「えーと、カニにはこれ、浦賀さんにはこれ、豆花さんには……」
 これ、これ、これ、と。後は明日調達するか。よし、準備は整ったかな。
 だけど。
「……本当にこれで大丈夫かなぁ」
 ちょっと不安。……ま、何とかなるか。
 そして翌日。今日は3月14日、ホワイトデー。
 いつものように乙女さんに叩き起こされる。
「おはよう、乙女さん……」
「おはよう。昨日はバタバタしていたようだが、ちゃんと準備できたのか?」
「うん、一応ね」
「そうか。ちゃんとお返しするんだぞ。でないと、女の子達に嫌われてしまうからな」
 だからそういう思考はフカヒレっぽい……。と、心の中でツッコむ。
「さーて、レオは何をくれるんだろうな」
 そうわざと俺に聞こえるように言って、乙女さんは1階に下がってしまった。
 軽くプレッシャーをかけてくれるなぁ……。
 ちなみに乙女さんはもう卒業済み。しかしなぜか未だに制服を着て地獄蝶々を持って校門に立っていたりする。
 家を出て、カニと合流。
「……超ねみー」
「ちゃっちゃと歩け、化けカニ」
「ところでレオ、ボクに渡すものとかないか?」
「……ああ、借りてた10円今返しとくか」
「……テメー、その頭ぶん殴って1ヶ月前の出来事思い出させちゃろか? あ、でも10円は返せ」
「わかってるっての。ほれ」
 俺がカニに選んだのは、デッドのストラップ。俺はいつもカニへのお返しはデッドグッズにしている。
「……なんだストラップかよ。確かにこれはちょっと欲しかったけどさ、もっと高いもんよこせよ」
「お前、あのチョコでよくそんなこと言えるな。いらんなら返せ」
「ま、返したらオメーが惨めだろうから受け取ってやるぜ。感謝しな」
 と言いつつも早速ケータイにつけるカニ。ま、満足してくれているようでよかったよかった。
「よお、坊主、カニ」
 お、スバルだ。


「おはよう」
「よお、スバル。ボクになにか渡すもの、あるよな?」
「お前会って一言目がそれかよ! まったく……。ほらよ」
 スバルはバレンタインで大量に貰うのだが、カニにだけお返しをする。っていうかカニがせがむ。他は無視。
「どれどれ……。お、デッドの新譜じゃん! サンキュー、スバル!」
「どういたしまして」
「お前、あのチョコにCDで返すか」
「値段の問題じゃねーぞ、坊主」
「そうだぜレオ、スバルを見習えや」
 ……カニに言われるとスッゲー腹立つ。
 校門前。見知った顔が続々と集まってくる。
「よ、おはようさん」
「フカヒレ。おはよう」
「よお、フカヒレ。どうした、今日は欝になってる日じゃねーのか?」
「よーく考えたらよ、たかがチョコに3倍返しだなんて理不尽極まりないぜ。金も掛かるしよ。そうだろ、レオ」
「確かに出費はかさんだけどさ」
 この1ヶ月バイトしましたよ、ええ。
「だろー。だから誰にもお返しをしなくてもいい俺は勝ち組なんだよ」
「何言ってんだ、返すやつはちゃんといるだろ。……自分にちゃんと返せよ」
「そうだぜフカヒレ。ちゃんとお返ししなよ。……自分に」
「値段の問題じゃねーぞ。ちゃんと返さねーとな。……自分に」
「ハロハロー、あ、フカヒレ君、バレンタインのお返し用意した? ……自分に」
「お返しはきちんとすべきだよ、鮫氷君。……自分にね」
「きちんと返すのは礼儀ネ。……自分に」
「そやでフカヒレ、ちゃんと返さな。……自分に」
「フカヒレ、3倍に返して、好感度をあげるべ。……自分に」
「フカヒレさん。きちんと返さないと、嫌われてしまいますわよ。……自分に」
「小僧、男なら黙って3倍返しだ。……自分にな」
「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああんんんんんんんんん…………」
「あ、走り去って行っちゃった」


「よほどつらいことがあったのでしょうね……」
「ってゆーかみんないつの間に?」
 …………………………………………
 教室。
 男子の中には早速お返しをしている者もいる。俺もその1人。
「ワア、可愛いアクセサリネ。アリガト、対馬君」
「お、タオルやんか。ちょうど新しいの欲しかったんや。サンキュー、対馬」
「駄菓子セットですか。なかなかレアなものもありますわね。ありがとうございますわ」
 それぞれの人に合ったお返しって、結構難しいもんなんだけど、喜んでくれてなにより。
「坊主も結構マメだよな」
「ま、礼儀ってヤツさ」
「ところで、オレには返してくれないのかい?」
「だからそういう冗談はやめてくれ!!」
 …………………………………………
「よし、これで今日の分は終わりかな」
「ハーイ、ご苦労様。アリガト」
「いつも対馬君が手伝ってくれて、こっちは楽できるよ」
「ま、一応副会長だからね」
 昼休み。
 生徒会の雑務が溜まってきているので消化。
 1年の終わりと言うことで結構量があり、乙女さんも抜けているので、俺は昼休みも仕事の日々。
「ちょうどいいから2人に。はい、姫にはコレ、佐藤さんにはコレ。バレンタインのお返し」
「わあ、ありがとう対馬君」
「ふーん、開けてみていい?」
「どうぞ」
 2人に合うものを選んだつもりだが……。
「……お、猫のカップじゃない」
「猫好きって聞いたからさ」
「でもコレ私持ってるのよねー」
「グハッ」


 アイテム選びに失敗した。
「そんな落ち込まないでもいいわよ。この柄お気に入りだし、ここで使うやつにならちょうどいいわ」
「そ、そう? よかった……」
「ええ、対馬クンの心はきちんと受け取ったわ、アリガト。ところでよっぴーは何を貰ったの?」
「ちょっと待って……。あ、ストール……。いいの、対馬君、高くなかった?」
「全然。3000円もしてないから」
「へー、対馬クンの選んだやつねー。つけてみたら?」
「い、いいかな?」
「どうぞ」
 ストールを纏う佐藤さん。……うん、自分で選んどいてなんだが、結構似合うんじゃないかな。
「ど、どうかな?」
「うん、似合ってるよ」
「悪くないんじゃない? よかったわね、よっぴー」
「うん! 本当にありがとう、対馬君」
「いえいえ、たいしたモノを返せなくて恐縮です」
「じゃ、お茶にしましょうか。早速このカップを使おうかしら」
「うん、ちょっと待ってね」
 2人とも喜んでくれたようでよかったよかった。
「ねえ、対馬クン?」
「何?」
「ス、スバル君にはお返しとかしたの?」
「そもそも貰ってもいないって!!」
 …………………………………………
「対馬じゃないか」
「よお、ガラハド!!」
「僕はアイスソードなんか持ってない! っていうか村田だ!」
 放課後。コイツに廊下で会った。ちょうどいい。
「ちょっといいか」
「なんだ、僕はこれから12人の妹にバレンタインのお返しをしないといけないんだが」
「西崎さんと近衛を学食に呼んでくれないか」


「何のようだ?」
「まあ、ホワイトデーなんでな」
「…………何!? どういうことだ?」
「あ、義理だったから心配せんでもいいぞ」
「そ、そうか。って、どういう意味だ!」
「うんにゃ、別になにも。ところで西崎さんにはお返ししたのか」
「あ、ああ。一応な」
「へー、喜んでたろ?」
「ま、まあ、な。って、なんでお前にこんなこと言わなければいけないんだ!!」
「なら答えるなよ……。ま、とにかく頼むぜ」
 …………………………………………
 学食。
「そんなわけなんで好きに頼んでくれ」
 正直この2人の欲しがりそうなものなんてあんまり想像つかなかったもので……。
 そんなときは食べ物が1番無難。
「ぷりん、ぷりん♪」
「西崎さんはプリンね。お前は?」
「……ピーナッツバターパンと豆乳で」
「あいよ」
 学食で頼まれたものを購入。席のほうに移動。
「おいしい♪」
「……まあ、おいしいわ」
「喜んでもらえて何より」
 西崎さんは夢中でプリンを食べている。近衛は……。
「……!」
 目が合ったが、すぐに視線を外された。
 なんかバレンタインの時以来、コイツの態度が少ーし変わった感があるんだが……。
 まあ、悪化したならともかく、良くなったんだから良しとするか。
 トラブルのない日々が一番だ。
「オイ、西崎」


 村田がやってきた。
「く?」
「広報委員のやつらが呼んでいるぞ」
「くー……、でも、ぷりん……」
「プリンなら後で僕がおごってやる。ほら、行くぞ」
「くー……」
 西崎さんは、名残惜しそうに去っていった。
 後に残されたのは、近衛と、俺。
「……」
「……」
 近衛は無言でピーナッツバターパンを食べている。
 その様子を見ている俺。
「……何よ」
「ん……。相変わらず、そのパン好きなんだな、って思ってさ」
「相変わらずって……。アタシはアタシ。変わらないわよ。……アンタは腑抜けに変わったようだけどね」
 ……この流れは嫌な流れだな。
「そういえば近衛、バレンタインのときに貰ったチョコ、すごく美味かったぜ」
「!! あ、あれは別にアンタのために作ったわけじゃ……」
「え、手作りだったんだ。そうか……だからか」
「!!! な、何がだからなのよ」
「いや……、なんて言うかさ、作り手の愛情がこもってるって言うか、それが伝わってくるって言うか……」
「!!!!」
 真っ赤になってうつむく近衛。
 コイツはストレートな言葉に弱い。照れ屋さんなんだろう。
 弱点がわかると、普段攻撃されていた分、こっちが攻めたくなる。
「近衛──」
 パシャリ!
 いきなりフラッシュがたかれた。
「くーっ!(いい顔、ゲットでごわす!)」
「あ、あーっ! 紀子! 何撮ってんのよ!」


「馬鹿、西崎、気づかれたじゃないか」
「く!?(しまった、ついシャッターを切ってしまったでごわす!)」
「待ちなさい!」
 逃げる西崎さん&村田と、追いかける近衛。あ、近衛がこけた。また、追いかけていって、いつしか視界から消えた。
「やれやれ」
 ま、お返しはしたし、義理は果たした。これでいいだろう。
 ……にしても。
「近衛はからかうと面白いなぁ」
 今まで散々バカにしてくれた仕返しにこれからもからかってやろう。なんだかちょっかい出したくなるぜ。
 …………………………………………
 帰り。
 俺はまっすぐ帰らずに、とある店に寄っていた。
「いらっしゃいませ、ってセンパイですか」
「よお、椰子。今日も店の手伝い、えらいな」
「……何の用ですか」
「花屋に来る理由なんて1つだけだ」
「センパイが……?」
「ああ、適当な花束を用意して欲しいんだけど」
「適当でいいんですか」
「ああ、花のことはよく知らんし。あ、変なのは却下な」
「わかりました。……母さん、これとこれとこれをラッピングで」
 ……うん、変なのは選んでないな。さすがに客には礼儀正しい。
「ところで椰子」
「ハイ?」
「お前に、これを」
「……なんですか、これ」
「いや、今日ホワイトデーだろ? だから」
「だから、って……。別にいりませんよ」
「いや、まあ、俺の顔を立てると思って受け取ってくれんかね」
「そこまで言うなら貰いますが。……これ、中身はなんですか」
「エプロン。料理、好きなんだろ。あ、変な柄じゃないから安心してくれ」


「そ、そうですか……」
 ……ちょっと照れてるか? いや、まさかな。
「なごみちゃん、できたわよ〜」
「あ、うん……。センパイ、どうぞ」
「ありがと」
 会計を済ませ、店を出る。
「じゃあ、またな」
「……センパイ」
「ん?」
「……どうも、ありがとうございます……」
「……ああ」
 …………………………………………
「そんなわけで乙女さんには花束です」
「ほう……うん、いい香りだ。ありがとう、レオ」
「どういたしまして」
「レオも乙女というものがどういうものか、わかってきたな」
「ハハハハハ」(←乾いた笑い)
 ふう、好評でよかった。
「他のみんなにもきちんとお返しはしたのか?」
「うん、みんな喜んでくれたよ」
「そうか、よかったな」
「うん」
「よし、じゃあ、食事にしよう。お姉ちゃん、張り切っておにぎりいっぱい作っちゃったぞ」
「わぁい」
 こうして、何事も無くホワイトデーは終わった。
 そして明日からはまた、変わらぬ、しかし騒がしくも楽しい日常が、また始まる──。
「……ところで、フカヒレはどうしたんだろうな」
 …………………………………………
「へへへ、バレンタインのお返しに、奮発してエロゲを5本も買っちまったぜ。
 これで2次元の女の子達に癒してもらおっと。…………あれ、なんだろう、目から、魂の汗が……
 ちくしょう……。いつか必ず、幸せになってやるからなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……………………」


(作者・名無しさん[2007/01/07])


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