「スバル、昨日はありがとう」

レオは昨日、病院から自宅まで運んでくれたことをスバルに感謝した。正確には今日0時過ぎに運ばれ
たのだが。現在、時刻は正午を過ぎていた。
倒れたことが恥ずかしかったのか、頬をポリポリと掻くレオ。

「いいってことよ。愛するレオのためならいつでも運んでやる」
「ちっと気持ち悪いからやめれ」

レオの部屋にはスバルの他に2名、きぬと新一がいた。この2人はいつものように自分の思うがままの
行動をしていた。
レオはこの3人にとても感謝していた。良美が入院して落ち込んでいたレオを元気づけてくれたのは、
昔からの友人であるこの3人だった。
いつもと変わらないところに、どこかよそよそしさがあったために気を遣わしている事をレオは察した
ので申し訳なく思った。

「んで、今日も見舞い行くんだろ?」

新一がギターを弾きながら言った。

「ああ、もう少ししたら行こうと思う」
「オメー無理しすぎてぶっ倒れんなよ?」

きぬは心配そうにレオを見て言った。


「わかってる。今度からは夜には帰って休むようにするよ」

……

3日後。
良美が入院して一週間が経った。レオは乙女と共に朝から病院に向かい、良美の病室に入った。
乙女は明日にはレオの家を出て行く。実家の方が大学に近いためだった。忙しいなかでの見舞いにレオ
は感謝した。
2人が病室に入ると、そこには良美の両親がいた。良美が入院したばかりの頃、駆けつけた中年の
男女と顔を合わせた。その時に良美の両親だと知った。
佐藤夫妻はレオたちが入って来たのを見て、疲れた顔で立ち上がった。
この時、レオはとても険しい表情になっていた。怒りだった。
良美が苦しむきっかけを与えた張本人が目の前にいたのだから。
良美の過去を知っている人間として、この2人は許せなかった。
娘の苦しみを知らずに勝手な事をしていたのだから。
良美の両親はレオの顔を見て何か察したのか、バツが悪そうに
軽く会釈してそそくさと出て行った。
事情を知らない乙女はレオの顔を見て不思議に思った。
レオは立ち去っていく2人の背中を睨むことしか出来なかった。
自分があの2人に食って掛かっても何の解決にもならない。
解決するのは良美自身であり、あくまでも良美を助けるのが
自分の役割だとレオは思った。

……

乙女が花瓶の水を換え、花を挿していた。
レオはベッドの脇にあった椅子に腰掛け、未だ目覚めない良美の顔を見ていた。
少し痩せたような顔つきになっていた。口に呼吸器、頭には包帯、
足にはギブスがつけてあった。


「昼寝にしては、ちょっと寝すぎなんじゃないのか……?」

レオは知らずにそんな事を口に出していた。
乙女はそんなレオの様子を見て、自分たちの無力さをわずかながら感じていた。

そして30分後―――

「じゃあ、レオ、私は用事があるからこれで失礼する。途中まで一緒に帰ろうか?」

乙女は椅子から立ち上がった。

「俺は残るよ。晩ゴハンまでには帰るから」
「そうか。帰りは気をつけてな」

乙女は病室を出て行った。すると、入れ替わり大人の女性が入ってきた。

「祈先生!?」
「あら、対馬さん。私が見舞いに来るのはおかしいのですか?」
「いえいえ!」

祈は少し顔を出しに来たとだけ言って、花を置き、椅子に腰をかけた。

「王子様のキスがあれば目覚めるかもしれませんわよ?」

突拍子に祈はそんな事を口走った。
そんなんで目覚めるんなら最初からやってるとレオは思ったが、
口には出さなかった。


「冗談ですわ。これから少しおまじないをさせて下さい」
「おまじない?」
「対馬さん、手を貸してくださいな」

祈はレオの手をつかみ、それをもう片方の手で良美の手をつかみ、合わせたのであった。

「な……? 先生!?」
「ハイ、おしまいですわ〜」

なんだったのかとレオは思った。一瞬だけ何か違和感を感じたが特に気にしてはいなかった。

「さて、私は仕事があるのでこれで失礼しますわ。対馬さん、しっかり手を握ってあげてくださいね」

祈はゆっくりと歩いて出て行った。レオの頭には?マークが浮かび上がった。

……

レオは自分の意志で良美の手を両手で包み込んだ。そしてただひたすらに祈るように目をつむった。
すると目を開けると、視界は闇に染まっていた。
何も見えない中で、レオは人の気配を感じた。

「……良美?」

それは良美の気配だった。そしてレオは良美を探すために気配がする方へ向かった。

しばらく探すと、レオの視界に見覚えのある人の姿が映った。やはり良美だった。
レオは良美のいる方へ走った。だが、距離が縮まらない。
叫んでも良美には聞こえないようだった。レオは必死に手を伸ばした。


『お前は何故あの娘を助ける?』

レオの耳に聞きなれない声が入った。レオはその「声」に構っている暇は無かった。
だが、しつこく問いかけてくる。

『あの娘はどうせこれから新しい苦しみを味わって生きていく運命だろう。
 無理に生かせてはただ苦しめるだけではないのか?』
「クソ! しつこい!」
『何故助ける?』

レオのイライラは募るばかりだった。見えない誰かの声にいい加減頭にきていた。

「うるせえ! 大切な人だからに決まってんだろうが! 
 良美が苦しむんだったら俺も一緒にそれを背負ってやるさ!
 良美とはまだ、これからなんだよぉぉ!!」

レオは良美が何かに落ちていくのが見えた。
そしてレオは、良美に向かって飛び込み、必死に手を伸ばした。

……

「うぅ〜ん。……ん?」


レオは目を覚ました。
良美のベッドに突っ伏して、良美の手を握りながら寝ていた事に気がついた。
レオは夢を見ていた気がしたが、何も憶えていなかった。
レオはふと良美の方を見ると、彼女と目が合った。
良美は弱々しくも、レオに笑顔を見せた。

「……良美!」

レオはすぐに担当医を呼んだ。
すぐに両親が呼ばれ、レオは生徒会、2−Cの仲間を呼んだ。

レオの眼には涙がたまっていたが、それを知っていたのは良美だけだった。


〜Epilogue〜

『今日は忘れられない日にしてやるよ』

そんなレオの一言で良美はずっとドキドキしていた。
霧夜カンパニーに就職して4年ほど経った春の日、久しぶりに休暇をもらい2人はデートをしていた。
竜鳴館在学中、良美は既にエリカの秘書として就職が決まっていたが、レオは進路未定のままだった。
そこでエリカは自分の秘書の仕事をレオに持ちかけたのだ。
レオは「社長第二秘書」という肩書きだった。入社後1年はパシリ同然の扱いで、
嘆く事も多かったが、良美の支援とレオ自身の持ち前の粘り強さもあってか、
エリカはレオを認め、最近は仕事を任せてくれるようになった。
姫は自分に良美のパートナーの資格があるかどうか試していたのだろうとレオは思った。

食事を終え、2人は松笠公園に来ていた。
良美は何も変哲もないデートじゃないかと思いながら歩いていた。
桜は満開で月明かりと共に桜吹雪が舞っていた。
風が若干吹いていて、昔は編んでいた良美の長い髪がなびいていた。
気温は4月にしては低く、2人ともコートを着ていた。

「キレイだね」
「うん。そうだな」

2人並んでその光景を眺めていたが、やはり特に変わった事はなかった。
すると突然、レオは良美の正面に回り、正面から見据えた。
良美はドキリと心臓が鳴った。


「良美に渡したいものがあるんだ」

レオはポケットからごそごそと何かを取り出そうとしていた。

(忘れられない日って、誕生日? それはプレゼントだよね)

良美は若干拗ねた様子。自分の誕生日ぐらい憶えていた。
今回のデートは何か凝った演出でもあるのかと思ったが違うようだった。

「良美、誕生日おめでとう」
(やっぱり)

良美の予想は的中――

「俺と結婚してくれ」

しなかった。レオのフェイントに良美は引っかかってしまった。
レオが取り出したのは小さな箱だった。

「安物だけどさ……。結婚指輪はもっと上等なの作るよ」

レオは指輪を取り出し、良美の指に通した。

「ありがとう……、嬉しい」

そして、良美はレオの手をつかみ、自分の頬にあてて、寒さを紛らわした。
レオの手はあの時と同じ優しく、暖かい。
レオは良美の頬にあてられた自分の手に何かがつたる感触がした。


「良美……?」
「ううん、なんでもない。レオ君、私、今日のことを忘れないよ」
「そうか、喜んでくれて俺はうれしいよ」
「……くしゅん!!」

良美は小さなくしゃみをした。

「寒いなら、ホラ」

レオは良美を強引に引っ張り、抱きしめた。良美の頬に自分の頬をくっつけた。

「暖かいね……」

そうして時は過ぎていく――

「あの、レオ君。誕生日プレゼントは?」

すでに泣き止んだ良美はレオの顔を下から覗き込むように訪ねた。
レオはポカンとした表情。

「欲張りだなぁ。お前は」
「むー。まさかまとめて済まそうって思ってたの?」
「はあ、しょうがねえなあ……」

レオは良美の唇にキス。良美の目はトロンとしていく。そして離れた。


「いつも、キスはしてるじゃない!」
「夜は長いぜ? 0時までたっぷりプレゼントしてやるよ」

良美は顔を真っ赤にした。

「もう、レオ君ったらエッチなんだから!!」
「お互い様だろ? 良美」

そして2人は腕を組んで公園を後にした。
幸せに満ちた笑顔で……

休み明け、2人は腰痛に悩まされる事になるが、それは少し後の話―――

〜おわり〜


(作者・TAC氏[2006/04/03])


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