最後の日



いつものようにあいつの家に遊びに行ったらなんだかバタバタしていた。
呼び出したのはあのバカだって言うのに何やってんだ?
玄関で待ってたらあいつがずいぶんと慌てた顔でやってきた。

「シルヴィー、宿題手伝って!!」

はぁ?


−最後の日−


あいつの部屋に入って、ボクは絶句した。
散乱するノート、床に散らばるプリント、枯れてる朝顔。
「宿題が終わんないんだよ〜!」
……ボクと遊んでばっかりだからすっかり終わったと思ってたんだが、やってないだけだったのか……。
はぁ、救いようのないバカだね、まったく。
「今、兄貴とパルにも手伝ってもらってるんだけどシルヴィーも手伝ってくれよ!」
「断る」
「けちー!」
ボクはそばにあったベッドに腰掛けると持ってきていた携帯ゲームの電源を入れた。
あいつは泣きそうな顔をしながらテーブルに向かった。
一冊のノートを開いて、何かを書き出した。
「ええと、この日は兄ちゃんとプールに行って……」
……日記?!
何で今頃、日記書いてるんだこのバカは……それじゃあ日記じゃないだろうが。
「この日はシルヴィーと夏祭りに行って、この日はシルヴィーとゲームやって、この日はシルヴィーと…
…何やったっけ?なーシルヴィー、この日俺何やってたっけ?」
「知るか」
「うーん……何やったっけなぁ……あ!そうだシルヴィーと兄貴とパルとでバーベキューやったんだ!」
「というか勝手に日記に名前出すなよ」
「えっ、そうすると書くことほとんどなくなるんだけど」
……ボクとしか遊んでないのか!?
頭を抱えるボクのことなど露知らず、あいつはまたノートに向かい始めた。
相変わらず何かをぶつぶつとつぶやきながら、ノートに字を書き込んでいる。
ボクは、ゲームをしながらあいつの様子を伺っていた。
やがて、あいつはピタリと動きを止めたかと思うと、いきなり大声で声を上げた。
「ああーーーーーーーーーっ!!」
ボクはその声に驚き、ミスをしてしまう。
「……何だ、いきなり大声なんか出して」
「海!そうだよ、海だよ!」
……海?
いきなり叫びだしたこいつの真意をつかみきれず、ボクは首をひねる。
海?海がいったいどうしたって言うんだ?
「シルヴィー、海行こう!」
……何を言ってるんだこいつは。
この課題の山とやらを見て本気で言ってるなら、こいつは本物のバカだ。
「だって、行ってないじゃん!プールも夏祭りもシルヴィーと行ったのに海だけ行ってない!」
「この課題の山をほおってか?」
「……シルヴィーは終わってるのかよー」
「愚問だな、こっちに来る前に終わっている」
だいたい、こんな時期まで課題が残ってるほうがおかしい。
まだあいつはぶつぶつと何か言っている。
「だってさー、海で遊んで、スイカ割りやって、花火やってさー……」
…………。
そうやってつぶやくあいつの顔があまりにもがっかりしてたから。
ボクの手の中の携帯ゲーム機は、いつのまにか気づかないうちにゲームオーバーの音をたてていた。
どうやらしゃべりに集中してしまっていたらしい。
ボクはひとつ大きなため息をついて、携帯ゲーム機の電源を落とした。
「……そこにある問題集、英語だろ?貸してみろ」
「え?」
「聞こえなかったのか?教えてやると言ってるんだ」
あいつはまだボクの言葉を理解できていないらしく、バカみたいな顔でこっちを見ている。
やがて、その顔は大輪の笑顔に変わり、さらにバカっぽくなった。
「……今からやれば花火ぐらいはできるだろ」
横にいる、こいつはまだにこにこしてる。
「シルヴィーも、俺と海行きたいんだ?」
「……お前のバカさ加減にあきれてきただけだ、勘違いするな」
ボクがそういうとあいつはまた声を上げて笑って、またテーブルに向かった。

もしかしたらこいつの頭じゃ夜までかかるかもしれないな。
ボクは隣で笑いながら問題集を開いたバカの顔をもう一度見た。

まぁ……それはそれで星を見るのも悪くはない。



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