ケガをしたスバルを連れて、ボクは家に帰ってきた。
「ただいまー」
「おや、遅かったねぇ」
「ちょっと寄り道してたから。
メシも食ってきたよ。
 ほら、スバル。 さっさとあがれって」
ちょっとしてから、ようやくスバルも靴を脱ぎだした。
「そんじゃ、お邪魔しますっと」
「あれま、スバルちゃんじゃないか。 どうしたんだい、そんな顔で」
「なんか喧嘩やっちまったらしくてさ」
「どうもお久しぶりッス」
「元気だねぇ。 それにしても、近所なのになかなか顔を見ないもんだね」
「まぁ、色々忙しいッスから」
「いいから、さっさと部屋に来いよ。 手当てしてやるから」
「ちょっと待ちなよ。 私にだって話をさせてくれてもいいじゃないか」
「しょうがねぇなぁ。 先に部屋に行ってるぞー」
「ああ。 先に傷も洗っておくぜ」
ババァもおしゃべりだからなぁ。
ま、今のうちに用意だけでもしとくか。

「ちょっとちょっと、少年」
「何すか?」
「良かったら嫁にもらってくれない? アレ」
「鼻に指つっこんで、マジで抜けなくなったことのある女は、ちょっと」
「そうよねぇ。 私がオトコでも絶対イヤだもん」


しばらくしてから、スバルが部屋に入ってきた。
「まったく、おせーよー」
「いや、すまねぇな」
「とりあえず、そこに座れ。 この天使のようなボクに手当てしてもらえるんだから、感謝しろよ?」
「ハッ、言ってろ」
とりあえずスバルをベッドの上に座らせてから、ボクは救急箱から消毒液とガーゼを取り出した。
消毒液をガーゼにつけて、ケガしてるところの消毒をやってやる。
「うわ、ひでぇツラになってやがるぜ」
「いちいち言わなくても…うわっち!」
「あ、しみたか? すまねー」
「いや、別にかまわねぇよ」
何とか無事に完了。 こんなもんでいいだろ。
改めて、ちょっとスバルをじっと見てみた。
確かにコイツはもてる。 顔は整ってるし、体だって引き締まってる。
想像できねーけど、もしコイツにナンパされたら、バカな奴はコロッといっちまうかもしれねー。
でもなぁ…
「あん? どうした、そんなに人の顔ジロジロ見て」
「い、いやぁ…なんでもねーよ」
ボクにとっては、小さいころから仲のいい友達だ。
つーか、頼りがいのあるアニキみてーなモンかな。
そこんとこは変わらねーし、これからもずっとだ。
そんなコイツと、それ以上の付き合いをする?
恋人? スバルが? 本当に豆花はスバルのこと言ってたのか?
ふと、豆花の言葉を思い出しちまった。
『カニちのすぐそこに、カニちのこと大切にしてくれてる人、いるネ』
やっぱ、スバルのこと言ってるのか?
他に心当たりのある奴って言っても…ねーよなー…


「そういや、こうしてスバルだけがこの部屋に来るのも久しぶりじゃねーか?
 レオだけってのはよくあったんだけどなー。 あはははは」
「そうだな」
う、どうしよう。 会話が思いつかねぇ。
何を言おうか迷って、えらく静かになっちまってるじゃねーか。
「そういやレオがさー…」
「なぁ、カニ」
突然、スバルが口を開けた。
「レオの話ばっかだが…あの近衛にレオをとられて、寂しいんじゃねーのか?」
「バ、バカなこと言ってんじゃねーよ!」
「…図星だな」
「な、何を言ってんだ! レオが誰と付き合おうが、そんなことボクの知ったこっちゃねーんだよ!」
そうだよ、別にボクは…レオのことは…単なる友達でしか…!
「そうやってムキになって反論するあたり、その通りにしか見えねぇけどな」
「う、うっせーよ! レオは友達さ! スバルも、フカヒレも!」
「でも、お前は男としてレオのことが好きだったんだ」
「ちげーよ!」
「ちがわねぇな」
「ちがうっつってんだろ! ボクは…ボクは…レオのことなんて……! うっ…うっ……」
ちくしょう、目からしょっぱい汁が出てきやがる。
なんでだよ、なんでレオのことでボクが泣かなきゃならねぇんだよ!
「カニ」
「なんだよ……ッッ…!」
急にボクを、スバルが抱きしめた。 恥ずかしい、でも恥ずかしくない。
心臓がバクバク鳴ってるし、頭の中がカラカラになってきた。
ほんの少しの時間のはずなのに、時間がメチャクチャ長いみてーだ。
スバルの心臓も、ものすごい速さで脈うっているのがわかる。
そして、スバルがボクを離して、残っていたガーゼを手にとって、ボクの涙を拭いた。
「泣くなよ。 少しは落ち着け」
「な…泣いて…ないもん……」


「ねぇ、スバル…ボクのこと、どう思ってる?」
「あ? そりゃもちろん、大切な友達だと思ってるぜ」
「そうじゃねーよ!」
んなこと聞いてねーだろーが、このボケ!
うまく話をどっかにやろうとか思ってるかもしれねーけど、そうはいかねーからな!
つーか、スバルだってあんなに心臓ドキドキしてたじゃねーか!
「その…ボ、ボクのこと、一人の女としてどう思ってるかって聞いてるんだよ!」
スバルの顔はそれを聞いた途端、すごく真剣な顔になった。
普段のスバルじゃあんまり想像できないような顔だった。
「……じゃあカニ、こうなったらオレは真剣に答えるぜ」
「う、うん…」
「オレは…お前が…蟹沢きぬが好きだ」
「スバル…」
「だが、オレはお前がレオのことが好きだってのに気づいていた。
結構前からな」
「…」
「それに、ずっとお前に黙っていたことがもう一つある。 オレの夜のバイトのことだ。
 暇を持て余している、女の所に行ってな……ま、そうでもしなきゃ学費も稼げなかったんだが…」
「そ、そんなことしてたのか…」
「ああ。 それをお前に知られたくなかった。 だからお前に好きだって言えなかった。
 こう見えても、オレだって一人の人間だ。 臆病なんだよ。
 だがこうなっちまったら…言わないワケにはいかないよな」
そうだったんだ…スバルのやつ…
「幻滅したろ?」
「え?」
「いくら生活のためとはいえ、好きでもねぇ女の体を抱いてるんだ。
 これで嫌いにならないワケがないだろ?」
「オ、オメー…バカヤロー!」

パンッッ!!


ボクは思いっきりスバルの顔を張った。
自分の手がビリビリ痺れて痛くなるぐらい、思いっきり。
「…いてぇな」
「オメー、好きだっつってそれか!? バカもほどほどにしろや!」
今度は胸ぐらを掴んでやった。
「たかだかそんなことで、ボクがオメーを嫌いになると大間違いだよ!」
そして、スバルの唇を奪ってやった。
スゲー強引だけど、そんなもん関係ねーな。
「…ぷあっ」
「お、お前…何すんだよ」
「うるせーよ。 そんな真剣な顔されてさ、ボクのことじっと見つめて、それで『好きだ』って言われたら…
 どうしたらいいかわかんねーよ。 だからチューしたんだ」
静まり返った。
ここがボクの部屋だと思えないぐらい、ものすごく静かだ。
「…そ、そんなにボクと付き合いたかったらなぁ、まずその夜のバイト辞めろや。
 そんで、新しいバイト見つけろよ。 もっと真っ当なやつ。
 なんなら、ボクがテンチョーに相談してやってもいいからさ」
「お前…」
「そしたら、付き合ってやる。 これでどーだ?」
「カニ…ありがとうな」
「あ、それともう一つ言っとくぜ。 ボクはツインにレオをとられたから、オメーと付き合うんじゃねーからな!
 ボクはオメーに惚れたんだ! そこんとこ勘違いすんなよな!」
「は…はははは……そうか」
「へへへ…」
「そんじゃちょっと、行ってくるわ。 早速、お前の言うとおりにするぜ。
 また殴られるかもしれねぇけど…」
「うん、その時はまたボクが手当てしてやんよ。 さっさと行ってきな」
出ていこうとするスバルの顔に、ボクはまたキスをしてあげた。


…数日後…
「おい、起きろきぬ。 朝だぞ」
「う〜…まだ眠いよ〜」
「そんなこと言ってると、また遅刻ギリギリになっちまうぞ。 乙女さんにどやされたいのか?」
「わーったよ、起きるって…ふあぁぁ〜あ……」
「こらこら、腹をボリボリかくなって。 そんじゃ、外で待ってるからな」
「ウィース」
結局、あの日のうちにスバルは夜のバイトを辞めた。
かなりヤキを入れられたみてーだけど、まぁとりあえずは元気で何よりだぜ。
そんでもって、テンチョーに頼んで料理屋のバイトも見つけてもらった。
できればオアシスに雇ってもらいたかったけど、
『オーウ、カニサンだけでも苦しいノニ、コレ以上バイト増やせられまセーン』
って泣きついてきたからしょうがねーよな。
ま、そんなこんなあって、ボクとスバルは付き合うことになった。
フカヒレがバカみてーな顔してショックを受けて3日間寝込んでたのをよく覚えてる。
いつもはレオが起こしてたけど、最近はスバルが起こしてくれるようにもなった。
大体は朝練があるとかで、スバルがとっとと先に行っちまうんだけどな。
「お待たせー。 そんじゃ行こーぜー」
「ああ、行くか」
スバルと一緒に登校。 なんだか嬉しい。
付き合っていることはすぐにクラスに広まった。どこから情報が漏れちまったんだろ?
「なぁ、きぬ」
「んぁ?」
「本当にオレでよかったのか?」
「アホですか、オメーは。 今頃そんなもん聞くんじゃねーよ」
「…そうだったな」
「おーい、そこの二人! 早くしないと、校門を閉めるぞ!」
「ヤベェ、急ぐぜスバル!」
「ああ、行くぜ!」
これから、ボクはスバルと一緒。 ずっと、ずっと一緒だかんね!


(作者・シンイチ氏[2006/06/28])


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