黒の薔薇と猫、それから月  01.血の契約。

「いや―――――――――――っ!!」
それは降りしきる雨の中。ただ、その悲鳴だけが轟く。
―助けて。誰か、助けて・・・

雨が止み、日が沈みかけたころ。
「お・・・母さん・・・・おと・・さん。」
無残な姿で女は発見された。
洋服をビリビリに引き裂かれ、手首など体のいたるところ。
強く掴まれていたのであろうか、男の手形が紫色になって残っていた。
弱弱しいその女はもう、生気など宿っていないとでもいうようにぐったりとしていた。

その日、少女は無理やり女へと成ってしまった。

『娘さん、気の毒でしたね。』
母と何処かの奥さんのしゃべり声が聞こえてくる。
『・・・ええ。あの子があんなことになるなんて』
泣きながらも母はそう答える。

未だに思い出されるあの男達の欲望。何で、私が―?
体に残る無数の跡。ソレを見るたびに思う。―私の体は穢れてしまった。

自分の体に流れるのは本当に紅い血?

ナイフを手に取り、そっと、手首に傷を付ける。ぷくっと皮膚から浮き上がってくる血は赤そのもので。
女はソレを見て微笑んだ。

「楽しい?」
男の声に女は肩を震わせる。
あの日以来、女は”男”というもの全てが駄目に、怖くなってしまった。視線をそっと声が聞こえてきた窓のほうに向ける。
そこには自分より少し上だろうか、青年が窓に腰を掛けていた。そして、何度も繰り返している少女のその行為を見つめている。
何故だったのだろうか。
不思議なことに、その男に恐怖感を感じなかった女はにっこりと微笑んで言った。
「ええ。これは、あたし生きているという証拠だから。快感なの、今となっては。」
手首やいたるところに残るその切り傷。
いくら取り上げても、女はどこからかもってきてまたその行為を行う。
いつの間にか、それは女の快感へと変わっていたのだ。
「ねえ、君。もっと大きな快感味わってみたくない?」
男の右手にはいつの間にか鋭いナイフが握られている。
つまり、それは傷を、もっと深い、鋭い傷をつけてあげようか?
女は息を呑んだ。
「いいえ。」
静かに女は言った。
「そう、残念。それなら君、―・・・」
その夜、女は男と契約を交わした。満月の見ている目の前で。

                                                                                 薔薇と月

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