そんな日が来たら、きっと泣いてしまう。20180114
全員女士設定。ウェディングドレスを着た兼さんは綺麗だろうなというお話。

この本丸での珍事は常に唐突に訪れる。
「ねぇねぇ厚ぃ結婚しよーよ!」
いつもの乱のおねだりだと流していた一期も聞き捨てならず吹き出した。
「おう!いいぜ」
「いいぜじゃないだろ」
薬研の軽い延髄斬りが厚の後頭部に決まる。どうした事か取り調べられた乱はだってこれが着たいんだもんと悪びれなく見開きの結婚情報誌を指差す。
――純白のドレス
「なんだ、ウェディングドレスが着たいのか」
「ならば貸衣装で事足りるよ」
「結婚しなくても着ていいの?」
いいんだよと兄に優しく撫でられた乱はニンマリ微笑み、厚は良かったな!と追随した。
一連の流れを立ち聞きする気はなかったが、聞いてしまったのが堀川だ。
可愛いものに目がない乱が憧れる衣装とはどんなものだろうと一同が場を離れた茶の間に見開きになったままの雑誌を覗き込む。
「うわぁ!」
自然と感嘆の声があがる。キラキラ、キラキラ。そんな音が紙面から聞こえてくる。
特に濁りのない白を巧みな技術で飾り付け、品良くかつ華があるよう仕上げたマーメイドラインのドレスに惹きつけられた。
「兼さんが着たら綺麗だろうなぁ」
背格好は均整が取れ顔立ちも良い和泉守の長く艶のある黒髪や伸びた背筋がドレスを更に美しく見せるだろうと想像するだけでうっとりする。
見目好い自慢の相棒の晴れの日はどれだけ美しいことだろうか。
きっと今まで見てきた何より美しくて尊くて感動で泣いてしまうかもしれない。
そんな事を考えたからだろうか。何故か瞳の輪郭が滲んできたから慌てて雑誌を閉じてその場を後にした。

自室に帰りへそくりを隠した豚の貯金箱を振ってみるが、大した音がせず思わず唇が尖る。
そういえば二人で温泉旅行に行ったばかりだった。
「また褒賞を貯めなきゃ」
一礼した豚を箪笥に仕舞い、振り返ると自分と同じ碧色が唇が触れる距離に居て、ひゃっ!と情けない声がでる。
「お前なぁ、共同貯金なんだから使い込みは見逃せねえぞ?」
「つ、使い込みなんかしてないよっ!ただこれからどれだけ貯めればいいか目安にしようと思って」
「なんか欲しいものがあるのか?」
先程魅入ったドレスの話をすると、ほぉと関心があるのかないのか微妙な相槌が返ってきた。
「そりゃオレが着ればなんだって似合うだろうなぁ」
冗談ぽく言っているが真理なのだから堀川は何も言い返せない。それがつまらないのか和泉守はふぁと欠伸をすると正座した堀川の膝の上に頭を乗せて横になってしまった。
この体勢でのいつも通りとして髪を撫でると満足げな表情でもっととまた冗談ぽく催促されて、はーいと緩く返答する。このやり取りが愛しくて大好きだ。
絹糸のような指通りの髪。
長い睫毛に光が差し込み煌めく瞳、形良く柔らかでふっくら厚みのある唇。
谷間からふわりと花の香りがする大きめの乳房。
すらりと伸びた手足。
程よくついた筋肉の均整が絶妙な柔らかで張りがあるしなやかな体。
聞くだけで耳が蕩ける声。

そんな和泉守のすべてがあの純白に包まれ、祝福される日が来たら。
きっと泣いてしまう。
ボロボロのぐしゃぐしゃに。泣いてしまう。

また目の前が滲んで来たから顔を振って意識を保つ。和泉守が国広?と視線を寄せたのでへへっと笑い誤魔化した。
「……でもよぉ、こういうのはバランスっつーもんも大事だろ?」
「手に持つ花束とかお化粧との兼ね合いってこと?」
「いや、隣に相手が立つわけだろ?」

――相手

また視界が滲む。
悪あがきのように、貸衣装なら一人なんだからさと補足したが納得のいっていない表情に動揺する。
人生で一番美しい和泉守に憧れて切り出したのは自分なのに、いざその場面で居るであろう自分の立ち位置を思うと不思議な感情がわいてくる。
情けないのか悔しいのか悲しいのか。
分からないけれど、和泉守の美しさに似合わぬ心の内を抱えて祝福など出来はしない気がして、悩ましげに眉が寄った。
「兼さんの隣に立つなんて大役だね、その人も」
絞り出したが、皮肉に聞こえてしまったらどうしよう。すぐに撤回したかったが、言い訳が見つからない。
口籠る堀川に対してうーんと考え込み思案する和泉守はでもなぁとぼやく。
「お前は足見せたがらねぇしなぁ。丈が短いのも合うとオレは思うんだが」
「えっ、でも主役は兼さんなんだし悪目立ちしちゃうと礼儀作法としては…」
「おいおい、そん時はお前も主役だろうが」
ハッと目が覚めるように視界が開く。
「オレたち二人の門出の話なんだからよ」
再会したばかりの頃には耳にすることがなかった。
和泉守がこう言い出したのはいつからだったろう。

――オレたち

そこに、その位置に自分が居て良いと思えなかったことは謙遜などと言う美徳ではなく、単なる逃げだと自覚していた。
美しい、美しいこの刀の隣に並び立つことの意味を、重みを誰より感じていたから逃げていたのだ。
それでも良く通る声で言いのけるのだから、もう腹を括るしか無い。
「……僕で良いの?」
喉の奥が熱くなる。体温も上昇している。
「背も低いし、背格好?スタイル?だって…あ、足が太くて、お尻が…その…大っきくて…胸も小さいし。顔だって、鼻が低くて、可愛いわけじゃないし…」
辿々しく自分の欠点をあげつらっているが、後悔している。
何一つ良い所がない。
「家事は頑張ってるけど、お料理は華美なものは得意じゃないし他に上手な人なんていくらでも居るし…」
ドキドキしてきた。
唐突にこんな告白をされて良い気になる者など居ないだろう。何がしたいか分からなくなってきて、遂に決壊してしまった。
それを眉を寄せ唇をへの字に、不思議そうに覗き込んだ和泉守が国広?と呼んだのち、あー!と大声を張り上げた。
「おまっ……馬鹿か!」
逡巡する堀川の全てを察した和泉守は兎に角呆れた。大馬鹿だと思った。
「オレが!お前以外の誰と!契りの服なんざ着るんだよ!」
怒り心頭で起き上がり、向き合って再び馬鹿!と叱りつけた片割れを抱きしめた。
谷間に埋もれた泣き顔がごめんなしゃいと舌ったらずな謝罪を繰り返して、馬鹿馬鹿しくて愛しくて堪らなくなって、脇の下から無理やり体を持ち上げて不安そうに震える唇にいつもより深く口付けた。
「次にしょうもない想像したら本気で怒るからな」
口調は怒りに満ちていたが、口づけは甘く蕩ける優しさで、唇を基点に全身が溶けていきそうで堀川は怖くなり咄嗟にしがみ付いてしまい、それがより口づけを深くした。
唇で繋がったまま顎と首の境目ギリギリまで上げてある堀川のファスナーが引き下ろされて黒い肌付き越しの着痩せした胸の膨らみが空気に晒される。
「お前は全然肌を見せないな」
肌付きすら徳利口に七部丈の堀川と自身の鎖骨部分が開き袖がなく、肩はおろか腋から胸にかけての線が見えるほど露出した肌付きを比べてうーんと唸り考え込む。

そりゃあ鎖骨の窪みは幼い顔つきに似合わない色気があるし、細いわけではないが腰にはきちんと括れがあるし、下半身に向かうにつれて増していく肉付きは扇情的でよろしくない程だが…。

瞬時に堀川の普段は秘めている肉感を思い返し、よし!と決意の声をあげる。この間約一分足らず。
ふぇっと驚き縮こまった堀川の体を再び抱きしめて宣言した。
「お前の一番綺麗な姿はもう見てるから、なんだっていい」
解釈次第では悲観的に捉えかねない言葉だったが、堀川は信じて聞き入る。
「きっとそんな日が来たら、ドレスなんて目に入んねえ。お前しか見えねえ」
でもな、と続く。
「胸やら足やら背中やらが丸見せのやつは綺麗かろうが駄目だ。目の毒だ」
その言葉には二通りの意味があるがどちらだろうか。
「他の奴がお前の体に一瞬でも見惚れるなんて事があったら祝いの場なんざ忘れて手が出る自信がある」
話の途中なのだろうが、呆気にとられて口が開いたのち吹き出してしまった。
「なぁに、その自信」
「知るかよ。大人しく終わらせたいならあんま煽んなって事だ」
言い終わると同時に肌付き越しに胸元に口づけられて、これから何が始まるのか胸騒ぎと期待の狭間で心臓が早まる。
「兼さんの綺麗なところも、見せて」
指先で和泉守の胸元に触れて、ねだると横倒しに寝かされる状態で胸に手を引き寄せられた。
触れたら弾ける石鹸玉に触れるように恐る恐る、優しく、優しく丸みを包むと暖かくて柔らかくて、一気に高揚して体が跳ね上がった。
「目が潤んでる…」
「うん…幸せ…」
思考する間も無くついた言葉だったが、それが全てだ。

「……ねぇ、兼さん」

それでもね、きっとその日の兼さんはやっぱり特別に綺麗でかっこよくて、美しくて、美しくて。
世界中のキラキラを全部詰めて着たドレス姿に僕はきっと泣いちゃうよ。
そんな兼さんの隣に僕が居るなんて。
幸せで幸せで。泣いちゃうよ。

でも、こんな考えもお見通しなのかな。
兼さんにしか見せない僕の弱くて脆くて蕩ける部分に、優しく永い、誓いのような口づけをされて意識が遠のく。
せめて吐息を。

「兼さん、すごく綺麗」

それは夢の中で言うようだった。

【了】


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