一緒に



「マモル君は鍋の後は雑炊派?それともうどん派?」
「うーん、今日みたいなあっさりしたお鍋の時はご飯の方があいますよね」
「そうだよね、俺も雑炊の方が好きかなー」
スーパーの中をマフラーと帽子で顔を隠したジャスティスとマモルが歩く。
ジャスティスの手には大きな買い物かごが一つ握られている。
買い物かごの中には鶏肉、豆腐、ねぎなど色とりどりの食材が詰め込まれていた。
そしてかごのなかでは土鍋がひときわ大きく存在を主張している。
「しかし最近のスーパーって言うのは何でも売ってるものだね」
「そうですね……あっ、カセットコンロもありますよ!」
「おっといけない、これも買っていかなきゃね」
「ボクが持ちますよ、お野菜さんがつぶれてしまいます」
「そう?じゃあ、お願いするよ」
「はい!」
マモルは積み上げられたカセットコンロを一つ持つと、嬉しそうに抱きかかえた。


時は数十分前にさかのぼる。
久しぶりにマモルがジャスティスの家に泊まりに来たところから話は始まる。
マモルが今日の分の宿題をしているのを横目で見つつ、ジャスティスはキッチンへと向かった。
「夕ご飯どうしようかな……」
外に食べに行くのもいいけれど、せっかくだから二人でのんびり過ごしたいなとジャスティスは思った。
何かないかと冷蔵庫を開けるも材料になりそうなものは何も入っていない。
「どうしたんですか、ジャスティスさん?」
後ろから聞こえてきた声にジャスティスが振り向くと、そこにはマモルが立っていた。
「んー夕ご飯どうしようかと思ってね……宿題終わった?」
「はい、終わりました!」
マモルが元気良く声をあげる。
ジャスティスはそんなマモルの様子を見ると冷蔵庫を閉め、にこりと笑った。
「えらいえらい、それじゃあ一緒に買い物でも行こうか、マモル君は今晩何が食べたい?」
「お夕飯ですか……うーん……温かい物などはどうでしょう?」
「温かい物かー、確かに今日は寒いしね」
ふと、ジャスティスが何かにひらめいたかのように手を叩いた。
「そうだ、鍋にしよう!」
「お鍋……ですか?」
ジャスティスが嬉しそうに笑う。
「うん、鍋なら温かいし一緒に食べれるし、どうかな?」
「はい、とても素敵だと思います!」
マモルの返事に、ジャスティスは満足そうな笑みを浮かべた。


そして、二人は買い物に出かけ現在。
スーパーの中では相変わらず二人が手をつなぎながら店内を回っていた。
「……楽しそうですね」
マモルは嬉しそうに笑うジャスティスの顔をじっと見つめながら言った。
「え、そうかな?」
虚を突かれたかのように、ジャスティスがきょとんとした顔でマモルの方を向く。
しかし、その顔はすぐにまた先ほどの笑顔に戻った。
「うーん、そうかもしれないね……一人だと鍋なんてあんまりしないし」
それに、とジャスティスはさらに言葉を続ける。
「マモル君と一緒だと思うと、嬉しくてたまらないんだ……変かな?」
ジャスティスは心なしか照れたような表情で微笑んだ。
マモルもつい、照れてしまい軽くうつむいてしまう。
無言の時間が少しの間続く。
そのまま乳製品の棚に差し掛かり、ジャスティスはふと牛乳が切れていたことを思い出した。
牛乳のパックを取ろうとつないでいた手を解き、棚に手を伸ばす。
「1リットルでいいかな……」
と、ジャスティスが棚から牛乳を取り出すと、急に服が強く下にひっぱられた。
何が起きたかと思い、力がかかった方を見るとマモルが強くジャケットの裾を握り締めている。
「……マモル君?」
「ぼ、ボクも……です……」
マモルが回りに聞こえないぐらい小さな声で言葉を落とす。
しかし、その言葉はしっかりとジャスティスの耳には届いた。
「ボクも、ジャスティスさんと一緒だと思うと、とてもとても嬉しいです……」
ジャスティスはその言葉に一瞬だけ頭に疑問符を浮かべるも、すぐにその意図を汲み取って優しい笑みを
浮かべた。
「……ありがとう」
今すぐ抱きしめたい衝動に駆られるも、公衆の面前だということもありジャスティスは必死で自分を抑え
る。
その代わり、手に持っていた牛乳をかごに入れマモルの頭を軽くなでた。
ジャケットをつかむ小さな手を解き、そっと握り返す。
「……そろそろ行こうか」
「はい……」
いつもより強く握られる手を感じながら、二人はレジへと足をすすめた。



大きな白いビニール袋を手に持ちながら、スーパーの自動ドアをくぐる。
外はもうすっかりまっくらになっていた。
「これで、お鍋の準備は万全ですね!」
「うん、そうだね土鍋とコンロも買えたし……」
ジャスティスの頭に夕飯の風景が思い浮かぶ。
ジャスティスとマモルが二人で温かそうな鍋をつついている。
こたつにあたりながら、温かそうな湯気を立てる鍋を囲むジャスティスとマモル。
その顔はとても嬉しそうに笑っている。
そんな想像図に、思わずジャスティスの顔から笑みがこぼれた。
「……あれ?」
ふと、ジャスティスがその歩みを止める。
「……ジャスティスさん?」
ジャスティスは先ほどの想像図を思い返していた。
何だ……何かを忘れているような……、ジャスティスの頭に何かが引っかかる。
「…………ああっ、しまった!」
何かを思い出したようにジャスティスが唐突に大きな声で叫んだ。
「ど、どうしましたか?!」
「そうだ……こたつだ……!うちにはこたつがないんだった!」
ジャスティスから発せられたこたつという言葉に、マモルが疑問の表情を浮かべる。
「なんてことだ、鍋に必須なアイテムを忘れているだなんて……」
「ジャ、ジャスティスさん?」
「電気屋さんによろう、マモル君!」
「え、あ、は、はい!」
ジャスティスがマモルの手を引いて走り出す。
マモルは転ばないように気をつけながら、その後についていった。
温かいお鍋が食べられるのはもう少し先のようです。



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