「兼さん、僕はもうすぐ禁忌を犯すと思う。」17/09/03〜
・もし堀川国広が歴史を改変することを拒めなくなったら(闇堕ちしたら)
分かっているとは思うけど、と前置きしながら国広は柔和な笑顔で兼定の右手を引き寄せた。 「ここが、心臓」 肌蹴たシャツの隙間から左胸に押しつけた兼定の手の平に国広の鼓動がはっきりと響く。 「でも首や頭の方が確実かな?」 まぁ知っているよねと笑う国広を兼定は見ていられない。 「オレが信用出来ないか」 「……ごめん」 答えになっていない。 今、兼定が国広に教わっているのは国広を殺す方法だ。 任務から帰還後、自室に入るなり正座で話があると斬り出した兼定の相棒はある悩みに苛んでいた。 「兼さん、僕はもうすぐ禁忌を犯すと思う。今日も、もうダメかと思った」 国広曰く。 戦闘中に手が、足が。思ったように動かない。国広の思考を無視して勝手に動くのだと。 ーー函館出陣回数、百回。 この数字を機に国広は自身が日に日に無自覚に狂っていくことを確信した。 「味方を斬るかもしれない。敵を逃すかもしれない。守るべきものを、傷つけるかもしれない」 だから、と斬り出したのは、そうなる前に殺して欲しいという願いである。 「主さんに刀解を願い出るのが筋だとは思うけど。やっぱり僕は兼さんに…」 ねぇと分かっているだろうと言わんばかりに微笑む姿が兼定は凄く、嫌だった。 「オレに殺されたいってか」 斬って殺すのは得意でしょうと揶揄う雰囲気では無かったが、国広は近しいことを口にした。きっと。 「…兼さんじゃなきゃ嫌…かな」 「オレの刀じゃ守れはしないと?」 その一言は辛かった。 兼定の刀の力を自身が否定しているのだと思い知ることは国広にとっては辛かった。 「兼さんは、歴史を守るよ。でも、その時僕が邪魔だったら。そういう話だよ」 努めて冷静に、諭すような口調に余計苛立ちが募る。 「ああ、斬るよ。斬ってやるよ。だが、そんな時は来させやしねぇ…」 「斬れないでしょう!」 聞いたことのない声を張り上げた国広はシャツのボタンが引きちぎれる勢いで前身頃を開け、ところどころ薄っすら傷が入った肌をさらけ出した。 「ねぇ、よく見てよ!」 瞳は潤んでいたが、はっきりと通る声に兼定は若干、怯んだ。 「この体が斬れる?ちゃんと急所を外さずに、絶命するまで刀を引き抜かず、殺せる?」 見ろと暴かれたそれは、何度も何度も抱き、引き寄せた愛しき人の身で。 その内側が日に日に狂っていくことなど信じられはしない。 「多分…兼さんは…僕を斬れない」 強張り、固まったままの兼定の右手を再び自身の左胸に誘う。 「……ここ。ちゃんと狙ってね」 ごめんね、と呟いた国広は泣いているようにも見えた。兼定も何度となく見たことのある不思議な表情だった。 「それを知っていて…それでも、こんな馬鹿な願いを口にすることを許してください」 お願いします、と頭を下げた国広の額に張り付いた前髪を兼定の手が?き上げる。 「約束する」 国広の視線は変わらない。 「その時が来たなら、必ずオレが斬る。だから」 額が、ほんのりと熱くなる。 「その瞬間まで抱かせろ」 その時引き寄せた半身と言える存在。 兼定にとってそれは殺すための身では無かった。 愛するための身だった。 兼定の唇が腕の中で目を閉じ口をつぐんだ国広の額に、瞼に、頬に、そして唇に触れる。 その接触で国広は確信した。 この約束は必ず守られると。 これで隣に居ることが出来る。 自分が間違いを犯すことなく死ぬことが出来るのならば、それが確実なら。 国広は最期の瞬間まで、兼定と並び立てる。 「ありがとう、兼さん」 だいすきだよ、と顔を上げるとそのまま口付け、首筋に腕を絡めた。 「一生、一緒に居てね」 堀川国広の願いは、きっと叶うのだろう。 |
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