恋人たちの夏



夏。
世間の学生はとっくに夏休み。
きっとみんな長い休みに心を躍らせているのだろう。
友達と遊んだり、恋人と過ごしたり……。
そう、恋人と過ごしたり……はぁ。


「……ちっ、またやられた……!!」
画面には難しいと話題の格闘ゲーム。
横には不機嫌な顔で画面をにらむシルヴィー。
はぁ〜あ……。
「……何大きなため息ついてるんだ、ボゥイ」
さっきまで画面をにらんでいたシルヴィーが僕のほうを見る。
「世間の恋人達はラブラブしてるっていうのに何で僕は君といるのかなぁって……」
「悪かったな……」
「あ〜ぁ、ヒグラシさ〜ん……」
頭に浮かぶのは僕の愛しい人。
「ボゥイくん」、とにっこり笑う顔が思い出される。
「そんなに会いたいのなら日本に行けばいいじゃないか」
シルヴィーが画面に目を戻してまたゲームをやりはじめる。
「だって、飛行機のチケットが3日後までいっぱいなんだよ〜」
「そりゃ災難だな、あきらめろ」
む〜、シルヴィーったら自分の恋人が同じ国内だからってそっけない態度取りやがって……。
うわ〜ん、会いたいよ〜。
あれ?そういや……。
「そういうシルヴィーだってなんでここにいるのさ」
「どういうことだ」
画面ではシルヴィーがコンピューター相手に技をかけている。
「ロ・ー・ズ・さ・ん」
あ、動きが止まった。
「ああっ、死んだ!!ボゥイのせいだ!」
「僕のせいじゃないよ〜」
動揺してる動揺してる。
「……忙しいんだからしょうがないだろう……」
「え〜忙しいってのは方便で、実は浮気とかしちゃってるかもよ〜?」
「そんなはずないっ!!」
あ、怒らせちゃった。
「ごめんごめん、冗談だよ」
「だいたい、浮気どうのこうの問題だったらヒグラシさんの方が心配じゃないのか?」
「あ、それはないない」
「……ずいぶん自信たっぷりだな……」
「え〜だって、愛し合っちゃってるからぁ?」
「キモイ」
「ひどいなぁ」
だって、ホントのことだしぃ?
「だって、ヒグラシさん僕を見ると『ボゥイくん』って言ってにっこり笑ってくれるんだよ?」
「それぐらい、好きな相手なら当然だろう」
「僕が街中で抱きついて、そっとほっぺにチューしても本気で嫌がるそぶりみせないし〜」
「……恥ずかしい奴だな」
「あの時だって、僕に必死でしがみついてきちゃってかわいいのなんの……」
「……」
あ、赤くなった。
どんな想像してるんだか……。
「そういうシルヴィーこそどうなのさ」
「ボクはキミみたいにベタベタしたりしない、なんていったって大人の恋愛だからな」
むかっ、まるで僕が子供みたいじゃないか。
「……誕生日に薔薇の花束を持ってこられて『この花束はキミの年の数より一本少ないんだ、なぜ
だかわかるかい?それは、キミこそが最後の薔薇の花だからさ……』とか言われてキスされて顔を
真っ赤にするのが大人の恋愛?」
「なんで知ってるんだ!?見てたのか?見てたんだな!?」
さ〜て、なんでだろうねぇ……。
「あ〜ぁ、会いたいなぁヒグラシさ〜ん……」
僕は転がっていたもう一方のコントローラーを手に取る。
「ボクだって、好きでキミといるわけじゃ……ぶつぶつ」
シルヴィーが何か言いつつコントローラーを握りなおす。

(ヒグラシさんに)
(ローズさんに)
会いたいなぁ……。



「ふえっくしゅん!」
「ヒグラシ君、風邪?」
「誰かが噂でもしてるんですかね〜」
バイトを増やして2ヶ月、貯金は少しずつたまってるけどまだ足りないなぁ。
「はぁ……イギリスって遠いなぁ」
「ヒグラシ君、3番テーブルお願い」
「あ、わかりました!」



「くしゅん!」
「ローズ風邪か?最近仕事が忙しかったからなぁ……」
「そうだねぇ……でもおかげで、そろそろまとまった休みが取れそうだからいいさ」
シルヴィーに電話してみようかな?
あ、でもいきなり行って驚かせるのもいいな……。
う〜ん、どんな反応を見せてくれるか楽しみだなぁ。


暑い夏は始まったばかり。
まだまだ恋人たちの夏は始まったばかり……。


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