『 ホルスの翼 』


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力強く、凛としたレイアスの言葉が響く。

「時は未来に向かって流れ続けていることを。
私が焦ろうが悩もうが関係なく確実に流れていく。
だからこそ、時は決して私を見捨てはしないと信じられた。
いつか必ず、自分が何者なのかを知る時が来る。
時が来れば…私は自分に与えられた運命を掴み取りたい。
命を与えられた自分の責任を果たすために。
運命の中に戻って、そこで自分にどれほどのことが出来るか試してみたい。
今はその日のために力を蓄えるべき時なのだと知ったのだ」

決意をこめた黒い瞳が鮮やかに煌めくのをキャロルは見ていた・・・目が離せなかった。
ひと目でキャロルを魅了したレイアスの美しさは、姿形だけではなかったことに気付いたのだった。
 深い内省の中で厳しいまでに自分を律していた強さ、その中から生まれた包容力、自らの運命を掴もうとする姿勢・・・レイアスの魂が命じる生き方こそが美しいのだ。
 そして今も煌めいている黒曜石のような瞳。
それは光を受けて輝いているだけではなく、凛としたレイアスの心が映し出されているからこその輝き。
 
 キャロルは感動し、憧れ、そして小さく芽生えたばかりだった恋を燃え上がらせた。
(ああ、私はレイアスが好き。あなたが好き!)
数千年の時の隔たりも、アメリカへ帰りたいという願いも一気に断ち切るほどの想い。
目眩のような激しい恋に支配されて、このままレイアスに縋りついてしまいそうだった。
手はレイアスの大きな手に包まれたままである。
そこから伝わる温もりがたまらなく愛しい・・・


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恋の想いを青い瞳に湛えてキャロルはレイアスを見上げる。
(どうしよう…このままもう伝えてしまいたい・・・)
こみ上げる想いに耐えかねて愛の言葉が溢れ出そうとした瞬間、影のような不安が脳裏を掠めてキャロルを迷わせた。
 助けたばかりの、得体の知れない私の想いを聞いても困るだけではないだろうか。
 それだけではない。もし嫌われてしまったら、迷惑に思われたら、彼の傍にさえいられなくなったら・・・?そんなことには耐えられない。

レイアスもまた、キャロルの瞳に浮かんだ色に囚われていた。
青が深みを増して甘やかに輝いたかと思えば、瞬く間に曇ってしまったその瞳。
かつて見たことのないその甘さが我知らず胸の鼓動を早まらせ、それが何なのか確かめる間もなく消えてしまった。
 あれは一体何であったのか・・・不思議な疼きが体に残る。

真っ直ぐに向けられるレイアスの視線に心のすべてが見透かされそうで、キャロルは懸命に心を押さえ込む。
(私の目を見られてはいけない。レイアスへの思慕が映っているに違いないもの)
「キャロル?」
優しく、けれどもこの沈黙に当惑したようなレイアスの声がする。

キャロルは重ねられていた手を夢中で引っ込めた。
「どうした?」
あまりに荒々しく手を振り払われたレイアスは驚いてキャロル見るが、横を向いてしまったその表情を読み取ることが出来ない。
「なんでも…なんでもないの。今日は少し疲れたみたい。おやすみなさい」
キャロルはようやくそれだけ言って、小走りに家へと入っていった。


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 次の日からレイアスとキャロルは、ラバルドの指導の下で共に勉強をはじめた。
ラバルドが部屋に入ると、二人は子供のように仲良く並んで座って待っている。
眉目秀麗な青年と陽に透けるように美しい娘の組み合わせを「子供のよう」と感じた自分の考えをラバルドは可笑しく思ったが、二人には未だそんな清冽さが漂う。
 しかし、当人達の心には複雑な糸が絡まっていた。

 ラバルドから事情を聞いたマイアはキャロルのためにエジプトの衣装を用意した。
白く薄い上質の亜麻布はキャロルがかつてカイロ博物館で見た貴族の衣装そのもので、1度着てみたいと憧れを持っていたものだった。
胸のすぐ下で絞られたデザインは細腰から脚へと柔らかい曲線を描いてまつわり、女らしい魅力を際立たせている。

 キャロルは古代エジプトの衣装を纏えたことに喜びを感じながら改めて自分の体を見回してみると、薄い生地を通して仄かに胸のふくらみや太ももの曲線が透けて見えた。
 恥ずかしさにこの衣装を着て人前に…しかもレイアスの前に出ることを躊躇ったものの、同時に見て欲しいような誘惑にかられる。
(この姿を見たら・・・少しは女として意識してくれるかしら)

 昨夜、キャロルはなかなか寝つけなかった。
燃え上がった恋の切なさが胸を焦がし、レイアスの面影ばかりが浮かんでくる。
目を閉じれば閉じたで手の熱さや腕の逞しさ、そしてわずかに触れた唇のぬくもりを思い出してますます体が火照って眠れない。
 あの手に…唇に…もう1度触れることが出来たらどんな幸せだろう。
 レイアスにも自分と同じ切なさを味わって欲しい。私に触れたいと思ってくれるなら…キャロルは思わず自分で自分を抱き締め、夜を過ごしたのだった。


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 思い切って勉強部屋に入ると、すでにレイアスは石版を読みながら待っていた。
差し込む朝日が後光のように降りかかって端麗なその容姿を浮かび上がらせ、キャロルの胸にますます愛しさを呼び起こす。
「レイアス、おはよう」
「おはよう」
ゆっくりとレイアスは顔を上げ、黒曜石の瞳がキャロルの姿を映す。

花開くような笑顔で戸口に立っているキャロルを見て、レイアスは安堵の息を漏らした。
(急に手を振り払われた時には嫌われたかと思ったが…そうではなかったか。
女性には気軽に手を触れてはならないものなのかもしれない)
キャロルが昨夜寝付けなかったのと同様、レイアスもキャロルの行動に戸惑っていたのだった。

「この衣装をマイアが用意してくれたの。どう?似合っているかしら」
そう言いながらキャロルはレイアスのすぐ横まで近づき、まるで抱きしめるかのように両腕を広げてねだるような視線を投げる。
 その途端キャロルの体から仄かに甘い女の香りが漂い、レイアスは一瞬目を固く閉じた。
(何だ…この痛みは…?)
キャロルに出会って以来、時おり自分を襲う身の置き所がないような痛み。
それは不快さで彼を苛むのではなく、例えようのない甘美さで全身に広がっていく。

 ようやくキャロルを見ると、白く薄いリネンを纏った姿はさながらナイルに咲く蓮の花のようにたおやかで美しい。
「ああ…似合う」
(これ以上私に何が言える…)
これ以上口を開けば、酔わすほどに甘美な痛みの理由を探ってしまいそうだった。
 
(似合うって…ろくに私を見もしないで)
キャロルは小さな溜息をついてレイアスの横に座り、気を取り直して一緒に石版を眺めた。
そこにラバルドが訪れ、お互いに安堵を感じて勉強を始めたのだった。


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 ラバルドとレイアスの知識の深さは素晴らしいものだった。
エジプト国内のことのみならず近隣国の情勢や文化・宗教にまで幅広く精通しており、2人から溢れ出る知識の泉をキャロルは存分に味わう幸せを得た。
 特にレイアスの慧眼は時にラバルドの言葉を詰まらせるほどで、得たばかりの知識を更に深く掘り進めてしっかりと我が物にする才覚は秀抜だった。
 
 一方キャロルも静かに聞いていられるはずもなく、2人に向けて次々に質問を投げかける。
初めこそ遠慮がちに2人の意見を求めていたものの、やがて熱心な勉学意欲とエジプトを中心とするオリエント世界全体への興味が解き放たれ、レイアスとは別の観点から意見を述べるようになった。
 絶対王政とは対照的ともいえる20世紀のアメリカで生きてきたキャロルの自由な考えは、レイアスとラバルドに新しい刺激と興奮を与え3人の論議は白熱する。
 過去の様々な経験から語るラバルド、外出もままならないながらラバルドやアリフから聞く現情勢を的確に見極め洞察を深めるレイアス、遥か未来に解明された様々な教養と柔軟な発想を持つキャロル。
 それぞれの特性が論議を比類なく充実したものとし、ラバルドさえ年柄もなく興奮した時間を日々過ごしていた。
 
(これはこれは…キャロル様を見極めようと思っていたが大したものだ。未来の知識に鋭い観察力、それにご自身の意見をしっかり持っておられる。これほどに聡く貴重な娘だったとは)
キャロルの言動から星のお告げの手がかりを探ろうという意図を持っていたラバルドだったが、いまや2人の口から出る言葉に感嘆するばかりである。
そして叡智とも呼べるキャロルの知識に、かすかな希望の徴が大きく膨らんでいくのを感じていた。
(メンフィス様の若くしての非業の死、そしてレイアス様のこの境遇…やはりこの娘こそが王家の流れに逆らってでも変え得ることが出来るかもしれぬ)

 ラバルドは久方ぶりに宰相イムホテップへと書状をしたためた。
星が再び流れたこと、ある美しい娘の出現、それによって何かが変わろうとする胎動が感じられること…レイアスの名前こそ出さないものの心しておいて欲しいと付け加えて早馬に託し、毎日神殿で祈りを捧げるのだった。


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 ラバルドが家に来ることが出来ない日には、レイアスが師となってキャロルに基礎的な知識を教えていた。
キャロルは何にでも興味を示し、ヒエログリフの書き方、外交語であるアッカド語などの語学、果てはピラミッド建築の計算式や、巨大神殿の建築方法にまで範囲は広がる。
 砂に水がしみ込むように覚えていくキャロルはいつも頬を薔薇色に染め、青い瞳を輝かせて熱心に学ぶこの上なく愛らしい生徒だった。
 
 夜は大抵レイアスとアリフが連れ立って遠乗りへと出かけ、月が明るい日には剣の稽古をして快い疲労感と共に夜半帰ってくることが多かった。
 キャロルとマイアはささやかな夜食を用意して2人の帰りを待ち、揃って1日の出来事など楽しく語り合う。

「まったく、俺はこれでも町で1番の剣士なんだぜ」
アリフはがっしりとした腕を大げさに広げて、ほとほと参ったというように言う。
「知ってるか、キャロル?俺はナスルの剣術大会でここ数年優勝してるんだ。
なにしろ俺が通っていた学校にはテーベ随一の武術学校で教師をしていたって人がいて、鍛えに鍛えられたんだぜ。この辺りの町や村で俺に敵う奴はまずいない。
町一番の剣士にして書記官であるアリフ様がその技術と知識を持って」
ここで腕をゆったりと組んでからかうような笑みを浮かべたレイアスに目をやりながら、
「手取り足取りレイアスに教えてやったのはいいが、その恩も忘れてこのザマだ」
うっすらと血の滲んだ刀傷を見せる。
「出来の良い生徒をもったことを喜べよ、せ・んせ・い」
そうレイアスも大げさに応じて、皆で笑いに興じるのだった。


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 こうしたレイアスの姿にマイアも喜びを感じていた。
これまでのレイアスの表情にはどこか翳りがあり、メディナ王妃そっくりの涼しげな黒曜石の瞳に焦れたような影があるのをマイアは悲しく感じずにはいられなかった。
 何度、真実を告げようと思ったことだろう。
これほどに聡明で、美しい容貌にも恵まれ、神からの愛を一身に受けたかと思われるほどのレイアス。
世に出る機会さえあれば必ずや何事かを立派に成し遂げるであろう彼を、このまま塀に囲まれた小さな家で埋もれさせてしまうことが堪らなかった。
 レイアスになら真実を告げても、それを乗り越えていくだけの力がある。
そう思って幾度ラバルド神官と相談しても行き着く答えは同じであり、他に道はありそうになかった。

しかしキャロルがこの家に来てから翳りの表情は消え、マイアを不安にさせていた焦れたような影も見られなくなった。
瞳には思い出の中の王妃よりも力強い光が宿るようになり、立ち居振る舞いも毅然として自信に満ちているようにさえ感じられる。

(キャロルの存在がレイアス様を変えたのでしょう)
マイアはレイアスがキャロルを見る時の瞳にも気が付いていた。
愛しさと切なさが綯い交ぜになったようなその視線…マイアにはその訳がわかるような気がした。

 キャロルは初めてこの家に来た日とは別人のように生き生きとし、もう悲しげな顔を見せることもなく毎日を味わい尽くすがごとく楽しんでいるようだった。
 珍しい美しさを持った容姿とは別に、生命力に溢れた息吹ともいうようなものが全身から感じられマイアから見てさえ眩しいほどに輝いている。
 ここに来るまでは良い生活をしていたのか料理や炊事といった仕事には慣れていなかったが、自ら教えを請うては精一杯手伝って娘のいないマイアを喜ばせた。
 いつまでもこの幸せが続くよう、マイアも願わずにはいられなかった。


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 この間にもキャロルはレイアスへの恋を深めていった。
日毎に現れる新しい魅力…それはレイアスの言葉であったり、表情や仕草であったりするのだが、どんな小さなことでもキャロルの心を掻き乱して切なくさせる。
 もう目に溢れているだろう思慕を隠すことも出来ず、レイアスに魅かれていく自分をどうしようもない…
(愛している、そう言ってしまいたい。レイアスがいるから私はここでこんなにも幸せなんだわ。
一緒にいられるなら20世紀も家族も忘れられる。いいえ、それよりもあなたの方が大切なの…)

 だが、どうしても想いを告げることが出来ない理由があった。
ラバルド神官が訪れる度に、レイアスは必ず呪いを解く方法が見つかったかどうか尋ねるのだった。
それが自分のことを慮っての事とはわかっていても、つまりはキャロルが20世紀に帰ってもいいとレイアスが考えているということに他ならない気がする。
 時々レイアスの鮮やかな視線の中に甘やかな光を感じるような気がすることがあるものの、体の線も露なエジプトの衣装を身につけても興味を持つような様子もない態度から、自分が彼を想うゆえの幻だったと胸に恋を押さえ込む。
 想いを告げてレイアスに拒まれるだけならばまだいい。
 友人として傍にさえいられなくなったら…
何よりもレイアスの傍にいたいという願いがキャロルの恋を臆病にしていた。

 その恋心を勉強に於いての情熱に代えて熱心に学び、覚えている限りの20世紀の歴史学をレイアスとラバルドに話すことはキャロルの救いでもあった。
 この時ばかりはレイアス、最初は一線を引いていたかのようだったラバルド神官と打ち解けて対等に語り合えるのが嬉しく誇らしかった。

 もちろんレイアスと2人で勉強をする時には燃え上がる想いに胸が詰まる時もある。
だが間近にあるレイアスの端正な顔…手にした粘土板を見ているその瞳に長い睫が影を落とし、没頭している彼をその間は存分に見ていられた。
 キャロルは想いを押し隠しても、生徒として傍にいられる事を幸せに感じるほどレイアスを愛するようになっていたのだった。


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 ある日、レイアスとキャロルはエジプトの外交政策について論じ合っていた。
レイアスがヒッタイトやバビロニアといった大国との関係を重要視するのに対して、キャロルは後に力をつけてくるアッシリアやエーゲ海の国々と友好を育てていくことを推奨する。
 2人は決して互いの持論を否定することはなく、様々な観点から引き合わせて最も利になりそうな接点を見つけ出す。
まるで国家の一大事を解決するかのように没頭し、結論が出た頃には顔を見合わせて笑うのだった。

「それにしてもキャロル、そなたは猛烈な勉強家だな」
レイアスは椅子から立ち上がって、逞しくすらりとした腕を伸ばしながら話しかける。
 キャロルにとってこの時間が貴重なものであると同じく、レイアスにとってもかけがえのないものとなっていた。
いつも自分を焦がすようだった物思いは取り払われたように消え、清々しい気持ちさえする。
こんな心境に辿り着けたのも、目の前で微笑んでいるキャロルの力なのだと十分にわかっていた。
 
 薄い衣装の中から浮かび上がるか細く、けれども丸みをおびた肩、柔らかくふくらんだ胸、いかにも女らしい腰から脚への流れるような線…
 最初にその姿を見た時には息が詰まるような気がして、ろくに言葉をかけることも出来なかった。
日が過ぎて見慣れつつある今も、陽に透けるキャロルを見ると体の中に沸き立つものを感じる。
 それ以上にレイアスを捉えたのが、生命力に溢れ、周囲を鮮やかに彩るような彼女の内から湧き出す美しさだった。
あまりに生き生きとした輝きは眩しいほどで、時にレイアスの心さえも照らし出す。

 キャロルが20世紀に帰る時が来たら。そう考えると胸に軋むような痛みが襲う。
だが酔わすような甘美さにも、軋む痛みにもレイアスはあえて名を与えずにいた。
ただキャロルが大切でならず、共にいたかった。


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「だって興味が尽きることはないんですもの」
名残惜しそうに一瞥を投げてからキャロルは地図を片付ける。
「知りたかったこと、知っていたけど事実とは違っていたことがどんどん明かされるのよ。
学ばずにはいられないわ!」
「アメリカでもそれほどに根を詰めて勉強していたのか?」
邪気のない笑みを見せるキャロルから目を離せずにレイアスが問うと、その当時を思い出したのかくすくすと悪戯っぽい笑いへと表情が変わる。
「そうなの。夢中になると時間を忘れてしまって、よくライアン兄さんに叱られたわ。
女の子がそんなに勉強ばっかりするなんて可愛くないって」

「兄がいるのか。さぞかし会いたいことだろうな…」
レイアスの言葉にキャロルははっとする。
(いけない、家族のことは言わないようにしていたのに)

「ええ…会いたいわ…」
でも。その先に続く言葉をキャロルは噛み締める。
兄さんに会うよりも、ずっとあなたの傍にいたい。素直にそう言えたらどんなにいいだろう。
本当の気持ちは言葉にならず、取り戻せない言葉が後悔となって押し寄せた。
しかしレイアスの表情にかつて漂っていた寂しさは感じられず、キャロルには温かな眼差しが注がれている。

「私にもたった一つだけ両親の思い出があるのだ」
そう言って、レイアスは胸に煌く黄金の首飾りを手にする。
キャロルが初めて彼に出会った時から片時も離さず身につけられているもので、あまりに見事な細工に何度も目を奪われたものだった。

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