星のかけら



川原に寝転がって、空に向かって手を伸ばしてみる。
空は紫色に染まり始め、ちらほらと星が瞬き始めている。
手を伸ばせば、届きそうだというのに……届かない。
「あーあ……」
あきらめて、手を大の字のように大きく広げる。
ちらりと顔を横に向けると、そこには音も立てずにたたずんでいる僕の飛行機がいた。
今回は何が駄目だったのかな、プロペラの構造を変えてみたのが駄目だったのかな。
飛行機から目をそむけるように反対側に顔を傾け目を閉じる。
今度はあそこをああやって……こうやって……。


「……ライト君、起きてます?」


砂利を踏む音と振ってきた声に目をあけると、見覚えの無い靴が目に入った。
そのまま顔を上へと傾けていくと、見覚えのある困ったような顔が目に入る。
「あー、Fだー」
「いくら暖かくなったからって、こんな時間に寝転んでたら風邪ひきますよ?」
カバンを片手にたたずむF。
Fは飛行機のある方向を見ると、何も言わずに困ったような顔で笑い僕を見た。
「何かFが自分の足で歩いてるって変な感じ」
「なんですかそりゃ、俺だって仕事が終われば自分の足で歩きますよ」
「仕事、終わったの?」
「ええ、今日は早番だったんでライト君いるかと思って来てみたんですけど……っていつまで寝転がって
いるんですか、背中冷えるでしょうに」
Fに言われて始めて、背中にひんやりとした感触を感じる。
でも、僕は起き上がる気にはなれなかった。
「こうしてるとね……星空の中を浮いてるような感覚になれるんだ」
僕が空を見ると、Fもつられるように顔を上に上げる。
空はもうだいぶ暗くなっていて、さっきよりもたくさんの星が見えた。
視界の中に見えるのは星空……とFだけで僕の体は星空の中をふわりと浮いているような感覚に包まれる。
ほら、やっぱり星に手が届きそう。
そうやって星を拾おうとして手を動かしても、僕の手が冷たく空気を切るだけだった。
「やっぱり届かないか……」
「ライト君?」
僕の言葉に、Fがまた僕のほうを見る。
「星に触れたいな」
近くで見たら、ただのごつごつとした岩だってわかってる。
それでも。
もう一度、星に向かって手をのばす。
空を飛べても、星には届かない。
それでも、そこまで行けたなら。
ぽさり、と伸ばした手のひらの上に何かが落ちる。
その感触に驚いて、手を引っ込めるとそこには小さな袋が乗っていた。
「……いただきもので悪いんですけど」
Fがそう言って、照れくさそうににこっと笑う。
小さな袋の中身を見る。
「星のかけら……には見えませんかね」
小さな袋の中には小さな小さなこんぺいとう。
「ほらほら本当に風邪引いちゃいますよ、起きて起きて」
「……うん」
すっかり冷えてしまった背中を感じながらゆっくりと立ち上がる。
いつもは新幹線に乗ってるせいで高く見えるFの顔が今日は僕と同じ高さに見えた。
「F、ありがと」
僕は片手に持ったこんぺいとうの入った袋を握る。
「どういたしまして、会社でいただいたんですけどよろこんでもらえてよかったですよ」
Fがまた僕に笑いかける。
そんなFを見て僕も嬉しくなって、にこっと笑った。
「じゃあ、飛行機片付けちゃうからちょっと待っててね!」
「あ、俺も手伝いますよ」
飛行機運ぶために軽く解体しようとする僕の後からFがついてくる。
「わーい!ねぇFー、僕おなかすいたー」
「ははっ、じゃあ飛行機をライト君の家に置いたら何か食べに行きますか?」
Fが僕に笑いかける。
「やったぁ、F大好きー!」
僕がそういうと、Fはまた照れくさそうに笑った。





「さーて何食べに行きましょうか?」
飛行機を僕の家に置いて、もう真っ暗になってしまったお外に出る。
「僕、ハンバーグ食べたいな!」
「じゃあそうしましょうか、この前クモハさんにいいお店教えてもらったんですよ」
Fと僕が並んで歩く。
Fと僕の目線が同じ高さにあるのが嬉しい。
「えへへー」
「……どうしたんですか」
「並んで歩けるのって嬉しいなーって」
「ああ、いつもは俺が相棒に乗ってるから……」
ふと、Fが歩みを止めて僕をじっと見る。
「どうしたの?」
「……ライト君、もしかしてまた身長、伸びました?」
そういえば、伸びたかもしれない。
Fにそういうと、Fは少しだけ気を落としたような顔をした。
「そ、そうですか……」
「もしかして、もう少しでFを追い抜いちゃうかもね?」
僕はぼーっとしているFの手を取って歩き出した。
「うわっ?!」
「ほら、早く行こうよ!」
「は、はい……」
いつもの仕事用の薄い手袋じゃなくて、厚手の皮手袋をしたFの手を握る。
つながった所から互いのぬくもりが行き来した。


もう片方の手をポケットに入れ、こんぺいとうの袋に触れる。
頭上には届くことの無い星が瞬き、片手には小さな小さな星のかけら。
そしてもう一方の手には空を行く……淡く光る流れ星が今、僕の手の中に。



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