大きなクレーンの上で



もしかしたら、会えるかもと思った。
「……マモルくん?」
「ジャスティスさん?!」
俺がクレーンの元に行くとそこにはマモルくんがいた。
しかも、パジャマ姿で。
「どうしてここに……それにそんな姿じゃ風邪を引くよ?」
「すいません、眠れなくて窓の外にクレーンが見えたから、つい……ジャスティスさんこそどうし
てここに?もう調整は必要ないですよね?」
「あ、ああ、クレーンの上に忘れ物でもしてないかと思ってね……」
まさか、「マモルくんに会えるかもしれないと思ったから」なんて言えなくて、俺は適当な言葉で
お茶を濁した。
少しの間、沈黙が続く。
「上……行くかい?」
しばらくして俺が発した言葉にマモルくんは静かにうなずいた。
リフトで上に上がる途中も会話は無くて。
上に上がったらいつものように俺とマモルくんに命綱をつけて、クレーンに腰掛けマモルくんを俺
のひざに乗せる。
「今日はちょっと風があるね」
「そうですね」
「大丈夫、寒くない?」
「大丈夫です……ジャスティスさんが暖かいから」
「そっか」
俺はマモルくんをぎゅっと抱きしめた。
いつものようにちょっと体温の高い体が心地いい。
「……ポップンパーティ終わっちゃったね」
「……そうですね」
「楽しかったね」
「はい、いろんな人とお知り合いになれましたし、勉強になりました」
「そうだね、俺もそう思うよ」
口に出して実感する。
もう、ポップンパーティは終わってしまったんだ。
明日からはまた、いつも通りの日常が始まるわけで……ミュージシャンと小学生の。
もうマモルくんと会うこともないのかと思うと、思いを伝えてしまいたい気持ちがいっそう強くなる。
「どうする、もう降りる?」
マモルくんの気持ちにちょっとだけ探りを入れてみる。
「……もう少しだけ、このままでもいいですか」
「いいよ、マモルくんの気のすむまでここにいようか」
また少し、沈黙が続く。
その時、俺はマモルくんの肩が細かく震えてるのに気がついた。

”ポップンパーティ終わっちゃったね”
ジャスティスさんの言葉が心に響く。
ポップンパーティはもう、終わってしまったんですよね。
明日になったら、お家に帰って、お父さんたちにポップンパーティのことを話して……。
普通の日常に戻るんですよね。
そしたらもうジャスティスさんとこうやって話すことはたぶん、なくなっちゃうんですよね。
ジャスティスさんの体温を背中で感じることもなくなっちゃうんですよね……。
そう考えると胸をぎゅっと締め付けられたようになって、ボクは泣き出しそうになってしまいました。
「どうする、もう降りる?」
ジャスティスさんの優しい声。
「……もう少しだけ、このままでもいいですか」
まだ離れたくなくて。
「いいよ、マモルくんの気のすむまでここにいようか」
……ジャスティスさんは優しい。
ボクはジャスティスさんの体温を背中で感じ取っていました。
ジャスティスさんを忘れないように。
でも、いつか離れるときがくると考えると、周りの景色がにじんでしまって、ボクの目からは涙があ
ふれてきてしまったのです。
泣いちゃ駄目です、ジャスティスさんを困らせてしまいます。
だけど、ボクの目から零れ落ちた涙はもう止まらなくて……。
「マモルくん……泣いてるの……?」
「ち、違います、ただ、ジャスティスさんが優しくて、温かくて」
ボクの口からは涙と同じように言葉があふれ出てきて。
でも、やっぱりそれも止まらなくて。
「ジャスティスさんとあえなくなると思ったら、ちょっと悲しくなっちゃっただけです……」
ここからじゃ、ジャスティスさんの顔は見えないけど、きっと困った顔をしてるんでしょうね。
「ご、ごめんなさい、大丈夫ですから……」
その刹那、ボクの体は宙に浮き、気がつくとジャスティスさんと向き合うように座っていました。
ジャスティスさんは困ったような、それでいて思いつめたような複雑な表情をしていました。
そして、ジャスティスさんの顔が近づいてきたかとおもうと唇に、温かくて、やわらかいものが触
れました。
……………………もしかしてボク、キス、されてますか?
やがて、ジャスティスさんの顔が離れて、ジャスティスさんがボクを抱きしめてきました。
今までよりも強い力で、ぎゅっと、まるで離さないように……。
さっきまで寂しさと悲しさでいっぱいだったボクのこころは、今度は恥ずかしさと混乱とが入り混じ
ってもうわけがわからなくなってしまいました。
「……マモルくん、好きだよ」
ジャスティスさんがボクの耳元でつぶやきました。
「マモルくんが、好きだよ」
す、き?
「このまま、終わりにしたくないよ……」
ジャスティスさんの腕にさらに力が入って、ボクはちょっと痛いと思ったけどジャスティスさんの言
葉をこころの中で繰り返していました。
好き?ジャスティスさんが、ボクを?
ボクは嬉しくて、恥ずかしくて、何もいえなくなってしまって。
きっと、ドキドキしたのも、離れたくないのも、悲しくなっちゃったのも、ボクもジャスティスさんを
好きだからで。
プロポーズされたお母さんもこんな気持ちだったのかな。
嬉しくて、恥ずかしくて、でもやっぱり嬉しくてドキドキして。
そう思ったらまた涙があふれてきて、何も言えなくて。
ジャスティスさんが体をちょっと離して、ボクを見つめています。
ジャスティスさんのほっぺたが赤くなっていて、ジャスティスさんもドキドキしてるんだとボクは思
いました。
ボクは、何か伝えなきゃと思って言葉を発しようとしたけど胸がいっぱいで何も出てこなくて。
そんなボクを見ながらジャスティスさんはちょっと困ったように笑いながらこう言いました。
「ねぇ、マモルくん、これからのことなんだけどもしもマモルくんが手を挙げて過半数を超えたら
終身共生法案……は無理だから、恋人としてつきあっていきたいと思うんだけど、どうかな?」
そういって、ジャスティスさんは軽く右手を挙げてボクを見つめました。
ボクも、泣きながら右手を挙げました。
そうしたら、ジャスティスさんはにっこり微笑んでまたボクに顔を近づけて……。

『そして君とキスして、壊さないように努めます』



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