男の浪漫協奏曲



「ヒグラシさん、マコトさん、好きな人にお礼をしたいんですけど、どうしたらいいと思いますか?」
毎度おなじみポップンパーティ。
ヒグラシ、マコト、マモルの三人は会場の椅子に座り話をしていた。
近況の話、音楽の話、そして会話は次第に恋愛の話に移っていき出てきたのがマモルの先ほどの発言であ
る。
なんでも、マモルは好きな人に大変お世話になっているので恩返しがしたいらしいのだ。
マモルいわく、マモルとその人は付き合っていて、その人はマモルよりずっと年上の人らしい。
「う〜ん、プレゼントよりはなにかこう、行動で示すのがいいですよね、お手伝いとかお料理とか」
「料理か……もう一捻り加えたいな……」
ヒグラシとマコトが考えをめぐらせる。
ふと、マコトが手を叩いた。
「裸エプロンはどうだろう」


−男の浪漫協奏曲−


『裸エプロン?』
ヒグラシとマモルが声をそろえて疑問符を口にする。
「ん、裸エプロンしらない?」
「い、いえ、知ってますけど……」
裸エプロン。
その言葉の通り素っ裸にエプロン一枚のみを身につけた状態のことを指す。
まだ言葉の意味が理解できていないマモルに、ヒグラシが耳打ちする。
その瞬間、マモルの顔がかぁっと赤くなった。
「え、え、ええー?」
「料理ってのもいいがあと一押し欲しいからな、裸エプロン」
「マコト先輩……マモル君は男の子ですよ」
「いや、男がやってもいいと思うんだけど……」
マコトが天を仰ぐように、顔を上げる。
何か考え事をしているようで、頻繁に「うん、いける」とつぶやいている。
「は、裸エプロンって、男の人は喜んでくれるんですか?」
「う〜ん……どうだろう」
ヒグラシは、マモルの発した「男の人」と言う単語に少し引っかかりを覚えつつも首をかしげた。
そこに、思考を終えたマコトが言葉を発した。
「裸エプロンは、男の浪漫だ」
その言葉にヒグラシとマモルがきょとんとした瞳でマコトを見る。
マコトは手をぐっと握り両手に握りこぶしを作った。
「考えても見ろ……何故、裸にエプロンが必要なのか?それはチラリズムという浪漫があるからだ。
人は皆、チラリズムに誘惑を感じるんだ。パンモロより、パンチラ。袋とじの隙間から覗くあのドキドキ。
人は皆、全てを見せるより部分を見せられたほうがより興奮するというわけだ。
そこに裸エプロンの可能性が見えてくる……素肌にエプロンという普段ありえない格好とこのチラリズム
効果が複合して相手により高い喜びを与えることになる。
そこに、女だ男だという垣根など存在しない!」
「チ、チラリズムですか……!」
「なんだかわからないけどすごい説得力だ……!」
マコトの熱い語りに、圧倒される二人。
「ぼ、僕、裸エプロンやります!」
「そうか、俺も今日恋人にやってもらおうと思う!」
「ええっ、ちょっとマモル君、マコト先輩?!」
間違った闘志を燃やすマモル。
それに満足そうにうなずくマコト。
おろおろしつつ、(裸エプロン…あの人はどうだろう……好きなの、かな?)と心の中で裸エプロンの誘
惑に惹かれつつあるヒグラシ。
三人の間に怪しい何かが生まれつつあった。







数日後、Bar Merry Blue。
ふぅ……今日の演奏もまずますのできだったな。
お客さんにも楽しんでいただけたようだし、私も酒を楽しむとするか。
「マスター、マティーニを一杯、甘くない奴を頼む」
「グリーンさん、今日もお疲れ様です」
しばらくすると目の前にマティーニが運ばれてくる。
うん、うまいな……。

カランカラン。
おや、ジャスティス君じゃないか青い顔してどうしたんだね?
「あ……グリーンさん、いえ、何でもないです……ただ、裸エプロンが……うっ」
大丈夫かね、鼻血が出ているが……。
「だ、大丈夫ですから、はい!」
ジャスティス君はふらふらと歩きながら奥の席へと消えていった。
しきりに何かをつぶやいていたようだが本当に大丈夫だろうか……?

カランカラン。
おや……ジェフ君、今日はずいぶんとご機嫌斜めのようだね。
「そうですか?ボクはいつもどうりですがね」
そう言っているジェフ君のこめかみはぴくぴく動き、明らかに怒っていることをあらわしている。
誰かにぶつぶつと怒りを吐き出しているようだが……。
「……二度と裸エプロンなんかやるもんか……まったく、あの人は……!」
不機嫌なオーラを撒き散らしながら、ジェフ君は奥の席へと歩いていった。
……まぁ、ゆっくりしていきたまえ。

カランカラン。
「ハロー、Mr.グリーン!」
やぁローズ君、今日はずいぶんとご機嫌なようだな。
「わかるかい?!いやー、やっぱりジャパンは素晴らしいね!ヌード・エプロン、素晴らしい文化だ!」
そういうとローズ君は鼻歌を歌いながら奥の席へとスキップで去っていった。
………………………………。





カランカラン。
「おーっすグリーン、元気してるか?」
「ああ……最上君か」
「何だ、ずいぶん眉間にしわがよってるぜ」
「……世間では、裸エプロンがはやっているのか……?」
「は?」



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