少年たちの恋愛模様



「よ、バカ」
「俺の名前バカじゃねーよ」
「バカにバカと言って何が悪い」
シルヴィーは会場に入りすぐに、あの水色の頭を探した。
サイバーは昨日と同じロビーでジュースを飲んでいた。
シルヴィーは自分も缶ジュースを買いサイバーの隣に腰掛けた。
「昨日……告白した」
「はぁ?!」
シルヴィーのつぶやきにサイバーがすっとんきょうな返事を返す。
「……お前が言ったんだろう、『言わないより言ったほうがすっきりする』って」
「そりゃ、いったけどよー……まさか本気で告白するとは思わないじゃんかよー」
「で、振られた」
「悪かったよ……俺、軽いつもりで告白しろなんて言っちまって」
「いいや……でもバカはバカなりにいいことをたまには言うもんだな」
シルヴィーは天を仰いだ。
「なんかもやもやしてたものがスーッと解消されたような感じだ……ひさしぶりだなこんなにすが
すがしい気分になれたのは」
シルヴィーの胸に昨日までの陰鬱な気持ちは残っていなかった。
「……お前のおかげかもな、ありがとう」
シルヴィーは軽く微笑みサイバーに礼を述べた。
「べ、別に俺なんもしてねーし……」
「今日でポップンパーティも終わりだな……」
シルヴィーはまた天を仰いだ。
「シルヴィーって確かイギリスだよな、明日もう帰っちまうのか?」
「ああ、明日の昼の便で発つ予定だ、学校もあるしな……」
「学校?そういやシルヴィーって何歳?」
「17だ」
「嘘?!俺と同い年?!」
「何だって?!」
お互い、相手の姿をマジマジと見つめる。
『……見えねー』
二人がほぼ同時につぶやいた。
その様子にさらに噴出してしまう。
「ははっ、バカと同い年とはな……」
「あんまりバカバカ言うんじゃねーよ!こっちこそ不健康児と同い年だなんて考えてもいなかった
ぜ」
「……不健康児だと?」
「だってすげー肌青白いし、やせてるし」
「これは色白なだけだ!……ボクを侮辱したな……後悔させてやる!」
「おぉ?やるかぁ?」
『ポップンで勝負だ!』
二人は立ち上がり会場へと向かっていった。
どことなく、楽しそうな雰囲気をまといながら。

「ボゥイくん……もうすぐ搭乗時間ですよ」
「だってヒグラシさんとまたしばらくあえないと思うとさ〜、ね、もうちょっとだけ」
翌日、ボゥイとシルヴィーはイギリスに帰るため空港に来ていた。
見送りに来たヒグラシにボゥイが抱きついている。
「またきっとすぐにあえますから……ね?」
そこに搭乗手続きを終えたシルヴィーが戻ってきた。
「ボゥイ!もうすぐ搭乗時間だぞ、さっさと行って来い!!」
「ええ〜しょうがないなぁ……じゃあ、ちょっと行ってくるね」
ヒグラシからはなれたボゥイはしぶしぶカウンターのほうへと走っていった。
ヒグラシが手を振って見送っている。
「……ヒグラシさん」
シルヴィーがヒグラシに話しかけた。
「はい?」
「……ボゥイをよろしくお願いします」
ヒグラシはちょっと驚いたような顔をしたがすぐに微笑んで「はい」と一言答えた。
この人ならボゥイをきっと幸せにしてくれるだろう、シルヴィーはなんとなくそう思った。
『○○便に搭乗なさるお客様は○番ゲートに……』
搭乗時間をしらせるアナウンスが空港内に響く。
「……それじゃ、ボクは先に行ってますね」
「ボゥイくんに伝えておきますよ……シルヴィーくんも、お元気で」
軽く手を振ってシルヴィーはゲートをくぐった。
ふと、窓の外を見るとそこには雲ひとつない青空が広がっていた。
ああ、あいつの髪の毛の色みたいだなとシルヴィーはぼんやり思った。
と、そのとき。
「どけどけどけどけーーーーーーー!!」
「ウパーーーーーーー!!」
……なんだか聞き覚えのある声がけたたましい物音と一緒に近づいてきた。
「あ、シルヴィー発見!!」
サイバーだ。
その後ろには兄貴と思われる青年と謎の宇宙人もいる。
「シルヴィー、受け取れ!!」
サイバーが何かを投げた。
シルヴィーはそれを受け止めた。
「……何だ?」
サイバーの投げたもの、それはギャンブラーZのストラップだった。
「それ、俺とおそろいなんだぜ!」
サイバーが自分の携帯を掲げる。
「次あったときに俺のこと忘れてたらしょうちしねーからな!」
ボゥイが搭乗手続きをすませて戻ってきた。
「あれ、サイバー?何、君たちいつの間に仲良くなったの?」
「……いつのまにかね」
『離陸時間が近づいております、手続きをすませてないお客様は……』
飛行機の離陸を知らせるアナウンスが空港内に響く。
「シルヴィー、そろそろ行かなきゃ」
「あ、ああ……」
見送りを背にボゥイとシルヴィーは飛行機へと向かった。
「シルヴィー!」
サイバーの声がする。
「……またな!」
シルヴィーはサイバーのほうを向き返事の代わりに大きく片手を挙げた。
「さ、行こうもう時間があまりない」
「……シルヴィー、なんだか嬉しそうだね」
「そうか?気のせいじゃないか」
シルヴィーは手の中にあるギャンブラーZのストラップを見た。
『忘れたらしょーちしねーからな!』
さっきのサイバーの言葉が思い浮かぶ。
シルヴィーは口の端を少し釣りあがらせつぶやいた。

「たまには思い出してやるよ、サイバー」
窓の外には相変わらず雲ひとつない青空が広がっていた。


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