R-18「ん?ありゃ媚薬だろ?」20180218
ファンシーショップ(アダルトグッズ店)でデートする兼堀ちゃんの絵のその後のおはなし。

赤地に銀の縞模様のくびれた置物は女性の胴体のようにも見える。
お土産だと加州さんや兄弟、お店を教えてくれた青江さんに渡すとなかなか良い感性―センス―をしていると褒められたので良い買い物をしたと思った。
機嫌良く部屋に戻ると歩き疲れてうとうとしている兼さんがご苦労さんと虚ろな口調で机に突っ伏していた。
今日は「二人で町を散策したい、手を繋ぎながら」と我儘を言ったのだけど、嫌な顔一つせずにおうと答えるとずっと僕の手を握ったまま歩いてくれたんだ。優しいなぁ。
布団を敷いて、ポンポンと手で叩くと釣られるように兼さんの体がゴロンと転がってきた。
二人とももう寝間着姿で後は寝るだけなのだけど、薄暗くした部屋の中で先程兼さんに買って貰ったお香を焚けば雰囲気が良いんじゃないかと思いつく。
桃色の三角形の先端にマッチで火を点けると微かな煙の筋が天井に向かって伸びて仏壇に供えるお線香の匂いがした。お線香だなんて、雰囲気どころか色気が無いのではないだろうかと思ったけれど、よく嗅ぐと深い甘みのようなものも感じた。
「……びゃくだん?」
布団にうつ伏せになった兼さんが確かめるように口にする。煙たいかなと尋ねると、いや…と言ってまた瞼を閉じてしまう。
「兼さん、そのままでちょっと着物ずらすね」
腹を下に寝たままの兼さんの帯を勝手に緩めて背中を露出させた。
実は按摩の時に滑りをよくする付け藥を見つけたのでこっそり購入し、ここぞという時に使用するつもりだったが、想像より早く出番が来た。
「今日はありがとう。お礼に癒してあげる」
広い背中に体重をかけすぎないように気をつけながら馬乗りに跨り、赤いリボンで束ねた長い黒髪を肩口に流して、手で首根から背に包むように流す。
そうやって揉み解す動線を確認すると、筒状の付け薬の蓋を外してとろみのある液体を手の平に垂らした。擦るように混ぜると粘り気が出て来たので、ねばついたまま背中に手を重ねる。
冷たかったのか、ん?と兼さんが少しだけ反応したが瞼は閉じたままだ。
「背中揉んであげる。寝てていいよ」
肩を親指で押しながら言うと、同じ抑揚で、ん…と答えて兼さんは眠ってしまった。
滑りは良いがベタつかずすっきりした感触の付け薬は扱い易く良いと思った。よいしょよいしょ、と指の力加減を調整しながら骨と筋肉に沿って揉んで行く。
兼さんのしなやかな筋肉が皮膚越しに手から伝わってきて、肉が指を弾く感触にドキリとした。
上半身だけとはいえ力を入れて動かしたからだろうか。息が上がってきた。目が潤むのに水分はすぐ蒸発して乾く。なんだか熱い気がする。
熱い。体の内側から火照る。熱い。
揉み解す側の方が体を動かすから汗をかくのは道理だろうか。滲んだ汗が額から輪郭を伝って兼さんの背中に落ちる。
汚してしまったと思い、ごめんねとそれを手で拭った時に触れた肩甲骨。それが転機だったのだろうか。
気がつくと顔を寄せてそこに口付けていた。
自分の汗と点け薬の粘りとが混じった背中に唇をつけて、すぅと一気に鼻から吸うと、濃厚な甘みを含んだ煙の匂いと兼さんの微かな体臭が突き抜けてきた。
ああ、でも足りない。兼さんの匂いが全然足りない。物足りない。
「…ごめんね」
僅かな理性で無意識に謝った口は次の瞬間肩甲骨にしゃぶりついていた。
うつ伏せの姿勢のせいで骨の凹凸が分かりにくいのがもどかしい。
指先で骨の形を辿りながら唇で吸い付いて舌で這ってじゅるじゅる音を立てながら下品にしゃぶった。
背中に跨り上半身はしがみついているのだから負担になっているかもしれないが、気に留めることが出来ない。
今はただ、この背中に吸い付いてしゃぶりつくしていたい。
甘いわけでも辛いわけでもないただの肉、皮膚を舐めるのに連鎖して熱くなる下腹部が張り詰めて痛い程で。兼さんの背中とお尻の境目の窪みに下着越しの熱を押し付けて紛らわせるのだけど、こんな刺激じゃちっとも足りなくて。ずらした下履きから自分の肉の幹を引きずり出すといつもより膨張していて手で包んだ感触に誰のものかと驚いた。
どうしよう。先端はまだ濡れてはいないけど、このまま圧をかけるといつもより派手に漏れ出てしまう気がする。
自分で慰めようにもまずはこの体勢と状況を正さなければならない。
本来なら癒してあげるはずの背中に赤い跡をつけただけなんて申し訳なくて恥ずかしくて、いたたまれなくなって。ずらした着物を直そうと腰を浮かせたその時、跨っている太ももを寝ているはずの兼さんにぺちぺち叩かれた。
「人の背中で盛ってんじゃねえよ」
むにゃむにゃ混じりながらそういう事をぼやいていたのだと思う。
「ご、ごめん。退くね」
片足をついて退こうとしたが、急に兼さんが横に体の向きを変えたせいで均衡を崩して横這いに転げてしまった。
眉間に皺が寄った眠そうな目が僕の頭から爪先を一瞥し、欠伸を一つするとこれ貸せよと枕元に置いていた付け薬に手をかける。
すっかりはだけて帯の意味を成していない着物に下履きから幹だけを露出している自分は変態のようだと思ったが、それを恥じて正す思考より兼さんが付け薬をどうするかの方に気がいっているのだからやはり、だろうか。
されるがままに任せていると仰向けになった兼さんの体の上に同じく仰向けで寝かされて、二人で天井を向く体勢になった。
視界に天井しか無い分、背中越しの熱を感じる。
頭の下にある兼さんの胸板からほんのり感じる鼓動。尻の下にある膨らみはまだ頂点には達していないようで、潰してしまわないか気になった。
持続する煙の香りに包まれながら、本来なら手で少し練ってから塗りつける付け薬を胸に直接垂らされて、冷たさにひゃっと声が出た。
「これが塗りつけられていたのか」
なるほどと独りごちた兼さんの大きな手の平が絞り上げるように僕の肋骨から鎖骨にかけてを勢いよく滑り、付け薬に粘りが出る。
平らなだけでは無い胸の証が豆のようにパンパンに固く膨らみ滑らせる指に引っかかって、あんっと笑ってしまうようなお手本通りの媚びた嬌声が自然と出て驚いた。
発した瞬間に僕も兼さんも目を丸く同じ表情をしていたと思う。
「い、今の無し!」
慌てて訂正したけれど、そんな事が許されるわけもなく親指と人差し指で摘んでグリグリ刺激された。
「ああうっ…あっあっ…あーっ」
付け薬の粘りが兼さんの指の動きに合わせてクチュクチュと音を立てて耳に響いて堪らなくなる。いやらしい、淫らな音だ。
始めは潰れる位強く絞り上げた刺激がふっと抜けると、人差し指を支えに親指の腹で付け根から先端に優しく撫でる動きに変わる。丁寧に擦られるせいで乳輪に皺が出来る。恥ずかしい。
「どっちが良い?」
激しく、優しく。どちらも、なんて我儘を言ったら困らせてしまうだろうか。
「……永い方」
追加した付け薬を胸板全体に伸ばすと、僕の体温で温まった粘り気を擦り付けた親指で先端に円を描く。ゆっくりと捏ねられて芯が通っていくのが分かる。また、固くなる。
固くなると指と指で摘んで左右にクリクリ捏ねられる。
「ふぅ…気持ちいい…」
指の動きに連動して喉の奥がくすぐられる感覚が迫ってくる。僕だけだろうか。こそばゆいのが気持ちよくてあんあん声が出るし、腰が浮いて背中が反る。
熱に浮いてぼうっとしていたから気配に気づかなかったけれど、あっと思った瞬間、肩に兼さんの歯が甘く食い込んだ。食べられてしまうと思うと怖いどころか心がときめいて跳ねた。
ただ、狡いとは思った。僕も兼さんをもっと噛みたい、食べたい。
「あー、なるほど。どんな道理か知らねえがこれは。食いたく…なる、な」
先程の僕の衝動を理解した兼さんは納得の声をあげて僕の肩口に歯型をつけてちゅうちゅう吸った。
吸いながら、指先で豆粒を弄んでいる。
「このコリコリも舐めたい」
そう言って親指で転がしながら肩を舌先で丸くなぞって吸ったから、本当に先端そのものを吸われた錯覚がして背中がビクッと仰け反る。
「あぅっ、うぅ…」
野生の獣の鳴き声かのような反応が自身から自然と湧き出てきて意識が遠のく。乳首を捏ねくり回す刺激に肉の幹が濡れてきて太ももから尻の割れ目を伝っている。きっと兼さんにもバレているだろう。
「この付け薬と、後は…香のせいか」
仕留めるように僕の首の付け根をグッと噛んで跡をつけた兼さんがまた一人納得して唇を離すと、ゴロンと横に転がり、僕もつられて投げ出された。
肩で支えているものの、胸と腹が布団についた半端なうつ伏せの状態で、力の入らない体はそのままに呼吸だけでも正そうと集中したが気も入らない。
最早もつれているだけで着ているとはいえない寝間着を帯と共に剥ぎ取られて、下履きも片足を抜いて太ももに纏わり付いているだけだ。
もう寝るだけなんて言っていたのに、裸で兼さんの前に晒されている。胸をとろとろに濡らして、屹立して蕩けた肉の幹を太ももを擦り付けて隠そうとしているのも全部、晒されている。
改めて、凄く熱い。
喉が乾くし、下腹部も鼻の奥も熱いし、目が潤んで視界がぼやける。どうしちゃったんだろうと思いながら、向かい合った兼さんが手の平に付け薬を垂らして揉み込み、粘りを出しているのを眺めている。
「これが粘膜から吸収されて作用してんだろうな。粘膜っつーのは目、鼻、口…そんで」
抱きしめる動作でとろとろに濡れた手の平が僕の尻たぶを持ち上げて広げ、蕾が露わになると同時に「ここ」と中指がずるりと挿し込まれた。
思わずあぁっ!と声が出て、快楽以外の感覚が鈍くなっているのと滑りのお陰で痛みはないものの、排出器官の出口への侵入に驚いた体が自然と強張ってぎゅっと蕾が締まる。
一方兼さんは驚く素振りもなく、御構い無しに挿し込んだ指を上下して蕾をじわじわと解していく。
「だめっだめっ」兼さんは僕の一番快い所など当然周知しているから肛内に指を数往復するだけでパクパクひくついた鈴口から体液がドパドパ漏れ出てきて破裂しそうで、まだイきたく無いといやいや首を振った。
「兼さんも脱いで。脱いで」
襟を掴んで懇願したら、しょうがないなと帯を緩めてくれたから堪らず下腹部の膨らみをさするけど、まだ完全に勃ちきっていなかった。
僕なんか息を吹きかけられただけで達してしまいそうで太ももに力を入れて我慢しているのに、まだ余裕があるなんて信じられない。
「うぅ、触ってもいい?」
「もう触ってんじゃねえか。このスケベ」
「ひ、ひどぉい」
罵倒されたのを非難しながらも下履きから兼さんの一物を引きずり出して撫でているのだから言われた通りなのだろう。
血の色が透けて艶々な先端の丸みから括れの形状は生々しさと美しさを兼ね備えていて、手の中にあるのを見つめると「ほう…」と甘いため息が出た。
鈴口からはまだ何も滴っておらず、裏筋を親指の腹で根元から先端にじわじわ指圧していく時に乾いてすべすべの幹に頬ずりしたくなってきた。
可愛い可愛い兼さんの大事なところに口づけしたい。そう考えたら舌が先に唇からはみ出してしまった。
「その…口でしても…いいんだけど」
さも良案を提示するかのように自分の欲を口にしたが、兼さんは冷ややかな視線を向けて却下した。
「駄目だ、駄目だ。今のお前に任せたら噛みちぎられそうだ」
「し、しないよそんな事」
慌てて否定したが、何せ肩口に歯型をつけた前科がある。
「……大事にするもん」
子犬を拾ってきた子供のような幼稚な口調で主張してみたが、舌なめずりを指摘されて沈黙する。
「どうしても駄目?」
わざとらしく上目遣いで抱きついてねだってみるが、ろくに視線も合わせてくれない。口に含む行為に関しては信頼されていないようだ。
「じゃあ、キスしよう」
互いに裸でぐしょ濡れなのに口づけの一つも未だしていなかった。眉根を寄せる兼さんの心中は大体察しがつく。警戒しつつも、雰囲気を仕切り直す為に受け入れてくれるだろう。
分かったという言葉の代わりに薄く瞼を閉じて唇を少しだけ突き出してくれた兼さんが凄く愛しくて。愛しくて愛しくて、思わず唇が重なったと同時に下唇をひと舐めして吸い付いてしまった。
「あっ!こいつ!」
顔面ごと手の平で突き返されて、つまみ食いをした時のように窘められた。
けれど、素直に瞳を閉じるなんて愛しく思って当然なのだから僕の衝動はおかしくないと思う。そのような事を言って抱きついたら、居直る気かと呆れられた。
それでも兼さんの胸板に顔を擦り付けてやだやだと愚図っていると、たまたま?にぽつんとした感触がして見入ってしまう。
兼さんの粒。弄ばれた僕のものより小さい小さい釦。唇の先で優しく挨拶すると、今まで見た事ないほど兼さんの背中が大きく跳ねた。
肩甲骨にしがみつくように腕を回して抱きついて頬ずりする。まだあまり快楽を知らない若い膨らみは色も薄くてかわいらしい。
「…かわいいね」
子供に話しかけるように褒めて、ちゅっと表面に音を立てて口付けてから、噛み潰してしまわないように口の中に唾液を含ませて慎重に小さな粒を舌先で包んで愛撫した。
今僕の下腹部に当たっている肉柱と違ってここはまだ触れられていない赤ちゃんだから優しくしてあげないと。
そう思うと噛みちぎるどころか、慈しむように優しく舌先でチロチロと少しずつ刺激を与える段階を踏むことが出来た。
胸を刺激されるなんて兼さんは嫌だろうか(でも僕はいつもされているのだけど…)と様子を伺うと、先程より汗ばんだ兼さんの吐息が微かに聞こえたから安堵して唇の先で粒を摘んだ。
唇を吸盤のように胸板にくっつけて舌先だけで撫でながら、兼さんの小さな肉の芽の食感を味わう為に瞳を閉じているとまた煙の香りに気がついた。まだ漂っていたのか。深い甘みを鼻奥で感知しようと意識を向けたその時、はぁと喉を鳴らした兼さんの大きな手の平が自分と僕の肉の幹を擦り合わせて、二人分まとめて上下に扱きだした。
急な刺激に口内に溜めた唾液が逆流してふぎっと妙な声をあげてしまったし、変な部分に入り込んで鼻がツンと痛くなって涙目になる。
「やっ、あうっあうっ…兼さんっもう大っきくなった?」
ゴシゴシ乱暴に擦り上げるものだから痛みに近い刺激に声が上ずったけど、問いかけに「ああ」と答えた兼さんはピタリと動きを止めるとひとつ深呼吸をして付け薬に手を伸ばした。
僕がさすっていた時には乾いていた幹が一回り膨らみ鈴口から垂れた透明の体液で濡れて滲んでいて、これが自分の中に入ってくるのだと期待するだけで下腹部が熱くなって内腿を擦りよせた。
「今更恥ずかしがってんじゃねえよ」
まさか期待で興奮して半身を擦り寄せて耐えているとは思わなかった兼さんが良いように解釈をして、僕の膝を掴んで広げた中心に付け薬の注ぎ口からそのまま液体を垂らす。
冷たさに「んっ」と声が漏れる。粘りを出してないから下腹部から尻の割れ目が漏らしたようにびしょ濡れだ。
「国広…」
広げた足の間に兼さんの熱がピタリと押し付けられる。
ああ、挿入ってくる。
「兼さん…」
すきと言ったのはきっと聞こえなかったと思う。付け薬で滑らせた蕾が一気に貫かれて、ああああっと衝撃がそのまま声になったから。
待ち望んだ肉の感触が肛内でみっちりとひしめいて、夢のようでうっとりする。
対面で根元まで繋がって抱き合う二人の肌と肌はしっとりとひっついて、体全てで口づけているような一体感で蕩けてしまう。腕と足どちらも絡めてしがみついて気持ちいいと呟いたら兼さんも小さく、うんと言った気がする。
「兼さん、大好き」
答えの代わりに唇を塞がれて口封じされてしまう。恥ずかしかったのかな。裸で目合う方が余程恥ずかしいと思うのだけど、兼さんは違うのかな。
下唇を甘噛みした流れで吸われたり、舌を絡めて唾液を交換したり、じゅるじゅるちゅぱちゅぱ音を立てて互いを味わっている最中も、兼さんの肉で繋がった部分の凸凹が埋まっているのだと思うと嬉しくてキュウッと孔が締まるのが分かった。離れたくないようと甘えてしがみついているんだね。
キツくて動けないと不服そうに漏らした兼さんが角度を変えようと腰の位置をずらす度に凸凹が変形して凄く、凄く気持ちよくて淫靡で気を失いそうになる。内臓の位置が変わるんじゃないかって位の挿入と抱擁で内と外どちらも押し潰されてしまいそうで、その圧迫感が心地良い。もっともっと押し潰されて兼さんの腕の中で丸まって弾け飛べたらなんて空想してしまう。
「うぅ、苦しい…いいよぅ」
声を上げると、一瞬ギョッとしたものの甘く蕩けた語尾を理解した兼さんが「こうか?」と折れる程の圧をかけて腕ごと羽交い締めにしてくれたから嬉しくて、上を向いて耐えていた眼球に張った水滴がポロポロと溢れ出る。
「あああ、死んじゃうぅ。気持ちいいぃ」
まだ数回も抽送していないのに涎を垂らすほど悶えているなんてどうかしているが、行き過ぎた快楽の末の苦しみ、その一歩手前でくすぶっている今は繋がっているだけでどうにかなりそうなんだ。
「自分一人で快くなって駄目な助手だぜ」
兼さんの腕のこぶがぐぐっと盛り上がり、抱きしめられた腕の骨が軋んだその時、首筋をがぶりと咬まれた僕は雷に打たれたように痺れて声も出なくて、口をパクパクさせて痙攣しながら静かに腹を濡らした。
勢いは無いのにだらだら延々と漏れる色のない精が兼さんの指に掬われる。強く密着していたから兼さんのお腹も汚してしまったと思う。
ごめんなさいと言おうとしたけれど、解き放った一瞬の弛緩の隙をついて腰を掴まれて何度も何度も激しく打ち込まれて「うっうっ」とさめざめ泣いているような声しか出なかった。
首筋から肩に胸に腕に、いくつもの歯型がつけられていくのを眺めながら、何故か音が聞こえなくなって、微かにあの深い甘みだけが鼻腔に届く。
両手足を投げ出してじっと兼さんの顔だけを注視していると、眉を寄せてきゅっと目を瞑り唇を噛んで小さく「あっ」とだけ吐き出したから、苦しいのかなと心配になったけど、僕の中で膨らんでいた肉が数回痙攣して、引き抜かれた孔に白濁が溜まっていたのでやっと兼さんも達したのだと気づいた。
「おいで」
声は出なかったけどそう呟いて腕を広げたら額に汗を滲ませた兼さんが胸に顔を埋めるように降って来た。
まだ音は聞こえないけど、よしよしとその頭を撫でているともう柔らかくなった粒をはむっと唇で挟まれたから体はひくんと反応した。
永い永い愉悦の中で臍の緒で繋がった母子のように抱きしめあった僕らの皮膚は蕩けて溶け合ったみたいに張り付いて、力は入っていないけど絶対に離れはしないだろうと確信した。
「正気に戻ったら驚くぞ、お前」
覆いかぶさったままの兼さんが笑う。
「体全部、オレの痕だらけだ」
「ぜんぶ?全部って…全部?」
「ああ、全部」
全部ってことは、体の内側も目に見えないところも全部かとぼんやり考えて、自然と顔が綻ぶのが分かった。
「……嬉しい」
宝物を見つけた子供みたいな表情をした僕に兼さんの口づけがご褒美のように降ってきた。

……とまぁ、そこまでの記憶はあるのだけれど。
いつのまにか裸のまま寝ていたようで、乾燥してカラカラの喉を潤そうと机の上に置いていたいつ淹れたか定かでない緩い茶に手を伸ばした時に腕についた歯型にギョッとして身体中を確認したら痣やら何やらで赤くなっていて思考が停止した。
我に返ってとんでもない痴態を晒してしまったと頭を抱えた僕に兼さんがとんでもない事実を告げる。
「ん?ありゃ媚薬だろ?香は白檀だし、これまた気合い入れて誘って来たもんだとばかり思っていたが」
僕が按摩用に購入した付け薬は性交時の滑りがよくなる媚薬で、香にも催淫作用があるとか。効き目には個人差があり、僕にはとんでもなく効いた傍ら兼さんは体温が微かに上がったと感じた程度だったらしい。
「さ、誘ってなんか…」
「ああ、あと。お前が機嫌良く配り歩いていた土産だがな。青江曰くありゃ性具なんだと。男が自慰の時に穴の中にブツを突っ込むらしい」
ぶっっっと吹き出した。尻の穴まで見せた兼さん相手に痴態を晒したなんてたかが知れているとも言えるけど、加州さんたちに性具を配り歩いていたなんて僕はどうかしていると思われたに違いない。
「嘘!どうしようどうしよう!兄弟なんて絶対部屋に飾ってるよ!今更なんて言えば!」
お気に入りの踊る花の置物を抱えた兄弟が頭に浮かぶ。もしかしたらあそこに件の性具が仲間入りしているかもしれない。そんな馬鹿な。
混乱状態で目を回す僕と対照的に頬杖をついて退屈そうにあくびを一つした兼さんは「ふーん」と意外そうな声で首を傾げた。
「まさか何一つ意図せずやらかしてるなんざぁ驚きだぜ(鶴丸じゃないぞ)」
「分かってたら出来ないよこんなこと!」
「そうかぁ?オレはてっきり何もかも仕組んだことだと…」
だってよぉと続ける。
「お前はスケベだし」
呆れ混じりに苦笑いまで浮かべたその顔に失礼なと抗議したかったが、実は付け薬は三本買うと得になると店員に唆されてまだ二本残っている。
一本目は事故のような形での無意識な使用だったが、二本目からは媚薬と理解した上で使うことになるのだから勿論封印しなければならない。勿論。

「……兼さん」

――勿論

「今度は効かないかもしれないよ」
だから。

「だから…二本目を試してみたいなんて言ったら。やっぱりスケベだって思うかな」

身体中についた痕がつけられていったあの光景を思い出して、つい内腿が擦り寄った僕の腕を引き寄せた兼さんの口角が、ほんの微かに上がった。

【了】


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