『 願い 』 1 次第に熱を帯び始めた、その行為に、少女は覚醒する… 「ぁあ…もうっっ…許して」 ひどく掠れた声で、体を固くした幼い娘は懇願した… 「私を、拒むのか?姫よ…」優しい声とは裏腹に、眼は残忍な焔をちらつかせ男は、少女の上唇を軽く噛む 「ん?どうした?何度も教えたであろう?」 「…お、お願い、か、体が痛いの…」 何度、蹂躙されたか判らない、その体には、男がつけた、赤や紫の華が散っていた 乱暴に扱わなくても、その武勇で知られた男が捕らえると少女の柔らか過ぎる膚には、跡がついてしまう 「忘れたのならば、もう一度始めから教えようぞ…姫よ…」 そして、又先程と同じように、上唇を軽く噛む …少女は諦めたのだろうか、唇をそっと開ける… 「それで、良い…私を拒む事は許さない」と深い、口付けを繰り返す、何度も角度を変え舌を絡ませ、少女の喉奥深くまでも、食らい尽くすかのように… 「わかっておろう?そなたが拒むと、あの者がどのようになるか?」 揺らめく、寝台の明かりの彼方… 少女はある方向を哀しげに見つめると 「・・ルカ・・・」とえも云われぬ哀しい溜息を一つ落とした 2 「王子…朝餉の支度が…整いまして御座います…」 躊躇いがちに、そっと声を掛ける。 その間も、途切れ途切れの少女の声がする ややあって 「…よい…私が良いと云うまで、誰も近づくことは許さぬ」 「わかりました…お心のままに…」 ムーラはそっと、その場を離れた 「…王子…私の大事に育てた王子、何故?あのような…」 ムーラは今まで、見た事もない王子の変わりように戸惑いつつも 「そこまでしてもなお、神の娘を…欲するのですか」と、深い溜息を付くのであった 少女は、心から愛しいと思い心から愛されていると信じる人の妻となったばかりだった そして、その流れる黒髪が美しい夫の姉の婚儀に臨席する予定だった 突然の火事に、慌てて外へ出て-----この男に捕らえられたのであった。 一人でいたのなら、少女は間違いなく「死」を選んでいた… しかし、ルカが居た… 「姫〜私に構わずお逃げ下さい」 と、体を縛られ、喉に剣を突きつけられているルカを、そのままにはして置けなかった そして、ハットゥシャに連れてこられ、エジプトの物を纏うことを許されなかった 予期していたのか、少女はたった一つ、愛する男から送られたネックレスだけは侍女に見つからぬように、素早く手の中に隠した後、その見事な衣装の中に隠した …それが、後でどのような事になるのかは、少女は想像だにしなかったのである。 3 その男は、愛する姫を手に入れた喜びの中に居た 「姫…何とヒッタイトの衣装が良く映える…」 清らかな少女としか見えないその娘は、しかし更に艶やかに美しく王子の目には映るのであった、 そして、短期間の間に、これだけの艶を持たせた黒髪の王への嫉妬が心に黒い染みを作っていた… (だが、もう姫は離さぬ、私の私だけのものだ、もはやメンフィスには髪の一筋たりとも触れる事はさせぬ) そんな事を考えているのはおくびにも出さず 「さ、疲れたであろう?ムリをさせたゆえ」少女に近づきそっと、触れようとした瞬間--- 「やめて、王子!何度も云ったわ。エジプトに帰して、私はメンフィスの妻になったのよ」 その言葉を聞いた途端 「…姫、私も何度も申したはずだ、エジプトには帰さない、そなたは私と共に生きるのだ」 いうなり、少女の肩を掴み、腰を引き寄せ、激しく、かき抱いた 「メンフィス王の事は忘れよ…そなたは、私と…この私と生きるのだ」 「は、離して下さい。無礼です。私はエジプトの王妃です」 身を離そうと、必死なキャロルの足に… コロンと音を立てて、何かが落ちた… 「あっ!」 キャロルは慌てて、その硬質な物を拾おうとした… が…それよりも早く、王子がそれを手にした。 「…これは…」低く掠れた声で呻いた男の手にあったもの… 「これは、王の印…」王子の中で、どす黒い感情が… 黒い思いが心を占めてゆく、王子はそっと目を細めた そして、少女に向かって言い放った 「もう…そなたには頼まぬし、請いもせぬ、そなたは私の物だ」 王子の初めて見る表情に、キャロルは初めて「恐怖」を感じた… 4 王子の寝所の続きの間に…ルカは居た 猿轡をされ、後手に縛られて… (いっそ、狂ってしまいたい…全て私のせいだ…姫、ナイルの姫) 狂乱が続いている…自分のせいで… (何故ですか?王子…何故?あのような真似をなさるのですか…) 自分に二つの心など存在しない。主君と仰ぐは、イズミル王子のみ。 王子に「命を絶て」と命令されれば、躊躇なく命令を遂行する。 王子の為ならば、この体を盾にする事に、なんの迷いもない。 私の命は王子の為のみに存在するもの。 なのに、今は「何故ですか?何故なのですか?」同じ言葉を心で繰り返す。 姫を捕らえて後、姫の手前、私は牢に居た。 そして、王子が今、ナイルの姫の傍に居られる幸せを思っていた。 「…ルカ…付いて参れ」 「…王子?どうなされたのですか?…ナイルの姫に何かありましたのですか?」 もしや、ナイルの姫は脱走されたのかと… 「…姫は、寝所にいる…少し、我慢いたせ…」云うなり、猿轡をされ、後ろ手に縛られ 王子の続きの間に入った途端、足も拘束され。床に転がされた 意味も判らず、王子に視線を送ると、 「ルカ…愚かな私を…許せ」と… 私は、訳が判らず、王子の消えた方向を見つめていた。 そう…王子がナイルの姫を伴い、この部屋に来るまでは… 5 捜索隊からの知らせはまだか?一体、何をしておるのだ」メンフィスの怒気に居並ぶ家臣は竦みあがる (おのれ、何者がキャロルを連れ去ったのだ!アッシリアかヒッタイトか…許さぬ!!) 「王、どうかお静まりを」「どうか、どうか王」 「ええい、うるさい、各国へと放っている伝令よりの連絡はまだか、私が出かける。馬を引けーー」 (キャロル!どうか無事で居てくれ。すぐに助けてやるぞ) 「王…それはなりませぬ」 つとめて、静かにゆっくりとイムホテップが、傅いた…… 「王妃様はエジプトの守り神、我らとて一日も早くご無事なるご帰還を切に願っております」 「が……」 苦渋に満ちた顔を上げ、王と視線を合わせ、尚も言葉を続ける 「今、ヌビアに不穏な動きがあり、ましてアッシリア・ヒッタイトとの戦が終わったばかりのわが国には、リビアとの同盟の調印の儀が急務と…思われます。どうか、どうか王…お静まり下さいませ。我らが王妃様の探索には命がけで向かいますゆえ…」 「………わかった、今は踏みとどまろう…が、同盟が締結した後は、そなたの言葉とて、聞きはせぬ!何としてもキャロルを一日も早く探し出すのだ、しかと申し付けたぞ」 どうにもならぬ、苛立ちに体を震わせる…怒りの為、自身が炎のような王は、何とか自分を抑えていた。 「王ーーーー!ネフド砂漠のウナスより書状が参りました」 「おおっ、これへ早くこれへ」 ----書状には、今の所目ぼしい痕跡が残っていない事を告げていた、が、 「…流砂に飲まれた、ヒッタイトの王子のその後を徹底的に調べよ」と言い放った。 (これ程のあざやかな手口…私の知る中では…一人しか居ない…) 6 「王子、どうか彼を助けて」泣きながら、ルカの元へ駆け寄ろうとするキャロルを逞しい腕で引き寄せ 「…姫…あの者を助けよう、そなたの望みならば全て叶えると申したであろう?」 「だが…わかっておろう?そなたが、私に従うのならばだ…それ以外の方法は無い」王子の腕から逃れようとするキャロルの唇をなぞりながら、ぞくりとする甘美な声で囁く -----(…王子?何を?何をおっしゃっているのですか?まさか、この優しい姫のお心を利用して…私を?私を使って?) -----(王子、何故 私をご覧にならないのです?私の為に命を投げ出そうとする、この優しい姫を?) 「王子!卑怯だわっ、私は、私は…メンフィスの妻です。そんな事は出来る筈もないわ」王子の手を振り払い 「他の事ならば、なんでもします。牢に繋がれても構わないわ、ルカを助けて、お願い!」 (何とか、ルカを助けたい、そして何とかメンフィスの腕の中に戻りたい いつも私を守ってくれるルカを守らなければ) 一瞬、張りつめていた空気が、穏やかなものに変わった… 「ふっ…」王子が笑みを浮かべている 「姫よ、私を卑怯者呼ばわりするのか…私に向かって、そのような口を聞く者は、そなたを入れて二人しかおらぬ」 「えっ?!」何を言おうとしているのか、わからずキャロルは首を傾げた… 「…ミタムン…ミタムンとそなたのみだな、そして、この世に居てその様な言葉を言うのは、もはやそなた一人… そなたには、わかっておろう?」 「…………」(ゴメンナサイ)心の中で呟いた 唇を強く噛みしめ、白い手が更に白くなるほど握り締めて ----断末魔の叫び声--王女の末期はキャロルの心のしこりとなって、自分を責めている… (一瞬、引き寄せたのに…どうしても助ける事が出来なかった) 自分に対する兄達の思いと、なんら変わりなく妹を愛していたであろう目の前の男の悲しみを考えると流れる涙を止める事はできなかった 7 「姫は…優しいな…(だが、そこが最大の弱点なのだがね)でも、条件は替えられないな」言うなりルカに近づき、腰に刺した短剣を頬に当てると、頬に赤い線が走る 「さぁ…姫よ、そなたが決めよ。私の手を取るか?どちらを選んでも結果は同じだが、一つの命は長らえる事になる」 「いかがかな?姫よ…」 (メンフィス…貴方を愛していました…これからもずっと…) 体が、鎖でつながれたように重い、ヨロヨロと王子に近くと震える手を伸ばし 「…ルカを、ルカを助けて下さい…」 「…姫君の仰せのままに」そう言うと、キャロルの手を取り口付けをし、寝所へと抱き上げてルカの前から去っていった 8 (らしくない…私らしくない……) この状況を…いやそう仕向けたのは他ならぬ自分自身だ…それは承知している だが、腕に、胸に触れている箇所からじんわりと湧き上がる『痛み』にも似て寒気すら感じる衝動… 寝台に横たえる手が震える -----この震えに気どられぬ様に… この世に二つと存在しない大切なものを見下ろす…自分が宝玉である事に気付きもしない、無邪気な宝玉…常ならば感情が現れる無邪気な瞳から次々と零れる真珠にさえ-----それにさえも、どうしようも無く煽られる自分に苦笑する (これが『情念』というものか…) 自分の中には存在しないと思っていた…その衝動が今にも爆発しそうだった 「…そなたは『火種で火消し』というわけか…」 目をきつくきつく、閉じているキャロルの耳に、シャラシャラと硬質な音が響く その音に、更に恐怖が募り、体が竦む…震えが止まらない。 震えを止めようと、自分を守るかのように息を詰め、両肩を抱きしめる。 幾重にも重なった男の腕輪が奏でる音は、目を閉じていても男の存在を誇示するかのようにシャラシャラ…その音が左耳を掠め、男の左手がスッと頭の下に潜り、ぐいっと引き上げられた 「ぁっ…」恐怖に思わず声が漏れる、これから始まるであろう『罰』… そうなのだ、これは「罰」なのだ…愛する男の為に、この世界に留まり歴史を歪めてしまった事への--- 自分が存在した為に、失われた多くの命… (私が居なければ---死ぬことはなかった…沢山の兵士達…そしてミタムン王女…) 「もう、逃げる術はないな…姫よ…」 9 (えっ?!) 拍子抜けする程の、優しいキスに、身構えていたキャロルは、ふとその青い目を開いた 「…やっと、私を見たな…姫」 ふっと緊張が緩みかける… 「私を見よ…私から目をそむける事は許さぬ…」 残酷な宣言の後、自分自身を守るように抱きしめている両手首を掴み、そのまま又、寝台へと押し倒される 「私を…私を見よ」---そうして、右手でキャロルの両手首を頭の上で拘束し、覆い被さってきた 覚悟はしていた筈なのに、その行為の始まりを告げるかのような行為に、 「いやっ」 「お願い、止めてぇ」首を左右に振り、身を捩って抵抗する が、文武で高名な男にはキャロルの抵抗など、わずかに眉根を寄せるのみでしかない その間にも、滑るような手際の良さで肩と腰の止め具を外し、体を覆うモノ全てを剥ぎ取っていった …一糸纏わぬ姿になったキャロル…… -----以前、体を調べる為に見た時よりも、女らしくやわらなか曲線、艶めき光を放つかのような真っ白い肌を眺めた まるでその鳶色の瞳に、焼き付けるように熱い視線を遠慮なく浴びせるかけ 「……雪のようだな……これ程までに…美しい…とはな」… 「だが、姫よ、雪のように消えさせはせぬ!」と、左手で顎をあげさせ、口づけをする。 そして固く結んだ唇を舐め、舌先を唇の中に進入させると、侵入を拒む、歯列をなぞるように何度も何度も往復し、柔らかく噛み、時に吸い上げる 「ゃっ…」ひんやりとした、手が膝から太股をすっと撫上げた 自分が知っている『手』とは、正反対な「冷感」に ふと漏らした溜息を見逃さず口内にするっと舌が侵入し 舌の下に潜り込ませた舌は、蠢きリズミカルに前後に律動し 引っ込めたキャロルの舌を引きずり出し、激しさに強弱をつけ、吸い…絡みつき、口内を激しく犯してゆく その口づけの激しさとは反対に、触れていないかのような優しい動きを繰り返していた 10 Ψ(`▼´)Ψ 唇が頬へと滑り、未だ止まる事のない涙をせき止めるように目尻へと舌でなぞりキャロルが流した涙の跡を辿るように…ゆっくりと舌を這わせ涙を拭ってゆく 赤みを帯びた耳をやんわりと噛み、迷路の様な形のままに舌が這い回り差し入れる。 「…ぅっ…」刺激に反応し声が漏れる、そんな自分の中の「女」に嫌悪する… 男の手が絹のような肌の手触りを愛でていた手が膝裏に入る、そしてぐいっと片足をあげられ素早く体を割り込ませる。 「!!」「やっ…待って、お願いっ」 固く合わせていた膝を割られ、より近くなった距離にとっさに男の体を押し退けようと必死に身を捩る---- 抗う行為が、ぷるるんと真っ白な乳房を揺らす----(…何と悩ましい) -----大事に慈しみ、酔わせてやりたい----- (…だが…今は…望む者の為に愚か者になろう) -----そして、心とは裏腹な言葉を吐く----- 「忘れたのか?…決めたのは、そう、確か姫自身ではなかったか?」(愛している…愛しているのだ!!) 「……っ…」(そんな哀しげな瞳で…姫、そなたしか望まぬ) 「あぁ、やっと思い出したようだな、では、これは必要ないな」(…許せ…姫…)押さえていた手を解放し 「…痛むか?」と手首に付いたバラの痣をさすり、そっと口づける。 「…姫に『私』を教えよう…1つずつ、ゆるりとな…」(そなた以外は愛せぬのだ) -----口に出せない思いを胸に秘めて----- ゆっくりと両手で顔を挟み、纏わりついている輝く髪をぐいっとかきあげると、仰け反った喉に舌を這わせ、やがてやんわりと口づけ、そっと上唇を噛む。 「……唇を開くのだよ…」キャロルが自ら唇を開くまで、じっと繰り返し待つ… やがて、小さく唇を開くキャロル… 「…それでよい」と、ぬるりと舌が押し入り舌先を絡めとり、激しく深いものへと変わって行く |