上か下か



「……お前の服って毎回脱ぎにくそうな形してるよな」
「は?」


学校が長期休暇に入ってからしばらくたったある日、日本に来ていたシルヴィーはサイバーの家
に来ていた。
しばらくはゲームなどをして遊んでいたのだが、サイバーが突然『シルヴィーに見せたいものが
ある』と言って部屋を出て行ってしまった。
そしてしばらくして戻ってきた彼は、見慣れない服に着替えていた。
なんでも、今度のポップンパーティ用の新衣装だそうだ。
しつこく感想を求めるサイバーにシルヴィーがはなったのが、先ほどの言葉である。


「えー?なんだよその感想、もっと『かっこいい』とか『イカス』とかないのかよ」
「かっこいい、ね……」
シルヴィーがまじまじとサイバーの服を見る。
まるでSF映画に出てくるようなプロテクターのついた上着。
ドーナツのような腕輪。
ズボンの上から重ねたパンツ。
そして、それらの全てが蛍光色を中心とした”サイバー色”で染められている。
シルヴィーは嬉しそうにポーズを決めるサイバーを見て、眉間に軽くしわをよせ、大きなため息
を一つついた。
「ひでーなぁ、21世紀をしょって立つ俺のセンスがわかんないなんて」
「お前のセンスは21世紀どころか40世紀ぐらいでちょうどいいんじゃないのか?」
シルヴィーが鼻で笑いながら、軽く皮肉交じりで言う。
「まじで?!やっぱり俺のセンスって未来を先取りしちゃってる感じってやつー?」
そんな皮肉にまったく気づきもせず、サイバーは上機嫌に笑う。
シルヴィーはサイバーを見て、また一つため息をついた。


「で、脱ぎにくそうって?」
ひとしきり上機嫌になった後、サイバー先ほどの言葉についての意味を尋ねた。
「いや、前から疑問だったんだけど、お前の服ってどうなってるんだ?」
シルヴィーの指先がサイバーの服を指し示す。
「シルヴィーが俺の服に興味しめすなんて珍しいなー」
「普通に疑問だろ」
サイバーの服を観察するように、シルヴィーがじろじろと眺める。
「これとかどうやって着てるんだ?」
上着の上に重ねられたプロテクターのようなもの指差す。
「ん?これゴムで出来てんだよ、ほら」
サイバーがプロテクターの脇の下の部分を軽くひっぱると、腕を通せるぐらいの隙間が広がる。
これなら普通に脱ぎ着することができるだろう。
「ふーん、この腕の奴は?」
「ここにスイッチついてんの」
手首の部分に小さなボタンが見える。
「下は……単なる重ね着か」
「そうそう、この赤パンで上着とズボンの境目隠すと、つながってるように見えるだろ?」
「なるほどな……と、いうことはこの前のは……」
シルヴィーが今までの説明を反芻するように、うなづく。
「何で今回はそんなに俺の服の構造気にすんの?」
「別に……」
「だってさー、いつもは『ふん、興味ない』なんて言ってそっけないじゃん」
サイバーがシルヴィーのマネをしながら言う。
「どうでもいいだろ、理由なんて」
「ふ〜ん?」
「な、なんだよ、何か言いたいことでもあるっていうのか?」
今度はお返しとばかりにサイバーがシルヴィーの服を観察するように眺める。
いつものようにかっちりとした紫のスーツに身を包んでいる。
サイバーとは正反対に、装飾品はいっさいついていないシンプルなものだ。
シルヴィーの服を見たサイバーの頭に、豆電球がつく。
「はは〜ん?」
「な、なんだよ……」
考え事をしてたかと思うと、急に満面の笑みを浮かべたサイバーにシルヴィーは少し戸惑った。
そんなシルヴィーの心を見透かすように、サイバーがにこにこ笑う。
「シルヴィー、いっつも俺に脱がされてばっかだもんねー」
「っ……!」
シルヴィーの顔が一瞬で真っ赤に染まる。
「図星って奴?」
「だ、誰がそんなこと……!!」
しかし、顔は真っ赤でその言葉にはまるで説得力がない。
サイバーは慌てるシルヴィーを見て、一人にやにやと笑う。
「何、俺を脱がそうとしたわけ?いやーん、シルヴィーのエッチー」
「う、うるさいうるさい!そんなわけないだろう!」
シルヴィーが声を振り絞って、否定の言葉を口に出す。
だが、サイバーの耳にはもうその言葉は届いていないようだ。
「ひゃー、シルヴィーったら欲求不満?心配しなくても俺がたっぷり脱がしてや……ぐほっ」
傍らのベッドに置かれていた枕が、サイバーの顔をめがけ宙を舞った。



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