よかった。



大空を様々な鳥が横切っていく、それはオレにとってはたんなるありふれた光景。
ある日、その鳥たちから抜け落ちたのであろう羽根が一枚、目の前の地面に落ちた。
今まではそんな光景に目を止めることも無かった、しかし今日オレはふと思ってしまった。


『もしかして、オレの頭にはたくさんの鳥の羽根が積もってるのではないか?』


-よかった。-


「あ〜もうそりゃあぎょうさん積もってまっせ!」
目の前の小さな存在にオレは問いかけた。
これはスーパーモグーというらしい。
この前行ったパーティとやらで強制的に協力体制をとらされた。
初対面でこいつは俺の装甲をえぐろうとした。
地面と間違えたそうだ。なんて奴だ。
そこで芽生えた変な縁により数か月に一回頭の掃除をしてもらっている。
オレの頭の森には変なものがいっぱいあるらしい。よく知らん。
「アツメロ」
「へっ、羽根でっか?」
「ソウダ キレイ アツメロ」
「よっしゃ、そんなの朝飯前やでぇ〜モグーちゃんに任せとき!」
モグーは手に生えた3本の爪のうち端の1本だけ折り曲げてオレに見せつける。Vサインのつもりか?
「……タノム」
「ズシンはんがお願いなんて……明日はきっと大雨やぁ〜、地中のわてには一切関係あらへんけどね!」
そういいながらモグーは俺の体をよじ登っていった。




数10分後、モグーが頭の森から降りてくる。
「見て見てズシンはん! こんな大きいキノコが生えてましたで!」
モグーが両手でキノコを抱えて降りてきた。知るか。
「……ハネ ドウシタ」
「いや〜んズシンはんそんなに睨まんといて〜な、ぎょうさん落ちてましたさかい箱にまとめてありますわ」
そういってモグーはキノコを地面に置くと、再び上に登り今度は両手で木の箱を抱えて降りてきた。
「どうでっか! わてのセンスもなかなかのもんでっしゃろ?」
モグーが箱の蓋を開けるとその中には色とりどりの様々な羽根が詰まっていた。
「ヨク ヤッタ」
「ふふん、もっと褒めてもええねんで? キャーモグーは〜ん!素敵ー!……むふふ、なーん地底!
ところで、こんなん集めてどうするんでっか?」
「……ワタス」
「渡す? いやーわてこんなんもらってもどうしようもないですわー」
「チガウ」
誰がオマエにって言った?
「や〜ん、モグーちゃん流のジョーク、ジョークですやん! ズシンはんと羽根……
はは〜んなるほどなるほど見えてきたでー、もうっズシンはんの色男!」
モグーが爪で装甲を突っついてくる。うざい。
「ほんなら、お邪魔虫はさっさと退散しましょ、そうしましょ」
そういうとモグーは箱を雨を避けられるように木陰にずらすといそいそと帰り支度を始めた。
「……カンシャスル」
「あらいやん、明日はきっと大雪やわぁ〜、地中のわてには一切関係あらへんけどね! んじゃ、またー」
モグーは大きく手を振ると、土の中へと潜っていった。
後にはオレと箱だけが残された。
地平線の方を眺めながらただじっとオレは待つ……オレには待つことしかできない。



どれぐらい時間が経っただろうか。
海を渡って彼がやってきた。
「こんにちはズシンさん、お元気でしたか?」
赤い羽根を持つ友人、パロット。
「……カワリナイ」
「そうですか、それは良いことです」
パロットは羽根を大きく広げ、喜びを体で表現した。
オレとは違い、感情表現豊かなパロットを少しだけうらやましく思う。
「さてさて、今日はどんなお話にしましょうか」
「パロット」
「おや、なんでしょう?」
オレはきしむ体の代わりに目で箱を示す。
「おや、ずいぶん大きな箱ですね。 よいしょよいしょ……ふぅ、この箱がいかがいたしましたか?」
オレの目線に気がついたパロットは箱を引きずってオレの前に持ってきた。
「……アケロ」
「ふむふむ? ……ややっ、これは?!」
箱を開けると中には色とりどりの羽根。
「ヤル」
前にパロットが言っていたことを思い出す。
パロットは綺麗な羽根飾りを集めることが趣味だと言っていた。
「パロット ハネ スキダロウ?」
「ええ、ええ!覚えていてくれたのですね!」
パロットはそういうと箱の中の羽根を1つ1つ見比べながら手に取っていく。
モグーが選んだ羽根はどれも綺麗な色をしていた。
……けれどそれを嬉しそうに見る生きた色の羽根にはかなわない。
「しかしどうやってこんなに集めたのですか?」
「モグーニ タノンダ」
「まぁまぁ今度モグーさんにあったらお礼を言いませんと」
やがてパロットはいくつかの羽根を選び取ると器用に帽子へと飾り付けていく。


ふと思う。
もしオレがパロットのように鳥だったのなら、一緒に飛んで行けたのだろうか?
ふと思う。
もしオレがパーティのヤツらのように人間だったのなら……
ここまで考えて、もしそうなっても今と同じようにパロットとこの時代を過ごせないという無意味さを思い、考えをやめた。
むしろ長い時を生きることのできるこの体に感謝すべきかもしれない。
それでも今だけはモグーのように自由に動く指先があれば、と願ってしまう。


そしてパロットは帽子に羽根を付け終えると、それを被りなおしオレの方を向いた。
「どうですか、ズシンさん」
「トテモ ヨクニアッテイル」
「ありがとうございます、ズシンさんがワタクシの事を覚えていてくれて、それでいて贈り物だなんて……
ああ、歳をとると涙もろくなってしまって困ります」
パロットの目じりから一筋の雫が滑り落ちる。
「……ナゼ ナク?」
「うふふ、涙というものは嬉しくても流れるものなのですよ」
「ソウイウモノカ」
「ええ、とても、とても嬉しいのです」
そういってパロットは泣きながら笑う。
「パロット ヨロコブ オレモ ウレシイ ……」
「ふふっ、今日のことも大切なお話にしましょうね」
パロットは羽先で涙をぬぐうとオレに向かって小さく羽ばたいた。
「ズシンさん?」
オレが黙っていると、パロットは少し考え込んだ後そっとオレの脇に寄り添うように腰を下ろした。
それから先は何も喋らなかった。
パロットが帰る時間までただずっと2人で寄り添っていた。




よかった。
パロットが喜んでくれてとても嬉しい。

よかった。
涙の出ない体でよかった。
オレの涙は重すぎて、きっとパロットはおぼれてしまう。




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