国境を越えて



クリスマスまであと、5日。
イギリスの街はクリスマスムードに色づいていた。
街の木々をイルミネーションが包み、店先にはカラフルなクリスマスカードが並んでいる。
「何枚か買ってくか……」
予約していたゲームソフトを小脇に抱えたシルヴィーは、何枚かのクリスマスカードを手に取った。
見ているだけで楽しくなるような、色鮮やかなクリスマスカード。
今年は誰に贈ろうか、などと考えつつシルヴィーはカードをゲームの入った袋に入れ、帰路を歩いた。


「ただいま……」
1人暮らしのアパート、誰の声も帰ってこない。
そんなことはもう慣れたかのように部屋の電気をともした。
袋をソファーに投げ、冷蔵庫からミネラルウォーターをコップに注ぐ。
シルヴィーはコップに口をつけ、冷たい水を飲み干すと息を吐いた。
「さて、これからどうしようか……」
誰もいない部屋で、1人こぼす。
「ボゥイとゲームでもやるか……あ」
そこまで言って自分の発言に、無理があることを思い出す。
騒がしい隣人、ボゥイは今日から日本へ行っているのだと。
しかたない、1人でやるかとこぼし、ゲームの入った袋を手に取る。
中身は流行の格闘ゲーム、ボゥイもシルヴィーもゲームセンターでよく遊んだものだった。
「あいつがいない間に特訓して、今度こそ勝ってやる!」
パッケージを開け、説明書を開こうとしたその時、来客を知らせるチャイムが部屋に響いた。
「シルヴィーさーんお届け物でーす」
「あ、はーい」
扉を開けると、小包をもった局員がいた。
「ここにサインお願いします」
「はい」
局員からペンを受け取り、慣れた手つきでサインを施す。
「珍しいですね、日本からですよ」
「日本から?」
局員はシルヴィーに荷物を渡すと、軽く礼をして去っていった。
扉を閉め、届いた荷物に目を通す。
「日本からだって?差出人は……」
差出人の欄に目をやると、そこにはとてもよく見覚えのある汚い字が踊っていた。
「……あいつか……」
シルヴィーの頭に水色頭の能天気な顔をした人物が浮かぶ。
手紙は何回か来た事はあったが、小包は初めてだ。
「中身はなんなんだ……?」
大きさははがきより少し大きめ、厚さは4,5cmといったところだろうか内容の欄には何も書いてはいない。
怪訝な顔をしながらシルヴィーが箱を開ける。
中には厳重に梱包された何かと、一枚のクリスマスカードが入っていた。
「クリスマスカードって……クリスマスにはまだ早いだろうが」
どうせ、海外に送るからって異様に早く送ったんだろうと思いながらカードの中身に目を通す。

『メリークリスマス、シルヴィー!
俺様からクリスマスプレゼントだぜ。
これで、もうシルヴィーが寂しい思いをすることなんてなくなるからな!
                     Byサイバー      』

いつ見てもまったくかわらない文字にシルヴィーはあきれと共に懐かしさを覚えた。
「寂しい思い……あいつ、ボクが1人暮らしだということを覚えていたのか?」
少し前に話したことがあったがまさか覚えてるなんてな、とシルヴィーが思い、今度は梱包された何かに
手をかける。
多少の嫌な予感を感じつつも、梱包を解いていくと中から出てきたのは写真立て……と思えるものであっ
た。
元はシンプルなウッドフレームのものだったのだろう、しかしそこにサイバーの手が加えられ何だかよく
わからないものになっている。
フレームの色はいわゆるサイバー色に塗られ、ところどころに意味不明なオブジェやギャンブラーZの絵
などがくっついている。
その中でも一際シルヴィーの目を引いたのは、真ん中に納められた写真だった。
写真を一目見て、シルヴィーは頭を抱えた。
「あのバカは……本当にどうしようもないな……」
真ん中に収まった写真、それは大輪の笑顔を咲かせたサイバーの写真であった。
しかもご丁寧に、『おかえり!』というセリフが書き込まれている。
シルヴィーは全身から脱力するのを感じた。
ソファーにもたれかかり、もう一度写真を見る。
「バカみたいな笑顔だな、本当に」
シルヴィーはふっ、と笑うと立ち上がり、その写真立てを机の上に伏せて置いた。
そして、袋の中からクリスマスカードを取り出すと机に向かった。
「あいつにも一枚書いてやるか……嫌味の一つでも添えて」
もちろん、ボクの写真もつけて。
シルヴィーはそっと倒した写真立てを起こした。
そこには先ほどと変わらない、笑顔のサイバーが写っている。
「……本当にバカだな、あいつは」
シルヴィーは軽く口元に笑みを作ると、写真立てをまた元のように倒した。



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