「―――う、う〜ん……」
冷たい床の感触に、カイルは目を覚ました。
辺りは薄暗く、遠くにあるものは殆んど何も見えない。
「……!!…ロニ、、大丈夫!?」
「くっ…いてててて…」
「ん…」
カイルが軽く体を揺さぶると、2人はゆっくりと体を起こした。
「ここは…?」
は目をこすりながら言った。
「多分、あいつらの言ってた"ダリルシェイド"だと思う…」
「この感じからして、地下牢か何かだろうな…」
「……どうしよう…」
「ちっ…こんなカビ臭いところに押し込みやがって…!」
ロニは拳を握り締めて悔しそうに言った。
が口を開く。
「でもロニ、散々だったね。神団の人には見つかっちゃうし…」
「そうだな〜…まあ、あんな神団こっちから願い下げだけどな」
無理して明るく振舞うロニに、は苦笑した。
「俺、決めた!」
「え?」
突然大きな声で言ったカイルに2人は驚いた。
「ここを出たら、俺、英雄になる旅に出る!」
「本気なの?カイル」
「うん!それで、あの子に俺が英雄だってこと、認めさせるんだ!」
カイルは両手の拳を握り締めてガッツポーズをした。
「…よ〜しカイル、その冒険、俺もついていくぜ!」
「ホント、ロニ!?」
「ああ!もう神団の奴等には愛想がつきたぜ。俺はどこまでもお前についていく!」
「やった!帰ったら早速母さんに話さなきゃ!」
「よーし、英雄になるための冒険が始まるんだ!」
カイルが元気よく言うと、どこからか厭な笑い声が響いた。
ロニが警戒して武器を構える。
「誰だ!」
部屋の一角にかかっていたハンモックから、黒い何かが舞い降りた。
それは、人…だった。
スラリとした体を黒い服につつみ、仮面で顔を隠している。
「お前…本当に自分が英雄になれるなどと思っているのか?」
「……え…?」
「だとしたら、おめでたい奴だ」
「そういうお前は誰なんだよ」
ロニが警戒を一層強めた。
武器を構えるロニを横目に、仮面の男はクスクスと笑った。
「…何が可笑しい……」
「いや…こんな所から一向に出られないようでは、英雄など夢のまた夢だな」
「な…っ」
「お前なぁ、コイツの両親は、あの四英雄のうちの2人、スタンさんとルーティさんなんだぜ」
「…何……?」
「はっはーん。驚いて声も出ねえって感じだな」
「・・・・・・・」
仮面の男は黙り込んだ。
「ねえ、そんなことより早くここから出ようよ。母さんに怒られちゃうよ」
「お…そうだな」
「でも、道がわからないよね…この部屋からも出られそうにないし…」
が言葉を発した瞬間、仮面の男はの顔を見つめた。
「……お前…!?」
「……え…?」
「―――!! …いや…。…なんでもない…」
「???」
は疑問符を浮かべた。
仮面の男が口を開く。
「お前たち。ここから出たいのか」
「うん…けど…」
「出口なら、僕が知っている」
「え…ホント!!?」
「ああ」
「じゃあ、出口まで一緒に―――」
「おいカイル!こんなヤツの言うことは信用するな!」
「そんな言い方…」
「仮面で顔を隠してるような輩だぜ?ロクな奴じゃないことは確かだ」
「ロニ、失礼だよ…」
が心配そうに仮面の男の顔色を伺った。
仮面の下で、男がかすかに微笑んだ…ように見えた。
「僕はどちらでもかまわない。が、お前たちだけで此処を出られるとは思えないな」
「…うっ…確かに…」
ロニは黙って考え込んだ。
カイルがロニの服の裾を引っ張って急かす。
「ロニ!この人にお願いしようよ!」
「そうだよ。よく分からないけど、悪い人ではないとわたしは思う…」
3人のやりとりをじっと見つめていた仮面の男は、口を開いた。
「…さあ、どうするんだ」
ロニは自分の頭を抱え込み、しばらく考えると、
やぶれかぶれと言わんばかりに、こう言った。
「〜〜〜わかった!一緒に連れてってくれ!」
「……フン」
「やった〜!よろしく、えっと……」
カイルは呼名のわからない相手に戸惑っていた。
そんなカイルに気付いたのか、ジューダスは言った。
「…?―――ああ、名前か?」
「うん」
「・・・・・」
は、仮面の男が、仮面の下で寂しそうな表情をしたのを見逃さなかった。
「…名前など、僕にとっては無意味なものだ。好きなように呼んでくれて構わない」
「うーん…好きなように、って言われてもなぁ…」
「…ジューダス」
「―――え?」
が口を開いた。仮面の男はじっとを見つめる。
「私の故郷の言葉…。意味は、あまり良いものじゃないんだけどね」
は苦笑した。
「そういえば、元々はクレスタの生まれじゃないもんな…」
「ねえねえ、どういう意味なの?その"ジューダス"って」
「―――"償い人"」
「―――――!!」
仮面の男は目を見開いた。
「私の故郷で言い伝えられてる昔話の、主人公なの」
「どんな話なの?」
「ん?―――」
ある一国の王子は、愛する女性を守るため、
自分の家族と国を裏切った。
その女性は、王子のお陰で生き残ることができたけど―――
王子は、自分の国の兵士に殺されてしまうの。
「・・・・・・」
「…それで終わり?なんか、悲しい話だね」
「ううん。まだ続きがあるはずだよ。でも…思い出せないの、ここから先の話」
「そっか…思い出したら、聞かせてね!」
「…うん…」
は、少し悲しそうな瞳で微笑んだ。
「償い人、か―――」
「うん…やっぱり嫌だよね、そんなの」
「いや…僕にはぴったりなのかもしれない――」
「え?」
「…なんでもない、気にするな。僕のことはジューダスと呼んでくれ」
「わかった!俺はカイル・デュナミス!」
「俺はロニ・デュナミスだ」
「です」
「じゃあ、よろしくねジューダス!」
「ああ」
◇◇◇
「しっかし、出ようにもまず この鉄格子がなぁ…」
「う〜ん、どうしよう」
「ジューダスが道を知っているとはいえ、ここから出られないんじゃな…」
ジューダスは頑丈そうな鉄格子に近づくと、そっと手で触れた。
「…少し離れていろ」
「え?」
身につけていた剣を抜くと、目を閉じた。
「おいおい、まさか剣で斬るつもりじゃないだろうな?」
馬鹿にしたような笑いを浮かべるロニを横目に、
ジューダスは剣で鉄格子を斬りつけた。
「ホーラ、やっぱり斬れねぇ―――」
ピシッという音がすると、鉄格子がガラガラと崩れ落ちた。
3人は唖然として崩れた鉄格子を見つめる。
ジューダスは何事もなかったかのように剣をしまった。
「…なっ…」
「す、すごいよジューダス!」
「……さっきの音で兵士が気付くかもしれない。早く行くぞ」
「あ、うん!」
4人は走って牢を抜け出した。
「こっちが出口だよ!」
カイルは階段を登ろうとしたが、ジューダスによってそれは阻まれた。
「馬鹿。そっちには兵士が山ほどいて、とてもじゃないが通れない」
「えっ、じゃあ出られないんじゃ…」
「なんだ、強行突破じゃないのか?」
「そんなことをしても、いつかは捕まるだろう」
「でも、道はこっちしか…」
「…これを渡しておく」
ジューダスは赤い宝石のついた指輪をに手渡した。
暗闇の中でも美しく光るそれは、の顔を紅く照らした。
「これは…?」
「ソーサラーリングだ。昌術をある程度使える者なら、使いこなせる。」
ジューダスは壁を手で探るようにして触った。
「…ここだ。ここに、ソーサラーリングの光を当てるんだ」
「う、うん」
がソーサラーリングをかざしたが、何も起らない。
「…えーっと…これでいいの?」
「…集中して、昌術を使うときと同じように力を込めるんだ」
「…晶術を使うときと、同じように…―――」
「――お前なら、できる」
は目を閉じ、ソーサラーリングに力を込めた。
ソーサラーリングの宝石が淡く光り、壁を照らした。
薄暗い地下室を、ソーサラーリングの淡い紅い光が照らす。
ゴゴゴ...と鈍い音がすると、壁にあった隠し扉が開いた。
これが、ソーサラーリングの力なのだ。
「あ、開いた!」
「よくやった。これはお前に持たせたほうがよさそうだな」
はジューダスにニッコリ微笑んで見せた。
仮面の下で、ジューダスが少し赤くなった…気がした。
「いっ、行くぞ」
「お〜!」
◇◇◇
「おい、ジューダスさんよぉ」
「なんだ」
「出口はまだなのか?もうだいぶ歩いたぜ…」
「子供みたいなことを言うな。あと少しだ―――ん?」
ジューダスは、フラフラと歩くに目を向けた。
「どうした」
「あ、ううん、平気だから…気にしないで」
は体勢を崩し、その場によろめいた
ジューダスはの所に駆け寄り支えると、額に手を当てた。
「熱があるぞ、お前」
「平気…あと少しなんでしょ?」
「………」
ジューダスはに背を向けてその場にしゃがみ込むと、のほうを見た
「…え…?」
「乗れ」
「い、いいよ。悪いよそんなの…わたし、歩けるから…」
「言っているそばからフラフラしているようじゃ、信用できないな。いいから、乗るんだ」
「でも……」
「―――」
「え…?わっ」
ジューダスは半強制的にを背負うと、そのままスタスタと歩き出した。
「あ、待ってよジューダス!」
「早くしろ。置いてくぞ」
ジューダスは何も言わず、を背負って歩き続けた。
が申し訳なさそうに口を開く。
「あ、あの…」
「なんだ」
「ありがとう…」
「……気にするな」
「えっと、…重くない?」
「重い。」
「…………。」
「…フッ…嘘だ。このくらいなら問題ない。それに、気にするなと言ったはずだ」
「…うん…」
「少し眠れ…。起きた頃には出口だ」
「…ん…」
はゆっくりとジューダスの肩に顔を埋めた。
ジューダスは肩の重みを感じながら、優しい瞳でを横目で見つめて言った。
「おやすみ…」
◇◇◇
「う…ん……」
「…あ、気が付いた?」
「お、よかったな、少しは元気になったみたいで」
気が付いたら、さっきより少し大きな背中…ロニの背中で眠っていた。
大きくて安定はしているけれど、先ほどのような安心感はなかった。
「もうすぐクレスタに着くよ!具合大丈夫?」
「えっと、うん……あれ?」
「ん?」
「ジューダスは…?」
「ああ、ジューダスなら…」
「アイツなら、ちょっとした厭味を残して行っちまったぜ」
「そっ…か」
「また会えるといいよね!」
「うん…」
( 結局 最後にありがとうって言えなかったな…
態度は冷たい感じだったけど、本当は優しい人なんだよね。
なんでだろう、あの人の背中、とても安心感があって…懐かしかった )
♥04.クレスタ
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