『殿×松子(2)』byうたかたさん



 

――――――――――・・・・・・・・・松子さん・・・
 

彼の声が聞こえる・・・。
どこか遠くて近いような・・・・そんな所から声が響いている。
 

―――――・・・・・・松子さん・・・!

心配してる・・・?  私を・・・・?
彼が・・呼んでる・・・・。  早く・・・目を・・覚まさなきゃ・・・
 

「・・・・松子さんっ!・・・・・大丈夫・・・?」
彼の声に促されふっと顔をあげると、心配そうに覗き込む彼の姿があった。

「・・・私・・・どう・・・・したのかしら・・・?」
・・・ぼぅっとしてうまく考えが纏まらない。
自分の体がここにないような、そんなふわふわした感覚が体に残っていた。

「どうって・・・・」
少し困った様な・・・照れた様な曖昧な表情を浮かべながら、そっと耳元で囁く。

「・・・・可愛かったよ・・・・・・」

ふっとさっきまでの自分の姿が頭の中をよぎっていく。
初めての感覚に翻弄されて・・・もう何も考えられなくて・・・・私・・そのまま・・・!
思わずかあぁっと顔が火照っていく。

「松子さんがあんまり可愛いから・・・・俺・・・おかしくなりそうだった・・・」

「・・・・・・・・・・莫迦」
それだけ言うと私はぷいっとそっぽを向いた。
顔を彼の方から背けた後も、どんどん頬が火照って熱くなっていくのが分かる。
・・・・恥ずかしくて・・・彼の顔をまともに見ることが出来ない。

そのまま顔を背けていると、彼の手がそっと柔らかく髪を撫でていく・・・。
「・・・ねぇ・・・松子さん・・・・」
名前を呼びながら、肩に・・・首筋に・・・頬に・・・キスの雨を降らせる。
「こっち向いてよ・・・・・・」
背けている顔をそっと上向かせ、柔らかな唇を味わう様に求めていく・・・・。
「やぁ・・んっ・・・・・だ・・めぇっ・・・んっ・・ふぅ・・ん・・・・っ」
ささやかな抵抗も空しく、私の体は呆気なく彼の腕の中に絡め取られていった・・・。

「・・・っふぁ・・・ん・・・しょ・・・ごさぁ・・・ん・・」
深い口付けとそれに続く愛撫が・・・躯も・・・心も蕩けさせていく。
いつの間にかスカートとショーツが脱がされ、生まれたままの姿がさらけだされていた。
彼の声が・・・手が・・・唇が・・・頭の奥を甘く痺れさせる・・・。
・・・・もっと私を・・・・満たして欲しい・・・。

――― もっと・・・貴方の事を・・・・感じていたい・・・ ―――

「しょう・・・ごさんっ・・・正吾さん! 正吾さぁんっ!・・・・もう私・・・っ!」
言い終わる前に唇を塞ぐと、彼は何かを振り切るかの様に身に纏った物全てを脱ぎ捨て
た。
服の下から引き締まった滑らかな体躯が現れる。
どこか少年のあどけなさが残っているものの、あきらかに女の自分の体とは違う。
・・・この躯が今から私を『女』にするのだと思うと、体の芯が熱くなっていくのを感じていた。

幼い恋かもしれない・・・。
一夜の儚い夢でもいい・・・。
それでも・・・誰に何を言われようともこの気持ちに迷いはない・・・。

どちらともなく息苦しい程強く抱きしめあいながら、私は泣き出したい程幸せな気持ちに浸りきっていた。

「松子さん・・・・いくよ・・・」
優しく口付けると、そっと私の足を割り広げ彼自身をそこにあてがった。
入り口に熱いものが触れる。
耳の奥で心臓の鼓動が聞こえ、一際鼓動が高まっていくのを感じる。
そしてゆっくりと・・・私の中へ彼自身が入ってくる・・・。
「・・・くぅ・・・っ・・あぁあああっ!」

―――――― ・・・・・・・ア ツ イ

・・・痛いというよりもそう言った方がいいのかもしれない。
彼がきつく閉じられたそこを割り広げるたび、灼けつくような痛みが走っていく。
「・・・くっ・・・! 松子さんの中・・・・すごくキツイ・・・」
おもわず洩らした彼の声も今は遠くに聞こえる。
今はただこの痛みを堪える為、必死で彼にしがみつく事しかできなかった。
灼けつくような熱さのなか、ゆっくりと何かが進んでいくのがわかる。
やがて動きが止まり、やっと少しだけ息をついた。

「はぁっ・・・ねぇ・・正吾さん・・・・・その・・・全部・・・?」
「うん・・・全部・・松子さんの中に入ってるよ・・・・」
肉体と精神が繋がる感覚・・・・愛する人と一つになる喜び・・・・。
胸の奥から泣き出したい位に倖せな気持ちが満ち溢れてくる。
彼に与えられたものなら、この痛みすらも愛しい・・・。
目から自然と涙が溢れ、しがみついている彼の胸を濡らしていく・・・。
しばらくの間破瓜の痛みも忘れ、互いに強くきつく抱きしめあった。

―――――― もう・・・思い残す事は何もない・・・

「じゃあ・・・松子さん動かすよ・・・痛かったらゴメン」
「・・・・ん」
ゆっくりと引き抜くと、私の体を気遣いながらそっと挿しいれていく。
「んっ・・・くぅっ・・・」
浅く・・・時に深く・・・温かく柔らかな海へとそっと滑り込ませていく。
「ふぅっ・・・くぅ・・・・はぁああっ!!」
鈍い痛みを堪えながら、夢中でぎゅっと彼の躯を抱きしめる。
やがて徐々に・・・痛みの中に微かに違う感覚が体の中から湧き上がっていくのを感じていた。
最初は微々たるものだったそれは徐々に高まり、そしてそれと比例するかのように感情と快楽の波を高めていく・・・。
痛みと快楽が鬩ぎあう最中、時折目を開けると私の中で切なげに喘いでいる彼の姿があった。
その姿がこの世の何よりも美しく・・・そして愛しかった。

もっと・・・私で感じて・・・・・・
もっと貴方の手で・・・声で・・・貴方の全てで私を狂わせて・・・・!

「・・・・名前・・呼んで・・・」
―――――― 貴方の声を・・・・・聞かせて欲しい・・・・

「・・松子さん・・・」

「・・もっと・・・!」
―――――― ・・・足りない・・・もっと・・私の事を呼んで・・・!

「松子さんっ・・・!」

「もっと・・・・っ!」
―――――― もっと・・・もっと貴方の声を・・・・・聞かせて・・・・!

好きな人に名前を呼ばれているのに、どうして・・・こんなに胸が苦しくなってしまうんだろう・・・?
こんなに愛おしいのに・・・呼ばれるたびに切なさが込み上げてくるのは何故だろう・・
・?
でも彼以外の他の誰が呼んでもこれほど胸を熱く焦がれさせる事などない。
―――――― こんなにも胸を熱く切なく苦しくさせるものは他にはない・・・。

「・・・しょう・・こさんっ!・・・松子っ・・松子・・・・っ!」
「あぁぁああぁっ!正吾っ!正吾ぉっ!!」

何処までも高まりゆく感情・・・・
飽く事無く求め合う精神・・・
二つに分かたれた躯が交わりあい、一つに溶け合っていく至高の喜び・・・

繋がりあった所から響く水音が淫靡に静かな部屋へと響き渡る。
素面なら平気でいられる筈のないその水音は、いまや二人の行為を高める絶好のスパイスとなっていた。
彼の動きが早まり、どこまでもどこまでも・・・まだ見ぬ彼方まで二人を後押しする。

「やぁっ! 正吾ぉっ!! へ・・んなのぉっ! もう・・・もう・・私っ!」
残されたありったけの力で彼にしがみつく。
そして想いの全てをぶつけるかの様に彼が私自身へと深く穿ったその瞬間・・!

「ぃやぁ・・・・もぅ・・いっ・・・・あぁぁああぁあっっ!!」
「っ・・・! くぅっ・・・松・・・子ぉっ!!」

彼の欲望と愛情の白い飛沫が私の中で熱く弾けた。
彼の肉体を・・・生命を・・・全てを・・・余す事無く受け入れる。
甘い痺れが漣のように全身に伝播していく・・・。
この上ない幸せの余韻に浸りながら、私達はゆっくりと微睡んでいった・・・。
 

・・・そしてその後、私達は幾度も求め合い交わりあった。
互いを確かめるように・・・慈しむように・・・幾度も幾度も・・・

―――――― 朝日が二人を照らすまで・・・。
 
 
 
 
 

〜epilogue〜

その後・・・子供だった俺達の関係は呆気なく露見し、この前代未聞の不祥事に御城に
縁の深い両家はこの事をなかったものとし、互いに裏口を合わせ有耶無耶なものとした。
彼女の輿入れの日、両家の目を掻い潜り再会した時に俺は一つの誓いを彼女に捧げた・・・。

・・・彼女は自ら檻へと囚われていった。
俺は力のない無力な自分を責めた・・・。
 

そして数年後・・・
―― 俺は一羽の美しい小鳥を手に入れた・・・ ――
 

微睡みから目を覚ますと、隣には安らかな寝息を立てている紫信の姿があった。
寝かしつけている間に、何時の間にか自分も寝入ってしまったらしい。
ずいぶん昔の夢を見たな・・・と苦笑しながら、傍らにいる小さな紫信の髪をそっと撫でた。

しの・・・・ 可愛いしの・・・。
お前はいつか俺の下を離れるだろう・・・。
だが・・・・それでも構わない。
その時まで 俺はお前を守り続けよう・・・。

兄のように・・・
友達のように・・・
恋人のように・・・
――――――――― 父親のように・・・

だからその時まで・・・
ゆっくりおやすみ・・・ しの・・・。

―――fin―――
 

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