『 遠い約束 』


121
「わぁ・・・!」
砂漠の中に突然現れたおとぎばなしの小さな屋敷を見てキャロルはうっとりと叫んだ。
「さぁ、おいで。中を見せてやろう。ここは私が一人でくつろぎたくなった時に来る所だ。亡き母の形見でね・・・。これからは私一人の場所ではない。お前の場所でもある・・・」
シーク・イズミルは自慢のおもちゃを見せびらかす子供のようにキャロルを連れまわした。館自体は特に豪華なものではない。居間に寝室が二つ、書斎、それに台所、浴室。でもどの部屋も心地よく整えられている。
見て回るうちに外が段々明るくなってきた。
「夜明けだな・・・」
シーク・イズミルは呟くとキャロルを屋上に連れ出した。
「砂漠の夜明けの美しさをお前に見せてやりたいと思った。世界一美しいぞ。
・・・アル・シャハルには誇れるものがたくさんあるが私はこの国の砂漠の夜明けが一番だと思っている。こんな神々しく美しいものを見られる土地は他にはないぞ」
夜明けのぴりりとした冷気の中、キャロルはシーク・イズミルの逞しい腕に抱かれて初めて砂漠の夜明けを見た。
薄い灰色と藍色の交じり合った空に、太陽の光が射し、夜明け前の無彩色の空気はやがて金色と朱色の豪華な色彩に変化する。世界全体が闇の中からその身を起こし、明確な輪郭を纏い始める。
そして近くの砂山の縁が白に近いほどの金色になったかと思うと朱色の太陽がその姿をあらわす。
「ああ・・・」
キャロルはすばらしい光景にものも言えず、ただそれを見つめるばかりだった。
「すばらしいわ・・・何てすばらしいの。ああ・・・シーク、ありがとう、ありがとう・・・!」
感極まったキャロルは背伸びしてシークの頬に接吻した。シークの頬に満足の笑みが刻まれた。
「どういたしまして。さぁ・・・疲れただろう。昼間の太陽はお前には強すぎる。少し休まなくては・・・」
何とも言えない艶めいた好色な笑みを浮かべてシークは新妻を抱き上げ寝室に連れていった。

123 Ψ(`▼´)Ψ
明るい太陽の光が射しこむ部屋の中で、シークはキャロルを妻にした。
全てが隈なく露わになる強い光を恥じて身を固くするキャロルを宥めるように接吻で覆い、ムーラが着せたばかりの衣服を優しく、でも断固とした手つきで剥ぎ取っていく。
「何も恐れることはないよ。これまで幾度か私はお前に男女のことを・・・教えてやっていただろう?お前は良い生徒だった・・・」
とうとうキャロルの上半身は剥き出しになってしまった。強い光に映える白い肌、その白さをさらに強調する頼りないふくらみの頂きを飾る乳嘴の薄紅色にシークは満足の笑みを漏らした。
「何と可愛らしいのだろう、私のシェイハは・・・」
シークはふくらみを優しく捏ねるように弄び、男を誘う薄紅色の突起を舌で思う様、味わい嬲った。その間にも空いたほうの手はキャロルの肌を探り、その吸い付くような感触に酔うのだった。
キャロルは唇を噛み締め、今までとは比べ物にならないほど激しく甘やかな愛撫に耐えた。男の舌が敏感な場所に触れるたびに、もっと敏感な場所がひとりでに震えキャロルを戸惑わせた。
(ふふ、快楽に溺れて奔放に乱れてくれれば男は嬉しいのに・・・。だが乙女がよがる事もできずに困惑しているというのも・・・そそるな)
「お前の全てを私に・・・お前を子供でない身体にする許しを私に・・・」
シークはキャロルの耳朶に囁くと、残りの衣装をすっかり取り去り、脚の間に割り込んだ。そのとたん、男を誘う甘い蜜の匂いが立ちこめた。
「ああ・・・強がらなくていい。お前は・・・女になるのだ・・・」
これまで接吻と医師めいたいささか無粋な触れ方しか与えたことのないキャロルの女性の器官をイズミルは初めて男として味わい、愛撫した。複雑な襞を舌で解し、指先でくつろげ、揉みしだき、溢れかえる蜜を啜った。
巧妙で、ねっとりと纏わりつくような男性の熟練したやり方でキャロルはほどなく、甘い泣き声を漏らしながら生まれて初めての感覚の中に溺れて行った。

124 Ψ(`▼´)Ψ
「お・・・シーク・・・私・・・もう・・・」
初めての奈落から我に返ったキャロルは痺れる身体を持て余しながら残酷な笑みを浮かべるシークに嘆願した。自分が何を欲しているのかは知っていた。でもそれを口にするのは憚られて・・・。
「もう・・・?私はお前を悦ばせてやれたのだな?ふふ・・・なんと艶めいた美しい顔をして誘うのだ・・・」
シークは腰を覆っていた窮屈な最後の衣服を脱ぎ捨てた。キャロルは自分を熱望するシークの欲望を目の当たりにして小さく震えた。覚えているのよりもはるかにそれは荒々しくて・・・。
「では・・・良いのだな?今度はお前が私に悦びを与えてくれ・・・・」
シークは反り返った自身にそっと手を添え、キャロルの器官を優しく愛撫しながら押し入ろうとした。
だが年若い花嫁のそこは蜜に濡れそぼってはいてもあまりに狭隘で怒張した男はほんの少し入っただけで押し戻されてしまう。
「何と・・・物堅いことよ・・・」
苦しそうに男のものを受け入れようとしているそこが、シークを煽った。接吻や指先の戯れでキャロルを宥めながら、シーク・イズミルはわざとゆっくりゆっくりと無垢の隘路に押し入っていった。
(針の穴にラクダを通すとは・・・このことか・・・)
キャロルの苦痛をよそに下手な冗談に苦笑しながらシークは女を押し開いていった。
「・・・・分かるか?私がすっかりお前の中に入ったのが・・・」
シークの言葉にキャロルは心底ほっとした表情を見せた。これで終わると思ったのだ。だがキャロルの期待はあっさりと裏切られた。
花婿は苦痛とわずかな恍惚感がない交ぜになった花嫁の美しい顔を愛でながら、男の動作を繰り返したのである。キャロルが耐えきれずに漏らした悲鳴はイズミルの唇に吸い取られていった・・・。

シークがようやくキャロルの中に精を放ったのは何時頃のことだったのか。
男女のことでまだ快感を覚えるほどにはなっていない新妻の傷ついた身体を優しく清めてやりながら、シークは深い満足感を覚えた。
「愛している、キャロル。私のシェイハ・・・。私は・・・今日お前が流した涙にかけて未来永劫お前のものだ・・・」
キャロルは優しく微笑むと初めて自分からシークに接吻した。

125
二人は黙って抱き合って刻々と位置を変える影を眺めていた。触れ合う肌は心地よく、互いに安心できた。
(私はようやく愛する娘を手許に置くことができる。私の傍で大切に傅き守って幸せにしてやろう。そう・・・今度こそ幸せな生涯を送らせてやること、決して泣かせぬこと、それが私の務めだ。
何もかもこれから始まるのだ。前世での不幸な私が・・・今生の私に託した遠い約束を果たして・・・)
シークはそっとキャロルの首筋を撫でた。白かったそこのここかしこには彼がつけた接吻の跡があった。
(もう・・・この首筋にこれより他の印はつけさせぬ)
「愛しい・・・。お前は暖かくて心地よい。よく今までこの暖かさなしに過ごせたものだな」
似つかわしくない甘い睦言を口にする男に、キャロルは恥ずかしそうに微笑みかけた。
「こ、これからはずっと私が暖めてあげる・・・」
「嬉しいことを言ってくれる。・・ありがとう、キャロル。お前が私を選んでくれたことがとても嬉しい。
・・・・・ずっと私のそばにおいで。もう私と一緒でなければどこにも行ってはいけない。よいな?」
頷くキャロルの脳裏にライアンの言葉が蘇る。

─キャロル、お前はもうアル・シャハルの人間になる。シーク・イズミルのお妃だ。現実というのはおとぎばなしではないから辛いことや嫌なこともあるだろう。
でもお前は何があっても泣き言を言ったり、僕らのところに戻って来たりしてはだめだよ。これからは・・・僕たち家族ではなくシーク・イズミルだけがお前が頼り、縋れる相手なのだからね。
何があってもシークと一緒に乗り越えていきなさい。それが・・・人を愛するということだからね。
分かったね、‘ライアン兄さん’の言うことを忘れないでおくれ・・・。

「ええ・・・私はあなたを愛したの。だからずっとずっとあなたと一緒よ」
キャロルは暖かく滑らかな男の肌に自分の肌をさらに合わせた・・・。

126
アル・シャハルの摂政王子の妃、シェイハ・キャロルが懐妊したのは結婚してから一年半後の春のことだった。
結婚後も兄ライアン・リードの意向と本人の強い希望でアル・シャハルの大学に通い、勉強を続けていた「学生妃殿下」の懐妊は国中から好意的に祝われた。
シェイハ・キャロルは懐妊が分かった後、退学の届を出し出産のその日に備えた。本人は学業の中断を少し残念に思ったし、噂によればライアン氏は卒業前に妹をそんな身体にした義弟に不快感を表したそうである。
シェイハ・キャロルのおかげで王家への親愛度と、女子の進学率が飛躍的にあがったアル・シャハルであるので、政府は早速シェイハ・キャロルの名を冠した奨学基金を設立した。

シーク・イズミルが懐妊した妻を気遣うことはこの上なかった。
もともと勉強熱心なたちであるのでせっせと関連書を読み漁り、得たばかりの知識を振りかざしてあれこれ口を出すものだから、キャロルにもムーラにもすっかり煙たがられている。
「大丈夫よ、シーク。お医者様は順調だとおっしゃっていてくださるわ」
「そういう油断があるからいけないのだ。お前はまだ二十歳にもなっていないし、大学にも通っていたし、初めての出産なのだし・・・。
ああ、気が揉めることだ。こんなに早く身篭らせるのではなかったな・・・」
「まぁ、シーク!心配しすぎだわ。私が決めているの。元気で可愛い赤ちゃんを産みますって。私が決めているんですもの、絶対に大丈夫なの!」
「お前は本当に太平楽すぎるのだ・・・。本当に子供だな!」
人々は微笑ましく、この夫妻のやりとりを見守っていた・・・。

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そして。
月満ちてアル・シャハルのシェイハ・キャロルは男児を出産した。父親に似た美しい嬰児を誇らしげに眺めながらキャロルはシークに問うた。
「シーク・イズミル・・・。‘また私達の所に生まれてきてくれた’この子には何と名前をつけましょう?・・・・・スレイマン?」
シーク・イズミルは妻と生まれてきたばかりの息子に慈しみ深い眼差しを注ぎながら優しい深い声で答えた。
「ナスル(勝利)・アースィム(守護者)・・・・サマーフ(赦し)王子」
サマーフ(赦し)と聞いたキャロルの胸が熱くなる。何に対する赦しであるのかは・・・聞くまでもないこと。
「私は神に与えられた今、この生を生きているのだ。前世などに囚われて生きることは・・・したくない。この子も全く新しい自分の幸せな人生を力いっぱい生きて欲しい」
「良い名前だわ・・・ナスル・アースィム・サマーフ王子・・・」
キャロルはそっと自分の手をシーク・イズミルの大きく暖かい手の中に滑り込ませた。
「我々は、我々の人生を歩むのだ、キャロル・・・」

アル・シャハルはその後、政治的に安定した近代的な富国として世界にその名を知られることになる。即位したシーク・イズミルは祖国中興の祖として長く国の歴史に名を留めるだろう。
その傍らにあるシェイハ・キャロル。アメリカ生まれの彼女は異文化を繋ぐ存在として、その務めを果たすことになる。そして家庭にあっては4人の幸せな兄妹達の幸せな母親である。

遠い約束は果たされ、哀しみの呪縛から解かれた者達は新しい生を歩き始める。
悲しみや苦しみに押しつぶされることなく、時に迷いながらも強い心を持って幸せに生きること・・・・それがキャロル達の新たな約束であるのかもしれない。

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