同じオレンジ



誰もいない公園で一人ブランコをこぐ。
キィキィと鎖がきしむ音だけが公園に響く。
それは泣いているようにも聞こえた。


-同じオレンジ-


「ナカジ何見てんの?」
話しかけられてふと気づく、奴と一緒にいたことを。
「……別に」
「いや、すっげー顔でブランコ見てたぞ」
近くの公園にある揺れるブランコ。
夕暮れ時、宿主を失ったブランコがさびしそうに揺れていた。
……思い出したくもない。
両親が共働きで夜にならないと誰も帰ってこなかった家。
一人また一人みんなが家に帰っていくのを横目に、俺は一人ブランコに揺られている。
「……別に、なんでもない」
そんな、小さい頃のくだらない思い出。
揺れるブランコから目をそらす。
目をそらした先には奴がニヤニヤと笑っている。
「何がおかしい」
「ナカジ、あれだろ、ブランコ乗りたいんだろ」
「は?」
どこをどうすればそんな結論にたどりつくのだろう。理解不能。
「そんなわけないだろ……」
「いや、照れるなって! そうだよな一人で乗るのは恥ずかしいもんなー」
そういうと奴は俺の腕をつかみ移動を始める。
「お、おい……」
「まぁまぁ俺にまかせろって」
悔しいが力では奴に勝てない俺は引きずられていってしまった。


何でこんなことになったんだろう。
気がついたらブランコに座っていた。
「いよっこいしょっと」
掛け声とともに奴がちょうど二人乗りになるように足を突っ込んでくる……って!
「あんたも乗るのかよ!」
「乗るにきまってるだろうが、おらもっとケツあげろ」
ブランコがギシギシと悲鳴をあげる。
「壊れる、壊れるだろこれ!」
「大丈夫大丈夫っと」
掛け声とともに今度は奴がブランコをこぎ始める。
油断していた俺は帽子を押さえつけ、必死で鎖をつかんだ。
「そうれっ!」
ブランコはスピードを増し、高さもでてきた。
必死に鎖にしがみついている間に下駄が両足ともに吹っ飛んで行った。
「ちょ、ま……」
「夕焼けがきれいだなぁナカジ」
体勢をととのえて、声につられてふと上を見る。
ちょうどブランコは最高点に達したところで、このまま体ごと夕焼けに引きずり込まれてしまいそうだった。
見渡す限りのオレンジ、それは言うならばまるでオレンジの海。
「まぶし……」
夕焼けはこんなにまぶしいものだっただろうか。
……ああ、一人で下ばかり見てたから気がつかなかったんだ。
「たまにはこういうのも楽しいよなぁ!」
「……そうだな」
「お、機嫌直ったか」
「どういうことだ」
「や、さっきお前すげぇ苦い顔でブランコ見てたからよ」
……俺は慰められていたっていうのか?
はん、情けない。
「うおおお! 見ろナカジ!」
「今度は何だ」
「お前の下駄、両足とも表向いて着地してるぞ!」
「だからどうした」
「ばっか、お前これ明日めっちゃ晴れるぞ!!」
「……くだらない……」
もう一度オレンジの海を見る。
奴の顔はここからじゃ見ることができない。
できないけどきっと笑ってるんだろう。
「……とうな」
「あん? なんか言ったか?」
「……別に」
もうブランコを見ても過去を思い出して苦い顔をしている暇はないだろう。
思い出すのはきっとこの馬鹿野郎とオレンジだ。





……ついでに奴が着地に失敗してブランコから鉄拳制裁を受けるのはもう少し後の話だ。



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