ある暑い夏の日の夜、対馬ファミリーの面々はいつも通り、レオの部屋に集まっていた。
カニはネット、フカヒレは今日買ってきたという怪しいムック本をニヤニヤしながら読み、レオとスバルはカニが持ってきた格闘ゲームをしていた。
「このキャラなかなか使いやすいな、レオのは結構クセがあるだろ?」
「…ん、あぁ。そうだな。」
「?」
「………。」
「何の悩みだ、坊主?」
スバルの言葉にピクリと反応するレオ。
そのあからさまな反応に苦笑しつつ、スバルは続けて言う。
「いいから話してみろよ。どんな話だって俺たちは力になるぜ?」
「スバル…。」
「相談料5千円でいいぜ!」
「カニ…(呆)。」
いつのまにか話を聞いていたカニも口を挟む。
「エヘヘ…かわえぇなぁ…。」
「フカヒレ…(憐)。」
フカヒレは相変わらず読書に夢中だった。


「…わかった、スバルがそこまで言ってくれるなら話さなきゃならないな。あとカニ、そんなこと言ってると器まで小さく見えるからやめなさい。」
「他にどこが小さいってんだゴラぁっ!!」
「落ち着けって。で、その悩みってのは?」
「あ、ああ。驚かないで聞いてほしい。」
かなり緊張しているのか、レオはゆっくりとした口調で話し始めた。
「実は…俺、WBCに出るかもしれないんだ。」
「( Д)゜゜」
「( Д)゜゜」
「( Д)゜゜」
その言葉に読書に夢中であったフカヒレでさえ、動きを止めた。
あまつさえムック本を手から落としてしまったほどであった。


「…いや、今のは嘘だ。まだ決勝トーナメントに残っただけだ。」
「( Д)  ゜゜」
「( Д)  ゜゜」
「( Д)  ゜゜」
レオの『嘘だ』の言葉に一瞬、その場の緊張が解けたかに見えたが、続く彼の言葉にカニ達三人は更なる衝撃を受けたのである。
「(ま、まさかレオ!この猛暑でイカれちまったのかっ!?)」
「(つか、WBCってどっちだ?)」
「(いや、この場合、どちらであってもマトモじゃない…!)」
「…ん、どした?」
ただ一人、その場の空気を読めぬレオを除き、三人の間には恐るべき緊張感が漂っていた。

一方、
「…む、何だこのイライラする空気は?」
何と驚くべきことに、それは階を隔てた鉄乙女のもとまで届いていた。
「二階からか?まさか、レオの身に何か…?」


再び舞台は二階、レオの部屋に戻る。
「………。」
「………。」
「………。」
時間にしてわずか数十秒、しかしレオを除いた三人には、それが永遠のように感じていた。
「…ふ、やっぱり驚いたか。まぁ俺自身が一番驚いてるんだかな。」
レオが自嘲気味に言う。
「ち、ちなみにWBCってのは略語だよな?」
いつまでも要領を得ないレオに対し、ようやくスバルが言葉を返す。
「当然だろ、WBCと言えば万国共通じゃないか?」「ち、ちなみにそれは1対1の試合か?」
「?まぁWBCは個人戦だからな。団体戦もないわけじゃないが、そこまでメジャーではないからな。」
「(万国共通…、個人戦がメイン…、団体戦は非メジャー…、やはりレオは…いや、まだそうと決まったわけじゃねぇっ!!)ち、ちなみに略さないで正式名称だと何て言うんだっけ?」


「(スバル…!?)」
「(…それを聞いてしまうのか!?)」
「(スバル…漢だぜ!ボクはスバルを信じるぜ!!)」
「(カニ…)。」
スバル、カニ、フカヒレの間に一気に緊張が走る。
「(さあ答えてくれレオ!俺たちはお前が何て言おうと受け入れるぜ!!)」
そんな三人をよそに、レオはさも当然といった様子で答えた。
「そんなの…『ワールド(W)・ボトルシップ(B)・クラシック(C)』に決まってるだろ。」
「( Д)    ゜゜」
「( Д)    ゜゜」
「( Д)    ゜゜」
三人に、言葉はなかった。


「…いや、俺にもこの大会の意味はわかってる。今から約百年前、第一次大戦によりヨーロッパの大地は乱れ、多くのボトルシッパーの命が失われた。」
「ヨーロッパ随一のボトルシッパーであったトフソィデンャキー公爵は、このままでは失われていくだけの数多の技を惜しみ、有史以来初めてのボトルシップ世界一を競う大会、WBCの開催に踏み切ったんだ。」
熱く語るレオだが、もちろん三人はまったくついていけてない。
「長らくの間、王者は欧州で占められていた。当然だろう、彼らヨーロッパの歴史はボトルシップの歴史そのものだったのだから。」

レオは更に続けた。
「しかし今から十年前、一人の日本人による王者が誕生日したんだ。そう、その人は俺にボトルシップを与え、そしてその技術を教えた男にして『ボトルシップ帆眼流』創始者、岩本帆眼先生だ。」


フカヒレは既に白目を剥いていた。
「実は今回のWBC日本大会決勝トーナメントの招待状、この帆眼先生から届いたんだ。先生は近ごろ病に伏せり一線から退いていらした。」
「だが、先生からの書状には俺と、この対馬レオと勝負がしたいと書いてあった。もちろん先生は現世界王者、決勝まで出てこられることはない。先生と戦うには日本大会、世界大会を勝ち進まなければならない。」
カニは既に寝ていた。
「だが俺は恐ろしいっ!俺の、俺の未熟な腕では日本大会すら越えられないっ!!松笠腐敗といわれた先生に歯が立つわけないんだっ!!」
レオはそう言うと頭を抱えた。
ちなみにスバルは気絶したフカヒレと、熟睡のカニを目の前に途方に暮れていた。
「たわけ者っ!!!」
突然の怒号。
あまりの声の大きさに部屋全体が揺れる。


そこには全身から怒りのオーラを放つ、鉄乙女その人がいた。
「貴様は師がどのような気持ちでその書をしたためたかわからんのかっ!貴様を認めるからこそ、貴様を一人の戦士として認めるからこそ、真剣勝負がしたいと言っているのではないのかっ!?」
「それを自信が無いなどと、何たる腑甲斐なさ、貴様それでも鉄の血に連なるものかっ!!」
「乙女さん…。」
「お、お前も将来私の夫になる男だったら、一度くらい天下を目指してみろっ!!…言いたいことはそれだけだ。」
そう言い放つときびすを返し、部屋を出ようとする乙女。
だか、その肩に手を置き、それを止める者がいた。
「ごめん、俺が甘かった。」
それは先程と違い、瞳に情熱の炎を宿したレオであった。


「俺はまた過ちを犯すところだった。目が覚めたよ乙女さん!俺は…俺は闘う!闘って、闘って、闘い抜くっ!!」
「レオっ!」
「そして先生を越え、俺はボトルシップ世界一になるっ!!!」
「よく言ったレオ!それでこそ我が弟…いや、その目は既に一人前の戦士。レオ、あなたを私の夫と認め、この生涯を賭けて貴方様に仕えます。」
「いいのかい、ボトルシップは修羅の道、この先乙女さんを何度も泣かすことになるよ。」
「構いません、これも私が決めた道。貴方様と一緒ならどのような苦難も乗り越えられましょう。」
「乙女…。」
「あなた…。」


そこには手と手を取り合う一組の夫婦の姿が合った。
しかし、ボトルシップは修羅の道、強い絆で結ばれた二人にも、この先幾多の苦難が待ち受けているだろう。
その時にこそ、二人の真の愛が試されることとなる。
闘え、対馬レオ!
その手に世界を掴むまで!!




「テンションに流されるってレベルじゃねぇ…。」
スバルから一言。


(作者・名無しさん[2007/09/05])


※関連 つよきすSS「WBC修業編


楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル