『 妖しの恋 』 101 「このたびは王妃冊立おめでとうございます、義姉様。お兄様とますますお幸せそうね。ライアニウス王子も正式に王太子の地位にお登りになるんですもの。本当に心からお祝い申し上げますわ」 「ありがとう、ミタムン王女。でも冊立の式典が終われば、あなたは東方に行ってしまうんですもの。寂しいわ。・・・といっても素敵なだんな様と一緒ですもの、あなたは寂しくないわね」 芳紀二十歳、匂うばかりの美しさと犯しがたい気品を漂わせるヒッタイト王の寵厚い妃キャロルは先日、婚儀を終えたばかりの義妹ミタムンに微笑みかけた。 キャロルの言葉に頬を赤らめたミタムンは、国王イズミルの信厚い将軍ルカに降嫁したばかり。将軍はヒッタイトの東方領土統治のため、新たに太守の地位をも賜り、新妻と共に赴任するのである。夫に首っ丈の王女は、しおらしくまめまめと夫に仕え、人々を驚かせている。 ルカもまた、この妻を愛し、またしっかりと手綱を握り、水も漏らさぬ睦まじさであるという。 二人の女性はしばらく話に興じていたが、イズミルが部屋に入ってきたのをしおにミタムン王女は腰を上げた。 「時々はこちらにも戻ってきますわ、義姉様。お兄様、どうかお元気でね。 ・・・そうそう、仲の良すぎる夫婦にはかえって子供が出来にくいんですって。義姉様、たまにはお兄様を邪険になさいませ!そしたら今度、お目にかかるときはライアニウス王子にご兄弟が増えているかも!」 ミタムン王女は華やかに笑いながら出て行った。 102 イズミルは苦笑しながら、乙女のように顔を赤らめている妃を抱き寄せた。 「ライアニウスの兄弟・・・。なるほど私は不調法ゆえ、ミタムンに言われるまで気づかなかった」 「いやだ、イズミル・・・・。誰かが来たら?ライアニウスがやって来たら?」 「誰も来ぬよ・・・。国王の命令で王妃が大切な勤めに励んでいるのに。国王の血を享けた子供を産みだすという大事な勤め・・・」 ややあって。 国王は妻の相変わらず華奢な身体に手馴れた様子で衣装を着せ掛けてやりながら呟いた。 「そなたは私にいかなる魔法をかけたのやら。娶って手ずから女にしてやり、いく年にもなるのに愛しくてたまらぬ。このように妖しい心持になるとはな・・・」 妻のうなじに顔を埋めながらイズミルは胸のうちに呟く。この私が今は他の女のことなど忘れはて恋の奴隷に成り下がっているではないか、と。 キャロルは首をめぐらせて慣れ親しんだ唇にそっと口付けながら答えた。 「私たちはお互いがいて、はじめて一人前なのじゃないかしら?あなたは私の命、私はあなたの・・・」 「・・・命だ。何よりも愛しいキャロルよ。我らはひとつ命、ひとつ定めを生きるのだからな」 その言葉どおり、二人は長い年月を共に喜び、嘆き、生きて、やがて彼岸の国に旅立ったという・・・。 終 |