きっと違うと思うけど



「兄貴ー、早く早く!」
「ウパー!」
「そんなにせかすなよ、サイバー、パル」
ポップンパーティか……久々だな。


−きっと違うと思うけど−


俺とサイバーとパルは久々にポップンパーティに参加していた。
なんでも、神の粋な計らいで過去の参加者も招待されているらしい。
確かに、会ったことのある人もたくさんいる。
俺はいろんな人にあいさつをしながら会場内を回っていた。
「なぁ、ちょっと休憩にしないか?」
会場を一周周ったところで俺はサイバーとパルに話しかけた。
「えー、兄貴疲れたの?おっさんくさいなぁ、兄貴は」
「だれがおっさんだって?」
生意気なことを言うサイバーの口を軽くひねる。
「いひゃいいひゃい」
「……とりあえず俺はここで休憩してるよ、サイバーやパルももっと話したい奴いるだ……」
と、その時目の前を光るものが通り過ぎた。
キラキラと輝く綺麗な髪の毛。
「……兄貴?」
気がつくと、俺の手はその髪の毛に伸びていた。
手に取ると、手から逃げていくようなサラサラの髪。
会場内の照明に照らされて輝く金色の髪。
職業柄、色々な人物のもつ髪の毛に手を触れてきたが、今までこんな綺麗な髪の毛は見たことがない。
俺はすっかりその髪に夢中になっていたらしい。
困った顔をしているその髪の毛の持ち主に気がつかないほどに。
「……あのー……」
「あ」
俺はやっと視線に気がついた。
その髪の毛の持ち主はサングラスの奥から困ったような目をのぞかせている。
……俺、いきなりこの子の髪の毛ひっつかんだことになってるよな……。
「す、すいません!」
「いえ……」
俺は慌てて髪の毛から手を離す。
サラサラの金髪が俺の手から逃げていった。
「あー……」
さて、どう言ったらいいものか。
『君の髪の毛があまりにも綺麗だったから』なんていきなり言ったら神経疑われるよなぁ?
俺は目の前にいる髪の毛の持ち主を見た。
サングラスに白と黒でかっちりきめた洋服。
年のころは……二十歳かそこらだろうか。
サングラスの奥の顔はわりかし整ってかわいい顔をしている。
……男だから、かわいいはあれか?
そして、髪の毛。
手に残った感触を思い出す。
照明に照らされて光るサラサラの金髪。
髪の毛の光沢が綺麗に出ることを『天使の輪』だなんて言うけれど、これこそまさに『天使の輪』だ。
とりあえず、不審そうな顔を俺に向けているこの子に何か言わなきゃな……。
「……あー、その、まずはすいません」
「いえ……別に、びっくりしましたけど」
とりあえず、あれだ、自己紹介しといたほうがいいよな、うん。
「あ、俺、マコトって言います」
「ジェフです」
ジェフ君かぁ……。
ちらりとまた彼の持つ髪の毛に目を向ける。
「……そんなにボクの髪の毛が気になるんですか?」
どきり。
「あ、ああ、俺、美容師やってまして」
いいや、もう。正直に言ってしまえ!
「職業柄いろんな髪の毛を目にしてるんですけど、あまりに綺麗な髪の毛が目の前を通り過ぎたんで
つい……すいません」
「はぁ……」
あー、あきれてるよー……恥ずかし。
「いきなり、髪の毛をひっぱられたときには何かと」
「いやほんと、マジですいません」
「変な人ですね」
くすり、とジェフ君が笑う。
「そんなにボクの髪の毛綺麗ですか?」
「ええ!」
そりゃあもう!
「何か、さわりたくなる魅力があるというか……こんな綺麗な髪の毛、美容師やっててめったに見れな
いですよ!」
「それは、光栄ですね」
「……もう一回、さわってもいいですかね?」
ジェフ君は笑いながら「どうぞ」、といってくれた。
髪の毛に手を伸ばして、触れる。
さっきと同じ、サラサラとした金髪。
「いやー、ホント綺麗な髪だ……」
軽く髪の毛を手で梳く。
絡まることなくサラリと抜けていく金色の髪の毛。
「……自分の髪の毛をほめられるのは悪い気はしないですけど、何か変な感じですね」
ジェフ君がポツリと言葉をもらす。
俺は名残惜しそうにジェフ君の髪の毛から手を離す。
「こんな髪の毛をカットできたら美容師冥利に尽きるだろうなぁ……あ、そうだ!」
俺は胸ポケットから一枚の紙をとりだした。
店への簡単な地図が書いてある名刺。
「俺、いつもはここで働いてるんです、よかったら今度髪の毛切りに来ません?」
ジェフ君が名刺を受けとる。
「自分で言うのもなんだけど、俺、腕はいいですよ」
「……それじゃあ、そのうち伺わさせていただきますよ」
マジで?!
「あ、もうこんな時間ですか?!ボク、もうそろそろステージへ向かわないといけないので失礼しますね」
「すいません、引き止めてしまって」
「いえいえ、楽しかったですよ」
ジェフ君はそういうと控え室のほうへと歩いていった。
『そのうち伺わさせていただきますよ』
正直、社交辞令以外の何者でもないとは思うけど、嬉しい。
「兄貴ー」
サイバーが話しかけてくる。
「あれ?出かけたんじゃなかったのか?」
「……さっきからずっといたよ」
……気がつかなかった。
「……兄貴、さっきの人気に入ったんだろ」
「何で?」
「……エロイ顔してる」
エロイ顔……確かにジェフ君のことは気になるけども。
手に残った髪の毛の感触を思い出すと同時に、ジェフ君の笑顔も思い出す。
「天使の、輪か……」
……彼のことは気になるけど恋愛感情じゃないよ、たぶん。
きっと、たぶんね。


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