動くそれは頭の奥を痺れさせるには充分だった。
いつしか私は抵抗する事をやめ、彼に身を任せていった・・・。

そして・・・力がすっかり抜け切った所で、やっと彼は私を解放した。
お互いに息が荒い。呼吸の仕方を忘れたように互いに空気を求め合う。
しばらくして呼吸が落ち着いた後も、さっきのキスの余韻がまだ唇に残っていた。
・・・頭が眩々する。
そのままぼぅっとしていると、そんな私の様子をいつの間にか彼がじっと見つめていた。
「・・駄目だよ、松子さん・・・俺の前でそんな・・無防備な顔しちゃ・・・」
そうぽつりといいながら、彼はどこか苦しそうに目を伏せる。
「・・・抑えられなくなるよ・・・」
「どうして・・・?」頭がぼうっとしてうまく働かないけれど、それだけ訊ねた。
まさか問い返されるとは思わなかったのだろう。
少し困ったような顔を浮かべながら、やがて意を決したように私の方へ向き直った。
「俺は 松子さんの事が好きだよ・・・。誰よりも一番大事にしたいと思う。だけど・・・」

― 時々・・・すごくあなたの事をめちゃくちゃにしたくなる・・・―

「だからもし・・・俺の事が嫌なら断ってくれても構わない。 俺は・・・」
・・・やがてしばらくの沈黙の後、彼がようやく口を開いた。

「俺は・・・あなたを 俺だけのものにしたい・・・・・・」

―― ・・あなたを・・・抱きたい・・・・・ ――

どきん!
心臓が一際高く鳴った。

― どくん どくん どくんっ! ―
鼓動がどんどん強まっていくのが分かる。

・・・いつからこんな風になってしまったのだろう。
彼の言葉一つで私の内の何もかもが彼という存在に侵食されていく。
でもこの胸の奥からじわじわと湧き上がってくるこの感覚は・・・決して不快なものでは
なかった。

「いや・・・?」
じっと私の事を見つめながら彼が訊ねる。
でもそう訊ねながらも、彼のその瞳は全てを見透かしている様な気がしていた。
本当は貴方だってわかっているのじゃないの・・・?

― 私が・・・貴方の事を拒めるはずなどない事を・・・ ―

やがてしばらくの沈黙が続いた後、ぽつりと彼が呟いた。
「・・・やっぱり駄目・・か」
そしてそのままくるりと背を向け、窓の方へと歩き出していく。
とたんに一人置いていかれた様な気持ちになって、必死で彼の背中を追いかける。

待って・・・独りにしないで・・・今だけ、一時でもいい・・。
私の傍にいて・・・!

今までこんなに強く何かを望んだ事なんてなかった。
こんな自分がいるなんて思いもしなかった。
・・・ただ何も考えず、気がつくと私は彼の胸の中に飛び込んでいた。

「・・松子さん 俺が何をするのか解ってて、どうして俺の事をとめるの・・・?」
ぎゅっとしがみつく私を、まるで小さな子供をあやすかの様にそっと抱きしめる。
「わかっているくせに・・・・!」
本当はお互いに知っていた。初めて出会った頃からずっと・・・。

― もうこの想いがとめられない事を ―

「そうだね でも一度だけ・・・あなたの方から追いかけてきて欲しかったんだ」
どこか悪戯っぽい笑みを浮かべながら、彼はぎゅっと私の体を抱きしめた。

「松子さん 抱いて・・・いい?」少し掠れた声で彼がもう一度訊ねる。
抱き寄せられた耳元から、彼の心臓の音が聞こえてくる。
彼も私と同じなのだと思うと、少しだけふっと気持ちが楽になった。

― そう 答えはもう・・・決まっている ―

私は返事をするかわりに小さく縦にこくんと頷いた。

・・・そしてそれが合図だった。

私達は弾かれた様に抱きしめ合い、唇を求めあった。
唇を舌でなぞり、そのまま味わい尽くすように舌を割りいれ絡ませる。
微かに雨音の聞こえる部屋の中で、私達の吐息と舌を絡ませる水音だけが静かに響いていた。
「んっ・・・・んんっ・・・はぁっ・・・・!・・・んぅっ・・」
背筋から全身にぞくっと甘い痺れが湧いてきて、体の力が抜けていくのがわかる。
そしてそのままキスを交わしながら、私達は縺れる様にベッドへと倒れこんでいった。

いつの間にか私を強く抱きしめていた腕が解け、指がそっと頬に触れる。
そしてするりと首筋の方に指を滑らせると、髪を柔らかく梳きながら、
額や瞼、頬に優しくキスの雨を降らせていった。

視線が・・・吐息が・・・熱が・・絡まりあって溶けていく。

彼の手と唇が触れるたびに、私は体が火照っていくのを感じていた・・・。

やがて指がゆっくりと首筋の方へとつたい始め、少しずつ下の方へと下りてくる。
ただ軽く触れられているだけなのに・・・なんて・・・・・熱い・・・。
そして胸元まで指を滑らせると、そっとボタンを外しながらゆっくりとシャツをはだけていった。
彼が息を飲む音が聞こえる。
私の肌はすっかり冷たい外気の中に晒され、火照った体に白いレースがくっきりと浮かび上がっていた。
恥ずかしくて彼の顔をまともに見ることが出来ない。
真っ赤になりながら顔を背けていると、彼が耳元に顔を寄せ、ぽつりと囁いた。
「松子さん・・・・・すごく・・・綺麗だ・・・」
耳元で囁かれ、ますます顔が火照っていくのがわかる。
「・・・可愛いよ」
髪をなでながら、そっと瞼に口付ける。
それだけで不思議と体の強張りが溶けていくような気がした。

「松子さん・・・」
愛しげに名前を呼びながら、ゆっくりと耳朶を甘噛みし首筋に舌を這わせていく。
「はぁっ・・・・正・・吾さ・・・んぁ・・っ・・ぞくぞく・・する・・」
くすぐったいような・・・なんだか切ないような不思議な感覚に思わず体が震える。
そしてさらに、項から首筋、鎖骨へと唇を滑らせながら、強く吸い付いてくる。
「っ・・・! そんな・・に・・・強く・・・しないでぇ・・・っ・・・・!」
「・・・駄目」
指を絡ませながら両手を押さえると、はだけた胸元へと唇を滑らせ、自分の跡をつけてい
く。
想いの全てをぶつける様に・・・確かめるように・・・彼の唇が体をなぞっていく。
・・・赤い刻印が体中に刻まれていく。
彼に与えられた甘い鎖になら・・・繋がれても・・・・かまわない・・・・・。

触れられた所から彼の所有物になっていく感覚が、私の胸の奥をじんと痺れさせていった・・・。

「・・正吾さん・・・キス・・して・・・」
堪えきれなくなって思わず潤んだ瞳で甘えるようにキスをねだると、彼は優しく微笑みながら
そっと唇を重ねた。
「んむっ・・・ふっ・・・・・んんっ」
さっきの激しい感情をぶつけ合うキスとは違う優しいキス。
彼の舌先が滑り込み、優しく舌を絡ませあい、柔らかな舌を甘噛みする。
「んん・・・っ・・・・」
唇の隙間からどちらともなく吐息が漏れる。
お互いの舌の動きが波紋のように体中を駆け巡り、思考回路を溶かしていく。

このまま・・・・貴方と二人・・・溶けてしまえばいいのに・・・・・・。

「・・っ・・・・はぁ・・・」
時折洩れる吐息も 声も 体温も・・・・全て愛しい・・・。
私達は見つめあいながら、もう一度深く・・・唇を重ねた。

長いキスを交わし、唇を離すとつぅっと一筋の糸が引いた。
甘く長いキスの感覚に陶然となっていると、彼は絡めあわせている指を解き、
ゆっくり胸元へと滑らせていった。
そしてブラの上から壊れ物を扱うかの様に、そっと掌全体で私の双丘を包みこむ。
きっと触れた掌から私の鼓動が全て伝わっているのだろう・・・。
そう思うと思わず唇から熱い吐息が洩れた。
やがて柔らかな感触を確かめるように、彼は私の双丘をゆっくりと揉みしだいていく。
「ぁ・・・んっ・・・」
恥ずかしさとどこか切ない甘い疼きが波紋のように広がっていく。
「はぁ・・っ!・・・ん・・・・ふぁ・・っ・・・・!」
彼の手が・・・唇の触れたところが・・・たまらなく愛しい。

・・・・もっと触れて・・・欲しい・・・。

そんな私の気持ちを見透かしたのか、そっと背中に手を回すとブラのホックを外し、
柔らかな胸に手を滑り込ませていく。
「ふぁ・・・ん・・っ・・・・はぁっ・・・・」
触れた掌が双丘を包み込み、彼の熱が直に伝わる。
掌のすべすべした感触が心地いい・・・。
まるで全身を抱きしめられているかの様な安心感に身を委ねていると、不意に彼の指が
私の敏感な突起を撫でた。
「はぁんっ!」
今まで感じた事のない刺激にぴくんと体が跳ね、胸の頂から甘い電流がぞくっと背筋に走っていく。
・・・その反応を彼が見逃す筈がなかった。

「松子さん・・・・ココが いいんだ」
子供が新しい遊びを見つけたかの様に無邪気に笑いながら、そっと固くなっている芽を指先で優しくこする。
「あぁ・・っ!・・・・んっ・・・くぅっ・・・!」
自分の意思とは関係なく洩れる声を抑えようと、くっと唇を噛む。
胸の頂から起こる甘い波・・・。その波が次第に高まり、私を狂わせていく・・・。
「松子さん・・・どうして声我慢してるの・・・?」
少し意地の悪い声でそう言いながら、私の双丘の一つを揉みしだくと唇でもう片方にそっと口付ける。
「ゃあ・・っ!・・・恥ず・・・か・・しい・・から・・・意地悪・・・・しないで・・
・っ・・・!」
甘く切ない痺れに耐えながら、子供の様に弱々しくいやいやとする。
それだけが・・・今の私に出来る唯一の抵抗だった。

「だから・・・そんな顔されたら・・もっといじめたくなるよ・・・!」
そう言うといっそ乱暴とも思える手つきで、固くなっている芽を指先で転がす様に摘み、
さらに舌先で輪郭をなぞりながら吸い上げる。
「ふぁあぁあんっ!」
いきなりの強い刺激に思わずぎゅっと彼の体にしがみつく。
触れ合った肌から狂おしい程に彼の鼓動が伝わる。
体が・・・洩れる吐息が・・・信じられない程熱い。
鼻先を掠める彼の匂いはもう少年のものではなく、一人の男の人の匂いがした。

双丘に顔を埋め、痛い位に張り詰めた芽を責め立てる様に唇で甘噛みする・・・。
舌先で輪郭を柔らかく・・・吸い取る様になぞる・・・。
甘い果実を全て味わい尽くすかの様に・・・口に含みながら柔らかく転がす・・・。

「ぁあっ!・・・はぁ・・んっ・・・・ふぁ・・・あぁん・・・っ・・・!」
一度箍が外れてしまえば、そこから墜ちていく事は容易かった。
もう・・・声を・・・自分自身を抑える事など・・・出来ない・・・。

― 理性という名の鎖が・・・・解き放たれていく・・・ ―

「もっと・・・松子さんの可愛い声・・聞かせて・・・」
そう耳元で囁くとスカートの中に片手を滑り込ませ、太腿から足の付け根へとゆっくり指を滑らせていく。
「あっ!・・・ゃあっ・・・だ・・めぇ・・・っ!」
必死で彼の侵入を拒もうと力をいれるものの、脚の間の僅かな隙間へと指を滑り込ませ
つぅっとショーツ越しに撫で上げる。
「・・・・っ!」
声にならない。恥ずかしさのあまり思わずぎゅっと足を閉じる。
そのまま体を強張らせていると、彼は安心させる様にそっと唇を重ねた。
優しく啄ばむ様なキスを何回も交わしながら、それでも手を休める事なくショーツ越しに
指先でゆっくりとなぞりあげていく・・・。

「・・はぁっ・・・んぅ・・っ・・・」
彼の指の動きに合わせて自分の意思とは関係なく背中が小さく跳ねる・・・。
「ん・・・っ・・・・はぁっ・・・」
唇がわななき、熱く濡れた吐息が漏れる・・・。
「あっ・・・ん・・ふっ・・・あぁ・・っ!」
小刻みに脚が震え、固く閉じた扉が徐々に開かれていく・・・。

寄せては返す漣の様に 幾度も幾度もそっとなぞりあげる。
そのたびに彼が起こす優しく甘い波が、私の体の中を駆け巡っていった・・・。

そして甘い波に呑まれ、躯の力が失われていく刹那・・・。
その僅かな間隙をついて、彼の指がするりとショーツの脇から差し入れられた。

くちゅ・・・

・・・・それは本当に微かな音だったのかもしれない。
でもその水音は静かな部屋の中で一際大きく感じられた。

「あぁ・・・っ!」 思わず声が漏れる。
そこはもう・・・自分でも分かる程に熱く潤っていた。

恥ずかしい・・・何もかも見透かされてしまいそうで・・・怖い・・・。
でも・・・求めてる・・・ 貴方の事を・・・・こんなにも・・・・。

差し入れた指先を蝶が花と戯れるかのようにそっと滑らせていく。
「ふぁ・・・・ん・・くぅ・・・・あぁ・・・」
鼻にかかったような甘い喘ぎ声が自然と口から溢れ、それと同時に熱く甘い疼きが
躯の奥深くから湧き出てくる・・・。

―――――この感覚は・・・何?

さらに温かく柔らかなクレパスを幾度もなぞり上げ、芽の回りに指を滑らせる。
「ふぁあんっ!・・・くぅ・・・はぁっ・・・・・!」
始めは控えめだった水音が徐々に激しさを増し、とろりと奥から熱いものが溢れてくる。
その溢れた蜜を指先で掬い、絡めあい、そして・・・敏感な芽へと滑らせていく・・・。
「はぁあああぁんっ!」
頭の中で一瞬何かが白く弾ける。
その先に何があるのかなんて解らない 知らない。
・・・・・教えて欲しい。
貴方から・・・貴方だから・・・教えて欲しい。

感覚が・・・感情が・・・愛情が加速する・・・。

蜜で潤った指先で芽を小刻みに擦り、ころころと円を描きながらそっと優しく撫で上げる・・・。
「んぁ・・・っ! ふぁっ・・・やぁ・・あぁぁあんっ!」
びくんと躯が跳ね、唇が震える。
優しく・・・時に強く激しく・・・敏感な芽を責め立てていく。
「はぁっ! ああぁぁっ! ん・・くぅっ!・・・・はぁ・・んっ!!」
躯が・・・思考が・・・溶けてしまいそうな程熱い。
そしてついに・・・指先が豊かな水が湧き出る源泉へと誘われるように吸い寄せられていく・・・。
「ふぁ・・・んっ」
彼の指がゆっくり私の内へと侵入してくる。
充分に潤ったそこは、つぷりと小さな水音をたてると指を容易く飲み込んでいった。

「松子さん・・・苦しくない?」
心配そうに彼が訊ねる。
お互い初めてで余裕などない筈なのに、それでも私の事を気遣ってくれる彼の優しさがうれしかった。
「ん・・・何か変な感じだけど・・・大丈夫よ・・・」
そう言うと両腕で彼の頭を引き寄せ、軽く口付けを交わした。
「・・・続けて」
柔らかく笑みながら、そっと続きを促す。
彼は小さく頷くと、差し入れた指を全て埋め、蜜壷を解きほぐすようにそっと掻き混ぜていく。
「んっ・・・くふぅ・・・ん・・・はぁ・・・・ん」
蜜を掻き出すように捏ねながら、蜜壷の内側を指が滑っていく。
そして奥の一点に指先が触れたその刹那・・・
「はあぁっ!」
―――――ぞくっと今までない刺激が背筋に走っていった。

「・・・ココがいいの?」
少し上擦った声で訊ねながら、指をくっと折り曲げながら小刻みに擦りあげる。
「ぁああぁんっ!・・やあっ・・・だめぇ・・・・おかしくなっちゃう・・・っ!」
がくがくと躯を震わせながら、必死で甘く切ない責め苦に耐える。
「やっぱりココがいいんだ・・・松子さんの中からすごく溢れてくる・・・!」
そういうとさらにもう片方の手を滑り込ませ、芽と蜜壷の両方を責め立てていく。
その動きは徐々に激しさを増し、淫靡な水音が楽器のように部屋に響き渡る。
「はぁあぁぁぁあっ! ふぁああぁん!! もう・・だ・・・めぇ・・・っ・・・・!」
もう何も考えられない。
ただ彼のなすがままに登りつめていく。
意識が 自我が 真っ白な世界へと解き放たれていく。
―――――そしてその先にある一面の光・・・・!

「あぁああぁぁあぁあぁぁあん!!」
背中を弓なりにしならせながら、彼の腕の中で私は快楽という名の海に沈んでいった・・・。


(2)へつづく

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