どんな時の中でも 



もうすぐ春がやってくる。
厳しい冬に終わりを告げる、春を運ぶ暖かい穏やかな風が
吹く季節になった。
寒かったのが嘘のように暖かい気候。
ティーダは船の甲板に寝転がり、蒼く続く空を見つめていた。
後ろの方で大声を出すジェクトとブラスカの声がする。
起き上がり後ろを見れば白のタンクトップに身を包んだジェクトが
釣りざおを垂らしているブラスカに嬉しそうに話し掛けている。
前を向けば、甲板のわずかな隙間に顔を突っ込んで横になっている
アーロン。
「横になってるとますますひどくなるよ?」
「……」
アーロンは無視したわけでなく、返事をしたくても出来ないようだ。
酔うのわかっててなんで付いて来るかな。
その答えは考えるまでもない。
最近、ジェクトとブラスカの仲が異様なまでに良い。
2人で楽しそうに笑ったり、遊びに行ったり。
時には帰ってこない日もあった。
ティーダは、ジェクトが自分の気を惹きたい、もしくは本当にブラスカと
つるんでいるのが楽しいのだろうと思い、あまり気にはしていなかった。
年も同じだし、子供がいるという点で話もあうのだろう。
が、アーロンは違うようだ。気になって気になって仕方がないらしい。
ティーダも、自分に構ってくれないという点ではジェクトに不満を抱い
ているのだが。まあ、別に我慢できる範囲だけれども。
「あはははは」
後ろじゃ魚が釣れて絶好調のブラスカが高い声を出して笑ってる。
アーロンはいじけた子供のように、起き上がって背中を丸くした。
「アーロン大丈夫?大丈夫なわけないか」
身体もだが、彼の場合は心が大丈夫でないだろう。
「………」
すっかりいじけてるアーロンに溜息をつく。
「アーロン。ちょっとさ、らしくないッスよ」
「どうせ俺はガキだ」
「は?」
「………」
アーロンがガキなら自分はなんなのだろう。
アーロンが死んだのは25。ジェクトとブラスカが死んだのは35。
アーロンが死人となって暮らした10年でアーロンが35に追いついても
彼らも同じく異界で10年歳を取っているから追いつけない……
永遠に自分は彼らから見たらガキ…という事だろうか…?
もしそうなら彼らにとって25歳も17歳も同じって事か。
再び溜息をつく。
「なんだかなぁ……」
空を見上げれば、真っ白な鳥が数羽、空に向かって飛んでいる。
やがてそれは空の彼方へ消えてゆく。
「転生……か」
いつの間にか空を見上げていたアーロンが呟く。
「転生?」
「ああ……。鳥となって空を越える。新しい生を受けるためにな…」
「ふうん……」
なんとなく嫌な予感が頭をよぎったティーダであった。













「…なぁ、どういうつもりなんスか?」
アーロンが寝静まった後、ティーダは居間で話込んでいる2人に
仕方なく話し掛けた。
「何がだい?」
「アーロンが…すっかりグレてるッスよ」
「ふうん…」
どうでもよさそうにいうブラスカの口元には隠し切れない笑み。
「…ブラスカさん、あのさ、アーロン困らせて何が楽しいわけ?」
少しムッとしたティーダは少しだけ強い口調でブラスカに言う。
またこの2人はアーロンをからかっているんだと確信したから。
ブラスカとジェクトは少し驚いた顔を浮かべたがすぐにいつもの顔に
戻った。
「あんた達の考えてる事、さっぱりわからないね。あんた達がそんな
態度なら、こっちにだってそれなりの考えがあるんだからね」
本当は何にも考えてなかったんだけど、そう強がりを言ってティーダは
2階で寝ているアーロンの部屋へと行った。



「…アーロン…起きてる??」
暗い部屋の主はやはり寝ているようで、返事の変わりに規則正しい
寝息が聞こえる。
が、部屋が異様に酒臭い。
いつも寝具をきっちりと着て寝ているアーロンがめずらしい事に寝具を
つけないで寝ていた。やけ酒でもあおってふて寝でもしたんだろう。
「……そうだ!」
ティーダはあの2人へのささやかな復讐を思いついた。
ジェクトとは気まずくなるだろうけども、これ以上アーロンが傷つくのを
見てられなかった。
ジェクトと同じくらいとまではいかないが、ティーダにとってアーロンも
大事な人だったから。
ティーダは衣服を脱ぎ捨て、残っている限りの酒を飲み尽くし、アーロン
の横に潜り込んだ。
酒のおかげですぐに眠くなった。久しぶりの人肌。ぬくぬくしてこれもまた
眠気を誘った。
作戦が成功する事を願って、ティーダも吸い込まれるように眠りについた。







異界に来て数年。
耳の割れるような声を耳元で出されたのは初めてだった。
「うわーーー!!!!」
「な、なに?!」
ティーダはびっくりして飛び起きた。
が、すぐに2人して頭を抱え込んだ。
「な、なんでティーダがここに…?!」
「な、なんでって言われても俺にもなんだか…」
頭を押さえてティーダは昨日の事を思い出し、とっさに口を開く。
「なんでって、昨日アーロンが俺の事……その……」
ごにょごにょと口篭もるのも忘れない。
なんて名演技なんだろうとティーダは頭の中でガッツポーズをした。
「は?俺が?お前と?」
惚けた…というよりも本気で意味のわかっていないアーロンにはめた…
と思いながらティーダはわざとらしくない程度に(無理矢理)頬を染めて
頷いてみせた。
「それは…その……」
丸々と見つめていた目をそらして頭をかくアーロンは、やがてまたこちらを
向いて顔を真っ赤にしながらティーダに頭を下げた。
「すまん」
「え?」
「俺が悪かった。…きっと、人肌が恋しかったんだろう…。申し訳ない…」
「そ、そんな謝らなくたっていいよ!俺もその…恋しかったし…」
嘘なのに謝られるのは気分が悪い。だが、人肌が恋しかったのは
本当だった。
遅くまでブラスカと遊ぶジェクトとは同じ布団で寝てはいたが、微妙な距離
を保ってジェクトは寝ていたし、夜遅くにベッドに入るジェクトと、ベッドの中
で唯一顔をあわせるのは朝食を作るために起きる朝のみ。
夜の関係はしばらくない。
そうもなければ人肌が恋しくなるのも当たり前だろう。
ぼんやりと視線がぼやけてきて、自分が泣いていることに気付く。
「あ、あれ……」
とっさに顔を覆うが、一度流れ出した涙は止まることをしらない。
「お前……まさかジェクトと……」
次にアーロンの口から出た、小さい言葉にティーダは首を振った。
「ううん…。別れてはないけど……似たようなもんかも。あはは…」
乾いた笑いがますます自分の感情を煽り、ティーダの涙は止まらずに
流れつづけた。
「何を笑っている…馬鹿が」
急に胸に抱かれ暖かい人肌にさらに涙は大粒になってきてしまう。
我慢できる程度の感情が、一気に逆上して爆発したみたいにティーダは
延々と泣きつづけた。
アーロンはその間、ずっとティーダを抱きかかえていてくれた。
ティーダの心の中に不思議な感情と、ドス黒い感情が流れはじめていた。












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