黒の薔薇と猫、それから月  01.血塗られた子供

やめて、やめてよ、と少年は何度も呟いた。
父親を殺し、また自らの命までもを殺めた女。”狂っていたそれ”は、その男の妻であり少年の母親だった。
少年はその光景を見ていた。

「お父さん・・・・おか・・・さん・・・・・・・。」
少年は必死に両親を起こそうとする。
「ねぇ・・・おと・・さん・・起きて・・っ!」
父親の腹部あたりをゆすっていた少年の手は赤い、紅い血の染まっていた。
永遠に目覚めることのない、と判っていながらも少年は尚も両親を必死に目覚めさせようとしている。
そのうち、紅く血で染まった床の上に少年の涙がポタポタと次から次へと落ちていく。暗い部屋の中、少年は独り泣き叫ぶのだ。
お母さんとお父さん、起きてよ、と。
助けて、と。
―お月様、助けて、と。

暗い闇夜の空には月がただその光を放っていた。星など見えない、その空に輝いているのは月。
ただそれだけ。

次の日、両親の遺体と共に発見された少年はその血に染まっていた。
その時、眠っていた少年にはおかしな点2つ。
「紅い・・・・月と黒猫が・・・・・」
ただの寝言にしては意味深な。それは意識を取り戻す少し前、少年が呟いた言葉。
そして、もうひとつ。
母親の持つナイフには触れていなかったはずの少年の手の甲からも、何故か血が流れていた。

                                                                                 薔薇と月

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