『 蜜月 』



ひと気もない雪深い林道に、キュッキュッという馬の蹄が新雪を踏みしめる音だけが響いていた。
真っ白な雪は、行く手の道も木立を総てをしめやかに覆い尽くし、二人の目の前には森閑とした空気と一面の銀世界が広がっている。
風のない緩やかな空から、はらはらと雪の結晶が二人の上に降りそそぐように舞い落ちる。

揺れる馬上で逞しい夫の腕に抱かれながら、キャロルはあまりの寒さに彼の胸から伝わる温かみに身をすり寄せる。
イズミルは手綱を捌きながら、彼の自慢でもある、妻の流れるような金糸の髪に降り積もりゆく雪を時折優しく指先で払い落としてやる。
その度に、見詰め合っては口づけを交わす二人。
供の者も連れずに、二人だけの道中。
キャロルの耳元に唇を寄せてくすぐる様に、イズミルは甘い睦言を囁く……。

イズミルは娶ってまだ日の浅い幼い妻と連れ立って、王宮から馬で半日程の距離にある離宮へと向っていた。
王宮での煩雑さから逃れて、この愛しい新妻とたった数日間の余暇を過ごすために……。



「寒い…」
木立の間からひゅっと吹き抜けた冷気が、キャロルをぶるっと震えさせた。
「おお……風が出てきたな」
イズミルはその大柄な体躯を覆う丈の長いマントを脱ぐと、細かに震えるキャロルの体を、それで優しく包んでやった。
「これで少しは暖かくなろう」
イズミルの体温と彼の香りを含んだ厚手の布地が、キャロルを頭からすっぽりと包み込む。
キャロルはその暖かな心地よさに一瞬ほっと安堵の吐息を漏らしたが
「だ…だめよ!これじゃ王子が寒くなってしまうわ…王子が…」
この雪空の中、薄着になってしまった夫の顔を見上げて首を横に振った。

しかし、彼はいつもの頼もしい笑顔をその精悍な美貌に浮かべて、なおも優しく彼女を抱きしめる。
「かまわぬ。私はそなたのようにか弱くはないぞ……案ずるな。
これからそなたとの余暇を楽しもうと申すに、風邪などひかれては……な」
「だけど……だけど…王子だって寒いはずだわ」
「ふふ…ならば、そなたが暖めれば良いではないか?」
「…えっ…?」
「……私の体を抱いてくれ」
「……こ、こう…?」
キャロルはマントの長い裾を手繰り寄せながら彼の広い胸周りに腕を回し、大きな体躯をぎゅっと抱きしめた。
こうすれば、イズミルの背中をマントで覆う事ができる。
薄着になった彼の筋肉質の胸にぴったりと身を寄せると、互いの体温が溶け合うようで何とも心地よい。



「ああ、それで良い」
満足そうな声音で答えながら、イズミルはキャロルの顎を人差し指ですくい上げる。
「…そして…こうだ…」
言いながら、上を向かせたキャロルの薔薇色の唇に己のそれを重ね合わせる。
手綱を片手で引きながら、もう一方の手はキャロルの背に回し、彼女の後頭部を支えるようにして深い口づけを交わす。
揺れる馬の鞍上であるというのに、イズミルは本格的な接吻をキャロルに仕掛けた。
キャロルの薄い舌先は、彼の熱く濡れた舌に捉えられ、弄ぶように舐め取られる。
「ン……」
キャロルは夫の唇がもたらす甘い痺れに耐えるべく、イズミルの背を抱く腕にぎゅっと力を込める。
底冷えする寒気がいかにイズミルの肌を冷やそうと、彼の体の芯から熱い血が噴き出して、燃え盛るように体内に巡っていった。
イズミルの巧みな口づけに煽られてキャロルの体温も徐々に上昇し、胸に押し付けられる柔らかな胸の膨らみが、彼女の戦慄きと熱い鼓動を伝えてくる。
これで男の体が熱くならぬ訳がないのだ。

イズミルは離宮に到着するまでの道程を、妻の蕩けそうな唇の感触を存分に味わい楽しみながら、これから過ごす数日間の愉しみを思い馳せては、興に耽るのであった。
(何に煩わされる事無く……そなたを思うままに……!
そなたに新しい悦びを教えてやろう……そなたの想像など及ばぬほどの……
おお、愛しいそなたを我が胸で身も世もなく乱し…咲かせてみせようぞ……)



そして、陽もすっかり暮れようかという頃、二人は数日間の蜜月を過ごす楽園へと到着した。

なだらかな丘陵の麓にひっそりと建てられ、規模こそ小さけれど存分に贅を尽くした豪奢な宮殿であることが外観からも見て取れる。
白く煙る雪景色に溶け込むようにそびえる白壁の宮殿は、篝火の橙色の明かりに照らし出され、遠い夢の中にいるような不思議な心地を揺り起こす。
キャロルは紺色に染まる夜の空気に白い息を吐きながら、うっとりと感嘆を漏らしていた。
「きれいね……」
「小さな宮殿ではあるが、なかなかに洒落た造りをしておる。
中へ入れば、もっとそなたは喜ぶと思うぞ。
さあ、馬から降ろしてやろう」
雪の冠を頂いた小宮殿の幻想的な美しさにぼうっと見惚れるままのキャロルを促すように、先に降り立ったイズミルは彼女へ腕を差し伸ばす。
馬の鞍から彼の腕の中に飛びついてくるキャロルを、しっかりと抱きとめるイズミル。

しかし出迎えにあがった馬丁が馬を引いて去った後も、彼は依然としてキャロルを地に降ろそうとはしない。
さも大切そうに腕に抱き上げたまま、離宮の門戸を開こうとする。
「あ…あの、王子……もう降ろして、恥かしい……」
イズミルは口元に柔らかな微笑を浮かべながら、妻を諌めるような口調で言った。
「そなたは私の妻……。
妻が夫の腕に抱かれて、何が恥かしい?
良いか、姫…。ここにはほんの数名の衛兵と仕えの者しかおらぬ。
仕えの者が我々の前に姿を現す事も、めったにない。
ここでは私と二人きりだと思え……要らぬ恥じらいや気遣いは捨てよ……わかったな?」
「王子と…二人きり……?」
キャロルは胸が鳴るのを押さえられずに、確かめるように問いかけながら彼の瞳を見上げた。
長い睫毛が影を落とす深い琥珀の瞳が、篝火の灯りを受けてきらめく。
その眼差しは熱く、妖しいほどに男の色香を漂わせていた。
「そうだ……誰にも邪魔はさせぬ」



宮殿の中へ足を踏み入れたキャロルとイズミルを出迎えるのは、わずか数名の侍女達。
しかし彼女らは王宮の侍女達とは違い、二人に必要な身の回りをつつがなく整え終わると深々と一礼し、早々に下がるのであった。
宮殿の中はしん…と静まりかえり、二人の話す声と足音が遠く響くばかり。

キャロルはこの小宮殿の中を、イズミルに手を引かれて案内された。
中央の広間は品の良い調度品で飾り立てられ、暖炉が居心地の良い暖かな空間を醸し出す。
広間を抜けた廊下の脇には、幾つかの居室が並び、広すぎない館内がかえって落ち着きをもたらしていた。
そして宮殿の裏手の渡り廊下を抜けると、そこには小さな庭園。
濡れたように光る月の明かりを浴びて舞い落ちる雪が、ひっそりと寂の有る風情を見せる。

「今は雪に覆われているが、春ならば花が咲き乱れて美しいぞ。
また、その頃になれば連れて参ろう…」
「……素敵。ありがとう王子」
繋いだイズミルの手を両手で握り締め、子猫のように男の腕にじゃれて甘えながらキャロルは素直に礼を述べる。
甘やかに微笑みかける罪の無い可憐な笑顔は、イズミルには極上の媚態に思え、男の獰猛な獣欲に火を付ける。
キャロル自身が気付いておらぬ故に、それは例えようもなく罪深い。
無心のままに男を誘っては、その無垢さで男をどこまでも焦らすのだ。
それに囚われた哀れな男なのだ、とイズミルは自嘲し、キャロルの躯でもって彼女の罪を償わせようとする。

そんな彼女の腰を片腕でぐっと引き寄せ、イズミルは壁際の柱に押し付けるようにして唇を重ねる。
先ほどまでの口づけとは異なり、それは彼が本気で求めてくる時のものだ。
息もさせぬほど激しく貪ろうとするイズミルの唇の下で、キャロルは息苦しさに喘いだ。
キャロルを息苦しくさせるのは、彼の接吻だけではない。
いつにも増して熱さを漲らせる彼の男の部分がキャロルの腹部に押し当てられ、強い脈動を伝えていた。



「……う……ん…っ……王子…王子…今日は…どう…したの…?」
「何がだ……?」
答えながらも、唇を離そうとはしない。なおも深く舌を探っては吸い立てる。
「だ…だって……、さっきから……っん……っ」
口づけを遮るキャロルの言葉にイズミル苛立ちを覚え、苦々しげに睨みつけた。
「あ…あの……」
あまりに近い距離で、イズミルの強い視線に当てられたキャロルは思わず口篭ってしまう。

さっきから…いや、馬上にある時からずっと接吻責めにされて……もう立っているのも辛い。
それが本音だった。

しかしキャロルの言葉を封じ込めるように、イズミルは深く差し入れた舌で彼女の舌先を操り、なおも翻弄する。
そして官能的な激しい接吻にキャロルの膝が震えだしたのを知りながらも、イズミルは素知らぬ顔で意地悪く問うのだ。
「どうした……今何か言おうとしたのでは……?」
そう問うておきながらも、熱い接吻でキャロルの唇を塞いでしまう。
もう少しでキャロルは、限界に達するはずだ。キャロルの様子を薄目で確かめながら、容赦なく舌を絡めて責め立てる。

「…んっ……ふ…ぅ……」
キャロルの脚から力が抜けて石畳の上に崩れ落ちそうになる寸前に、逞しい腕が抱きとめる。
「ふふ……何とも頼りないことぞ……姫よ。
まだ口づけだけだと言うに、随分と辛そうではないか。
……眠るには少々早いが…寝室に連れて参ろうか……?」
イズミルの含みを持たせた色めく言葉に、キャロルはどう返答して良いのかわからずうつむいて、頬を染めあげ彼の腕の中でただ小さく震えるのだった。



イズミルは有無を言わさずキャロルを横抱きに抱えあげると、寝室へ続く廊下を渡った。
突き当たりの居室の扉を開ける。
贅沢な調度品で纏められた居心地のよさそうな居間の奥の続き間が寝室になっているらしい。

薄布の帳を幾重にも張り巡らせた広く大きな寝台の端に、そっとキャロルの体を降ろして座らせる。
キャロルは艶めかしい雰囲気を醸しだす豪華な寝台を見回し、恥かしさに思わずうつむいた。
これからの連夜…ここで抱かれるのだ、と思うと頬が焼けるように火照ってしまう。
キャロルは震える指で、イズミルの袖を握り締める。

ふと、イズミルが愛しい妻の顔を覗き込めば、その青い瞳にはうっすらと涙が滲んでいるではないか。
「…うん?どうしたと言うのだ……怯えているように見えるぞ」
「……だって…」
……二人きりなのだと、彼は言った。
人気の無いこの豪奢な館に、たった二人きりで過ごせばどうなってしまうのか……。
夢見心地のあまり、くらくらと目の前が霞むようで、心が震えてしまう。
嬉しさやときめきを通り越し、それは少し恐い事のような気さえする。

イズミルは自分も寝台に腰を降ろし膝の間にキャロルを抱え込んで、不安げに震える幼い妻の美貌を見つめて心の中でほくそ笑んだ。
(ふん……いつまでたっても物慣れぬことだな。
何度抱いても、まるで初夜を迎える乙女のようではないか……!)
幼子を宥めるように背中をさすって落ち着かせてやる。そして黄金の髪に唇を優しく這わせる。

「よしよし……そんなに怯えてくれるな。
性急すぎて恐がらせてしまったか?
まったく……いつになったら私に慣れてくれるのだろうな……私はそなたの夫ぞ?
私がそなたを取って喰うとでも思っておるのか……?」
柔らかな頬を愛しげに撫でながら、イズミルは声を立てて可笑しそうに笑う。
キャロルもイズミルの朗らかな声に同調するように、涙目のまま口元をほころばせた。

イズミルは誰よりも優しくて身も心も任せられる頼りになる男に違いないのに、その匂いたつような妖艶な色香の前でキャロルは何故か怯えてしまうのだ。
激しく求められると、何やらイズミルが恐くなってしまう。


8 Ψ(`▼´)Ψ
イズミルはそんな無垢なキャロルを見るにつけ、痛いほどの愛しさが込み上げ、もっともっと大切に扱ってやりたいと思う反面、己の欲望のままに穢してやりたいという獣じみた残忍な劣情を感じるのだ。
そんな衝動を今は内に押さえ込み、イズミルはキャロルの手を取って、まだ冷たさの残る指先に唇を押し当てる。
「随分冷えてしまったな……まずはゆっくりと湯に浸かって旅の疲れを癒すと良い。
今から湯を浴びるか?」
優しく気遣うイズミルに、キャロルはこくんと素直に頷いた。
「では……私がそなたの介添えをしてやろう」
「えっ……待って…そんな…私ひとりでできる……」
しかしキャロルの返答などお構いなしに軽々腕に抱き上げると、寝室から遠からず設えられた湯殿へと足を向ける。
キャロルの抗いの言葉は彼の唇に吸い取られ、男らしく美しい手が馴れた仕草で、衣装の結び目をスルリと解いてゆく。
すべすべとした白い肩や胸が剥きだしにされる。
湯殿へ続く廊下に、キャロルの衣が次々と落とされていった……。


湯殿は暖かな湯気で満たされ、芳醇な花の香りが立ち上る湯がなみなみと張られている。

花びらの浮かぶ湯船の中に全裸のキャロルをそっと浸からせると、イズミルは己の衣を一気に脱ぎ捨てた。
白い湯煙に浮かび上がる、オリーブ色の弾力ある瑞々しい肌に覆われた見事な肢体を、キャロルは湯の中から見つめていた。目を逸らす事さえもできずに。

彼はそんな妻の様子を面白そうに伺いながら、恥らう様子もなくその裸身のすべてを彼女の前にさらけ出す。
鍛え上げた筋肉が隆々たる盛り上がりを見せる逞しい胸、それに続いて悩ましくも美しい線を描く腰、固く引き締まった腹部、そして……。
キャロルは思わず彼に背を向けて長い睫毛を伏せるのだった。
その部分だけは、今もまともに目を当てられない。
何度も彼女自身の体で受け入れ、それが押入る時の感触も逞しさもよく知っているはずなのに……。


9 Ψ(`▼´)Ψ
やがてイズミルが湯に体を沈めると、湯船の淵から大量の湯が勢いよく音を立てて溢れだす。
湯の中でしなやかな長い腕を泳がせて、彼はキャロルの白い体を引き寄せる。
キャロルが伏せていた目をそっと開けると、湯船の中で脚を組んだイズミルの膝の中で向き合う形で抱かれていた。

濡れた前髪を男らしい仕草で掻き揚げながらも、琥珀の瞳はキャロルの息を止めんばかりに強く射竦める。
唇も睫毛も触れそうな位の距離で見つめられて、キャロルは戸惑った。
湯が滴り、少し上気し始めたイズミルの貌は何気に悩ましく、いつにも増してなまめかしさを漂わせているように見える。

気まずくて何か話そうと思うのに、舌の根元がもつれるようで言葉に詰る。息苦しい。
言葉ない二人の間を、薄茶色の長い髪と、黄金の長い髪が水面で交わりながらゆらゆらと流れていく。

イズミルは湯に濡れて桜色に染まるキャロルの肌理こまかな肌を愛でるように見つめていたが、やがて大きな両手がキャロルの肌をゆっくりと撫でるように這い回る。
「この湯はそなたの肌を美しくする効能がある……こうやって、擦り込むと良いのだぞ」
トロリとして何ともいえぬ芳香を漂わす湯を、イズミルは手のひらで救いキャロルの背中から首筋、細い腕、ふくよかな丸みを帯びた乳房にかけて、優しく擦り込んでゆく。
熱い湯がじわじわと肌を外側から温め、彼の愛撫が体の内部を熱く蕩けさせる。

両の乳房を下から持ち上げるように丹念に撫で回され、キャロルは早くも息を弾ませ始めた。
「……あっ……っ…んっ……」
先端を彩る小さな蕾はひとりでに固さを増していたが、イズミルはそこには敢えて触れず、乳房全体を蕩けるほど柔らかに揉み解す。
眉根を寄せて苦しげに喘ぐキャロルをさも満足げに見下ろしながら、イズミルは彼女の臀部にも手を伸ばし揉みたてた後、尻の双丘を割り広げるようにしてその谷間を指先で何度もなぞった。
恥かしい場所を探られて、キャロルはイヤイヤをするように首を振った。
彼の長い指先がいたずらに秘密の花びらや真珠までもを掠めるものだから、キャロルはもう堪らない……。


10 Ψ(`▼´)Ψ
股間に走る甘い痺れにつられツンと上を向いて痛いほどに勃ちあがる乳房の頂は、湯に濡れて艶やかに潤んでいる。
イズミルに向かって、愛して欲しいと言わんばかりに震えているのだ。
あまりに色めいて男を誘うその風情に負けて、イズミルは思わず薔薇色の先端を口に含んでしまう。
舌のざらついた部分で色づいた輪郭を舐め、固い頂を交互に吸い立ててやる。
キャロルは啜り泣きを唇で押し殺し、むず痒く痺れる下腹をイズミルの腹部に押し付けたが、それは昂ぶったイズミルの自身で脚の間をイヤというほど撫で回される結果を招じてしまった。
時折、その先端が女の奥深い処を優しく突いて侵入しそうになると、その度にキャロルはビクリと腰を震わせる。
しかしそんなキャロルをからかうように、イズミルはそこを何度も突付いて刺激を与えては、最後には腰を引いてしまうのだ。
半開きになった赫い唇からは甘い苦痛に耐える涙声が途切れることなく零れ、濡れた小さな舌先はしどけなく口づけを求め、男の目には何とも淫らに映る。
その妖艶な様子をイズミルは口端に薄笑いを浮かべて眺めていた。
好きな様に愛しい娘の体を弄びながら。

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