バーチャル・ラブ



「いいか、今日こそ絶対ボクが先にミッションクリアしてみせるからな!待ってろよ!」
「はいはい、じゃあまた後でね」
シルヴィーと別れて、家の扉をあける。
鞄をソファーにほっぽりだして、向かうはパソコンの前。
慣れた手つきでパスワードを打ち込みログインすると、画面の前には近未来都市が映し出された。
そこは最近ゲーム仲間とはまっているオンラインサイバーサバイバルゲームの世界。
『こんにちは〜』
『よっ、今日は遅かったな』
インすると口々に友達が挨拶してくる。
僕はそれに返事を返すと、ログインしている友達を調べるために友達帳を開いた。
ずらりとつらなる名前の中から一つの名前を探し出す。
……いた。
僕はその見つけた名前めがけて、キーボードをたたいた。
『やっほー』
するとすぐに返事が返ってくる。
『よう!遅かったな』
彼は最近僕が気になっているこのゲームで知り合ったプレイヤー。
僕の周りにはゲームがうまい奴らがたくさんいるけれど、その中でも彼は頭一つ抜けている。
……正直、久々にゲームで悔しい思いやドキドキ感を味あわされた気がする。
一緒に戦うのにはこの上ない仲間だし、敵として戦うのにもこの上ないライバルだ。
『今日はちょっと学校でやることがあってね、遅くなっちゃったよ』
久しぶりに、人間として興味をひかれる相手だった。
……会ってみたい。
最近ゲームの中で会うたびに思いが募る。
あの変幻自在のプレイスタイル、人を驚かせる作戦発想力。
会って、実際に話がしてみたい。一緒にゲームがしてみたい。
『ねぇ、今度一緒に会って遊ばないk
ここまで打ちかけて、消す。
この行為を何度繰り返しただろう。
……他人にここまで引き込まれるなんて、自分らしくもない。
思わず、口から自嘲的な笑みがこぼれる。
『今日は、負けないよ』
所詮、ただのゲームの中の関係……ただそれだけ、それでいいじゃないか。
そう自分に言い聞かせて僕は画面に向き直った。
画面の向こうでは相手のアバターがただ笑っていた。






「なぁ、どうしても無理か?」
「んー、参加したいのはやまやまなんだけどよー」
目の前に並ぶ十数個のモニターを眺めながら、左手をキーボードに走らせる。
『俺も負ける気はないぜ、覚悟しろよ』
鳴り響く機械音。
その合間をぬって勧誘をかけてくるのは自称神とかいう少年。
チャットで応対をしながら、メールの返信をして、バグの対応して、新しいエリアの構築。
その上リアルの対応なんて正直いっぱいいっぱいだぜ……。
「俺がここから抜けちまったら、世界中のプレイヤーになんて申し訳していいやら」
「誰か他に頼める人間とかいないのか?」
「いないね、このゲームは全部俺が一人で管理してるからな」
全世界に何万人ものプレイヤーがいるオンラインサイバーサバイバルゲーム。
その管理がすべて一人の人間の手で行われていると知ったら、全てのプレイヤーが驚くだろう。
俺はこのゲームに全てを注いでいた。
もちろんゲーム中の音楽も俺の作品。
そうしたらどこから噂を聞きつけてきたのかこの小僧が突然やってきた。
小僧は自分は神だと名乗った、そしてポップンパーティに参加する気はないか?と言った。
ポップンパーティ……名前は聞いたことがあったがまさか自分が参加する側に回るとは思わなかった。
しかし、俺はこのゲームから離れるわけにはいかない。
それは全世界のプレイヤーを裏切ることになる。
ならばひと思いに断ってしまえばいい……けれど一つ心に引っかかることがあった。
『今日はどこで勝負しようか?』
このチャット相手だ。
確かポップンパーティ参加者だとかいっていたような気がする。
こいつは正直、ゲームがうまい。
いや、うますぎると言ったほうがいいだろうか。
まさか俺とこのゲームで互角に勝負できる奴がいるとは思わなかった。
俺の戦術に即座にあわせてくる柔軟性、想定していなかったことをやってのける意外性。
正直もっと話してみたい、引き出しを開けてみたいと思った。
けれども世界中のプレイヤーよりも一人のプレイヤーを選ぶことはできない。
……その時俺の中に一つのアイデアが舞い降りた。
「なぁ、ポップンパーティっていうのはなんていうかなんでもありなんだよな?」
「んーまぁなんでもありっちゃあなんでもありだな」
「じゃあ、こいつを連れていくことはできるか?」
一つのモニターを指差す。
そこにいるのは俺のアバター『コサイン』
「こいつを実体化してってことか?」
「そうしたら俺はここから遠隔操作して参加する、どうだ?」
「……そいつはいい考えだ、じゃ当日楽しみにしてるぜ、コサイン」
「ああ」
そういうと小僧は消えた。
……もしかしたら本当に神なのかもしれないな。
画面の向こうでは奴の仲間がぞくぞくと集まってきていた。
このことを伝えたら、奴はいつものへらへらした調子を保つだろうか?それとも少しは驚いてくれるだろうか?
ああ、むしろ当日まで何も言わないのもありかもな。
俺は相手の反応を楽しみに再びキーボードをたたいた。



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