大きなクレーンの上で



最終調整をしようと思ってクレーンの元へ行った。
そうしたら、一心不乱にクレーンを見つめてる小さな男の子がいた。
小さな、小さな男の子がいた。
俺は、その子を見つめていた。

−大きなクレーンの上で−

明日の準備を済ませ、もう一度クレーンを見に行こうと思った。
「ポップンパーティ、ねぇ……」
売出し中だった俺の元にポップンパーティの招待状が届いたのはつい先日のこと。
クレーンの上で歌う俺の姿を見たとか何とか。
どうやらポップンパーティの主催にはそうとうな物好きがいるらしいな……。
そんなことを考えながらクレーンの元へ向かうと人影が見えた。
しかも、小さな人影。
日も暮れてしまったこんな時間にいったい誰が?
近づいていくにつれてはっきりしてくる人影。
それは小さな男の子だった。
男の子はクレーンを見つめていた。

(何でこんな時間こんなところに男の子が……)
「ちょっと、そこの君」
「ひゃあ?!」
男の子はどうやら俺に気づいていなかったらしい。
まぁ全身黒尽くめだし、目立たないだろうけど……。
「こんな時間にここで何をしてるんだ?」
「す、すいません、ホテルの窓からこのクレーンが見えたんで近くで見てみたくて……」
ホテル?まさかこの子ポップンパーティの参加者なのか?
「もしかして、君ポップンパーティにでるの?」
「え、お兄さんもですか?」
こんな小さな子まで参加するのか……。
俺はその男の子をじっと見つめてみた。
大きな眼鏡にちょっと大き目の服、背格好から想像するに小学校高学年ぐらいだろうか。
「このクレーン、お兄さんのですか?」
男の子が俺に問いかける。
「そうだよ、これは俺の舞台装置さ」
「舞台って、まさかここで歌うんですか?!」
「ああ、このクレーンの上でね」
男の子はまたクレーンに目を戻した。
「こんな大きなクレーンの上から見える景色ってやっぱりすごいんでしょうね……」
「まぁね、歌ってて気持ちがいいよ」
男の子はじっとクレーンを見つめている。
俺は、そんな男の子を見つめていた。
「あっ、お兄さんこのクレーンに用事があってここにきたんですよね、ごめんなさいボク邪魔ですよ
ね」
「あ、いや……別に」
「すいません、気がつかなくて」
男の子がペコリと頭を下げた。
そしてもう一度名残惜しそうにクレーンを見つめた。
「……上に上がってみたい?」
「え?」
「いや、ここに来たのはちょっと上の様子を見たかったからでいまなら風も穏やかだし」
「え、でもお邪魔じゃ……」
「大丈夫だよ、君1人ぐらい」
まっすぐ俺を見つめてくる男の子。
何でこんなことを言い出したのかわからないけど今は、もう少しだけこの子と一緒にいたかった。

隣にあるリフトを使って俺たちは上まで上がって行くことにした。
「そういえば、君名前は?」
「あ、ボクマモルって言います!」
「マモルくんね、俺はジャスティス」
「ジャスティスさんですね!今回ボク初めてここに来たんです」
「俺もだよ、もしかして自分を神様だとか言う男の子来なかった?」
「もしかして、ジャスティスさんのところにもですか?」
「はは、やっぱりか俺たち同じだね」
「そうですね……1人で来るのちょっと不安だったんですけどジャスティスさんみたいな人とお知
り合いになれてよかったです!」
たわいもない話を繰り広げている間にもリフトはどんどん上昇していき、ついにクレーンのステー
ジへと到着した。
俺は自分に命綱をつけてマモルくんにもつけてあげた。
「危ないから俺につかまっててね」
「はい!」
クレーンの上からは周囲の景色が一望できる。
夜だから遠くまでは見えないけど、そのかわり地上のライトが星のように見える。
俺はかるく辺りを見回した後安全を確認してマモルくんを抱きかかえた。
ステージの上に座り、ひざの上にマモルくんを置いて落っこちないようにぎゅっと抱きしめた。
「これがクレーンの上からの景色だよ、今は暗いからあんまり見えないけどね」
「うわぁ……すごいですね」
マモルくんは周りの景色に夢中になっている。
ちょっと高い体温が心地いい、なんてことを俺は考えていた。
「これだけ高いと、星に手が届きそうですね!」
「はは、そうだね」
マモルくんは興奮したように無邪気な笑顔を見せている。
そんなマモルくんを俺はかわいいと思った。
「あの、ジャスティスさん」
「ん?」
「つれてきてくれて、ありがとうございます」
そう言ってマモルくんが俺に笑いかける。
とびきりの、笑顔。
その時わかった。
ああ、俺マモルくんのことが好きなんだな。
クレーンの上のドキドキ感と勘違いしてるんじゃない、だって地上で言葉を交わしたときから俺は
マモルくんから目が離せなくなっていたんだから。
俺がこんなことを考えているなんて全然思ってないんだろうな、マモルくんは。
「どうしたんですか、ジャスティスさん?」
考えこんでいた俺に気づいたのか、マモルくんが俺を心配そうに見つめている。
「……ううん、なんでもないよ」
俺は言えない言葉の代わりにマモルくんを抱きしめる手にちょっとだけ力を込めた。


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