『咲十子×風茉(2)-1』by木登りブタさん


頭では休暇だってわかっていても、体内時計はわかっちゃくれない。
夜が明ける少し前、目がさめてしまった。
俺の隣には咲十子が寝ている。
一瞬、驚いて、すぐに昨夜のことを思い出した。
やっぱり、夢じゃなかったんだよな。と思ったら、急に幸せな気持ちになってきた。
おでこにそっとキスをする。
いっしょに暮らすようになって、5年目。
俺が思いつづけて13年か。
ほんとにこんな日がくるなんて夢みたいだ。

しばらく咲十子の寝顔を見つめていたら、障子越しに朝日がさしてきた。
まぶしそうに、ちょっと、顔をしかめ、小さく「うぅん」と声をもらしながら寝返りをうっている。
咲十子のヤツ、どんな反応するだろう。そう思った俺は、寝たふりをすることにした。
さっきまで、規則正しかった寝息がとまった。
おおかた、見知らぬ天井に戸惑っているんだろう。
少しして、顔を動かす気配を感じた。ついで、驚いて息を呑む気配。
目を閉じていても、咲十子の表情がわかる。
「・・・そっか、昨日・・・・。…あのまま・・・・。」
きっと今の咲十子の顔は真っ赤だ。俺の好きな照れる顔。
いや、でも、もう少し寝たふりしてよう。

「・・・風茉くん、・・・起きてる?」

我慢、我慢。驚かせるのはまだ早いな。

「最近、忙しかったもんね。疲れてるよね。休ませてあげなきゃ。」
可愛いな、咲十子。思ったことはすぐ独り言になるんだ。
ほんと、わかりやすいやつ。
枕上に置かれていた、浴衣に手を伸ばす気配を感じた。

「えっと、どうしよ、風茉くん、起きないよね。」

俺の方の布団を動かさないようにゆっくりめくっているようだ。
起きてたらなんかまずいのか?そっと、半分、目を開ける。
そこには、たたまれたままの浴衣で胸を隠し、上半身を起こそうとしている咲十子の姿があった。
手早く浴衣を広げると、さっと、羽織る。
朝日に照らされた体は、まるで光っているみたいにきれいだった。
ゆっくり、布団から抜け出して立ち上がろうとした咲十子の動きが止まった。

「っやだぁ。・・・なんか、まだ、感覚が・・・・。・・・それに、着物。・・・・どうしよう、
恥ずかしくて顔。見れないかも」
着物やら、襦袢やらを衣文かけにかけたあと、咲十子は襖を開けて出ていった。
咲十子の独り言に気を取られて、俺としたことが、起きるタイミングを逃してしまった。
なんだか、妙にモジモジしてるのが気になったが、一体、何を恥ずかしがってるのかわからなかった。
でも、咲十子が部屋を出て行った後で、起き上がって、部屋を見渡すと、納得した。
昨夜、脱ぎ捨てた衣類が妙に、なまめかしい。いかにも情事のあと、だな。
引きちぎられてとんだボタンや、投げ捨てられている下着が余裕のなさを物語っている。

でも、そんなに照れくさいか?
あんなに、モジモジしなくてもいいんじゃないか?しばらく考えたが良くわからない。
不思議な気持ちで、俺も浴衣を着ようと立ち上がったときに、わかってしまった。

感覚って、・・・そのことか。

布団には、赤い花びらが数枚散っていた。
すごく、辛そうだったもんな・・・。

俺の場合、テレと申し訳なさみたいなものが混ざって、ますます咲十子を愛しいと思った。
これも、また、俺の余裕のなさをあらわすみたいで、すごく恥ずかしくもあったが。

だめだ、何を見ても昨日のことを思い出しちまう。
やっぱ、俺ってガキだなぁ、咲十子がその気になるのを待つつもりだったのに、
咲十子の顔見てると、余裕なくなっちまって。
・・・・よし、この休暇の間は、咲十子サービスしよう。
 

茶の間に人の気配がし始めた。
咲十子が風呂から上がってきたらしい。
俺は内心、いつも通りに振舞えよ、にやけたりするなよ!と気を引き締めて、襖をそっと開けた。
 

□ □ □
 

朝食も終わり、手持ち無沙汰な時間。
2人の間には、なぜか緊張した空気が流れている。
なんだ、何がいけなかったんだ?
朝食前に、咲十子の誤解がとけ、九鉄と一美のおせっかいについて笑いあってたときは、
いい雰囲気だった。
もちろん、これからの休暇をいっしょに過ごそうと、
提案したときも咲十子はすぐに、うなづいてくれた。
でも、後片付けが終わって、茶の間に帰ってきた咲十子はどこか、変だ。
そしてそのまま、妙な時間が続いている。
二人で向き合って食後のお茶をすすりつづけている。
言葉を発そうとすれば、同時になってしまう。
どうして、だ。
おれは、もっと二人でゆっくりしたいんだ。
縁側に二人並んで庭を眺めたり、、昼寝したり、
その、・・・膝枕。…とかしてもらったり。
もっと、言えば咲十子といちゃいちゃしたいんだ。
それなのに、現実は……。湯飲みを置くのに、気を使うほどの緊迫感。
これは会議の何十倍も疲れる。
いいかげん、あぐらの足もしびれてきた。
これじゃあ。埒があかない。
ここはまず、状況を変えてみよう。
 

「あー、座ってばかりだと腹がすきそうにないな。ちょっと、庭を散歩しないか?」
おっ?明らかに咲十子の表情が明るくなった。
「うん、ずいぶん立派なお庭だから、ぐるっと回るだけでも大変そうだね。」
「大げさだな。そんなにたいしたことないだろ。移動に車が要らないくらいなんだから。」
「風茉君の感覚だと、そうなっちゃうのね…。」
立ち上がり、縁側から外に出る俺に咲十子が続く。
さっきまで、大きな座卓に阻まれていた距離が一気に縮まる。
シャリ、シャリと玉砂利を鳴らしながら、並んで歩く。
そう、この感じだ。いつもと変わらない、落ち着いた空気。
いつのまにか、咲十子が隣を歩いている。
会話がなくても安心できる。
偶然、同じものを見ていて驚くタイミングがいっしょだったり、
池の鯉が跳ねた音に、同時にびくついたり、
そのたびに、二人で顔を見合わせて、笑いあった。
庭を歩く間、自然に手をつないで歩いていた。
俺の作戦は成功したようだ。
最近は、こんなに二人きりでいられる時間がなかった。
咲十子も就職活動で大変そうだったし、俺も会社の再編成で家に帰れない日が多かった。
お互いに一段楽して、こうして晴れた日に二人きりで散歩できるなんて、ものすごく幸せだ。
ゆっくり時間をかけて庭を散策し、二人の腹のムシが騒ぎ出したころ屋敷の中に入った。

散歩以来、二人の間にはいつもの空気が戻ってきている。
昼飯を食って、二人で後片付けや、掃除をした。
(もっとも、俺は咲十子の仕事を増やしていただけかも知れない。)
仕事の後は、二人で昼寝をしている。
俺は寝付けないまま、咲十子の寝顔を見ている。
結局、咲十子サービスになってないよな。
昨夜も、あんなにつらい思いをさせたのに…。
やっぱり俺ばかりうれしい思いをしている。
俺は咲十子には俺以上に、喜んでほしいんだ。
俺のわがままでまたあんなに辛い思いはさせたくない。
……。
そう、思っているのに昼からの咲十子は無防備で、
「…なんだか、新婚さんみたいで、照れくさいね。」
とか、
「今日はお風呂で背中、流して上げるね」
とか、
「いっしょにお昼寝するの、久しぶりでうれしい」
とか、…………。
とにかく、可愛くて抱きしめたくて仕方なくなるようなことを言ってくれる。
正直なところ、押し倒してしまいたい気持ちを、昨日のことを思い出すことで耐えている。
俺自身、こんなに自分がスケベな男だとは知らなかった。
いや、やはりこれは咲十子が可愛いから仕方がないんだ。
罪作りなヤツ。
こっちは咲十子がOK出してくれるまで、2回目は我慢しようって努力してるんだぞ。
チョンっと、鼻の頭をはじいてやった。

あのあと、俺も結局寝てしまったらしい。
窓の外は、真っ暗になっていた。
隣の咲十子に手を伸ばすと、……いない。
咲十子の分の昼寝用枕は、片付けられているようだ。
思い切り手足を伸ばし、起き上がると茶の間には食事が仕度されている。
しかし、咲十子の姿はない。
奥の寝室を覗いてみると、やはり咲十子はいない。
ただ、昨日と同じように部屋の四隅に行灯が置かれ、ほのかに香が漂い、
いかにも、といった感じの演出がされている。
なんとなく、音を立ててはいけないような気がして、襖をそっと閉め、台所、トイレ、と順番に回っていった。
咲十子は風呂にいた。
脱衣所の外から、声をかける。
「咲十子、風呂の仕度してるのか?」
シャワーの音が大きくて、声が聞こえないらしい。
仕方がないので、脱衣所に入る。
心臓が跳ねた。
脱衣所の籠にはきれいにたたまれた浴衣が置かれていた。
「………咲十子、入っていいか?」
何を言っているんだ、俺!?
思わず口をついてでた言葉に自分であきれてしまった。
そんなこと、聞かなくてもわかるだろう。
「あー、その、背中、背中をだな、流してやろっかなぁと思って。」
なんて、かっこ悪いんだ、
咲十子の動きが止まっている。
「いや、咲十子が嫌ならしない。おまえが無理しなくてもいいんだからな。」
咲十子の動きは止まったままだ。
「悪かった、じゃ、ゆっくりしてくれ。」
少しでも早く逃げ出したい。そう思っていたとき。
「………ヤじゃないよ。風茉君」
思いがけない言葉が聞こえた。
 

(2)-2へつづく

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