『 祈り 』 1 繁栄するエジプトの神殿の中、私は祈る。 エジプトを守る神々に、空に大地に、聖なる恵みを与えるナイルに感謝捧げながら。 祈りを捧げることで私の人生は終わるだろう。 でも後悔はない。 黄金の髪を持つ少女が、人を信じきれない私に教えてくれた人温かな感情を、今の私は信じる事ができ、もっと真心を込めて祈ることができる。 そして私はあなた為にも祈ろう、王妃キャロル・・・・・。 私には声なき声が聴こえる。 それはどう話せばよいのか、私にはわからない。 草花や動物の声を、風が感じ取り、それを私に囁くとでも言うのだろうか? 遠く離れた場所での出来事も、風がそっと運んでくるように私に教える。 だから、黄金の髪の娘がナイルに現れたことも、若く美しいファラオがその娘を酷く気に入り、怪我した女奴隷を助けるのと引き換えに侍女となったことも、神殿にいながら知っていたのだ。 でも私には何の関係もないだろうと思っていた。 神殿の内庭でその姿を見るまで。 2 人気のない神殿の内庭は、私が一人で過ごすお気に入りの場所だった。 そこに美しく着飾らされた黄金の髪の娘がいた。 風が教えてくれたようにナイルのように青い瞳、透けるような白い肌、まだ子供っぽいけれど人目を引く可愛らしい顔立ち。 でも頬には涙の跡。 風が囁く、この娘はファラオに逆らい、ナフテラ様にも叱られたのだと。 「泣かないで」 自分でも驚いたことに、私は持っていた布を差し出し、黄金の髪の娘に声をかけたのだ。 「あ・・・ありがとう。」 その娘は布を受け取り、涙がおさまるまで一頻目をこすっていたけど、最後に大きく息を吐くとにっこり笑ってみせた。 「ごめんなさい、どこか一人で泣ける場所を探してたら、ここに入り込んじゃったの。 ここは何の場所?あなたの邪魔をしたのならごめんなさい。」 素直で何の邪気もない優しい声音に、私も何故だか体の力が抜けたのだわかった。 「ここは小さな神殿なの、あまり人は来ないところ。私は巫女という扱いなので、ここにいるの。」 「じゃあ、驚かせちゃったかしら?」 「いいえ、あなたがここに来るのは知ってたの、ファラオは炎のようなご気性の持ち主、あまり逆らわないほうがいいわ」 いつもなら、私の言葉に人々は気味悪く思い去っていく。なのに、この娘は逃げなかった。 私の言葉に黄金の髪の娘はきまりが悪そうだった。 「だってあんまりメンフィスが横暴なんですもの、私、間違った事は言っていないわ。」 ファラオを名で呼び、自分正しいと主張する、思わぬ気の強さ。 本当に風から聴いたとおりだったので、私の口から思わず笑い声が落ちた。 「変かしら?」首をかしげるその様子は幼い子のように愛らしかった。 その時、風が囁いた、ファラオのご帰還を知らせたので、立ち去るように教える私に彼女は慌てて小走りになりながら叫んだ。 「私はキャロルよ!またここに来てもいい?」 「いつでもどうぞ。」 キャロルの姿が見えなくなってから、私は自分が笑ってるのに気がついたのだ。 3 日が昇る。暗い夜空が万物を照らす光に消し去られ、新しい一日が始まる。 いつものように運び込まれた供物や花、香油や聖水を神々に捧げ、香を焚いて祈る。 祈る事は私の役目であり、苦しみであり、喜びでもある。 ただ風の囁きを聴くことしかできないのに、それは私に様々な枷を負わせてきた。 全ての空を、大地を駆け巡る風に知らぬ事はない、起こった出来事を全て知っている。 どんなに離れた場所の事でも、人には知られたくない事であっても、それが国と国と勝敗を決める事であっても。 幼い頃それを口に出したが為に、私は実の両親ですら気味悪がられ捨てられた。 私に近寄る人は、私を利用し利益を得ようとする人ばかりだった。 そうでなければ遠巻きに気味悪がるかのどちらかだったので、私は人とは相容れない存在なのだと幼くしてわかったのだ。 ただ運良く捨てられた私を見つけたのが、宮殿で女官長を勤めておられるナフテラ様だったので、神殿に預けられこうして巫女扱いされて今に至っている。 ナフテラ様以外、私に何の隔てもなく接する人はいなかった。 でも初めて同じ年頃の少女が、私を奇異に思わず、邪気のない笑顔を向けた。 それは嬉しいこともであったけれど、随分と私を当惑させた。 神々の祝福を受けたような黄金の髪の少女が・・・・。 4 「こんにちは」 明るく邪気のない声音。 朗らかな表情でキャロルはこの神殿に姿を見せた。 ファラオはオベリスクの工事現場へ視察へとお出かけになられた隙に、キャロルはここにきたのだと、風は告げた。 「ここは神殿なのでしょう?昨日もお邪魔してごめんなさい」 「いいの、ここは人が来ないの、大きな神殿はあちらにあるでしょう?もともとここは捨て置かれてたところを私がお世話してるだけなの。」 「そうよかったわ、でもあなたは巫女なんでしょう?カプター大神官のところやアイシスのところじゃなくていいの?」 キャロルの問に、どう答えていいものかと私は返事に詰まってしまった。 ・・・・・風は全てを知っている、カプター大神官がどれほど黄金に執着しているか、どれほど野心を抱いているか知っている。 昔ナフテラ様に引き会わされた時、私にはカプター大神官の周りに纏いつくどす黒い黒い風を見てその場に倒れてしまったのだ。 アイシス様の時にも、体に絡みつく紅蓮の炎のような風を見て、やはり私は倒れてしまった。 「私は一人の方がいいの、キャロルだって私の事、気味悪く感じないの?」 私の問にキャロルの方こそが驚いたらしい。 「どうして?私あなたと仲良くなりたいわ、あなたさえよかったら」 キャロルの手が私の手を取る、温かで皇かな手。何にもましてキャロルからは温かな日の光のようなものを感じてしまう。 「あなただけよ、私が泣いても責めないで親切にしてくれたのは。ナフテラだって、メンフィスの言うとおりなさいって言うだけなんだもの。」 キャロルの様子が私の警戒心を溶かしてしまう、勿論風もキャロルは怖がらなくていいと教えてくれてる。 「あなたの名も聞いてなかったわね、なんていうの?」 いいのだろうか?私の決まった日常が変化していく・・・・・。 でも私もそれを望んでいるのかもしれない。 「私の名はハプト・・・・。でも皆はただ巫女と呼んでいるわ。」 5 キャロルは時折この神殿にやってきて、私と取りとめのない話をしていった。 ファラオが横暴で威張ってばかりだと、私に膨れっ面を見せたかと思えば、神殿にある神々の像や壁画について尋ねたり、その表情は豊かで見ているのは楽しかった。 キャロルの朗らかで明るい声は、私の中にもこんな感情があったのかと驚くほどに我慢しきれないで笑い声が口から飛び出した。 「待って、キャロル、ナフテラ様がお見えだわ」 キャロルの話を遮って私は神殿の入り口へ向かい、ナフテラ様がお見えになるのを待った。 じきナフテラ様が果物を載せた皿を持ち現れた。 「息災ですか?ハプト」 穏やかな表情は昔私を拾われた頃とお変わりがない。威厳があって慈愛に満ちたお顔立ち。 「はい、ありがとうございます、ナフテラ様」 「ちゃんと食事していますか?無理はしてはいけませんよ、これはそなたに」と果物を渡された。 お優しいお心遣いを示してくださるのはこの方だけだ、といつも感謝している。 「まあ、キャロル、こんな所にいたのですね、ウナスが探していましたよ!」 キャロルの姿を見つけてほんの少し声音が厳しいものになった。 「でもナフテラ、今はメンフィスはいないじゃない、少しくらい私だって自由に過ごしたいわ。」 キャロルが私の方を助けてくれと言わんばかりの目で見るので、私は口を挟んだ。 「ここなら誰も参りません、キャロルも息抜きに来てるだけのようですし、どうかおとがめなさいますな。それよりも何か私に御用ではありませんか?」 その言葉に仕方ないとでも言うように溜め息を一つ吐かれたナフテラ様は、私に向き直り問われた。 「そうそう、ミヌーエは何時ごろ戻るかと思うて。」 風がすうっと頬を撫でる、私の脳裏にミヌーエ将軍が馬に跨ってる姿が見えた。 「先ほどお発ちになりました、日が暮れるまでにはお戻りでしょう。」 ナフテラ様はキャロルを連れて宮殿に戻ろうとしたけれど、キャロルが嫌がるので、じき戻るように言い含めるとお帰りになった。 「ねえ、ハプト、あなたの力は一体なあに?」 二人きりになるとキャロルは話を切り出した。 それは私達が今まで触れずにいたことだった。 6 「・・・・風はこの世の出来事を全て知っているわ、それにとってもおしゃべりなの・・・・。」 私は自分のことをキャロルに語った。 キャロルは吸い込まれそうな青い瞳で私を見つめ、真剣な表情で聞いていた。 「ハプト、私の事も話していい?私怖いわ、この世界に来てから、私は自分が知ってる歴史の知識の所為で、神の娘だと言われてるのよ、全然そうじゃないのに。私はただの学生なのよ、なのに、みんなを騙しているみたいで、とても辛いわ。」 悲痛な声音だった。キャロルはとても罪悪感に苦しんでいるようだった。 「汚水を清水に変えたとか、メンフィスをコブラの毒から救ったのだって、たまたま薬を持っていただけなのに。そのせいでみんなを騙してる、メンフィスだって私に侍女になれって・・・。ただこの髪と目のせいで珍しがってるだけ。誰も私を分かろうとはしない。」 私にはどうしてよいかわからなかった。これから先の未来が分かるわけでもない、人の心が読めるわけでもなく、癒してあげられるわけでもない。 本当に何の力もないのだ、改めて思い直した。 「・・・私には何の力もないわ、でもファラオがただ物珍しいだけで、あなたを側に置いてるわけではないと、風が話してる。あなたが優しくて思いやり深いからよ。私もあなたが好きよ。風もあなたが好きみたい。辛い事も在るかもしれないけど、あなたのその心がある限り、いい風が吹くわ。」 私の声とともにふわっと暖かく抱かれるように良い香りのする風が私達を包んだ。 「ほらね」 風が優しくキャロルの金色の髪を弄ぶ姿に、私の口元も綻んだ。 「・・・・・ありがとう、ありがとう、ハプト!私もあなたが好きよ。」 先ほどまで泣きそうな表情は何処へいったのか、キャロルは嬉しそうな笑顔を浮かべ、風と戯れるように手を振りかざしていた。 幼い子が遊ぶようなその姿は私まで楽しい気持ちにさせてくれた。 けれでもほんの少しだけ、私は体がだるくなったのを感じて、壁にもたれかかったのだ。 そんな事は初めてだったが、キャロルの笑顔がそれを忘れさせてしまった。 7 「・・・それでね、ハプト、メンフィスったらね、やっぱり痛いのを我慢してたのよ、 私がお薬をつけた布を当てた時の顔ったら!おかしかったのよ。」 キャロルのおしゃべりの対象はファラオになる事が多い。 無論お側に侍っているのだから、興味の対象となるのは避けられない事だろう。 「でもね、その後私がやっと笑ったって嬉しそうな顔するんですもの、もっと私の前で笑えって・・・。」 頬を紅く染めて恥かしそうに話す様子は、私にはよくわからないが、恋に落ちた娘のようだ。 「お、おかしいわよね、メンフィスって・・・。」 自分の金髪を弄ぶ姿は私には照れ隠しのようにしか見えなかったが、それを指摘するのはやめておいた。 可愛いキャロル、キャロルの心がファラオに傾いていっているのがよくわかる。 それでも自分を侍女として侍らせていることへの反感、そしてキャロルの言う事を信じるならば、自分の世界ではない人間を愛する事などはしない、と戒めているのにも関らず、それでも人の心は止められぬものでもあるのだと、返ってファラオへの恋心を募らせている・・・・。 それを止めたいと思う心と、それを許さぬ理性の間で、キャロルは人知れず苦しんでいるようだった。 「キャロル、ウナス様がお探ししているわ、何か約束があったのではなくて?」 風が囁いた事を告げると、キャロルは大急ぎで身仕舞を正した。 「これから市場を見せてもらう約束なのよ!帰ってきたらまたくるわね。」 私に手を振りながらキャロルは入り口へと向かった。 「気をつけていってらっしゃい、他国からの客人も多いから」 「わかったわ、じゃあ、いってくるわね!」 足取りも軽く裾を翻してキャロルは駆けていった。 キャロルを見送りながら、不安を胸が過ぎっていくのを感じないわけにはいかなかった。 でも、キャロルの周りにいらっしゃるナフテラ様もウナス様も、そしてメンフィス様もきっと同じように感じていらっしゃるだろうと想像すると、まるでやんちゃな子を持った母親のような立場に思わず一人クスクスと笑えてしまった。 8 「キャロル!行ってはだめ!」 キャロルが何者かに連れ去られる場面が脳裏に浮かんで、私は驚いて寝台の上に起き上がった。 なんと言う事!キャロルを連れ去った男はヒッタイトの王子だったのだ! 風が囁く、キャロルは船に乗せられ、ヒッタイトへと連れ去られようとしている! ああ、どうしたらいいのだろう? キャロルは茶化して笑っていたけれど、ファラオがキャロルを手放す気がないのは周知の事実だ。 憎からず思って、いや、王妃にしようとさえ思っているのだと皆が噂してるのも知っている。 あの炎のようなファラオなら相手が誰であろうと、キャロルを取り返すに違いない。 大群を引き連れヒッタイトに攻め込むのも躊躇しないはず。 戦が起こるわ、キャロルの為に。一体私に何ができるだろう・・・・。 どうしていいかわからないで途方にくれていた時、風がいつもより荒々しく告げた。 この神殿に人が向かっている、ナフテラ様が大急ぎで向かわれている。 寝台を降りて入り口に向かわなければ。 「ハプト!ハプト!キャロルはどこです!?夕方から姿が見えないのです! あなたのところならよいのですが・・・・。キャロルのいた部屋の周りで衛兵が殺されてるのです! キャロルはどこです!?」 ナフテラ様が矢継ぎ早に問い掛けられる、キャロルを心配されて、お顔の色までなくされている。 どう答えようかと戸惑っている私の顔を見て悟られたのだろう、ナフテラ様の表情が凍りついた。 「・・・いないのですね?おおっ、一体どこへ・・・・。無事ならば・・・・。ハプト、そなたなら分かるはず! キャロルはどうしたのですか?」 どうしよう・・・。私の言葉一つで戦になってしまうかもしれない。でも事実を告げないわけにもいかない。 「・・・・ナフテラ様、キャロルが・・・・ヒッタイトへ連れ去られました・・・・。」 9 「今、なんと申した!もう一度申さぬか!」 荒々しく物音を立てて近づいてくるのは若く美しい猛々しいファラオだった。 先ほどからこの神殿の周りに大勢の気配がしていたのは、ファラオがこちらに向かった為だったのだ。 流石に小さくとも神殿なので、ファラオの他にはミヌーエ将軍や護衛隊長のウナス様、カプター大神官、イムホテップ宰相、そして女王アイシスが居並ぶだけに留まった。 御付きの者は入り口付近で待機をしている。 キャロルが連れ去られた怒りに、ファラオの周りに赤と黄金の混じったような凄まじく威圧感のある風が取り巻いて見える。 そしてそれは無言で私の体を締め付けるような息苦しさを私に与えるばかり。 「巫女とやら、キャロルはどうしているのだ!ヒッタイトだと!?一体誰が手引きしたと言うのだ!申さぬか!」 まさに吼えるといった表現が合うファラオ激しい憤りに、ナフテラ様が私の前に立ちふさがる。 「お待ちくださいませ、メンフィス様!ハプトは御前に出る事に慣れておりませぬ」 「だが、巫女とやらは、どのような遠方でのことも分かるというではないか!そうであろう、ミヌーエ!」 ファラオがミヌーエ将軍に振り返ると、ミヌーエ将軍はナフテラ様の方をちらりと見てから答えた。 「確かに、この小さな神殿に”遠見の巫女”と二つ名のついた者がおり、信頼に足りるのは聞いております。」 「では申せ!キャロルはどうした!」 こんなに威圧感のある方々のお側で、私は自分の力が抜けていくような、目の前がくらくらするような気持ちを味わっていて、立っているのがやっとの状態だったが、なんとか口を開いた。 「・・・・キャロルは商人に扮したイズミル王子に段され、連れ去られました。今、船がヒッタイトへ向かっております。お早く船をお出しになれば、間髪おかず到着できます。」 「なんと、イズミルめがキャロルを浚っただと!許さぬ!ミヌーエ出陣だ!我らもすぐ後を追うぞ!」 ファラオは続ける、女王アイシスが顔色を変えたことすら気に止めないで。 「キャロルはファラオたる私のものだ!ゆくゆくは寵姫に、いや、王妃にするつもりでおったに!」 10 「なりませぬ!あのような小娘のために、戦をするというのですか?メンフィス!」 女王アイシスは私を睨みつけた。取り巻く風が赤黒くどす黒く、私から力を奪っていきそうだ。 「こんな巫女の戯言など信ずるなどとは、あなたらしくありませぬ。放って置けばよいではありませんか。」 女王アイシスも下エジプトを司る神官、私のことなど眼中にも入らないだろう。 お美しいお顔が憎しみに歪む、そう、アイシス様はキャロルを憎んでいらっしゃるのだ。 「決めたのだ!キャロルは我が妃にすると!ならば即刻奪還せねばならぬ!巫女とやら、我とともに来い、ヒッタイトの様子を私に知らせよ!」 なんということ!この私が戦に同行するなんて!私は祈る事しかできない、風の囁きを聴くだけで精一杯。 あんな大勢の中では私は人の出す気配に押されて倒れてしまう! 「おやめください!ハプトには無理でございます!神々に仕える巫女を戦に連れだそうなどと!」 ナフテラ様が必死に庇ってくださる。 今ですらカプター大神官や女王アイシスを取り巻く風で気を抜くと倒れそうだ。 「しかし船を出しても風向きがどうか、確認しておりません、すぐ追いつけるか否か・・・。」 ミヌーエ将軍の言葉になんとか私は面を上げ声を出した。 「いいえ、必ずや風はエジプト軍に力を貸すことでしょう、私が祈ります。ですが、私は戦に荷担はできませぬ。せいぜいわかるのはキャロルが捕らわれている場所くらいです。それならお教えできます。」 何か、私の印が必要だ、風に乗せた私の声が届く為の印・・・・。こんな事初めてだからわからない。 私はミヌーエ将軍から剣を借り、指先を切り滲み出した血をミヌーエ将軍の両耳に少しつけた。 「お側にいなくても私の声が届きます、キャロルの居場所をお教えします、どうかキャロルをお助けください。」 「ではキャロルを取り戻す!戦の準備を致せ!」 ファラオの声に皆が慌ただしく動き出す。もう止められない。戦の用意をする人、祈りを捧げる人に分かれて。 「祈ります、私、祈ります、キャロルが無事にエジプトへ戻って来れるように・・・・。」 そう、祈る事は私の全てなのだ。祈りこそ風との対話なのだ、どうか願いを聞いて・・・・。 |