―――次の日。
「…ねえ、よかったの?カイル。」
草を払いのけながら森を歩くは、心配そうにカイルに訊ねた。
「何が?」
「何が?じゃなくて!ルーティさんに黙って出てきたりして良かったの!?」
「うーん…でも、日が暮れる前に帰ればきっと大丈夫だよ!」
カイルは満点の笑顔をに向けた。ロニはあきらめたように、に首を横に振ってみせた。
も諦めたのか、それ以上は何も言う気になれず、一人先陣をきって森を歩くカイルを、
ただ ただ 追いかけて歩き続けた。
◇◇◇
しばらく森の中を歩き続けたカイル達の目の前に、やっとラグナ遺跡が見えてきた。
塔から木が生えているという、なんとも不恰好な姿だったが、
巨大レンズを目当てにしている3人にとっては、そんな事はどうでもよかった。
「いいな、俺が無理だと思ったら、すぐに引き返すんだ」
ロニが念を押してカイルに言い聞かせた。
カイルは"分かってる"と力強く頷くと、遺跡に足を踏み入れようとした。
その時、
「しっ…静かに。誰か来るよ」
人声を聞きつけたは、カイルとロニを木の後ろに押し付けた。
木の陰からそっと声のした方を伺う。
「神団の人達みたい…」
「チッ、アタモニ神団か…。何してやがるんだ?」
「ソーサラースコープで何か探ってるけど…あ!今
遺跡の出口を見つけたみたい」
「チィ…こりゃ厄介な事になったな。あと少し早く来れればな…」
「くっそー!ロニ、、どうする!?あいつらに先越されちゃうよ!」
ヒソヒソと話すなか、カイルは我慢できないといった様子で足をバタつかせた。
「お、落ち着いてカイル!あの人達に気付かれたら、元も子もないよっ」
が小声で怒鳴った。カイルは、がくんとうなだれる。
「でも、本当にどうすんだ?このままじゃ、オチオチ中には入れないぜ?」
「うーん…。」
「ねえ、ロニ、カイル」
「ん?」
「あそこから入れないかな?」
が指差した先には、人間がやっと入れるくらいの穴があった。
カイルはニッと頷くと、"行ける!"と小声で言い、神団の者が見えなくなると、コソコソと道ならぬ道を進んだ。
◇◇◇
「…なーにが"行ける!"だよ。行き止まりじゃねえか。」
ロニが がっくりとうなだれた。
「あれー?おかしいなぁ。」
カイルは"テヘヘ"と頭を掻きながら笑った。
はため息をつきながら、
「はぁ…。今頃、アタモニ神団の人達にレンズを見つけられちゃったんだろうなぁ」
近くにあった石の出っ張りに座り込んだ。
次の瞬間、ガクンと嫌な音が辺りに響き、地面が激しく揺れ始めた。
「え…!?な、なに!?」
「おい、大丈夫か!?」
「…俺も心配してよ!」
「お前は殺しても死なないだろうが」
ロニは悪びれる様子もなくケラケラ笑いながら言う。
やがて揺れはおさまったものの、自分達の目の前にあるモノを見、カイル達は愕然とした。
「…これが…入り口?」
「さすが古代の遺跡だな。仕掛けが悪趣味だ。」
が信じられないといった様子で入り口を見つめる隣で、ロニが呆れたように呟いた。
と、その時。辺りが静かに揺れ始めた。
先程よりは小規模な揺れだが、上から砂や小石がパラパラと落ちてくる。
は天上を見上げた。そして次の瞬間、が驚愕の表情を浮かべた。
「2人共、気をつけて!上に…!!」
ロニとカイルは天上を見上げた。
視線の先にいた"モノ"それは―――
「…チッ…仕掛けのモンスターか!」
「…!! ロニ、後ろ!!!」
が大声で叫ぶ。
モンスターの刃が、ロニの首のギリギリの所をかすめた。
カイルがすかさず攻撃にかかる。
「蒼破刃!!」
モンスターは小さく悲鳴をあげたが、また何事もなかったかのように3人に襲い掛かる。
「くそっ…双打鐘!」
「シャドウエッジ!」
ロニの攻撃の後、も昌術を放った。しかし…
「だめ…効いてないわ!」
はチッと舌打すると、キョロキョロと辺りを見回した。
「―――!!」
の目に入ったもの…それは―――
「カイル、ロニ!」
は大声で叫んだ。
「攻撃をやめて、敵をわたしのほうに誘き寄せて!」
「えっ!?」
「何言ってんだ!死にたいのか!」
「いいから早くっ!!」
カイルとロニは呆気に取られた。
カイルはしばらく考え込んだ後、
「!」
「…?」
「……信じていいんだね」
はカイルの言葉に驚きの表情を見せたが、ニッコリ微笑むと、力強く頷いた。
カイルはモンスターに軽く攻撃を入れ、
モンスターが自分をターゲットにしたことを確認した後
のほうへ走り出した。
その間には昌術の詠唱を始めた。
歌うように言葉を紡いでいく。の体を青白い光が包んだ。
「カイル、そこの地面のヒビに気をつけて、私のところまで来て!」
「わかった!」
カイルはヒビを飛び越えると、を守るようにして立ちはだかった。
モンスターがヒビの上に来たのを確認し、は昌術を放った。
「デルタレイ!!」
閃光が弧を描いて向かった先は、先ほどの地面のヒビだった。
ものすごい音をたて、地面がバラバラと崩れていく。
モンスターは成す術もなく、地面の石ころと共に地下深くへと消えていった。
「……ふぅ…」
カイルとロニは、唖然と 今までモンスターが居た場所を見つめていた。
「…ありがと、カイル。信じてくれて」
はニッコリと微笑んでカイルに礼を言った。
カイルがに飛びつく。
「…!良かった、無事で!怪我とかしてない!?」
「あ…えっと、うん」
「あ〜よかったー!を守れるように前に立ちはだかってみたけど、ホントは自信なかったんだよね」
テヘヘ、とカイルは照れるように頭をかいた。
「ありがとう。カイルが守ってくれるってわかったから、心強かったよ」
「そ…そう!?」
カイルは顔を赤くして、また嬉しそうに頭をかいた。
「にしても、よくあんなのに気付いたな」
「うん…偶然自分の目の前にあったから」
は苦笑しながら"気付かなかったらわたしが落ちてたけどね"と付け足した。
◇◇◇
「うわぁー…」
「すげえ、こりゃ300万ガルドの価値っていうだけあるぜ!」
「ホント…すごい…!! 300万といわないんじゃない?」
巨大レンズを目の前にし、ロニとは口々に感想を述べた。
カイルはゆっくりとレンズに近づく。
まるで、レンズに吸い込まれるかのように―――
「…カイル……?」
カイルの手が吸い込まれるように
そっとレンズに触れた。
瞬間、レンズから光が溢れ出し、レンズはピシピシと音を立て始めた。
「「!?」」
3人は目を見開き、その光景を見る。
次の瞬間、レンズは粉々に砕け散り、中から光る物体が現れた。
カイルは眼前に手を翳し、その物体を見つめる。
物体は次第に形をあらわにしていった。
「・・・・・・!?」
レンズの中の物体は、美しい少女だったのだ。
少女の体の周りを包む光が激しく光ると、服が爪先から少女を包み込んだ。
「―――――― 」
「キミは…一体…」
カイルは信じられないといった様子で少女を見つめた。
少女は愁いある瞳でカイルを見つめると、何処か遠くを見つめ、呟いた。
「英雄―――そう、私は英雄を探しているの―――」
「英雄?―――英雄!?」
"英雄"―――その言葉に激しく反応を示したカイルを、少女はじっと見つめた。
「英雄だったら此処にいるよ!ホラ、見てこのアザ!父さんと同じ所にあるんだ!」
「英雄…?あなたが…?」
「俺、カイル・デュナミス!キミは誰?何処から来たの?」
「―――――」
少女はカイルの目を見つめると、首元のペンダントを見た。
「で、未来の大英雄に何の用?」
カイルが得意げに言うと、少女はゆっくりと口を開いた。
少女の形の整った美しい唇が、残酷な言葉を発する。
「あなたは―――英雄なんかじゃない」
「――――――!!」
少女はカイルの横をスッと通り過ぎようとした。
カイルが呼び止める。
「ま、待ってよ―――」
「分かるの、私には。 貴方は、私が探している英雄じゃない―――」
それだけ言うと、少女はロニやには目もくれず、その場を静かに立ち去った。
「…カ、カイル…」
は心配そうにカイルを見つめた。
ロニは溜息をつき、
「しっかし…どうするかねえ。レンズは割れちまったし、そろそろクレスタに―――」
「こら、お前たち!ここで何をしている!!!」
「ゲッ」
ロニは急いで顔を逸らした。
「怪しい奴等だな…。おい、捕らえろ!」
「はっ!」
護衛兵の一人はキレの良い返事をしたが、もう一人は驚愕の表情を浮かべたまま、
カイル達の後ろを見ていた。
「おい、どうした」
「レ、レンズが―――」
「レンズがどうかしたのか」
「―――レンズが、ありませんっ!!」
「何っ!?どういうことだ!!」
「確かに自分は、ここで巨大レンズを発見しました!しかし今は…それが跡形もなく…!!」
兵士は信じられないという様子で首を左右に振り、未だ巨大レンズが置いてあった場所を見ている。
「おい、貴様等!…これはどういう事だ!」
神官の怒りの矛先がカイル達に向けられる。
「神官様、わたし達は何もしていません!」
は必死に状況を説明しようとした。が…
「嘘をつけ!この盗人が!」
「盗人!?俺たちが、ですか!?」
カイルは信じられないといった表情で神官を見つめる。
「お前たち以外に誰が居ると言うのだ!」
「待ってください!話を聞いて!!」
「ええい!この者達を捕らえろ!!」
「「はっ!」」
は"くっ"と唸ると、身動きすらしないロニに目を向けた。
「ロニ、早く逃げ―――」
がロニに逃げるよう言おうとしたが、兵士の驚きの声によってそれは遮られた。
「ああっ!?」
兵士は信じられないといった表情でロニを見つめる。
神官は、怒り交じりで兵に問い掛けた。
「どうした!」
「こ、こいつ……ロニ…ロニ・デュナミスです!!」
「何ぃ!?」
「…あちゃー…」
ロニは"失敗した"というような酸っぱい顔をした。
「貴様―――何故 盗人と共にいるのだ!?」
「ぬ、盗人って…まさか俺たちの事ですか!?」
「お前たち以外に誰が居ると言うのだ!」
「なっ…!」
「裏切り者の罰当たりめが…!捕らえろ!」
「「はっ」」
兵士が3人を捕まえようとしたその時、ロニが突然大声をあげた。
「もう破れかぶれだ!強行突破するぞ!」
「させるか!」
「ぐっ!」
ロニが叫んだ一瞬後、兵士によって頭に加えられた打撃で、ロニは地に伏した。
「ロニ!―――うっ」
「カイル!!……っ」
カイルとは腹部に重い衝撃を感じた。
力なく倒れこむ3人を横目に、神官は兵士に言った。
「ダリルシェイドに連行しろ!」
♥03.ダリルシェイド地下水路
|
|