肩を並べて



ある休日、マモルはジャスティスの部屋に行く約束をしていた。
電車に乗って、エレベーターのボタンを押して、やっとジャスティスの部屋の前までたどり着いた。
「え、と……ここであってますよね」
呼吸を整えてチャイムに指を置く。

ピンポーン。
少し背伸びをしてボタンを押すとチャイムの音が辺りに響く。
しかし、扉の向こうからは何の音も聞こえない。

ピンポーンピンポーン。
もう一度、二度とボタンを押す。
しかし、やっぱり扉の向こうからは何の音も聞こえない。
「……ジャスティスさんいないのかな?」
マモルはちらりと腕時計を見た。
約束どおりの時間だ。

コンコン。
軽くドアをノックしてみる。
しかし、やっぱり扉の向こうからは何の音も聞こえない。
ドアノブに手をかけてみる。
カチャリ。
「あれ……開いてる」
マモルはこのまま入っていいものかと少し考えた。
「たしか、開いてるときは勝手に入ってもいいって言ってましたよね……うーん、でも……」
少しだけ考えた後、約束の時間でもあるしマモルは部屋の中で待つことにした。



「おじゃましまーす」
一応言ってみるけれど、返事は返ってこない。
「やっぱりいないのかな……あれ?」
耳をすませると、かすかだけれども何かの音がする。
風の音のような、寝息のようなかすかな音。
リビングに入るとその音の正体がいた。
「ジャスティスさん……寝てる……」
リビングのソファーにジャスティスが横たわっていた。
どうやらマモルの訪問にも気づかず熟睡しているようだ。
「そういえば最近、お仕事が忙しいって言ってたような……」
仕事が終わったあとなのだろうか、ジャスティスはパジャマにも着替えず普段着のままでソファー
にその身を投げ出していた。
仕事で疲れてるというのに自分に会う時間を作ってくれたのかと思うと、マモルの心に嬉しさと同
時に申し訳なさが生まれてしまう。
「……おこしちゃ悪いですよね」
起きるまで待つことにしよう、とマモルはソファーのそばの床に腰掛けた。
ジャスティスの寝顔を見る。
幸せな夢でも見てるのだろうかその顔にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
いつもはボクが先に寝ちゃうからジャスティスさんの寝顔を見れるなんてちょっと嬉しいな、などと
思いながらマモルは部屋を見回した。
いつもと同じように綺麗に片付いている灰色と黒で構成された部屋。
しかし、ソファーの裏に見慣れない真っ白な物体があるのにマモルは気づいた。
「なんだろう……?」
マモルはソファーの裏に回りその物体に手を伸ばした。
どうやら、布らしく簡単に引っ張り出すことができた。
マモルはその布製の物体を広げてみた。
「コートだ……!」
広げたそれは、撮影にでも使ったのだろうかいつもと同じデザインだが真っ白なコートだった。
きっとソファーの背にかけていたものが落っこちたのだろう。
「ジャスティスさんが白い服を持ってるなんて珍しいなぁ」
マモルはそのコートを手に持ち、ジャスティスの方を見た。
「……寝てます、よね」
マモルはそっとそのコートに腕を通してみた。
マモルよりもはるかに大きいそのコートはマモルをすっぽりと包み込んでしまう。
「お父さんの服より大きい……」
コートの前を閉じて近くにあった姿見に自分の姿を映してみる。
袖もすそも余っている姿を見てマモルは一つ、ため息をついた。
「はやく、大きくなりたいなぁ……」
このコートがぴったりになるくらい大きくなりたい。
そして、ジャスティスさんと肩を並べて歩いてみたい。
マモルはそんなことを考えながら鏡を見ていた。
と、その時。
「う、ん……マモルくん……」
背後からジャスティスの声がした。
マモルが驚いてジャスティスのそばに近寄るも、ジャスティスはまだ寝息を立てていた。
「ね、寝言ですか……」
マモルはほっと息をついてソファーを背にして床に座り込んだ。

ジャスティスさんはボクが大きくなりたいって言ったらきっと「俺はどんな姿でもマモルくんが好き
なんだよ」って言ってくれるだろうけど、それでもボクは早く大人になりたいんです。
大人になって……ジャスティスさんに迷惑かけないようになりたいんです……。
ボクが小さいから、子供だからって理由でジャスティスさんに迷惑かけてることたくさんあると思う。
ジャスティスさんは「迷惑なんて」って言うだろうけどそれでも、たくさんあると思うんです。
いつか、ボクのずっと先にいるジャスティスさんに追いついて、一緒に歩きたいんです。
だからボクは……早く大人になりたいな。

マモルがぼーっと考えていると、ふわりとコートからジャスティスの匂いがした。
「なんかこのコートを着ているとジャスティスさんに包まれてるみたいですね……」
暖かくて、優しくて、ボクを包み込んでくれる……。
いつのまにかマモルのまぶたは閉じられ、眠りの世界へと引き込まれていった。


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