走れ
逃げろ
お前の物語はここで終わらせるわけにはいかない
運命の子よ
走れ
逃げのびよ
お前は再来
神の子の再来
こんなところで終わらせるわけには・・・いかない!!
命に変えても・・・
私が守る!!
そう・・・・・きこえたような気がした。
第一部
「お母さん!お父さん!」
子供の叫び声が響き渡る。
何事かと旅人は振り返るが、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
家族4人が、魔物に襲われている。
両親は子供2人を守るために魔物の前に立ちはだかり、子供に逃げろと言う。
「ブラスカ!ビアンカ!いいから逃げなさい!!」
銀髪の少年と少女に促すと父親は魔物に切りかかっていく。
母親は白魔道士らしく、父親の援助に回る。
「父さんと母さんを置いていけない!!」
「いいから走りなさい!!ブラスカを連れて早く!!」
傷ついた父親に回復魔法をかけながらいう母親に、仕方なしに幼い弟の手を握り駆け出す。
1匹の魔物がそれを見透かしたように2人に襲い掛かった。
「おねえちゃん!!」
弟を突き飛ばして攻撃魔法で一撃を交わした姉は、連続攻撃の前に血飛沫を上げて倒れた。
「おねえ・・・ちゃん・・・」
「ビアンカ!!!」
油断した母親の胸元を、魔物が切り裂く。
父親はすでに倒れていた。
「くっ・・・・・ビアンカ・・・・」
母親はよろめきながらも高位魔法・ホーリーで魔物を倒すと、残された我が子に襲い掛かろうとする
魔物の前に立ちはだかった。
「ああッ!」
「おかあさん!!」
母親の返り血を浴びた子供は、必死に母親を揺らす。
「・・・・ッ!」
最後の力を振り絞り、母親はその魔物にホーリーを唱える。
幻光虫が空を虚しく舞う。
「おかあさん!おかあさん!!」
「ブ・・・ブラスカ・・・・あ・・・たは・・・ユ・・・ナ・・・カ・・・まの・・・・・・生きる・・・のよ・・・・」
「・・・・・・・おかあさん・・・・・・・」
少年の瞳は色を失った。
走れ
逃げろ
お前の物語はここで終わらせるわけにはいかない
運命の子よ
走れ
逃げのびよ
お前は再来
神の子の再来
こんなところで終わらせるわけには・・・いかない!!
命に変えても・・・
私が守る!!
「なに?!サイフィア様が・・・魔物に?!」
薄い水色の髪をした歳若そうな男がぴく、と眉を吊り上げる。
「いつの話だ・・・!!サイフィア様は1週間も前にベベルから出ただろう!」
「・・・おそらくその直後に・・・。ベベルからマカラーニャへお戻りになる際に魔物の群れに襲われた
らしく・・・フローラ様も・・・殺された模様です・・・」
「フローラ様も?!」
ウェルスと呼ばれたその男は椅子から立ち上がり執事らしい男に詰め寄る。
「子供は?!サイフィア様の子供は?!!」
「・・・ビアンカ様はすでに・・・ブラスカ様は・・・かろうじて・・・」
「・・・・・なんて酷い事を・・・ッ・・・」
ウェルスは乱暴に服を脱ぎ、外着に着替え始めた。
「どこへ・・・?」
「決まっているだろう!ブラスカのところだ!叔母が死んだのに行かないバカがとこにいるんだ!」
「わかりました。私が案内致します」
「ブラスカはどうなってる?」
「はい。どうされますか?まだ引き取り手がいないそうですが・・・」
「俺がなる。俺が引き取る。俺の唯一の肉親だからな」
ウェルスが案内されたのはひとつの孤児院だった。
「何故サイフィア様の息子がこんな所に入れられるんだ・・・ッ!」
サイフィアは、エボンの中でも特に優れた剣術の持ち主で、エボン4老師の一人、マイカ
総老師のじきじきの護衛の1番手でもあった人物だった。
その方の息子が何故孤児院などに・・・。
「ウェルス様。あれです」
「ブラスカ・・・・」
「どうやら目の前で3人が惨殺されるのを見てしまったようで・・・
口が聞けなくなっているようです」
「・・・・・かわいそうに・・・・・」
そっと近寄る。
絶句した。
はじめてみる従兄弟。
銀髪に蒼い瞳。
幼い顔には、放心したままの表情が浮かぶ。
「これはウェルス様・・・」
孤児院の院長が頭を下げる。
「・・・ブラスカを引き取りに来た。書類をよろしく頼む」
「・・・・いいんですか?一生声が出ないかもしれませんよ?」
「当たり前だろう。目の前で親と姉を殺されたんだ」
そういってウェルスはブラスカのもとに歩み寄る。
「ブラスカ。私は君の従兄弟のウェルスと言うんだ。君を引き取りたいけどいいかな?」
「・・・・・」
「君より12歳年上だ。よろしくな」
頭を撫ででやるが、表情は変わらない。
院長の方へ戻り、書類にサインをした。
「8歳の子供には辛すぎたな・・・」
「ウェルス様だって12の頃ご両親を亡くされたではないですか」
「私は大丈夫だ。覚悟はある程度着いていたし・・・。でも少し不安だな」
ウェルスは苦笑しながらブラスカを見遣る。
「何がですか?」
「・・・・・子供が子供を育てられるかな・・・?」
「何をおっしゃいますか!ウェルス様はもう20ですぞ!立派な大人です」
「・・・そうか・・・」
ウェルスはブラスカの手を取った。
反応はない。
その顔が、ぼんやりとウェルスを見上げた。
「なんだい?」
薄く開かれた口から、聞こえないほどの小さな声が発せられた。
「・・・おかあさん・・・」
「・・・なんだって・・・?」
聞き返すが、少年は言葉を紡ぐ事はなかった。
スピラ一安全とされる、ベベル南地区。
聖獣エフレイエに保護されるこの地域はここ最近物騒な話題がひとつもない。
その南部の中心の大きな邸が、ウェルスの家だった。
父は前老師。母は魔道士。12年前にシンによって殺されたが、莫大な財産と
飛びぬけた才能故に若干20でありながらも老師の信頼の厚い男だった。
青年は今少年と共にその門をくぐった。
「ここが私の家だよブラスカ」
うつむいたままの少年に語りかけて、ウェルスは家の扉をひらく。
「おかえりなさいませウェルス様」
「ああ。この子の住む部屋を至急用意してくれ。これから私の弟のように接しなさい」
「はい。ウェルス様・・・ご用意が出来るまではどういたしましょうか?」
「ん・・・・そうだな。風呂に入れてやれ。孤児院の風呂は入った気がしないからな」
ポンポン、と頭を撫でてやり、コートを脱いでウェルスは自室へ向かおうとする。
その服をハシッと掴んで、ブラスカは離さなかった。
「・・・どうしたんだい??」
無言だが、真剣な顔つきに少し焦りながらウェルスは少年の言葉を待った。
「・・・・ウェルス様と離れたくない様子ですね」
クスクス、と笑う召使の言葉に首を傾げてしまう。
「私にも同い年くらいの子供がいますから」
「ああ・・・そうか・・・」
理解し、ウェルスは屈んでブラスカに言う。
「じゃあ一緒に入るか?」
無言のまま顔を強張らせて頷くブラスカに、思わず苦笑してしまった。
決して口が聞けないわけではない。
ショックと知らない大人大勢に囲まれて緊張していただけ。
ウェルスは小さい体を洗ってやりながらそう分析した。
「もう痒い所はないかい?」
ウェルスが問うと、小さく頷く。
後ろから見つめるウェルスにはこの上なく可愛い行為でしかなく。
思わずにやけながら小さい頭を洗っていた。
8歳にしては、少し小さい体付き。
自分もこれくらいの時は小さかったな・・・と思いながら頭をお湯で流してやる。
「よし、身体は自分で洗えるな?」
「・・・・・・」
コクッと頷くブラスカに苦笑して、自分は湯船に浸かる。
たどたどしい動きでスポンジを泡立てるブラスカの顔は真剣そのもの。
そんな表情ににこにこしながら、ふと腕に大きな傷があるのに気付いた。
「ブラスカ、その腕の傷どうしたんだい?」
言ってから後悔した。
ブラスカの表情が強張ったからだ。
「ごめん・・・嫌な事聞いちまったな・・・」
ブラスカは小さく首を横に振る。
「・・・・俺も両親をシンに殺された。ブラスカと一緒だ」
「・・・・・・」
「がんばろうな・・・」
ブラスカがウェルスを見上げた。
その瞳にうるうると涙が浮かぶ。ぐしゃっと顔が潰れて大泣きになった。
「うっ・・・うう・・・」
「ブラスカ・・・」
抱き締める。小さい子の背を擦りながら。
自分も両親の死を聞いたとき、泣けなかった。
ブラスカの母で、叔母であるフローラに抱き締められ背をさすられて自分も
涙した。
「ブラスカ・・・・・・強くなろうな・・・」
何分泣いていただろうか。ブラスカは真っ赤になった顔を隠すように肩口に顔を
こすりつけた。
「ブラスカ、もう上がってご飯にしようか?」
掌で涙を拭いてやり、バスタオルで鼻を拭いてやると、ブラスカは僅かながら微笑んだ。
「ありがとう。お兄ちゃん」
ブラスカがウェルスに初めて交わした言葉だった。
「おにいちゃん・・・か・・・」
言われた言葉に少しはにかみながら、ウェルスはブラスカの手を引いた。
横ですやすやと眠るブラスカの銀髪を触りながらウェルスは彼の寝顔を見ていた。
8歳にしては整った顔。可愛い。
素直にそう思った。それ故に、これからの彼の見の振りを真剣に考えなければならない。
僧兵にすればこの子は確実に男の餌食となってしまう。
それをさけるためには僧官、もしくは魔道士にしないといけない。
そうすれば自分の弟子としてそばにおけるからだ。
「おかあさん・・・・」
寝言にハッとして、その小さな手を握り締めてやった。
「ブラスカ・・・お前は俺が必ず守ってやる・・・!」
決意を胸に、ウェルスはその頭を撫でた。
翌日。
元気になったブラスカにベベルを見せようとウェルスは彼を外に連れ出した。
目立つ頭には毛糸の帽子をかぶせて。
ブラスカはその帽子をえらく気に入ったようで、うれしそうに帽子を押さえながら
走り回った。
昨日一日で口も聞かなかったブラスカの変わりように驚きながらもウェルスも
一日で彼を弟と思い始めた。
風も強くないのに帽子を押さえて走る姿に、一晩苦労して作ったかいがあったと
微笑みながら彼を追う。
「よお!・・・・なんだ、隠し子か?」
ポン、と肩を叩かれて振り返ると、茶髪に金の瞳の少年がとぼけた顔してたっていた。
「ステファン・・・・何言ってんだか・・・」
「よお、可愛いな、ボク」
頭を撫でられたからかどうかはわからないが、ブラスカはにこりと笑う。
「お・・・マジで可愛いな。なんて名前?」
「ブラスカです。おにいちゃんは?」
「ステファンっていうんだ。こいつのダチだ」
「ダチ?」
「お友達ってことだ」
「おにいちゃんのお友達なんだ」
手を握られて、ウェルスも頷く。
「お前くらいの歳から友達だったんだよ」
「ふーん」
「よぉ」
今度は背後から声がかかる。
振り返って、いつものくせで敬礼する。
ステファンも同じように敬礼し、しゃがんで頭を下げる。
その姿をみたブラスカは、よくわからなかったがウェルスと同じように
敬礼したみた。
3人の先には周りに数人の護衛をつけた、黒髪の男が立っていた。
護衛を撤収させて、ウェルスの肩をポンと叩く。
「気持ち悪いから頭上げろ」
「仕方ないだろ。お前老師なんだし」
顔を上げたウェルスにそろってステファンも顔を上げる。
ブラスカはよくわからない状況に、思わずウェルスの手を握り締めた。
「なんだウェルス。お前の子供か?」
「・・・・お前までそんなこと言わないでくれよ・・・」
「やっぱあんたもそう思うよな、老師」
老師と呼ばれた男はクック・・・と低い声で笑い、ブラスカに合わせて屈んだ。
「・・・もしかして、ブラスカ君かい?」
「うん。おにいさんは・・・?」
おにいちゃん・・・といわないのは彼が歳のわりには大人びているせいだろうか。
「俺はアーヴァインっていうんだ」
「こいつ、超えらいんだぜ?様付けしないとね」
「はい、アーヴァイン様」
にっこりと笑うブラスカにアーヴァインも思わず顔がにやけてしまう。
「ステファン、ブラスカ君と少し遊んでいてくれ」
「おいッス」
ブラスカをステファンに預けてウェルスの腕を引っ張るアーヴァイン。
「・・・・どうする気だ?お前、あの子育てる気か?」
「ああ。俺の従兄弟だ。血縁者の俺が育てる」
「・・・・マイカがこの子を探している。老師候補を探しているんだ」
「・・・・あの子はまだ8歳だぞ!いくらなんでも老師の修行は早すぎる」
「違う。あの髪の色だ。マイカがユウナレスカ様の再来だと騒いでいる」
あの人は銀髪が好きだからな・・・と呟く。
それ故に、ブラスカの父であるサイフィアを自分の護衛第一番手にしていたから。
「・・銀髪なだけだ。中身は普通の子供だし・・・それに男だ」
「奴には関係ないんだよ。銀髪なだけでマイカからしてみればいわば金の鶏だ。
一度会わせないとお前が罰を受けるぞ」
一体どんな罰だ。
だが老師である彼のいう事に間違いはない。
「・・・・・ご忠告ありがとう」
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