もぐもぐ・・・
あたしは朋也があらかじめ用意してくれていたケーキを、朋也の部屋で食べている。
「うまいか?」
「うん、おいしい」
目先だけを朋也に向けて、こたえる。
「太りそうだな」
「殴るわよ」
「冗談冗談」
もぐもぐ・・・
「そういやさ」
「なに?」
「いや、やっぱ食べ終わってからでいいや」
「そう?」
あたしは首を傾げて、また食べるのを再開する。
もぐもぐ・・・
もぐもぐ・・・
そして最後の一口をすくい上げて、名残惜しむように、口に含む。
「ごちそうさま」
顔を上げ、あたしはお皿をベッドの脇にある机の上に置いた。
「ティッシュいるか?」
朋也がティッシュの箱を指さして言った。
「うん。ありがと」
立ち上がって、ティッシュを一枚取る。
「で、なんなの?」
口の周りを拭きながら、尋ねた。
「ん?あー、どうでもいいことなんだけどな」
「なによ、余計気になるじゃない」
「いや、本当にどうでもいいんだが、それが気になってさ」
朋也があたしを指さす。
「・・・あたしがどうしたの」
「いや、そうじゃなくて」
「ボタン?」
あたしは膝に座っていたボタンを指さした。
「いや、ボタンでもなくてだな」
「なによ、はっきりいいなさいよ」
わかったよ、と朋也は呟いた。
「そのリボン」
「リボン?」
「そう、リボン」
言われてあたしは、自分の髪に結ってある、白いリボンに触れた。
「これがどうしたの」
「んーとな・・・」
朋也は腕を組んで考え込んだあと、言った。
「どうしていつもつけてるのかなって」
こどもっぽく朋也は訊いてきた。
「どうしてって・・・」
あたしは記憶を模索し始める。
そうすると、自然と目線が上がってしまった。
あたしは記憶の扉を閉じると、再び朋也に向き直った。
「・・・ええと、知りたいの?」
「ん、ああ」
「別に大したことじゃないけど、いいの?」
「いいよ」
「そう」
とりあえず、一息する。
「これはあたしが保育園に通ってた時の話だけど」
「ああ」
「そのときの先生にもらったの。それだけよ」