上から降ってくるもの



ジャスティスさんはとても背が高いです。
お父さんよりもお兄ちゃんよりもずっと背が高くて、しかも外に出かけるときはかかとの高い靴を履いて
いるので余計に高く見えてしまいます。
それにひきかえ、ボクはとても背が小さいのでジャスティスさんが前を向いていると、ボクからはジャスティ
スさんの顔は見えません。
「牛乳と……卵もないんだっけ、そうだおやつでも買っていこうか」
こうやって、ジャスティスさんがボクのほうを見てくれたときだけ、ジャスティスさんの顔が見えるのです。
「……マモルくーん?」
「あ、はい、ごめんなさい!」
ボクがしゅんとなってうつむくと、上から何かがボクの頭の上にかぶさってきました。
「別に謝らなくていいのに……考え事でもしてたのかな?」
それはジャスティスさんの手で、ジャスティスさんがボクの頭をなでました。
ジャスティスさんの手は大きくて温かくて、とても心地よいものでした。
「それじゃあ、アイスでも買っていこうか、マモルくんは何がいい?」
「え、えーと、バニラアイスでお願いします!」
ジャスティスさんの手がボクの頭から離れ、ジャスティスさんが前を向いて歩き出すと、ジャスティスさん
の顔はまたボクから見えなくなってしまいます。
……ジャスティスさんと一緒に歩いていると、それがちょっとだけ寂しいのです。



二人で一緒のソファーに座っていると、その差がちょこっとだけ縮まったように感じられます。
こうしているとやっとジャスティスさんの顔が見えます。
それでも、ボクの頭はジャスティスさんの肩ぐらいの位置にあって、まだまだジャスティスさんの顔はボクの
頭の上にあるんですけどね。
ボクから見えるジャスティスさんの横顔は、ボクと同じ男の人だと思えないほど整っていて、ボクはそんなジャ
スティスさんをかっこいいなぁと思います。
「……マモルくん、さっきから俺の顔見てるけど何かついてる?」
「ジャスティスさんがかっこいいなぁと思って……あ」
はっ!
ど、どうしましょう、思っていることが思わず口に出てしまいました!
ボクは恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じました。
ジャスティスさんは、そんなボクを見てにっこりと微笑みました。
そ、そんな顔で見られるとますます恥ずかしくなってしまいます……。
ボクが恥ずかしくてうつむいていると、体がふいにジャスティスさんの方に引き寄せられました。
「ああもう、かわいいこと言ってくれるんだから!」
ジャスティスさんはボクを抱きしめると、おでこのあたりに軽くキスを落としました。
おでこにジャスティスさんの柔らかな唇が触れると、ボクはますます顔を赤くしてしまうのでした。


でも、ボクの心はドキドキする気持ちと一緒にどうしたらいいんだろうという気持ちがあるのです。
ジャスティスさんはボクにたくさんのものをくれます。
優しさとか、楽しさとか、愛情とか……。
ボクはそんなジャスティスさんの気持ちがとてもとても嬉しいのですが、それをどうやってジャスティスさ
んにあらわしたらいいのかがわからないのです。
そこで、ボクはあることを思いつきました!


この常識を打ち破ります!


「マモルくん?」
ボクはジャスティスさんの体から抜け出すと、ジャスティスさんの膝の上によじ登りました。
ジャスティスさんの太ももの上に立つと、ジャスティスさんの顔を見下ろす形になりました。
不思議そうにボクを見上げるジャスティスさんを見ていると、なんだかいつもとは違った感じに見えるよう
な気がしました。
「これで、ボクジャスティスさんより背が高くなりました!」
透き通る声も、大きな手も、柔らかい唇も、ジャスティスさんの気持ち……も、全部全部上から降ってく
るもの。
ボクは、ジャスティスさんに頂いたもの全部、ボクからもあげたいのです。
「マモルくん……かわいい」
……って何でジャスティスさんそこで笑うんですか!
ボクは真剣なんですからね!
ボクはちょっとむっとしながらも、ジャスティスさんの頭に手を置きました。
久しぶりに触れたジャスティスさんの髪の毛は、硬くてさらさらしていました。
軽く頭をなでなでしてみると、ボクまで楽しくなってくるから不思議です。
……でも、何か違うような?
いつものジャスティスさんと同じ位置に立ってみて、ボクはそう感じました。
何か、足りないような、違うような気がするのです。
ボクはふと思い当たって、膝立ちになるように体勢を変えました。
こうするとボクとジャスティスさんの顔がちょうど同じ位置、向き合うような形になります。


本当に大切なのは、上からとか下からとかじゃなくて、お互いに与え合うことだとボクは思うのです。
声も、手も、唇も全ては気持ちなのだとボクは気がつきました。
ジャスティスさんから頂いた全ての気持ちを、ボクも全力を持って受け止め、それに答えたいのです。
「……マモルくん?」
そして、ボクからもボクなりに、全力で気持ちを伝えたいのです。


いつも上から降ってくるもの、それは……。
ボクは、ありったけの気持ちをこめて始めて自分からジャスティスさんにキスをしました。



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